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悪魔に転生してました。  作者: ぐっちょん
何となくハンター編~悪魔争乱序章~
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38

ブックマークありがとうございます。

嬉しいです。


少し長くなりました。


 幌馬車に転移した俺は驚いた。


 それほど時間が過ぎ去った感覚はなかったのだが、外はすでに日が暮れオレンジ色の空が広がっていた。


 セリスが言うには聖域結界の中は時間の流れが違うという。


 ――参った……こんな日の沈みかけた時間から、都市を出ると逆に衛兵から怪しまれるかもな……


 そう判断した俺は何か言いたげな妻たちに宿を取ってから説明するとだけ告げると、セリスとナナを荷台の方に乗せ幌馬車を移動させた。


 ――こんなに往来の多い場所、どこに奴らの目や、耳があるか……ん?


「おい、チビスケお前はいつの間に戻った?」


「がぅ」


 ちゃっかり俺の膝に座ったチビスケの頭を撫で、俺はこの都市で一番大きな宿へと向かい、五人がゆったり泊まれる大部屋を1つ取った。


「よし、これでいいだろう」


 俺は部屋に音声遮断の結界を張った。


「エリザとマリーは、何か変わったことなかったか?」


「あ、うん……それが……」


 まず、エリザと、マリーからは淑女服セット引換券を店長に見せてからの経緯を聞いた。


 何でも淑女服セットは店長判断で持参した女性ハンターを見て渡す服を選別するものだったらしく、妻たちは何故か、貴族のパーティーに参加できるような上質で上品なパーティードレスを引き換えに貰うことになったそうだ。


 ただ、採寸の調整に、時間が思った以上にとられ戻ってきたのは俺が転移魔法で戻ってくる少し前だったそうだ。


 そして、そのドレスは現在収納中で、今は見せてくれそうにない。


 少し残念に思いながらも、次に俺が、エリザとマリーが店に入ってからの経緯を掻い摘んで説明した。


「知らなかったわ。そんなことがあったのね……」


「ナナさん、大丈夫かな……」


 エリザとマリーがベッドで横になっているナナを見つめた。


「エリザ殿、マリー殿。押しかけるみたいになってしまったが、これからよろしく頼む」


 セリスがエリザとマリーに笑みを浮かべ握手を求めた。


「セリスさんは、それで……いいのですか?」


 エリザが俺を見た後に申し訳なさそうにセリスを見ている。エリザよ、何が言いたい。


「無論だ。私が望んでしたことだ。それに不思議と、こうなれて良かったとも思っている」


「そうですか。それなら私からは何もありません。これからよろしくお願いします」


「セリスさん私もよろしくお願いします」


 エリザが優しく笑みを浮かべセリスの手を両手で包むと、マリーもその上から軽く握り包んだ。


「あ〜ずるい。あたしもまぜてよ〜」


 先程までベッドで寝ていたナナが、セリスとエリザの肩に手を回していた。


「ナナ、お前いつから起きていたんだ?」


「えへへ。この宿についた頃かな……」


「じゃあ、俺がこの部屋まで背負った時には……」


「起きてましたよ。にひひ」


「気持ち良かったでしょ」と笑いながらにやにやするナナの頭を軽く小突くと俺は風呂へと向かった。


 ――はぁ。


 何やら四人で話し合いたいような雰囲気が漂っていたからだ。こういう時、気遣いのできる男は辛い。


 案の定、いつもはお風呂についてくる妻たちがこない。分かっていたが、少し寂しい。


 ――おっ?


