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翌朝
「クロー、この家どうしたの?」
「いやな、どうも新しいゲートの設置場所を決めないといけないみたいなのでな」
「へぇ〜買ったんだね」
「ああ、ここにずっと住むわけではないが、部屋は五つあるからそこそこ寛げる家だぞ」
――ふふふ、もう、宿には泊まらん。
昨晩は散々だった。
大部屋一つだったのも悪かった。ハッスルしようにも配下どもが傍を離れようとせず、寝れと何度か命令して渋々離れたが、ベッドをピタリと側につけじっとこちらを監視し始めたのだ。
だが、それくらいで諦める俺ではない。
俺はそのまま構わず妻たちに手を出そうとすると、今度はいつの間にか戻ってきたチビスケとチビコロが邪魔をする。
終いにはセリスまで拗ね始め一人蹲るセリスの背中をさすり必死に慰めるという、なにやってんだ俺状態だった。
結局ハッスルすることなく妻たちを抱き枕にして寝た。そんなことでは俺は大いに不満だった。
そこでゲート設置を理由に一人、朝早くから動き、そこそこ大きな家を購入したのだ。
――ふふふ、ここなら部屋数も心配ない。
場所は都市の東部、住宅街にある一軒家だった。俺はここを購入した。周りに似たような家がたくさんあり、紛れるにはもってこいなので買った理由もつく。
ちなみに馬は預けてきた、これから悪魔界の使用空間に行くことになる、当分の間、世話ができないからだ。
「チビスケ、チビコロ。お前たち……俺の使い魔になるか? しばらくこの地を離れるかもしれんから餓死したら大変だろ?」
「がう」
「がぅ」
俺がそう言うと必ず、チビスケとチビコロはすごい速さで逃げていく。
「ふむ。そんなにいやか……」
軽くショックを受けつつ、俺たちは買ったばかりの家に入った。
入ってすぐに……
『クロー様、ゲート設置の前に、私のことでお話が……』
配属悪魔から念話がきた。
――――
――
―グラッドのその後―
クローたちと別れ記憶に残る島国へと飛び立ったグラッドだったが、その位置をはっきりとは思い出せず、苦肉の策として考えついたのが、まず南へと飛び、海を目指すことだった。
「そうだ海だ。海に行けば……」
半日ほどで南の海へとたどり着くも――
「くっ、ここは……どこなんだ……」
グラッドが目にした海岸の地形は、記憶にまったくなかった。
「こっちか……」
そうと分かると、今度は海岸沿いを東に向かった。
記憶にない地形のため、後は自分の記憶にあるに地形と一致する場所をどこでもいいから探すしかない。
東に向かったのはカケだった。
島国の名前が分かれば尋ねていたかもしれないが、グラッドは人族に尋ねようにも島国の名前が分からなかった。
グラッドを召喚した女王すら自分の国を島国と呼んでいた。
もしかしたら島国が正式名称かもしれないと思う反面、それを、否定されてしまったらと思うと、怖くて聞けなかった。
「そうだ……あの島国は大陸の海岸から見えていた」
グラッドは時間がかかると分かっていても、偶に見える島々を一つ一つ確認していった。
いくつもいくつも確認して回った。違うと分かった島さえも確認していった。
そして、そんな毎日を七日ほど繰り返した朝――
「ああ……」
グラッドは懐かしさで思わず頬をぬらした。
「こ、ここ……覚え……てる。この地形……覚えてるぞ……」
グラッドは島々を一つ一つ確認していく度に、心のどこかで不安を抱き始めていた。
もしかしたら記憶にある島国は実在しないのではないか、と……
それが、今、目の前の見える島がグラッドの記憶にある地形とピタリと当てはまり、一気に色々な感情が押し寄せ、気持ちの整理できなくなったのだ。
「うっ……ぅぅ……ぅぅ………」
涙を流した顔など誰にも見せなくないグラッドは涙を払いしばらく上空から島を眺め――
「そ、そんなバカな……」
そして気づいた。
この島には、確かに城が存在していた。ディディスの城砦よりもかなり小さいが確かに存在していたはずなのだ。
それがどこにも見当たらなかった……
「城が……ねぇ……」
グラッドの全身から力が抜け落ちていく、ふらふらしながらも、なんとか島の城があったと思われる地に降りた。
その地は青々と木々が生い茂り、建物の存在など、微塵にも感じさせなかった。
「俺の記憶は……あれは幻だったのか……」
グラッドは、何も考えることができず、大きな木に寄りかかり、自嘲の笑みを浮かべた。
「あはは……あいつらに……また逢えるなんて……虫がよすぎだよな……ははは……っ!?」
その時、ふいに顔を上げた先、その先に木々の隙間から何か石像らしきものがチラッと見えた。
「あれは……」
グラッドは惹かれるようにその石像の方へ、一歩、また一歩と近づいていくと……
「こ、これは……」
それを見た、グラッドは涙腺がおかしくなったのではないかと思うほど涙を流していた。
「これは……俺、だ……」
その石像はグラッドの姿をしていた。周りにも何かしらの石像があるもののそちらの石像は苔にまみれているが、グラッドの石像だけが苔一つなくキレイに磨かれていた。
グラッドは涙を払い、その石像へ歩み寄ると……
「……お供え物?」
硬そうなクッキーのようなものが数個石像の前に置いてあるのに気がついた。
グラッドは何気にそれを一つ手に取り、匂いを嗅ぐと僅かに渋い匂いがした。
(懐かしい……?)
