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イケメン悪魔ラックの名前を変更致します。
ラック→グラッド
―悪魔界、悪魔第D2位の屋敷ー
《グラッド視点》
城砦の包む黒い空間。その空にまるで血を連想させるかのような赤黒く光る何かが弾けた。
――……合図か……
その光を見て外に居た悪魔たちがぞろぞろと城砦内へと入っていく。向かう悪魔たちに表情はない。
「お前は行かないのか?」
そんな声に振り向けば三人の悪魔……
悪魔女人間族=デビルウーマン族、
獣系の悪魔牝虎人族=デビルティグリス族、
悪魔女夢魔族=デビルサーキュッバス族、
誰もが眼を見張るほど顔立ちが整っている美人な悪魔が俺を見ていた。
こんな所にいなければ礼儀として口説き文句の1つでも口にしていただろうが……
「……あ、ああ」
今の俺にそんな気力などない。自分のことだけで精一杯。
――……時間切れ、か……いつまでもここに居るわけにいかないな……
俺は力なく返事をするも、その足取りは重い。
――ここに居て見つかれば……裏切り者として処分される、奴ならそうするだろう。見せしめにもなる……ならば、従った振りをして頃合いを見て逃げるか? ……いや、あの囁きがあった後だ、奴が不穏分子になりうる俺たちに何もしないはずはない。
得体の知れない奴のことだ、強制的に配下にする手段がないとも言い切れない。
起こりうる。
いや、もっと最悪なことが起こりうるかもしれない。奴は第2位格の力を取り戻した。ともなれば束縛系か、傀儡化系のスキルを所持していたとしても不思議じゃない。
くっ、考えれば考えるほど打つ手なしかよ……悪い考えしか浮かばねぇ……
城砦の入り口手前まで歩いてふと、気づいた。俺に声をかけてきた三人の悪魔たちが立ち止まって動こうとしていない。
「おい! お前たち……行かないのか?」
「ああ。あたいたちは行かない」
虎耳のついている悪魔がそう言う。
「はあ?」
俺は耳を疑った。どう感じとっても、この三人の悪気は第10位以下なのだ。
奴に逆らったところで敵うはずもない。そう思った俺は聞かずにはおられなかった。
「その……理由を聞いてもいいか?」
「解ると思うが、今のあたいたちは第10位以下だ。もうほとんど力がない」
「あのディディスって悪魔に従ったところで、使い捨ての駒になるだけかな〜と思っちゃったのよね〜」
こいつは夢魔族、俺と同族系統になるが、基本悪魔に同族意識はない。
「私たち、あの悪魔ディディスの元配下って奴に会ったのよ」
――こいつはデビルウーマン族か……元配下?
「そんな奴、ここに居たのか?」
「いた。イタチみたいな顔した出っ歯」
「……そんな特徴的なやつ……」
ふと、見張り台の上からゲートに群がる悪魔を一人、見下ろしている奴を思い出した。
――あいつか。
「アンタ、その顔……どうやら心当たりがありそうだな……
そいつさ、第5位悪魔だったらしいくてな。あたいたちを見て、あたいたちではここに侵略してくるだろう第10位悪魔すら、手も足も出せないクズだろうが、敵にしがみつくぐらいはできるだろうと、鼻で笑ったよ……」
虎耳した悪魔は、悔しそうに拳を握りしめ話を続けた。
「くっ、そんなことを……」
「事実だからな、もう笑うしかない。最後にオレのため、ディディス様のため、その糧となるべきだなと言い残していきやがった。なにが、光栄だろう。だ!!」
「……誰があんな奴のために、身体を張るもんですか〜」
同族が割り込んできた。それほど頭にきていたらしいが、ゆったりした口調なので、あまり怒っているように感じない。
「だから決めたの。ゲートから入ってきた悪魔の配下になってギャフンと言わせるのよ」
「おいおい、それって、その侵入してくる悪魔がこなかったなら、終わりじゃぁねぇか……かなり危ない賭けだと思うが……」
「いいんだよ。その時はその時さ……元々禁固刑で消滅する運命だった。どちらを選んでもあたいたちに生き残る確率なんて……ないに等しい。
最期くらい自分たちの好きな生き方を選択したいのさ。悪魔の性って奴かな」
へへへと虎耳の悪魔が照れ臭そうに笑うと――
「うん」
「だね〜」
他の二人も頷き笑みを浮かべている。これが危険な賭けだというのに……
この三人は玉座の間に向かった奴らより遥かにいい顔をしていた。
――自分たちで決めたことだから悔いがないってことか……
「……あ〜あ」
頭上は相変わらずの真っ暗な空間だが、俺の胸にもやもやしていた痞えがスーッと溶けて無くなるように感じた。
――俺は何を迷っていたんだ。俺は悪魔だ……拘束される悪魔は悪魔じゃねぇわな。
「……よしっ!! 決めたっ!!」
「うわぁ!」
「きゃっ!」
「何っ! ……急に大きな声を出すなんて信じられないよ〜」
同族がぷんぷん怒ってこちらを見た。
「ははは、すまん。俺もここに残ることにした。一時的だが仲間にしてくれ。一人でも多い方がいいだろう?」
三人は頷き手を差し出してきた。
「いいわ」
「いいぜ」
「うん」
――――
――
「揃ったカ……セラバス」
足を組み玉座に座るディディスが、跪き頭を地につける悪魔たちを眺めて気分よさげにそう言った。
「いえ、あと四人来てませんが……それよりも……」
セラバスは自身の頭に響いた囁きの内容をディディスへと伝えた。
「ホウ、俺が尋ね者トナ……グハハハッ!」