 しかたなく、俺はついてきたチビスケ、チビコロと一緒に風呂に入った。


「ふははは、よく似合ってるぞ」


「がう」

「がぅ」


 チビスケとチビコロをもこもこ泡を付けて羊みたいにして満足した俺が風呂から上がっても四人はまだ話し込んでいた。


 ――むむっ、楽しそうだな。


 しかたなく「先に寝るぞ」と言ってはみるが、誰も見向きもしない。これは、かなり寂しい。


 毎日、妻たちが両隣に寝てくれるのに、しかたなく、もぞもぞ潜り込んできたチビスケとチビコロを胸に抱きしめて寝りについた。


「チビスケ、チビコロ……お前たち温かいな……」


「がう」

「がぅ」


 悪魔になって初めて俺は涙で枕を濡らした。



 ――――

 ――



 ―悪魔界、悪魔第7位の屋敷ー



 悪魔執事族は悪魔大事典を管理している一族。それは廃棄悪魔についても管理している。


「うむ」


 ゲーゲスは、ガチャ口召喚準備のために頭を下げて退室したセラバスを満足気に眺めていた。


「ぐへ」


 暫くするとセラバスがガチャ口召喚の準備ができたと戻ってきた。


「ゲーゲス様、どうぞこちらへ」


「うむ」


 ゲーゲスは満足そうにセラバスの後を歩き召喚の間へと入った。


「ほほう」


 部屋に入ってゲーゲスの目に入ったのは不気味に浮かぶ大きなレバーと感情値の投入口らしい魔法陣、そして廃棄悪魔の入ったカプセルが出てくるだろう魔法陣だった。


「ゲーゲス様、まず、そちらの魔法陣に手を当て1万カナを投入するイメージを送ってください」


「うむ。こうか……」


 ゲーゲスは魔法陣の前まで歩くと手をかざした。


 するとカチッと部屋全体に何かが投入されたような音が響く。


「はい、すると、こちらのレバーが青く光りますので、こちらを両手でグルグルと回してください」


「分かった」


 ゲーゲスが、大きなレバーを両手で持ち、力を込めて回した。


「おっとと……」


「ゲーゲス様すみません。説明不足でした。レバーを回すのに力はいりません。ゆっくりと回してくだい」


「ふん! 早くそれを言わんか」


 多少不機嫌になるゲーゲスだったが、何を引き当てるか楽しみでならないゲーゲスはすぐに、その意識をレバーへと戻した。


 セラバスの言った通り、見た目の大きさに反して、レバーは軽く力を入れるだけで簡単に回った。


 ガチャ、ガチャ、ガチャッ!! と何やらカプセルがもう1つの魔法陣に近づいている気配と音がする。


「ゲーゲス様、召喚完了です。こちらの魔法陣にそろそろ廃棄悪魔が召喚されます」


「そうか」


 もう1つの魔法陣が黄色く光りだすとポンッ!! とカン高い音と共に手の平サイズのカプセルが飛び出した。


「ほほう。これが禁固カプセルか」


 そのカプセルの表面にはガチャ排出された悪魔の簡易スキャンデータが浮かび上がった。


 ゲーゲスは、そのカプセルをのぞき込むように眺めた。


 第D6位↓ 悪魔雄蛇族=デビルスネーク族 男

 戦闘能力◆◆◆◆


「ほう。なかなかではないか」


「少し階位が下がってますがゲーゲス様より格が上ですので慎重に扱ってください」


「セラバス、余計なことは言わんでいい。それくらい分かっておるわ!!」


「申し訳ございません。では、こちらのカプセルに手を添えてください。衝撃はダメです」


「ふむ。こうか」


「はい。では強制配下の印を刻みます」


 セラバスが何やら呟くとカプセルが真っ黒に染まった。


「ほほう。グヘヘ、パスがつながったわい」


「はい、これでゲーゲス様の配下契約が成立しました。適当に掴んで床に落としてください」


「こうか」


 ゲーゲスがカプセルを床に落とすとパリーン! と割れ中から全身鱗のリザードマンに似た蛇の悪魔が姿を現した。


 蛇の目がギラリとゲーゲスを睨む。


 その目を見たゲーゲスは、本能を刺激され全身に力が入り硬直していた。蛇に睨まれた蛙であった。


「ゲーゲス様に頭を下げないか!!」


