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今回、更新が遅くなりました。
すみません
「ねぇ、クロー?」
「ん? どうしたエリザ」
「うん。私たち考えたんだけど……」
エリザがマリーとセリスを横目で見て、再び俺を見た。
――……どうしたんだ?
「私たち……三人でハンター活動をしようと思うの?」
「三人とは、エリザとマリーとセリスとでってことか?」
「ええ。そうよ……」
エリザが申し訳なさそうに眉尻を下げている。
「!?」
――なんと、エリザたち三人でハンター活動をするだと!! しかも、そこに俺が入ってない……ぬぬっ! 仲間はずれか? ぬお! なんでだ? ……俺……何か妻たちを怒らせるようなことをしたか?
はっ! そういえば……最近は忙しくて、夜の営み以外に会う時間が減ったのがまずかったか……でも、あの時間は、三人とも、嬉しそうで、そんな素振りは一切みられなかった……それに毎日、三人が執務室まで迎えにきてくれていた……ふむ。では、なんだ……どこに問題が……
はっ!? あれか……エリザのお風呂上がりの時間をピンポイントで狙い、白猫で度々侵入しては驚かせている俺の日課になりつつある行為。……あれ、やり過ぎた? でも……あれはエリザも嬉しそうにしていたと思うし、最近はわざと待っている素振りすら見えている……ふむ。
俺は視線をエリザからマリーに向けた。マリーも申しわけなさそうに眉尻を下げている。
――もしかして……マリーか? だが、俺は別にマリーが気にするような……はっ!? あれか……マリーのお風呂上がりの時間をピンポイントで狙って白猫で侵入したやつ……かなり驚いていたな……
帰り際までずっと気づかれず猫のフリをして遊んでやった……
でも、あれは、お詫びに後で食べるようにとあんパンとクリームパンをあげたら、裸なのに、凄い勢いで食べ始めて、またきてねってにこにこ笑顔の上機嫌だったし……絶対だよって何度も念を押されたから大丈夫なはず……だ……ふむ。
俺は視線をマリーからセリスに向けた。セリスも申し訳なさそうに眉尻を下げている。
――もしかしてセリスか? だが、俺はセリスには特に何も……はっ! これもあれか……セリスのお風呂上がりの時間をピンポイントで狙って白猫で侵入して、聖獣だと勘違いさせたやつ……
挙動不審なセリスの態度があまりにもおかしくて帰り際まで聖獣のフリをして遊んでやった……
でもあれは、お詫びに抱っこさせてやったら、珍しく頬を染めて「主殿と聖獣さま、贅沢だ」とぶつぶつぶつわけの分からんことを呟き、しばらく抱き抱きスリスリしながらトリップしていた。
大丈夫だと思ったんだが……ふむ。
「……ロー?」
「クロー……?」
「クロー?」
「クロー様?」
「……ん、んん? んわっ!? みんなしてどうした?」
物思いにふけっていた俺は、誰かの呼ぶ声に、意識を戻した。
――あれ?
みんなが心配そうに俺を見ている。特に妻たち、エリザ、マリー、セリスに至っては顔色まで悪い。
「クロー様が急に黙り込んだから、皆さま心配されていたのですよ。当然ながら、私も心配しておりました」
隣のナナから「あ〜ん、出しゃばりセラバスに先を越された〜」と意味不明な言葉が聞こえたが今は無視だ。
「セラ……みんな……すまん。少し考えごとをしていた。それで、エリザたちは……何かわけがあるのだろう?」
エリザ、マリー、セリスが顔を見合わせた。
「う、うん。ほら、クローたち……屋敷のみんなは毎日忙しそうにしてるけど……わたしたちは……何もしていないから……何かしないといけないと思って……」
最初に口を開いたのはマリーだったが、最後の方は弱々しく心底、申し訳なさそうにしている。
――なんだ、そんなことだったのか……俺はてっきり……
俺はホッとして安堵の息を吐いた。
「そうなの。私たちも、クローのために何かできることはないかと、三人で考えたの、ね? セリスさん」
「うむ。主殿。我々はこの世界では何もできん。だが……聞けば主殿はゲスガスの都市に人を集めたいのであろう?」
「ああ、そうだが……」
