表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に転生してました。  作者: ぐっちょん
何となくハンター編~悪魔争乱序章~
35/114

35

ブックマークありがとうございます。


少し短めです。

すみません。

 ―悪魔界、悪魔第7位の屋敷ー


「セラバスどういうことだっ!!

 何故、ワシの配下のグス、ガスが聖騎士に殺されねばならぬのだっ!!」


「さあ、それは私にも分かりかねます……ただ、私の考えとしましては、お二人はゲーゲス様のために闖入者を探ろうとしていたのではないかと思われます。

 そこで運悪くも聖騎士に……」


「見つかったというのか…………あの……馬鹿共が!!」


 バキッ!!!!


 ゲーゲスは己の机にその怒りをぶつけた。

 その机には大きなヒビが入り、使い物にならなくなってしまったのだが、頭に血が上ったゲーゲスはそれすらも気づかずにいた。


「奴らが、ワシの支配圏に来なければ……!!」


 ゲーゲスの顔は怒りに反応してか、大きなイボがボコボコと無数に浮かび上がっている。


「彼の者はすでに聖騎士と交戦中ですが、ゲーゲス様も動かれますか?」


 セラバスの言葉を聞き、ゲーゲスの顔に浮かび上がっていた無数のイボが少しずつ小さく萎んでいく。


「……いや必要ない。ワシの配下は第8位だったのだ、高々9位と10位の悪魔。じき、聖騎士に処分されて終いだ」


 ゲーゲスは不意に弛んだ顎へと手を伸ばし、それを摘んでは引っ張り、摘んでは引っ張りを繰り返した。


 これはゲーゲスが何かを考えている時のクセだ。


「ふむ。そうなると残る聖騎士も……厄介だな」


 より強く顎を引っ張ったゲーゲスの顔は、すでにイボが収まり冷静さを取り戻していた。


「ではゲーゲス様は、彼の者を囮にその聖騎士たちの背後を突かれてはどうですか?」


「……まあ、待てセラバス。ワシがここ十数年見た限りでは、聖騎士共は一度の討伐遠征で四体もの悪魔を倒したという記録はない」


「はい、そのようです」


「うむ。だからワシは暫く大人しくするのだ。聖騎士とて相応の成果は挙げたのだ。これ以上この地に留まっても無意味だと判断し直に去るだろう」


「つまりゲーゲス様は、何もされず傍観に徹するということですね」


「そうなる。いいかセラバスよ、これもまた戦略なのだ。

 保護下にある悪魔が聖騎士に殺られたとあれば、高位悪魔であるあの方も黙っておるまい。グフフ。

 数の増えた聖騎士には高位悪魔をぶつけて互いの力を削ぐのが良いだろう。グフフ。

 どうだワシもなかなかだろう? セラバスよ」


「はっ。さすがはゲーゲス様です」


「グフフ。ワシはまだまだ強くなる。支配圏域も拡げるのだ。

 ふむ。そう考えば、奴らは良い贄になってくれたことになるな。グヘヘ。ここは感謝するべきだな」


「……」


 顔の割に大きな口をニヤリと歪めたゲーゲスは椅子の背もたれに寄り、それよりも、とセラバスに向かって話を続けた。


「今ワシがやるべきことは……駒だ。手駒が足りん。セラバス。お前もここは手駒を増やすべきだと思うだろう?」


 今後の方針を立て、展望が開けたという思いに至ったゲーゲスは機嫌よくセラバスに意見を求めた。


 配属悪魔のセラバスが思った以上に使える、使っても問題ないくらい信用はできる、と考えを改めたことで、己の配下が殺されたことなど些細なこと、代わりの配下を置けばどうとでもなるという結論に至った。