「そういえば……」
グラッドは島国が栄える前に食べたことのある、ドングリのような小さな木の実の焼き物、硬くて渋くてマズイ食べ物を思い出した。
グニュ!
「ははは……湿気ってる。まじぃぃな……」
そう言いつつもグラッドはその手に取った、湿気ったクッキーを食べていく。
「やっぱり、まじぃぃ……ん?」
グラッドは、石像から獣道のような踏み固められた細い道の存在に気づいた。
「この道を辿れば……」
グラッドは第10位に降格したため、魔力ならまだそれなりに感知できていたが、魔力のない者を感知する気配感知能力は微力なものとなっていた。
「町につく?」
そんな時、ガサリと近くで何か雑草をかき分ける音と、その方向に人族の気配を感知した。
(やべっ!)
グラッドは咄嗟に石像の後方へと身を隠すのを見計らったように人族で地味な民族衣装を身にまとった少女が石像に向かって歩いてきた。
「せっかくだし、今日はグラッド様と朝ごはん食べよう」
その少女はお供え物のクッキーを新しい物に取り替えると自身も地に座り、朝食らしい団子状の物を口に頬張り出した。
「うん。おいしい……」
何となく懐かしい声にグラッドは身を隠しつつも覗き見た。
(……ネス!?)
グラッドは驚き、高鳴る胸の鼓動を必死に抑えた。思わず飛び出したくなる気持ちを必死に抑えた。
何故なら、グラッドの言うネスとは、グラッドをこの地に召喚した島国の女王だった。
ネスが二十代の頃に契約し、二十年以上共に過ごしたのだ。グラッドの付与スキル美容の効果で二十代後半の見た目を保っていたが、目の前の少女はネスの面影はあるものの明らかに十代半ばから後半に見える。
(……違う)
その少女は遠くを見ながら寂しそうに独り言を呟き始めた。
「グラッド様、私、村の掟で明日大陸に渡るんだ……」
(……大陸に?)
「ほら私たちの村ってさ、女性ばかりしかいないから……」
その女性は急に立ち上がると、グラッドの石像に向き直り抱きついた。
「村の人口が減ってる。私は村長の娘だし、必ず大陸に渡って身籠ってこないといけない……」
(あの頃から変わってないのか?)
この島国はなぜか女性しか生まれなかった。グラッドが召喚されたのも絶望に打ちひしがれたネス女王によるものだった。
「今回は五人で一緒に行くんだけど……前に大陸に渡った四人は帰ってこなかった……私たち帰ってこれるかな……」
(帰ってこない? 五人? 確か当時は……もっと……)
大陸に渡る行為は数十人規模で行われていた記憶がある、それなのに今は五人と少ない。
(なぜ?)