 セラバスから叱咤する声を受け、蛇の悪魔はのそのそとゲーゲスの前で両膝をついてこうべを垂れた。


「ゲーゲス様、配下になる悪魔に名を与えてください」


「お、おう、そうか。グッ、グヘヘ。そうか、それはいいな」


 本能では相手が格上、天敵だと分かっているのだが、それでも強制的にガチャを引き当てたゲーゲスの配下となった。


 格下の自分が格上の配下を持つ。見下されていた悪魔を逆に見下す、ゲーゲスは上機嫌になっていく。


「グヘヘ、お前は……今からカスだ。グヘヘ。分かったかカス。ほら返事をしろ」


 ゲーゲスは気が大きくなり、格上の配下を嘲る。


「……はい」


「はい、だけじゃないだろ!! 畏まりました、はどうした!! あん?」


「……畏まり……ました」


「グヘヘ」


 ゲーゲスは気分良く笑うとカスとつけた悪魔の頭をペシペシと叩き「ワシのために働けよ」と嘲笑した。


 セラバスはその光景を黙って見つめていた。


「ほら、セラバス次だ」


「……はい」


 同じように次にゲーゲスが引き当てたのは悪魔鬼人族。


 第D7位↓↓ 悪魔鬼人族=デビルオーガ族 男

 戦闘能力◆◆◆◆


「ほほう。どうやらワシはツイてるようだ。グヘヘ、時代がワシを欲しておるわ。ふむ、お前はデクだ」


「……分かった」


 その間、悪魔カスとデクは両膝をつけこうべを垂れたままだった。ゲーゲスが姿勢を正すことを、よしとしないのだ。


「次で最後だな」


「はい、ではどうぞ」


「うむ」


 魔法陣が黄色く光りだすとポンッと音と共に手の平サイズのカプセルが飛び出した。


 その表面に悪魔の簡易スキャンデータが浮かび上がる。


 第D10位↓↓↓ 悪魔牝牛人族=デビルカウマン族 女

 戦闘能力ーーー


「こ、これは」


「この悪魔は力のほとんどを失ってます。これでは人族と大差ないですね」


「な、何だとっ!! こいつは全く使えんではないかっ!!」


 ゲーゲスが使えない悪魔のスキャンデータを見てワナワナと身を震わせた。


「そう言われますが、三体に一体が辛うじて使える悪魔となることが多いのです。ゲーゲス様は良い方です」


 そこでコンコンコンとドアを叩く音がした。


「ゲーゲス様、どうやら交戦中だった奴らと聖騎士との間に何やら動きがあった模様です。暫くお待ちください」


 セラバスは伝令が戻りその報告確認のために召喚の間を出ていった。


 残されたゲーゲスは使えない悪魔のスキャンデータを見て抑えきれないほどの苛立ちを覚えていた。


「こ、こんな使えん奴、いっそ殺してしま……」


 そこでふと何やら思いついたゲーゲスはニヤリと不気味な笑みを浮かべた。


「確かセラバスは廃棄悪魔を配下にできるのが三体までと言った……

 グヘヘ、こいつはまだ、ワシの配下ではない」


 ゲーゲスはカプセルを、乱暴に掴むと激しく床に叩きつけた。


 カプセルは激しく割れ散らばり、悪魔牝牛人族の悪魔がその床に転がった。


「きゃっ!!」


 整った可愛い顔立ちの悪魔だが、ツノが片方折れている。

 豊満なボディーで男性を籠絡させる魅力と顔に似合わない力が自慢の悪魔だった。


「な、何なのっ!?」


 状況理解できない悪魔牝牛人族は慌てて周りを見回そうとするも――


「ここ……っ!?」


 すぐ背後からの不穏な空気を感じ咄嗟に横に転がった。


 力もないのに咄嗟に転がり避けた判断能力は大したものだったが、相手が悪かった。


「うっ」


 ゲーゲスはこれでも第7位の悪魔。ザシュッと音と共に背中に激しい熱さと痛みが走った。


「あぁ」


 悪魔牝牛人族は、痛む身体で更に転がり横目に見る。


「おい、そこを動くな」


 そしてイボガエルみたいな悪魔が自分に何かしたのだと分かった。


(こ、殺される!!)


 そう思った悪魔牝牛人族は抗うために力を入れようとしたが、禁固期間が長く、全く力が入らない。


(これでは……)


 そこで悪魔牝牛人族の目に止まったのは簡単に割れそうな窓ガラス。


(もしかしたら……)


