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嬉しいです。
少し短めです。
すみません。
「どうした主殿、この都市から離れるのではなかったのか?」
セリスが宿屋の壁に寄りかかり、俺がやった魔法剣に魔力を注ぎ剣身を発動させては、その剣身を哀しげに眺めている。
セリスは試し斬りがしたかったのだろう。何度も剣身を発動させては、ため息を漏らしている。
「ふむ……そうなのだが……」
俺は無機質音声を受け、迷いに迷って引き払ったばかりの高級宿へ再び戻っていた。
「クロー。ハンターギルドを出てからずっと深刻な顔をしているけど……もしかして私たちが困らせたから?」
マリーが眉尻を下げチラチラと上目遣いで伺いを立てている。
その隣のエリザも同じような顔で、両手を胸の前でもじもじとさせては、口を開けたり閉じたりと物言いたげにしていた。
――心配させているな……
「……違うんだ」
――この場合、何も言わない方が……皆を不安にさせる……それに危険……かもしれない、か……
「……エリザ、マリー、セリスには……正直伝えるべきか、迷ったが……聞いてくれるか?」
「はい」
「もちろんです」
「無論だ」
俺は不安そうにしているエリザとマリーの頭を軽く触れ、撫でてやると先程、聞こえた声について話した。
ちなみにセリスは、頭を撫でようにも腕を組んで壁に寄りかかっているので手が届かなかった。
セリスは驚いた顔で俺を見ているが、妻なんだしセクハラじゃないぞ。
セリスもエリザと同じく動きやすさを重視して、さらさら背中まであるキレイな銀髪を1つ結びにしている。
エリザは毛先の方に向かって少しクセが出ているが、セリスはストレート、触れると気持ち良さそうなのだ、機会があったら触れてみたい。
「……なるほど、そのような事態になっていたのか」
俺の話を聞きそう答えたセリスは、よほど俺の話に興味があるのか、魔法剣を収納するとゆっくりエリザとマリーの隣まで歩み寄ってきた。
「ああ。それで、俺とナナはほぼ強制的に参加せざるを得ないうえに、一番近くにいるというか、ここがその現地なのだ」
「では其奴が、この都市を支配している悪魔なのだな……」
「ああ、追加情報もあった。間違いないんじゃないか。しかし、どういった経緯があったかは不明だが、そいつ第2位格らしいんだ」
「第2位格の悪魔……それはまた……その悪魔、一体相手するだけでも50人編成の聖騎士一個小隊は必要なレベルだな……
更にその悪魔に配下がいるとなれば……益々脅威だ……」
「聖騎士が50人も必要って……そんなあ……それじゃあ、いくらクローが強くても死んじゃう」
「そうよクロー。お願い、二人で行くのだけはやめて……危険過ぎるわ」
マリーとエリザは、元聖騎士のセリスの話を聞き不安になったのか、俺の両腕をぐいぐい引っ張り身体を揺さぶる。
深刻な表情を浮かべる二人と違ってセリスは、目を見開きしまったというような顔をしている。
――はて? 二人の不安を煽ったからか?
「ふむ。そうは言ってもなあ……これは俺の勘だが……何もしないのが一番……不味い気がするんだよ」
そうなのだ。前代未聞のこの珍事、そして聞こえてきた無機質な声。何もしないのが一番選んではいけない選択肢のような気がする。
あの感じだと処罰ありきだ。もし処罰対象となれば俺もまだ第9位だし、第10位のナナは尚更のこと、どうなるかわかったもんじゃない。
大事をとって動かず、二人仲良く消滅となっては身も蓋もない。
「クローさまと二人、だけ……だもんねぇ」
俺が思い悩んでいると、ベッドの方からも、同じように思い悩むナナの声が聞こえた。
――さすがのナナも、今回ばかりは深刻にもなる、か。相手は高位悪魔、それがどれほどの勢力を保有しているのかも不明……ふむ。
「そうだな。だがナナは……っ!?」
俺は思い悩むナナに声をかけようと振り向き、思わず吹き出した。
――ぶほっ!!