――支配地に人が集まれば、より多くの感情値が入ってくるからな。しかし……
「なぜ、そんなことを……」
「うむ。主殿が何かしら施しているのだろう? 私には以前より民の顔から疲れの色が薄くなっているように感じるのだ」
「ふむ」
――なかなか鋭い、さすがセリスは元聖騎士だっただけのことはあるな。
そう、この都市の感情値率は通常10%のところを8%に下げている。
当然、セラとカナポンにはビックリされたが、これだけでも人族は、精神的な疲れ方に違いがでるはずだ。いままでよりずっと気持ちが前向きになると思っている。
これで、この都市の人々にやる気が出て何かしら集客するような催しを開いてくれればいいのに、と微かな期待を抱いている。
まあ、それでも投機的意味合いの方が強いのだが、もともと赤字なんだし、何もしないってのもしゃくだったのだ。
たが、こんなことしか思いつかない俺は、つくづく支配者には向いていないと思う。
「そこで、我々も主殿のために、一肌脱ぎたいと思ったのだ」
「それで、ハンターか?」
「うむ。我々がハンター活動をすることで少しでもこの都市の問題を解決できれば、この都市はより住みやすく、人が集まるのではないかと思ったのだ」
「ふむ。なるほど……」
――たしかに、その通りかもしれんな……
「分かった。いいだろう」
俺の返事を聞いた途端、三人の顔色が一変し喜色に染まった。
「よかったね〜。セリスさんこれで魔物をバンバン狩れますよ」
「うむ。そういうマリーこそ、迷宮探索の下準備で近場の小さなダンジョンに潜りたかったのだろう?」
「分かっちゃいました。えへへ。エリザも楽しみにしてて、色々教えてあげるね」
「ええ。ふふっ、楽しみだわ」
三人はそう言った後、安心したのだろうデザートのプリンを幸せそうに食べ始めた。
「な、なあ、魔物? ダンジョン? 迷宮? ってなんの話だ……?」
「「「あっ」」」
バツが悪そうに、三人が揃って口を押さえた。三人の行動が似てきて面白くはあるものの、今はそれどころではない。
「俺はてっきり、何でも屋的な、薬草採取や、動物を狩って毛皮や肉などの納品をしたり、とそんな活動をするものだと思っていたんだが……」
「「「ううっ」」」
「俺は……だな……おわっ」
「いいじゃない、クローさま。三人を大事にするのもほどほどにしないと……逃げられちゃうよ?
あたし、自分の好きなこと、何もできなかったらつまらないと思うし、イヤだもん……
それにさ、クローさまは心配してるけど、三人の実力なら、ラットちゃんかズックちゃんを連れていかせれば大抵のことは大丈夫だと思うんだよね……」
ナナが俺の腕を引っ張りゆさゆさと俺の身体を揺らしつつエリザたちを庇った。
――逃げられる……エリザたちに……
「そうですクロー様。ナナ様の言うことも一理あります。
エリザ様たちがクロー様のために何かをしたいと思っていることは間違いないわけですし、セリス様に至っては悪魔第5位格相当の実力者。はっきり言って人族としては規格外。何も問題ないと思われますよ」
普段、ナナとはなにかと言い合いをしているセラだが、今回に限りナナの意見に賛同しエリザたちを庇っている。
「うぐっ」
――分かってる……それは分かってるんだが……だが……しかし……
「「「クロー様」」」
気づけば俺以外のみんなが賛同している。
――ぐぬっ、これじゃ俺一人が……
「はぁ。分かったよ……ラットとズックを連れていってくれ。ラット、ズック」
俺はため息をつくと、ラットとズックを召喚した。二匹は大きなチーズの塊を持って現れた。
『食事中だったか、すまん』
『主、大丈夫』
『だいじょうぶ』
俺は、二匹に思念を飛ばし状況を理解してもらった。
『魔法の使用も許可する。転移魔法も使っていい。何かあれば念話してくれ』
ラットは、普段、俺の魔力消費を考慮して消費の激しい転移魔法は使わない。だが、今回はその使用を促してやる。
『主、分かった。任せて』
『まかせて』
そう返事したラットはエリザの肩へ、ズックはマリーの肩へ移動した。
俺の使い魔は二匹しかいないので、必然的にセリスの傍にいく使い魔がいないのだが……
――セリスは大丈夫だよな……あっ……
