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数日後の食卓にて――
「おお。今日は久しぶりに、みんな揃ってるな」
俺はテーブルに腰掛ける妻と配下たちに声をかけた。
――――
――
早いもので悪魔界の屋敷に住み一週間が経った。
支配地は未だ手付かずである。
あれからずっと、考えているものの良い考えが浮かばないのだ。
いくら考えたところで考えつかないものはしょうがない。
最悪はセラとカナポンの言った通り、支配地を拡げれば問題ないのだから……
そうすればいいと気楽に構えることにした。
その時は……忙しくなるだろうが、何もできなかった自分が悪いと諦めるしかない。
――――
――
「うん。そうだね」
ナナが隣で嬉しそうに相槌を打った。
このテーブル席では、俺以外のメンバーは、ローテーションする決まりになっている。皆がそう決めて俺に提案してきたのだ。
妻とのコミュニケーションも大事だが、配下たちとのコミュニケーションも大事だからな……その点はみんなも同じ気持ちなのだろう。
――うんうん。
これは、みんなが仲良くしようと考えてくれた結果なのだろうから、非常にありがたい。
――今日は右がナナで、左がニコスケか……
「ニコスケたちの作る肉料理はうまいが……しかし、今日のメニューも肉料理だな」
「肉、うまいがう……です」
隣のニコスケが俺の問いに淡々と答えるも、その瞳は少し焼き目がつき良い香りを放ちつづけている肉に釘付けである。
「肉ねぇ……」
ニコスケは無表情で抑揚のない口調でそう答えるも、ふわふわもふもふ尻尾は嬉しそうに揺ら揺ら揺れている。それが俺にはおかしくもあり可愛く思う。身体が小さいから余計にそう思うのかもしれない。
「まあ、いいんだけど……少しは野菜も食べんと大きくなれんぞ」
『我は所望する』
俺は野菜料理とデザートをテーブルの中央に出した。
「……がう……」
野菜料理を見た瞬間、ニコスケの尻尾がしゅんと垂れ下がった。それは対面にいたミココロも同じようだ。
「ぷっ! そんな落ち込むな。デザートのプリンもあるからな、くっくっくっ」
俺の屋敷にいる小さなメイド見習いは肉料理しかできない。そのため、俺が毎回追加の料理を出している。時間の合うメンバーが一緒に食べるのはそのためだ。
「さすがクロー様。その魔法は何度見ても惚れ惚れします」
「さすがです」
気の利くセラと、イオナが俺の出した料理を手際よく小皿へと取り分け皆に配っていく。その二人の速度が凄まじい。
――お前たちの方こそすごいと思うが……
皆に料理とデザートが行き届いたところで食べ始めた。
「ところでナナ。願い声はうまく対応できているか? 問題はないか?」
ふと、何気に気になった俺は今更ながらそんなことを聞いてみた。
「ふも? へはひほへへふか?」
ナナが口をリスのように頬を膨らませていた。
「ナナ……」
慌てて飲み込んだナナは、えへへと笑うと――
「クローさま。あたしにかかれば願い声なんて、チョチョイのチョイですよ。さっきもサクッと願い叶えてきたんですから。褒めていいですよ」
「はい、はい」
ナナが褒めろとばかりに俺に頭を向けてくるので、頭を軽くポンポンッと叩いてやりつつも、不安になった俺はカナポンに視線を向けた。
「ナナさんの言ってること、本当カナよ」
カナポンは一言だけそう言うと幸せそうに目を細め、再び野菜料理をもしゃもしゃ食べ始めた。
「ぶぅ、クローさま。酷いです」
ナナの頬が、口に何も入れてないのに膨らんでいく。
「すまんすまん。つい……」
「ついってなんですか……ついって、もう〜」
――――
――
―『願い声』ナナの場合―
「まただ、またフラれた。なぜ僕ばかりフラれる。なぜ女どもは僕の良さを理解しない……」
薄暗い部屋の片隅にうずくまりブツブツと呟く青年は不気味なほど細く痩せていた。
これは貧しくてそうなったわけではない、青年の痩せ型の体質のせいだった。
「あ〜みつけた!! この気持ち悪い声はあなたの声ね?」
「だ、誰だ!」
青年が急に聞こえた女性の声にビクつき、辺りをきょろきょろと見渡し始めた。
「あ、あたし? あたしは……ふははは、泣いて驚け……えっと? ……悪魔だよ?」
ナナは習った悪魔の挨拶をしようとしたが、今まで一度としてまともに最後まで言えたことなどない。それゆえに忘れてしまい適当な挨拶になったが、そんな細かいことを気にするナナではない。
「あ、あくま? 悪魔! ひぃ、ひぃぃ……」
それでも青年は悪魔と聞いて顔を青ざめ、更に後ろに下がろうとして壁に張り付いた。
青年は元々部屋の隅にいたのでそれ以上、後ろに下がれなかったのだ。
