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悪魔に転生してました。  作者: ぐっちょん
何となくハンター編〜悪魔争乱〜
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ブックマーク、評価、ご感想、誤字脱字報告ありがとうございます。


励みになってます。

『クロー様、ゲート設置の前に、(わたくし)のことでお話が……』


 配属悪魔から念話がきた。


 ――私のこと? 配属悪魔が……俺に? ふむ。


「どうしたのクロー?」


「主殿?」


「早く入ろうよ。わたしこんな大きな家、初めて入るから楽しみ」


 普通の家に比べて少し大きい程度なのだが、マリーは珍しいらしく、見上げる瞳が一番輝いている。

 そんなマリーが俺の腕を引っ張ると、エリザも真似して楽しそうに引っ張る。


「ふふふ、なんだか。マリーを見てたら私まで楽しくなっちゃったわ。ほらクロー」


「ん? ああ。そうだな」


 配属悪魔と話をしようにもここでは落ち着かない。


『すまん、少し待ってくれ』


『はい』


 エリザとマリーに引っ張られつつも、配属悪魔に少し待つよう念話していると――


「主殿、ちょっとお待ちを……」


 セリスが俺の前に出て手のひらを向けた。


「セリス?」


「「セリスさん?」」


 首を傾げるエリザとマリーだが、セリスは俺たちに話をするでもなく、さっさと家のドアを開け、先に一人で中に入っていった。


「セリスさん、急にどうしたのかしら?」


「うん、何だろうね?」


 数分後、セリスが何事もなかったかのように家から出てくると――


「主殿、もう大丈夫です」


 ガシャガシャっと手に持っていた奇妙な物を家の外に捨てた。


「セリス。それは?」


「主殿。この家には細工がしかけてありました」


「細工?」


「はい。これほど立地も良く、立派な物件が、買い手もつかず売れ残っていたのが不思議に思ったのです。

 そしたら案の定、このようなしかけが……これは水蒸気を散布するだけの魔道具です。ただ、これに睡眠薬が混入していました」


「ほほう、睡眠薬か……」


 ――あのやろ!! やってくれたな。


 隣にいたエリザとマリーはセリスが捨てた魔道具を見て、驚きの表情を浮かべいた。


「主殿……この物件はどうやって買われましたか?」


 セリスが心配そうな目を俺に向ける。それだけでセリスが何を言いたいのか少しだけ理解できた。


「……すまん。俺も急いでいたから、気に入ったらすぐに買ってやると、つい金をチラつかせてしまった」


「やはり。主殿……いいカモにされましたね」


「悔しいがそのようだ。しかし……トホホ商会のあの親父め……

 ん? 待てよ、睡眠薬ということは……そのうち、俺がちゃんと寝ているか、確認をしにくるな。

 ふふふ、いいだろう。その時は……金の代わりに悪因を渡してやるわ」


「悪因?」


「ああ、悪因だ。セリスは元聖騎士だったが聞いたことなかったか?」


「はい。悪魔の呪いのこと……ではないのですか?」


「あ〜、人族の立場からしたらそうとも取れるな……ふむ。呪いと言われているかもしれんな」


「なるほど、悪魔たちの間では悪因と呼ぶのですね」



 悪因を刻まれた人族は、直接契約による感情値の獲得はできなくなるが、支配地内の値率摂取の影響は受ける。

 よって悪因が刻まれた者から全く感情値が獲られなくなるという最悪の事態にはならない。

 いくら感情値のためと言っても悪魔は悪魔、ムカつく相手(人族)に我慢なんてできない。殺さないでいてやるかわりに悪因くらいは刻む。


 このシステムのおかげで支配地悪魔と一般悪魔との間に起こり得る無駄な衝突を抑制している。



 セリスが無言で俺を見ている。


「セリス。止めても無駄だ。元聖騎士として気にいらんかもしれんが、俺はやられっぱなしは好きではないんでね」


 ――それに、もし、仮に俺が普通の人族ならば、これは俺だけの被害じゃすまなかったんだ。あり得ないが許すことなどできん。


「いいえ。私からは何も。それにこの手慣れた手口、一度や二度ではないはずです。自業自得ですね」


 そう言ったセリスは首を大きく振った。


「そうか……」


 それ以上は何も語らず、皆で家に入った。


「うわー……あはは、何もないね」


「そりゃそうだ、買ったばかりだ」


 俺はみんなの意見を取り入れ、各部屋に家具を出していった。


 家具が入り部屋らしくなったリビングに昼食を出したところで念話が届いた。


『クロー様?』


 ――あっ!?