しょんぼりと肩を落とすセリスを見て、俺はもう一匹、使い魔を使役しようかと悩んだ。
妻たちは明日から早速ハンター活動をするそうだ。
まだ、色々と心配な妻たちではあるが、配下の手前、これ以上は何も言えない。
それに、収納魔法を付与したガントレットにそれなりに資金を入れてやっている。
これで、しばらくは何も困ることはないだろう、そう思うと少し寂しい。
「なぁ、セラ。マリーがあれほど行きたがる迷宮なのだが、それほど迷宮には、ハンターが集まるのだろうか?」
食事を終え、執務室に戻った俺は、セラにそう尋ねてみた。
「はい。人族は迷宮に何やら夢やら浪漫やらを抱いているようです。
その周りには必ずといっていいほど、結構な規模の街が、いやもう都市ですね。都市が栄えているようです」
「ふむ。都市か……」
――人口も多いのだろうな……
「はい。その都市では、それはそれは上質な感情が渦巻いておりますよ」
「ほう。それでは、ドル箱だな……」
「ドル箱? ですか……」
セラがこてんと首を傾げた。
――おっと、いかん、いかん。
「いや、なんでもない。それならば、迷宮のある都市はすでにほかの悪魔の支配地となっているのだろうな?」
「はい」
「やはり……そうか……」
――ふむ。残念だ。どうせ支配地を持つなら、枯渇(廃れる)の心配がない都市の方が良いと思ったんだけどな……楽そうだし……
「ですが、すべてではありませんよ」
「すべてではない? とは、どういう意味だ?」
「はい。都市の方は支配できても、迷宮は支配地に置くことができないのです」
「ふむ…………なぜだ?」
俺はその意味を、自分の頭でしばらく考えてみたが結局、分からなかったのでセラに尋ねた。
「それが……正確な理由はよく分かってないのですが……私、個人的な見解としましては迷宮の主が怪しく思っています」
「主? 迷宮には主がいるのか?」
「はい。迷宮は主が討伐されると消滅すると言われてます。迷宮が消滅すれば当然に、ランダムに発生する宝箱やドロップアイテムとなる魔物もいなくなってしまいます。
それゆえに人族も敢えて迷宮の主に挑む者はいないと聞き及んでいますし、悪魔もわざわざ転移魔法の効かない、迷宮の奥深くにいる主に会いにいくような真似はしません」
「迷宮内では転移できないのか!?」
「はい。そのようです。ですので意味があるかどうかも分からない存在に会おうとする悪魔はいないのです」
――基本的に悪魔は面倒くさがりが多いしな……俺もだけど……
「ふむ……では、奥に進もうとすれば、迷宮内で何泊かする必要が出てくるな……」
「そうだと思いますが……すみません。その辺りのことは少し自信がありません。今度調べて参ります」
セラが申し訳なさそうな頭を下げた。
「ああ、いいんだ。そうか……何泊かする可能性があるか……」
――ふむ。何泊かするのなら感情値が貰えるな……ふむ……さて『願い声』はどうだ……忙しそうに感じるが……いや、まてよ……転移魔法が効かない迷宮内から聞こえる『願い声』に悪魔がわざわざ行くわけない、時間もかかるし、行っても人族がそれまで生きているのかも分からない……おお!!
で、では、悪魔大事典はどうだ!? ……ふむ。魔物がはびこる迷宮内で悪魔大事典が召喚されるほどの感情の起伏、そんな時間は果たしてあるのだろうか? ふむ。こっちはよく分からんが……まあ、これは……支配地候補としてありじゃないか? うまくいけば……ふふふふ、楽ができる……
「ふむ。セラ、俺は迷宮の主に会ってみる……会って……支配地にするぞ」
「クロー様……ですが、迷宮は未だかつて支配地として治めた者はおりません……それに……迷宮は深く、主のいる最下層に、果たしてたどり着けるのかどうかも……」
「ふむ。できない時はそれまでだ。また別の手を考える。とりあえず、ここから一番近くの迷宮に行くぞ」
「まさか、お一人で?」
「ああ、そのつもりだ。みんなも忙しいからな……」
――何があるか分からんなら、なおさら一人の方が気が楽だ。
「しかし……」
何やら考え始めたセラだったが、その顔が珍しく悔しそうに思えたのは気のせいなのだろうか。
最後までお付き合い頂きありがとうございます。