「ぶぅ〜……あなた失礼ね。あたしはあなたの声が聞こえたからきたんだよ?」
「ぼ、僕の……声?」
ナナは腕を組むと暗く汚れている部屋を見渡し、青年の呟いていた声を思い出していた。
「はぅ!」
青年はその間、ナナが腕を組むことで主張しているおっぱいに気づき釘付けになった。
しばらくするとナナがポンっと手を打つと、満面の笑みを浮かべた。
「ふふふ、わかったよ!! あなたはつまり、伴侶が欲しいのよね!?」
ナナは腰に手を当て、ビシっと青年に人差し指を向けた。
「え?」
「どう? ねぇねぇ?」
「え? え?」
青年の反応の無さに不安になってきたナナは、胸の前で両手を握り締め、上目遣いでもう一度尋ねた。
「ねぇ……伴侶が欲しいんでしょ? ねぇねぇ? あってる?」
「あ、あってます」
ナナに見つめられた青年は顔を真っ赤にして、こくこくと頷いた。
「え〜良かった〜」
ナナが嬉しそうに小さく跳ねると豊満なおっぱいが青年の目の前でたゆんと揺れた。
それをまともに見た青年の顔は更に真っ赤になった。
「じゃあ〜あたしがその伴侶を探してきてあげる」
「え?」
笑顔で青年に迫るナナのおっぱいが、主張してゆらゆら揺れ青年の目を釘付けにする。
「そのかわり……あたしはあなたの、その昂まった感情をもらうよ?」
女性の免疫の少なかった青年は、ナナの言葉に何やら勘違いし下半身を押さえ――
「え? いや、はぃ」
真っ赤な顔のまま返事をした。
そのとたんに、パンッと契約が締結され青年の頭上に小さな魔法陣のようなものが現れてすぐに消えた。
ナナはその契約締結に満足すると――
「あの、ぼ、僕は……君でも……いや君がいいんだけど……」
「はい、ちょっと待っててね」
青年の会話を聞くことなく、早々と伴侶を探しにいった。
「おまたせ〜」
しばらくするとナナは痩せ細った一匹のワンちゃんを連れてきた。
「ほら、あなたの伴侶を連れてきたよ」
にこにこ笑顔のナナはその青年にそのワンちゃんを手渡した。
「……あ、ありがとう」
青年は急に犬を突きつけられ戸惑うも、満面の笑みを浮かべるナナに嫌われたくないと思い、なんとかお礼の言葉を絞り出した。
「うん。これで満足した?」
ナナが首を傾げて青年を見ている。
「え、あ、うん」
青年は女性を連れてくるものだと思い少し残念に思ったが、安堵もした。
青年は最後に可愛らしい悪魔のナナから、ナニやらしてもらえると思っているからだ。
そして、その時にもう一度、この可愛い悪魔に伴侶になってほしいと頼めばいいと思っていた。
「良かった」
そこでナナの頭に契約履行の囁きが聞こえた。
「えへへ。またまた成功だよ。やったね。じゃあ、あなた……」
ナナは頬に指を当てると首を傾げ何やら考えると――
「うん。目をつぶってくれる?」
そう言って笑みを浮かべた。
「は、はぃい」
青年はいよいよかと思い、うわずった声を上げ顔を真っ赤にしながらも、ナナに言われた通り両目を閉じた。
「はい、終了〜」
そんなナナの嬉しそうな声を聞くことなく青年はブラックアウトした。
その後、昂ぶった感情を取られた青年はワンちゃんに顔を舐められながら目を覚ました。
なぜ、自分は知らない犬に顔を舐められているのか、なぜこの犬は僕の家にいるのか、青年は理解できなかったが……
でもなぜか、この犬が、好きな女性にもらったような気がした青年はそのままその犬の飼い主となった。
ただ、根本的には何の解決もしていないので、そのうちにまた、願い声が聞こえてくるかもしれない。
――――
――
「すまん。すまん。そっか、問題ないならいいんだ。そうか、ナナありがとうな」
少し不貞腐れたナナに誤魔化そうとナナの頭をくしゃくしゃと撫でてやった。
「えへへ」
「クロー様〜。私も頑張ってますよ〜」
ナナの隣に座っていたティアから眠そうな声が聞こえてきた。
「おお。ティアもか……」
ティアはナナの身体を避けるように身体を前屈み気味に俺の方を見ていた。
「はい。でも〜オーバーワークで、睡眠が妨げられてます〜。何かご褒美ください〜」
ティアが眠そうに頭をフラフラ揺らした。
「ふむ。そうか。それはいかんな……よし、考えておこう」
そう言った瞬間、ティアの眠そうな瞳がキラリと光った気がした。
――ん? 気のせいだよな……?
―『願い声』ティアの場合―
「アイツら俺を嵌めてクビにしやがった! 許さん! 許せん!」
ティアが聞いた願い声の主は、顔を真っ赤に憤怒している中年の男だった。
肉体労働者なのだろう。みすぼらしい格好をしているが、筋肉質で身体つきは良い。
その男は日当たりが悪いため、昼間でも薄い暗い部屋で、ちゃぶ台に似たテーブルを前に胡座をかいている。
ダンッ!! ダンッ!!