 悪魔牝牛人族は一縷の望みを抱き窓ガラスに向かって駆け出した。


「おい、こら逃げるな!!」


 ゲーゲスの怒気を含む雄叫びが悪魔牝牛人族に降り注ぎ、身が竦むも、その時すでにバリーンと窓ガラスを破り異空間に飛び込んでいた。


「グヌヌヌ!!」


 ゲーゲスは人族と差ほど変わりない悪魔と聞き油断していた。


「ふん……まあいい、馬鹿な奴め」


 この屋敷の外は異空間になっている。どこに出るか分からない。

 下手をすれば異空間を永遠に彷徨うとセラバスに聞いていたゲーゲスは不敵に笑みを浮かべた。


「ふん!! 異空間を彷徨い、果てるがいい」


 ゲーゲスは不敵な笑みを浮かべたまま粘着スキルを吐き出して割れた窓を塞ぐと、すぐに投入口魔法陣へと急いだ。


 急がないとガチャを回す前にセラバスが戻ってきてしまうと思った。


 先ほどの悪魔は死んでいたことにして、新しくガチャを回す。

 排出してしまえばセラバスもしかたなくだが従うしかないだろうという安易な考えだ。


 手順は三度もやれば誰でも分かる。


「グヘヘ、こうだったな」


 セラバスが戻ってこないのをいいことにゲーゲスは感情値を投入し同じようにレバーを回した。


 だが、今回は少し様子が違った。


「ん?」


 魔法陣が赤く光りだすとボンッ!! と爆音と共に人のサイズの大きなカプセルが飛び出した。


「おお!! これは!!」


 その表面に悪魔の簡易スキャンデータが浮かび上がる。


 第D2位↓ 悪魔鬼人王族=デビルオーガキング族 

 戦闘能力◆◆◆◆◆◆◆


「こ、これは、凄い……!?」


 ゲーゲスは高位悪魔を引き当て喜びを上げようとしたが――


「グベボッ……」


 できなかった。


 ゲーゲスは高位悪魔の悪気を受け全身から血を噴き出して倒れていたのだ。


 これがただの悪気でないことを理解する間もなくゲーゲスは――


 バキ、バキ、ボキッ!!


「グェェ……」


 カプセルから自力で抜け出した悪魔に踏み潰されていた。


「はははは、ナンダ。Dに落ちても殺れば感情値が入るではなイカ……

 はん? 何だ、こいつヨェェのに支配地持ち悪魔だったのか……ありがてぇ、全てオレのモノにナッタゼ……オイッ!!」


 ゲーゲスの配下となっていたカスとデクが、その悪魔に向き直ると額を地にこすりつけた。


 悪魔カスとデクは本能で理解した。


 ゲーゲスよりも、より自分たちの主として、支配者として相応しいと……


「これが、廃棄悪魔のガチャ……ダナ?」


「はっ!!」


「手順は?」


「心得ております」


 悪魔カスはこうべを垂れていても眼は横にある。ゲーゲスのガチャを、回す手順をしっかりとその眼に焼き付けていた。


 ――――

 ――


「ゲーゲス様、大変で……こ、これは!!」


 セラバスが戻ってきた時には部屋中が廃棄悪魔で溢れかえっていたが、その様子は少し異様だった。


 仁王立ちする一体の悪魔を囲むようにその悪魔たちは額を地につけていた。


「おお、やっと来たカ。お前は悪魔執事だナ」


「……そうですが……」


「支配地持ちは俺が殺った。この地は俺のモノになっタ。お前たちはどうする? 殺るカ?」


「……いえ、我々はこの地の支配者に従うだけです」


「ふん。賢明な判断だナ。いいダロウ俺に従エ」


「はっ」


 ゲーゲスは殺され、その地を廃棄悪魔Dが支配した。

 そして廃棄悪魔Dはセラバスの報告でこの地にいるクローや聖騎士たちの存在を知る。


「それハ、楽しめそうダナ」


 ――――

 ――



 ―その後の田舎村のタゴスケは―


「いや〜、あのハンターのお陰だ〜」


 タゴスケはクローから金貨を受け取るとすぐに村長宅から小さなロバっぽい馬を借り女性専門店へと向かったのだ。


 タゴスケは意外に心配性なのである。


 そのため、不安や懸念が少しでもあるとついつい考え過ぎるフシがある。

 その結果、ハゲ散らかした頭を装備するに至っていた。


 今思えばこの旅路のタゴスケは何故だか運がツイていた。


 道中もクローたちが、襲い来る獣や魔物を狩り尽くしていたせいもあり、獣一匹遭遇することなく町にたどり着いたのだ。


 町に着いたタゴスケは早速、目的の店へと向かう。


 幸い客足が途切れていたこともありすぐに店長と面会できた。


 タゴスケは店長にお金を払っていなかった経緯を必死に説明し金貨を差し出すと、気分良く金貨を受け取ってくれ、同情すらしてくれたのだ。


 これはタイミングが良かったとしか言いようがない。


 店長は溜まっていた債権整理が順調に進んでいたことや、この件を奴隷商に依頼する前だったこともあって「余計な出費がなかった」と、上機嫌に笑うと、タゴスケが一番懸念していた督促料と、ハンターへの依頼料をサービスしてくれたのだ。