セラバスは笑うディディスに畏怖した。
何故ならディディスは笑ってはいるものの、その目は鋭く怒気を含んでいる。
次第にディディスの身体全体から怒気を含んだ悪気が漏れ出し、セラバスは心臓を鷲掴みにされているかのように、なんとも言えない恐怖に襲われて、気づけば背中には冷たい汗が流れていた。
「クククッ、面白ぇ……いいだろウ。全て俺の糧にしてやるワ……オイ、セラバス!! 予定変更ダ。あれを引き上げロ!!」
「はっ!」
ディディスが、セラバスに命じたのは支配圏内にいる人族から毎日奪っている感情値の値率。
その値率は通常10%になっている。それは直接契約している契約者の2%程度で人族が知覚できない比較的軽い程度のものだった。
ただこの地域圏内に居るだけで奪うこの行為は永続的につづけられる。
人族にはかなりの負荷がかかっているだろう。そのため、その人族が知覚できなく、身体にも影響を与えない絶妙なバランスの値率が10%だった。
それでも直接契約することなくこの地域圏内に存在する人族全てをターゲットにするため、莫大な感情値を奪うことができていた。
その値率をディディスは引き上げろとセラバスに言い放ったのだ。
「如何ほどに……」
「30%ダ……」
セラバスは予想以上に高かった値率に目を見開き驚愕したが、すぐに平静を装った。
ディディスの指示した値率は通常の3倍。これは弱った人族なら数時間で発狂するレベルであったのだ。
支配地域の人口減少に繋がり兼ねない行為、管理悪魔のいる支配地ではまず実現不可能な行為であった。
「畏まりました」
「うむ。と、その前ニ……」
「はい? なんでしょうディディスさ……まっ!?」
セラバスが頭を上げディディスに目を向けた時には、セラバス自身の額を貫き真っ赤な何かが入り込んでいた。
「……あがっ、がっ、がっ!!」
セラバスは、頭に割れるような激しい痛みに襲われた。いくら平静を装っていたとしても限界はある。
セラバスは激しい痛みに思わず口から呻き声が漏れた。
「ぐっ、ぐぅ、ディ……ディス……さま……なぜ……?」
玉座の間にはセラバスのようにもがき苦しみ、頭を押さえ転がり回る悪魔たちで溢れていた。
「何故? トナ……グハハハ……なあにスグすむ……俺を裏切れないヨウニ、血肉腫を埋め込んだだけダ。
裏切る行為をしなけれバ……いいだけヨ」
「……痛い……痛ぇ……頭が痛ぇ……、い、嫌だ……もう、こんなの嫌だ……ヒィィェェェ」
その時、ディディスが振り撒いた悪気に当てられ恐慌状態となっていた悪魔に、追い討ちのように襲ってきた激しい頭痛。
そのあまりの痛さに狂った一人の悪魔が逃げ出そうとした。
「フンッ! お前……使えんナ」
「……イ、ィィィ……ギャャャャ!!」
ディディスの呟きに反応するように狂った悪魔は全身から血を流し、次の瞬間にはパンッ! と弾け飛んだ。
「……」
玉座の間で聞こえていた呻き声がパタリと止んだ。
悪魔たちは苦痛に耐えながらも、死にたくないと、口を閉じ必死に姿勢を正した。
「さア……お前たち。いつまで蹲っている。早く裏切り者を処分シテコイ」
「「「「「はっ!!」」」」」
しばらくすると、悪魔たちが出払った玉座の間は静けさを取り戻していた。
「クックックッ! 同じ手は食わんゾ」
――――
――
「やべぇー、やべぇぞ! 数が多過ぎる!」
「ちょっとアンタ何隠れてるのよ」
「だってしょうがねぇだろ! ゲートは中庭の真ん中にあるんだ。あんな所に居たら囲まれて一瞬でチュンだ、チュン。構える間もなく瞬殺されるわ!!」
「……ふん! あたいはそれでもいいんだ、本望だよ」
俺たちは異様な空気の振動を感じとり、ゲートの見える位置に身を隠した。と言うか俺が無理やり三人を引っ張ってきた。
「バカじゃねぇの。それじゃただの無駄死にだろ!!」
――そんなの、俺は嫌だ……
「だって……」
「俺はギリギリまで……諦めねぇぞ……」
――そして、あいつらのもとに帰るんだ……
「「「……」」」
三人が俺を見て驚いている。
――俺、何か変なこと言ったか?
「わ、悪かったよ」
「てっきり、私たちに手を貸すあなたも、ヤケになっちゃってると思って〜」
「俺はちゃんと考えてんだよ!」
三人はバツが悪そうに謝ってきたが、それもここまでのようだ。どうやら気付かれたらしい。
二人の悪魔がこちらに向かってくる。
――くっ、何で悪気が漏れてねぇんだ。何位の悪魔が分からねぇじゃねぇか。
怖ぇ〜、凄ぇ怖ぇんだけど……こんなこと初めてだ……だが、そうも言ってられそうにないか。
三人には、見えないように息をゆっくり吐き出し心を落ち着かせると、覚悟を決めた。
「……まずは俺が様子を見る。いざって時にはサポートな」
そう言って立ち上がり三人の前に出た。
――サポート……まず無理だろな……
ああ……死んだな。俺、死んだよ。くぅぅ……女の前になるとカッコつけたがる俺の性が恨めしい。
「分かったが……でも大丈夫か? 相手二人だぞ?」
「私たちも手筈通りにやりましょう」
「うん、わかった〜」
――あれ……三人の反応が思ってたのと違う。ここは……私たちのために……ありがとう、と言って泣いて抱きついてくるところじゃないの?
「ほら! アンタ、何ボーッしてるのさ! 来るよ!!」
「お、おう!!」
俺は得意魔法である、爆撃魔法を最小限サイズで展開し構える、相手が射程圏内に入る、その時を待った。