ナナは珍しく深刻な表情を浮かべている。ただ、悩む位置が悪い。
ナナはベッドの角に腰掛けて腕を組んでいる。しかも、今日のナナはTシャツっぽい上着にデニムのミニスカートっぽいものを履いていた。
そのため、俺の位置からバッチリ見えるのだ、ミニスカートの隙間から……光り照らされたように……
――意外だ……ナナは白か……
これはこれで、おっぱいでは味わえない、お得感があった。思わず緩みそうになる口元をぐっと引き締める。
「も……勿論、ナナは、俺と一緒に行動してもらう。状況が分からない以上、無理する必要はないだろう」
俺はナナが安心するよう声をかけるも、その視線はナナの純白を捉えて離さずにいた。
「先ずは軽く相手と接触して様子を見る。後は……そうだな、のらりくらり襲ってくる悪魔のみを適当にやりすごしながら、他の高位悪魔が参加してくるのを待とうではないか」
「ふーん」
ナナの気のない返事に、俺は不安を覚え、ある記憶が頭に過った。
女とは視線に敏感な生き物である。
――いまのは……バレてる?
俺がまさにそう思った時だった、ナナはふいに、にこりと可愛く笑みを浮かべたかと思うと、へへへ、とイタズラを思いついたような妖しい笑みに変わった。
俺はその笑みを見てやばいと感じた。
「じゃあ、あたしはそこでクローさまの傍にいればいいんだよね。えへへ、これって……もう大人のデートだよね」
「大人のデートぉ!? お前はこんな時に何を言ってるんだ?」
「ええ〜、だってぇ、クローさまが……」
そしてナナはちらっとミニスカートを捲る仕草をした。
――いや捲らなくても見えてるぞ……白が……
「だって……何だ?」
俺は不思議に思い首を傾げた。
「へぇ、そうなんだ、ふーん!」
「その合図は、何なのかしら? ……私たちには心配させといて、二人はどこかでいいことでもするのかしら……?」
「主殿……なにもこんな時に、ち、ちょっとふしだらではないか……」
そう、俺の位置からは純白がバッチリ見えていた。それで俺はずっとナナの方へ顔を向けていた。
おそらくエリザ、マリー、セリスの位置からは(俺の後方位置のため)、見えていなかったのだろう。気づいていなかったようだが、今のナナのその仕草で全てを悟られたらしい。
女の勘とは時に鋭い。
「お、お前たち、何を言ってるんだ。俺は……別に二人でこの状況を、どうやり過ごすかを考えて……だな……」
――ぐっ、なんだこれは……
「どう過ごす……隠れていちゃいちゃするんだ……」
「クロー……夜まで待てないのかしら……我慢できない?」
「よ……夜ならば私とて……初めてだが……できんことも……」
「いやいや、みんな誤解してるぞ。それにセリスはまだ……って違う!! あ〜、ナナが変なこと言うから話が逸れたではないか」
「え〜、だってクローさまが……あたしを求めて……」
ナナがまたスカートをちらりと捲る。
――ぐっ! その先は言わないで……あと捲るのも……
「わ、悪かった。悪かったから。謝る」
「え〜、何で謝るんですか? クローさまなら別に……ああっ!! えへへ、そうですか、そうなのですね〜、これは発見、発見、大発見だね〜」
ナナがにやにやとまたもイタズラを思いついた笑みを浮かべた。
――こいつ……俺をからかってやがる……楽しいのか、楽しいんだろうな……くそ〜。
「「「じと〜」」」
「ああもう!! 俺は今はラットとズックを待っているんだ。ラットたちにゲートの位置を探ってもらってるんだよ」
三人からの無言の圧力(ジト目)に耐え切れなくなった俺は強引に話題を変えた。
――く〜、どうしてこうなった……
三人からの視線が、すこし温かいものに変わった気がしたが、まだ、油断はできない。
――こんな時は……逃げる? よし。
心に余裕のない俺は椅子に腰掛けて、全てをシャットアウトするかのように目を閉じた。
――ラット、ズック……
ただただ俺はラットとズックの帰りを祈るように待った。
「ねぇねぇ、エリザ。クローはやっぱり丈が短いスカートの方が好きなんだね」
「そうね、今日のナナさんを見て、視線を忙しく上下に動かしていたわね……私、もう少し短くしようかしら……」
「うん。わたしも、そうしようかな……」
「えへへ、エリザも、マリーもそうする? 今日のクローさまはなかなか見ものだったよね?」
「そうね」
「うん。わたし、そうする! ナナさんありがとう。これものナナさんのおかげだよ……」
「へへへ、そうかな。あたしは魔力具現化できるから、また色々試してあげるね」
「ほんとに!?」
「ナナさんありがとう」
「えへへ、いいよ。別に……(それに、照れてるクローさまも可愛いし、にしし)」
「ぬっ! 私は……」
全てをシャットアウトしている俺は、こんな会話が繰り広げられているとは知らず、後にミニスカブームが到来し、その結果、度々暴走しそうになる。
ただ、美綺の鎧弍型を身に纏ったセリスだけは何故か元気がなくしょんぼりと肩を落としていたのはまた別の話である。
『あるじ、分かった』
俺が女性陣からの圧力(勝手にそう思っている)に耐え忍んでいると、待ちに待った、待ち人が、いや待ちネズミと、待ちフクロウが戻ってきた。
「そうか。偉いぞラット。ズックもよく頑張った」
ラットとズックの頭を軽く撫でてやると、嬉しそうにラットが見てきた思念を飛ばしてきた。
――ふむ。なるほどな。ゲートはゲスガス城の玉座の間にあるのか。これは王族の誰かを契約者にしているな……
「お前たちはゆっくり休んでていいぞ。その後はみんなのことを頼みたい」
俺はエリザ、マリー、セリスを一瞥してラットとズックにそう伝え、好物の大きなチーズ片を二つ出してやった。
ズックも何故かラットを慕いチーズが大好物になっていた。すこし変わったフクロウである。
『あるじ、任せて』
『……まかせて』
「うむ」
「クローさま?」
むにゅん。
――む?