 これにはタゴスケもびっくりしたのだが、店長は気分良くにこにこ上機嫌になっていたので、頭を深く下げ早々と逃げるように店を出た。


「感謝、感謝、感謝だべ。これで、心置きなく帰れるべ」


 そう思って呟いていたタゴスケだったが、あまりにも順調に運び過ぎて不安が襲ってきた。


「おかしいべ。どうするべか……」


 だが心配して田舎村に帰らず、このまま町に留まっていてもしかたないと思い、道具屋で通常のポーションを更に5分の1に薄めた安いポーションを購入した。


 タゴスケの所持金ではそれが限界だったのだ。


 それでもないよりマシだろうと薄めたポーションを、使い古したズダ袋に入れ帰路についた。


 そして、タゴスケが馬に跨り町を出て2日目のことだった。


「んあ? あれはなんだべ?」


 ここは田舎村に向かうためだけの道のため、道幅も狭く、行き来する人もほとんどいない。


 だが目の前には、タゴスケが町に向かった際は見かけないかった黒い塊のようなものが道を塞いでいた。


「通り道だ、しかたねぇ」


 タゴスケは馬から降りると、ゆっくり黒い塊に近づいてみた。すると――


「はぁ……はぁ……」


 今にも途切れそうな息遣いが聞こえてきた。


「……これは……」


 よく見れば黒い布をマントのように身体に纏った人が蹲っている。が、その周りは少し血溜まりになっていた。


「おっ、おめぇさ!! 大丈夫だべか!!」


 タゴスケは田舎者故に、疑う事や警戒する事に疎い。

 タゴスケはすぐにマントを剥ぎ取ると血を流した女性が蹲っていた。


 出血箇所はすぐに背中だと分かった。背中に何かで斬りつけられた跡があるのだ。


「ぽ、ポーションだべ!!」


 タゴスケは躊躇なく買ったばかりのポーションをキズ口にゆっくり丁寧にかけた。


 薄めてあるポーションのため、効きが悪いが、それでも流れ出ていた血がゆっくりと止まるのを確認できたタゴスケはホッと安堵の息ついた。


 だが動かせばまた出血する恐れがあることからタゴスケはマントを広げ直し、ゆっくりとその女性を仰向けに寝せてみた。


「これで、少しは楽になるだべ……おぅっ!?」


 そこで初めてタゴスケは、その女性の顔、身体を目にし、全身に痺れるような衝撃を受けた。


 タゴスケの一目惚れであった。


「め、めんこい!!」


 その女性の頭には片方が折れたツノがあり、大事な所には白と黒のまだら模様の体毛に覆われ、それ以外は肌が露出していた。

 ただその肌にはDという文字が浮かんでいるが、タゴスケにはその意味が分からない……


「あ、亜人だべか?」


 そして何より先程からタゴスケが食い入るように見ているのが、スイカのようなおっぱいだった。爆乳である。


 タゴスケは知らないが、倒れていたのは殺されそうになりゲーゲスの所から逃げ出した悪魔牝牛人族の悪魔だった。


「隣の国から来ただべか〜?」


 悪魔なので顔立ちは整っているのだが、タゴスケが呟きながら見ているのは大きなおっぱい。


 しばらくすると、悪魔として力が衰え人と変わらない身とはいえ、悪魔は悪魔。回復力は人より遥かに高い。

 その悪魔はゆっくりと目を覚ました。


「ここは……人……の匂い」


「気がついただべか?」


 悪魔は目を覚ましはしたが、起きられるほど身体が回復していたわけではない。

 タゴスケは心配そうに悪魔の顔を覗き込んだ。


「人?」


「オラ、タゴスケと言うだべ」


「人よ。私に名前はない」


「凄いケガだったべ、もしかして記憶がないだか?」


「違う、元々無いだけ。私は悪魔だから」


「悪魔だべか〜」


 タゴスケは内心びっくりするも、その悪魔から離れようとしない。


「……」


「……」


「……」


「私は悪魔、人よ、なぜ逃げない」


「何でだべ。おめぇさケガしてたべ」


 悪魔はゆっくりと上体を起こすと、身体を捻り背中のケガを確認した。悪魔の瞳が僅かに開いた。


「……くっ!?」


 上体を起こした悪魔を目で追うと、タゴスケの目に悪魔が動いた拍子に遅れてスイカのような大きなおっぱいが揺れるのが見えた。


 たゆ〜ん。たゆ〜ん。


 タゴスケは思わず生唾を飲んだ。