時折、昂ぶった感情を抑えきれないのか、そのテーブルを激しく叩いていた。
「あらあら、荒れてますね〜」
「誰だっ!!」
ティアは男の背後から声をかけ、男が振り返ると腰に手を当て首を傾げた。
「ふふふぅ、私は悪魔ですよ〜。あなたの声を聞いて来ました〜よろしくね〜」
「うぉっ……!! あ、悪魔だと……?」
「そうですよ〜」
ティアは笑みを浮かべ右手を小さく振った。
「ふふふ」
それだけでほぼ水着姿に近いティアの形の良いおっぱいが少し揺れた。
男の視線も揺れたおっぱいに釘付けになった。
「あ、悪魔が……俺に何の……よう……だ……」
男も悪魔だと名乗ったティアに出ていけとは言わない。
なぜなら、男の目の前の悪魔は眠そうな顔をしているが可愛い。ティアはどちらかというと美人なのだが、この男の年齢からそう感じていた。
しかも、その可愛い悪魔の寝癖っぽいふわふわした頭が男の警戒心を解き放つ。
露出度高いその格好が男の心を虜にした。虜にされた男の鼻の下はどんどん伸びていく。
「ん〜ですから、あなたの声を聞いてきたんですよ〜。さあさあ〜。あなたはどうしてほしいのかな〜」
ティアが男の前で前屈みになると、男の額をつんつんと人差し指で軽くつついた。
その仕草が実にあざとかった。
「ふ、ふおっ!?」
男は急に近くなったティアの顔と額をつつかれたことに驚き、思わず上体を仰け反らせた。
「あれ〜? どうしたのかな〜」
「いや、な、何でもないんだ〜」
「ええ〜、何もないの〜」
眠そうな顔のティアが少し悲しそうに眉尻を下げた。
「ああ〜ぁ、ある!! あるぞ!!」
「そう〜、じゃあ、お姉さんに言ってごらんなさい、ね〜」
「いや、その……お姉さん?」
男はティアのおっぱいをチラチラ見だした。
「ふふふ、そうですよ〜お姉さんですよ〜」
ティアは笑みを浮かべると、腰をくねらせ、自分のおっぱいに両手を添えた。
「ごくり」
男の生唾を飲みこむ音がティアの耳にまで聞こえると、上体を左右に揺らした。
「あなた……寝たくな〜い?」
「そ、そんなわけ……」
「あら、違うの〜。残念、私は寝たいわ〜」
男はティアの言葉を聞き目を見開くと、身体を舐めるように見た。
「いや、違わなくもない……かも……」
そう言う男の鼻の下は伸びに伸びている。口元も緩みにやにやとしていた。
「そう、じゃあ、はい。お寝んねしましょうね〜」
ティアが腰に巻いていた薄いパレオをはらりと取ると、際どい水着っぽいボトムが露わになった。
「うお!?」
ティアは男が変な奇声を上げている間に、男の使用しているらしき万年寝床の側にいった。
「ほらほら、今なら私が添い寝してあげるよ〜、あなたのその昂ぶった感情を取ってあげるよ〜」
ティアはあざとく笑みを浮かべ男に向かっておいでおいでと可愛く手招きした。
「お、おっ、俺……」
「早く〜嫌なの〜?」
「……い、いやじゃない。そこまで言うなら……」
男は、だらしなく緩んだ顔でそう、口にするとパンッと契約が締結され男の頭上に小さな魔法陣のようなものが現れてすぐに消えた。
「そうそう〜。ほらおいで〜」
ティアがそれを確認して口角を上げると、両手を大きく広げた。
「うほ、うほっ!」
男の目にはティアが両手を大きく広げたことでよく見えるようになった形の良いおっぱいで頭がいっぱいになっていた。
「ほらほら〜早く〜」
ティアは妖しく腰までくねくねと動かし男を誘惑する。
「ごくり、うへ、うへへ」
男がテーブルの前から勢いよく立ち上がりティアに飛びかかろうとしたその時――
ドフッ!!
「ぶほっ!」
男は腹部に強い衝撃が走り膝から崩れ落ちると、前のめりになって倒れた。
「あらあら〜、もう寝ちゃったのね〜。しょうがない子ね〜」
ティアは困ったように両手を頬に当てると――
「もう〜……よいしょ」
男を片手で軽く掴み、万年寝床にドサッと降ろした。そして自分もその横に仰向けになった。
そこでティアの頭に契約履行の囁きが聞こえた。
「はい。おわり〜」
その後、男は昂ぶった感情を取られ、ブラックアウトスキルで記憶を飛ばされた。
翌日、男は何事もなかったように目を覚まし、いつもと変わらない日常がやってきた。
ただし、こちらも根本的には何の解決もしていない。
そのうちにまた、願い声が聞こえてくることになる。
最後までお付き合いいただきありがとうございますm(_ _)m
普通の悪魔がまともに願いを叶えるはずないですよね……? (^-^;
今回は、キリがいいところまでになりました^^;