俺がラットとズックの前で屈み頷いているのを見ていたのか、ナナが後ろから抱きついてきた。
「なんだ、ナナか」
おっぱいの柔らかさが背中から離れない。
「そうだよ、それで分かったんだよね?」
「ああ。ゲスガス城、そこの玉座の間だ」
「主殿……一つ提案がある」
ゲートの位置を聞いていたのだろう、セリスは物言いたげにこちらを見ていた。
「聖騎士のことか?」
「はい。相手勢力の数と強さが分からない以上、利用できる者は利用するべきかと……思った……二人だけではやはり危険です。すこしでも相手の戦力を分散させるべきかと思った」
俺は驚いた。
まさか元聖騎士であるセリスからそのような提案を持ちかけられるとは思いもしなかった。
聖騎士と悪魔がぶつかればどちらも無事では済まないだろう。
ナナと二人しかいない今の状況下では有り難い勢力でもある。
「いいのか?」
「はい、聖騎士もバカじゃありません、何らかの対策を講じるはずです」
「そうか、分かった。では伝えてもいいが……セリス、お前が伝令となることは許可できない。ハンターギルドに依頼するんだ」
「しかし、それでは伝令が遅れてしまうが……」
「いいんだ。俺は聖騎士を信用していない。セリス、お前を伝令に出し、もしお前の身に何かあれば俺が俺を許せんからな。お前は俺の契約者だ。俺はお前を守る必要がある」
「主殿……」
セリスの目が大きく見開き、ふるふると身体を震わせた。
――む?
「あっ!! クローさまどこ見てるの? いやらしい〜」
――ぐぬ、しまった。
背中に張り付いていたナナの存在を忘れていた。ナナは面白いものを見るように俺の顔を横から覗き込んでいた。
もうこれは開き直るしかない。
「いいんだよ。少しの間、見納めになるからな。充電だよ、充電。癒し充電」
「充電? よく分からないけど……ふーん。そっか」
――あれ。勝手に納得してくれたぞ。まあ結果オーライだ。
「すまんが、エリザ、マリー、セリスの三人は一緒に行動するようにな。ラットとズックも、よろしくむぞ」
「「「分かった(わ)(よ)」」」
ラットとズックは、チーズを口に頬張りつつ片手、片足、それぞれ挙げて応えた。
――『ラット何かあればすぐに伝えてくれ』
『分かった』
ラットがもう一度、片手を振って応えた。
「じゃあ、ナナ行こうか?」
「は〜い」
ナナが俺の背中から離れたのを確認すると互いに翼を出した。
「みんなも気をつけてくれ、くれぐれも無理はするなよ」
「分かったわ」
「うん」
「主殿……どうかご武運を」
「ああ。じゃあ……おっとと、チビスケ、チビコロ、お前たち、急に邪魔するな……」
今まで姿の見えなかったチビスケとチビコロが、俺の背中にしがみついてきた。
「「がぅ」」
「ダメだ、ほら離れろ……」
「「がぅ、がぅ」」
「別にいいじゃない、城に着いたら勝手にどっか行くよ」
「こいつら、使い魔でも何でもないんだが……ほんとうにくるのか?」
「「がぅ!!」」
――まあ、こいつらは動きが素早いから大丈夫だろう。
チビスケは俺の頭に座り、チビコロはナナの胸に抱かれた。
「今度こそ行ってくる」
みんなに片手を挙げ合図をすると、俺はナナと共に宿から飛び立ちゲスガス城へと向かった。