「……お前が私のケガを?」


「……ん……ああ。オラがポーション使っただよ。薄めのポーションだべ、効きが悪いのはすまんだべ」


「そ、……人に借りは作れない。対価払う」


「た、対価だか……別にいらねぇべ」


 そう言いつつもタゴスケの目は悪魔のおっぱいに釘付けである。


「……借りはダメだ、払ぅ…………っ!! くっ……そうだった……今の私にはもう……無い……だ」


 悪魔は口を開くと、すぐに何かに気づき、無表情のまま少し俯いた。


 それを眺めていたタゴスケはゴクリと生唾をを飲むと意を決したように口を開いた。


「け、ケガを治したのは偶然だべ。だども。………た、対価を払ってくれるというなら、オラのよっ、よ、嫁さ、なってくれねぇだか?」


「嫁?」


「そうだべ。オラ……あんたに惚れただよ」


 タゴスケは悪魔から勢いよく一歩下がると何度も何度も土下座をした。


「おめぇさ、めんこいだよ」


「一目惚れしただよ」


「ほんとは対価と言って、こんなお願いしたくないべ。でもおめぇさがいいんだべ」


「お願いだぁ。お願いだぁ」


「…………」


「お願いだぁ。お願いだぁ」


「……分かった」


「お願いだぁ……お願いだぁ……あっ、へ?」


「だから、お前の嫁になってやる」


「ほ、ほんとだか!?」


「ほんと。人の寿命は短い。その間くらいお前の嫁になってやる。何度も言わせるな」


 悪魔はプイッとタゴスケから顔を背けたがその耳は真っ赤だった。

 だがタゴスケがそれに気づくことはない。


「嬉しいだぁ。こんなめんこい嫁さ貰えてオラ嬉しいだ。幸せだぁ」


「…………」


 悪魔はタゴスケの様子をチラチラ気になり見るもそれだけだ。

 背中のケガもポーションと悪魔の回復力をもって早々に治っていったが、ゲーゲスに切られた背中の羽までは戻らなかった。


 悪魔が歩けるようになると二人は田舎村へと向かった。


 それでも心配するタゴスケは悪魔を馬に乗せ自らは歩いた。

 それでもタゴスケの頬は常に緩みっぱなし。


 夕方になると二人で野営をした。行きは一人だったが帰りは二人。タゴスケは幸せを満喫していた。


「な、なあ。おめぇさ何て呼べばいいだべ?」


「人……いや、タゴスケが好きに呼べば良い」


「ほあ、そ、そうだべか……じゃあ……おめさは今から……は、ハナ子だべ」


「ハナ子? ふーん。ハナ子」


 悪魔は名前をつけられそう呼ばれるとシッポを上機嫌に揺らした。

 すると二人の上空で契約書が浮かび上がりパーンと輝き二人に見えない絆が結ばれた。


 Dとなった悪魔が契約など初めてのケースだったが悪魔ハナ子がそれを知るはずもない。


「ハナ子はオラが昔飼っていた牛の名前だべよ。毎日美味い乳を飲ませてくれたんべ。いい名前だべ?」


「……だよ」


「ん?」


「何でだよ。私のどこが牛なのだ」


 確かに悪魔ハナ子は悪魔牝牛人族なのだが、さすがに獣の牛と一緒にされると悪魔なのに女心が傷つく。


 だが、名前をハナ子とつけられてしまった以上、後の祭り。


 ならば、その牛の意識を塗り替えてやればいいと思い至った悪魔ハナ子はタゴスケの頭を掴むと自分の胸へと押し付けた。


 むにゅん。


「どうだ、タゴスケ。こっちの乳の方が良いだろ?」


「ふおっ!?」


「ほら、何とか言え」


「ふおっ、す、すまんだべ。悪魔のハナ子の方が何倍もいい乳だべ」


「分かればいい」


「最高だべ」


「も、もういい」


「いい乳だべ」


「だから、もういいって……」


 何度も褒めてくるタゴスケに悪魔のハナ子は顔を真っ赤にして顔を背けた。


「ハナ子……最高だべ……」


「ああ、もう……」


 子供はできなかったが、タゴスケは死ぬまで歳を取ることなく若い悪魔ハナ子と、幸せそうに、仲良く暮らした。

やっと気になっていたタゴスケの事が書けました。

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[良い点] ヌケサクが幸せでほっこり
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