 皆にひとこと言って席を立つと、整えたばかりの部屋の内の一つに入った。


『すまん、遅くなった。今ならいいぞ』


 スーっと俺の目の前に執事のような見覚えのある風貌の悪魔が現れ、流れるように動作で頭を軽く下げた。


「お久しぶりですクロー様」


「ん? おお!! お前はセラバスだったか? セラバスが配属悪魔だったのか?」


 ――今日はちゃんと服を着ているのか……


 少し残念に、思いつつもセラバスの話を聞いてみる。


「はい。クロー様には、私が配属され管理することになるのですが……」


 セラバスは部屋を見渡し何やら探ると、笑みを浮かべた。


「なるほど。こちらにゲートを設置されるのですね。さすがはクロー様。良い場所をご選択なされる」


「そ、そうか。それで話とは?」


「はい。人界に押しかけるような真似までして申し訳ございません。ですが、どうしても、先にお伝えしなければならないと思ったのです」


 先程までの笑みが嘘のように一転し、セラバスが何やら決意を固めた表情を浮かべた。


 ――そこまで思いつめた顔で……何を言われるか、怖いんだが……


「……何だ」


「はい。私ども悪魔執事族は管理悪魔として常に完璧を求められています。それは私もそうあるべきだと思っています」


「そうか……」


「はい。クロー様もご存知の通り、私は先の騒動で、分不相応の想いを抱いたために取り返しのつかない事態を招いてしまいました」


「ふむ、それで?」


 ――俺は……特に何か影響があったわけじゃ…………あれ? 結果的に昇格し、支配地持ちとなってしまったのはセラバスのせい?


「結果から申し上げますと……私はその責任を負い廃棄悪魔ガチャ召喚の権限を失いました」


「権限が剥奪されたのか……それで?」


「はい。私がその責任を負うのは至極当然です。なんの不満もありません。むしろそれだけでは足りないくらいだと思っております」


「そうか……」


「はい。私は廃棄悪魔ガチャ召喚できない欠陥執事となりました」


「欠陥執事……それはまた……言い過ぎなのでは?」


「いいえ、私は欠陥執事です。悪魔執事族なら、ごく当たり前に行えることができなくなったのですから……」


「ん〜。言いたいことはわかった。それで、他に何か問題があるのか?」


「いいえ。ですが廃棄悪魔ガチャ召喚ができないということは、クロー様が召喚したいと望んでも私には応えるすべがないということなのです。これは悪魔執事族として恥ずべきことなのです」


 ――なんだ、俺はもっと深刻な問題かと思ったわ。


「そうか……まあ、悪魔執事族としてはそうかもしれんが、俺は皆がいれば別にその召喚は必要だとは思わないな」


 ――これ以上、人数が増えたら、人件値がどれほど必要になるか……


「なんと!? クロー様はそのようなお考えなのですか?」


 どこに驚く要素があったのか、セラバスが見るからに驚いているのが分かった。


「そうだ、何か問題でもあるのか?」


「いいえ。ですが私には欠陥が……」


「セラバス、気にするな。それに自分をあまり欠陥だと言うべきじゃない。誰にでも欠点の一つや二つあるんだぞ」


 ――完璧超人より、欠点がある者の方が付き合い易い。それに、セラバスは裸まで見せてくれた仲だし(勝手にそう思ってる)、全く知らない奴が配属されてくるよりよっぽど気が楽だわ。


「クロー様は……こんな私でも……やはり私のスキルは間違ってなかった」


 セラバスが目を見開いていたせいで、瞳に涙を浮かべていたのが分かってしまった。


 ――スキル? っと、それより、これはちょっと気まずいな……


「まあ、そういうことだから。気にするな」


 俺は軽く言って話しを終わらせようとしたのだが、セラバスは急に俺に向かって跪いた。


「クロー様、一つお願いがございます」


 ――今度はお願い? そう改まって言われると怖いいんだが……


「なんだ?」


「やはり、私は悪魔執事族として欠陥がある、その事実は覆せません。今の私ではクロー様に向かってバスの名を名乗る資格がございません。

 よってこれから私をセラとお呼びください」


 ――ホッ、そんなことか。


「セラバスがそれでいいのなら……分かった。セラこれからよろしく頼む」


「はい。不束者ですが末永くお願いいたします」


「セラ。分かったから立ち上がってくれ。どうも跪かれると……」


「はっ」


 セラの流れるように立ち上がる動作に思わず目を奪われていると――


「あ〜!! クローさま。こんな所にいたんだ。探しましたよ?」


 先程まで、イオナたちとプリンを食べ、何やら話し込んでいたナナが俺を見つけて喜び、セラを見て驚いた。


「ちょっと、なんで悪魔執事族がここに?」


「ああ、セラは俺に許可を取りにきたんだ」


「セラ?」


 ナナがセラバスをマジマジと眺めたかと思うと、驚きその目を大きく開いた。


「な、なんで? 悪魔執事族は男型(おとこ)でしょ?」


「これはこれはクロー様の配下の方ですね。私はクロー様の使用空間に配属された悪魔執事族のセラバスと申します。以後お見知りおきを」


 ――セラバス? はて? セラじゃないのか?