「私……イヤ……だよ……ぐす……」
グラッドが当時を思い考え混んでいる間に、少女の方からすすり泣く声が聞こえ始めた。
「グラッド様がいいよ……グラッド様……うわぁぁ……」
やがて少女は本格的に大泣きし始めてポカポカ石像を叩き始めた。
「うわぁぁ……グラッド様……来てくれないから……バカぁぁ……グラッドさまのばかぁぁぁ、わぁぁぁん」
(ば、バカ……って……ったく)
グラッドは泣き出すと子供っぽくなる当時の契約者ネスの面影を泣きじゃくる少女に重ねてしまい、思わず後ろから抱きついていた。
「俺はバカじゃない」
「ひぃ、あっ!」
泣いていた少女は誰もいないはずの後ろから急に抱きしめられ驚き……
「あ、ああ……」
目を見開いて、石像とグラッドとを何度から見比べた。
「ぐ、ぐらっど……しゃま……!?」
「そうだ。俺はグラッドだ」
石像を毎日の日課のように磨き見ていた少女は抱きついているのが恋い焦がれたグラッドだとすぐに気がついた。
「うわぁぁぁ」
少女はグラッドに向き直り抱きつくとまたも泣き出してしまった。
「おい、泣くな……泣くなって……」
グラッドはどうしようもなく、少女が落ち着くまで背中をさすりながらその時を待った。
しばらくすると、落ち着いた少女は自分の顔を袖でゴシゴシと拭き、グラッドの顔を上目遣いでちらちらと見始めた。
「落ち着いたか?」
グラッドの声にビクリと肩をビクつかせるも、少女は顔を真っ赤に染めつつこくこくと頷いた。
先程まで泣きじゃくっていた少女はどこにいったのやら、急にしおらしくなってグラッドは戸惑った。
「どこか具合が悪くなったのか?」
「ち、違います……」
グラッドは忘れているが、イケメン悪魔なのである。超美形の悪魔なのだ。そしてその声も聞き惚れるほどいい声をしているのだ。
普通の人族はそれだけで骨抜きになるのだ。
「そうか、俺が悪魔グラッドだ。君が俺を呼んだんだ……何か言いたいことがあるのか?」
グラッドは悪魔のそれらしく見せるようにゆっくりとした口調で尋ねた。
本当はネスに似たこの少女に尋ねたいことは山ほどあった。だが、本能で今は、その話しをしてはダメなような気がした。
「ひゃい。わ、私が……グラッドしゃまを……」
「ああ」
「……しい……」
「ん?」
「うれしいです!!」
そう言った少女は、再びグラッドにぎゅっと抱きついてきた。
「お、おい」
「……たし、アネスといいます」
「村の伝承は本当だったんだ」と感極まった少女はまたもすすり泣き始めた。
「お、おい」
再び落ち着くのを待ったグラッドは、アネスの話を聞き軽くショックを受けた。
「あれから300年も経っていたのか……」
「はい、そうです」
グラッドがいなくなってすぐ、この島国を統治していた女王は病にかかり亡くなった。
言い伝えによれば、役目を終えたグラッド様がこの地を去り、そのショックから女王は病にかかりそのまま還らぬ人となったらしいのだが、これは女王の子孫にしか伝わっていないことだよ、とアネスが教えてくれた。
(ネス……)
これで、この少女アネスがネス女王の子孫であったことは間違いなく、ネスと面影を重ねてしまったのも無理もないとグラッドは思った。
そこへ、タイミング悪く、栄えた島国を我が物にしようと大陸のスティール王国が侵略してきたそうだ。
いくら栄えていたとはいえ、小さな島国が10倍以上の兵力の差に抗うことはできず、女王を失ったばかりの島国の人々は戦う前に散り散りになり大陸へと逃げ延びた。女王の娘がそう指示を出したのだ。
生き延びてさえいれば、時期を待ち再興できる皆に言い聞かせたのだと言う。
スティール王国は、栄えていた島国には金銀財宝が山ほどあると勝手に思い込んでいた。
たが、結果は何も目ぼしい物などなくすぐに興味を失い交通の不便を理由に島から撤退していった。
数年後、散り散りになった人々が集まり再興が始まるも、相変わらず生まれてくるのは女性のみで、不安を感じた人々は島国を離れ、一度住んだことのある大陸へと渡り始め、だんだんと衰退していったそうだ。
現在は辛うじて村と呼べる人口を保っているが、それも時間の問題だろうと言われ、それでも村長の娘であるアネスは大陸に渡り身籠って後継者を残さなければならなかったのだと言う。
「グラッド様。私、村の伝承は真実だと信じてました。私、グラッド様がいいんです。私と契約してください」
抱きつきそう言うアネスに、ネスの面影を重ねたグラッドは優しくその頭を撫でた。
「いいぞ」
グラッドはネスの子孫である少女アネスと契約しこの地を再興していくことになる。
だがまあ、グラッドが村中の女性に美容効果を付与したのは言うまでもない。
グラッドのハーレム王国誕生……