「むう! あたしはクローさまの一番の配下ナナよ。あたしが一番クローさまと長く……」


「ナナ様、先程の質問ですが、本来、悪魔執事族に性別はないのです」


 ――セラがナナの話を遮ったように感じたが、気のせいだろうか?


「ふーん。そうだったの?」


「はい。ですが……一生に一度だけ、忠誠を誓うに値する主に出会った悪魔執事族は、主の望む性別に応える事ができるのです」


「ええ!! そんなことできるの?」


「はい。これは種族スキルによるものです。まあ、ほとんどの悪魔執事族は、転々と代わる主に向かって、このスキルを使うことはありませんがね」


「知らなかった。じゃあセラバスは以前の主に忠誠を誓っていたから女型なのね。な〜んだ」


 ――なるほど。確かにセラは俺に会った時にはすでに女だったもんな。ふむ。悪魔執事族も奥が深いな……


「ふふふ」


 セラが軽く笑みを浮かべると俺に向き直った。


「では、私は心置きなくクロー様のために使用空間の準備をして参ります。準備ができましたらまたご連絡いたしますので、今はこれで失礼します」


「ああ、セラ……でいいんだよな?」


「はい」


「セラバスじゃないの……じゃあ、あたしも……」


「ナナ様。私をセラと呼ぶ資格がある者は、主ただ一人です。どうかご了承ください」


 セラがナナに向かって頭を軽く下げた。


「むぅ。セラバス分かりましたよ。はい、これでいいんでしょう」


「ナナ様、ありがとうございます。ではクロー様。失礼いたします」


 頬を膨らませ不貞腐れたナナを横目に、セラは綺麗なお辞儀を俺に向けると身体が霞み消えるように転移した。


 その後、にやにやしながら勝手に俺の家に入ってきたトホホ商会の親父と付き添いのゴロツキ五人に嘘をつけなくなる悪因を刻んでやった。


 すると、すぐに今までの悪行が公になり牢獄へ連行され、俺の支配地に貢献してくれることになる。




 ――――

 ――


 ―クロー使用空間予定地―


「さて、あなたたちはクロー様のお側に紛れ込んで、何をしていたのですか?」


 首の後ろを掴まれた子狼が必死に手足をジタバタ動かしていたが、観念したのかプラーンと力なくぶら下がった。


「がう」

「がぅ」


「ほう? あくまでもしらを切るつもりですね」


 セラバスの刺すような悪気が子狼を包んでいくと、急にポンポンっとセラバスに首の後ろを掴まれていた子狼たちが、チンチクリン悪魔へと姿を変えた。


「待つがう」

「そうがぅ。待つがぅよ」


「では、私の問いに答えなさい」


「がう」

「がぅ」


 二人のチンチクリン悪魔が、セラバスに首を掴まれたまま力なく項垂れた。


「あなたたちはなぜクロー様にまとわりついている? もしや、良からぬことを……」


「今はないがう、むりがう」

「そう、がう。それはないがぅ」


「では、何をしていたのです?」


「……」

「……」


「はぁ、そうでしたね銀狼悪魔族は……任務に忠実でしたね。では質問を変えましょうか……それは護衛のためですか?」


「……」

「……」


「わかりました。いいでしょう今回は見逃してあげましょう……ただし、クロー様に良からぬことを企てようとした、その時には……その首……へし折りますからね」


 セラバスが冷たい笑みを浮かべ、チンチクリン悪魔の二人が尻尾を小さく丸めた。


「分かりましたね?」


「がう」

「がぅ」


「よろしい」


「なぜがう?」

「配属悪魔、主にあまり肩入れしないがぅ」


「それは、あなたたちに関係ありません」


「がう」

「がぅ」


 セラバスがそう言うと二人の首から手を離した。すると、二人は素早くセラバスから距離を取り逃げようとした。


「ちょっと待ちなさい」


「がう!」

「がぅ!」


 チンチクリン悪魔の二人がセラバスの制止する声に反応しピタリと動きをとめた。


「あなたたちは、どうせ今後もクロー様の側をウロつくつもりでしょうから…………いいですね?」


「……それなら、分かったがう」

「任務の間だけがぅ」


「それで構いません」


 何やらセラバスが提案すると、二人のチンチクリン悪魔は無表情な瞳をセラバスに向け肯定した。

 しかし、ふさふさもふもふの尻尾は嬉しそうに揺れていた。





これで、ようやく次章に……

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