「では、配属悪魔を召し……「ならん! 配属悪魔など感情値が高いだけで信用ならん!!」


 ゲーゲスに言葉を遮られ否定されたセラバスの瞳が、僅かに広がったが、それも一瞬のことですぐに元の無表情な顔となった。


「……では、悪魔大事典を購入し交渉しますか?」


 屋敷持ちの悪魔は悪魔大事典を感情値で購入し悪魔を召喚することができる。これは一冊につき一度きり。

 ただし、その召喚に応じた悪魔が配下になるかは交渉次第なので、配下にならなければ悪魔大事典の購入カナがまるまる損となる。


「そうではない」


 ゲーゲスはセラバスに嫌な笑みを浮かべて首を振る。


「……では、既に仕えている格下悪魔の引き抜き、若しくは、人界にて格下の悪魔への勧誘、この辺りでしょうか?」


「ふむ。それもこちらから交渉となると足元を見られ感情値が高く付く、それに時間も必要だ……ほら、セラバスまだ、あるだろう?」


 セラバスの瞳が僅かに開いた。


「もしや、廃棄悪魔ガチャのことをお考えで?」


 ゲーゲスが腫れぼったい目を細め嫌な笑みを浮かべた。


「グヘヘ」


 ペロリと舌舐めずりしたその顔はセラバスに嫌悪感を与えた。



 廃棄悪魔とは、降格処分を受けてなお、納値しなかった者や、何らかの処分を受けた者、悪魔規約に抵触した者が、処分カプセルに禁固され消滅を待つ悪魔たちのこと。


 処分カプセル内では、激しい痛みや、苦しみを与えられ、悪気が奪われ続ける、当然格も下がっていく。

 何もしなければ、第10位まで降格し、やがて悪気が尽きると消滅してしまう。

 あまりの激痛に悪気が尽きる前に狂ってしまう悪魔も多い。


 つまり廃棄悪魔ガチャはその悪魔たちの救済。運も実力とみなされチャンスを与えられている。


 この廃棄悪魔の特徴として顔以外、体中にDの字が刻まれており見ただけですぐに分かる。

 またスキャンすれば、格の頭にDの字が付いている。

 つまり第D○位となる。


 そしてこの廃棄悪魔ガチャ、一回の使用が1万カナであったのだ。

 一回1万カナで配下を得ることができるのだ。


「そうだ。グヘヘ。これを利用しない手はないだろう」


 ゲーゲスはニタニタ気味の悪い笑みを浮かべつつセラバスをじっと眺めた。


「ですが、この悪魔達は非常に扱いづらく、メリット以外にも、リスクと制限が……」


「そんなもん知っておるわ!!」


 セラバスの言うメリットとは、その廃棄悪魔は通常格の10分の1の禄で配下にできること。


 クローで例えると……クローは今第9位悪魔で納値は年20万カナ。

 仮にクローが廃棄悪魔として配下になった場合、その主は10分の1。

 つまり2万カナを納値すればいいことになる。非常に安上がりである。


 他にも、通常ではあり得ない、自分より格の高い悪魔を配下に置くことができる場合もある。


 そして何より、処分を受けた悪魔なので引き抜きにあいづらく、仮に引き抜きを受けても通常の格に対する禄、つまり10倍の感情値を引き受け側から貰うことができるのだ。


 では、ガチャリスクとガチャ制限とは……


 まず、ガチャリスクとは、悪気を抜かれすぎて使えない、役に立たない場合や、狂って使えない、命令を聞かない場合など色々と問題がありえるのだが、その廃棄悪魔は必ず配下として管理する義務が生じる。


 また、ガチャ制限では、この廃棄ガチャにより配下にできる廃棄悪魔は3体までというものであった。



「セラバス!! 高位悪魔はよく好んで利用しているではないか、このワシではダメだと言うのか!?」


「いえ……出すぎた真似を致しました。では、その旨手続きを行いましょう。私はその準備をしてまいります」


 執事悪魔族は悪魔大事典を管理している一族、その廃棄悪魔についても管理していた。


「うむ。それでいい」


 ゲーゲスは、ガチャ口召喚のために頭を下げて退室したセラバスを満足気に眺めていた。



 ――――

 ――


〈Cランク聖騎士視点〉


「わぁ〜、クローさま凄い!!」


 パチパチと音無く両手を叩いて喜ぶ女悪魔が嬉しそうにアーク悪魔の後ろ姿を眺めている。

 その姿は悪魔らしくなくとても可愛く思うが、今はそれどころではない。


「せ、せ、セイル様ぁぁ!! ま、まだでしょうか……!!」


 俺は、盾となるべく前に出ていたが、アーク悪魔の鋭い視線に思わず顔を背けてしまった。

 身体も震え力がうまく入らない。


「ひ、ひぃぃぃ」


 盾になるべく前衛を務めている聖騎士は、セイル様と共に手印を結ぶ三人の聖騎士たちとガラルドを除くと四人もいたのに、あのアーク悪魔の手によって残り俺だけとなってしまった。


「お前は来ないのか?」


「ぃ、いい……!!」


 アーク悪魔の周囲にはクレーターが三つ増え、その数が四つとなっていた。

 いずれも聖騎士たちが地面にめり込んでいるが、覗き込まないとその姿を拝むことはできない。


「まあ、来ないならこちらから行けばいいだけか」


「ひ、ひぃぃ、く、来るな!!」


 アーク悪魔が恐ろしいことを言ってくる。


 俺は震える身体に力を入れようとするが……入らない。


(まずい)


 そこで俺はその聖剣を傘の様に広げ盾形態へと変えた。


(攻撃なんて無理だ、こ、これで時間を稼ごう)


「!?」


 左手にも白銀の盾を構えているため、俺は両手に二つの盾をアーク悪魔に向け構えた。


(守りに徹すれば、俺でも少しは時間を稼げるはずだ……でも、怖ぇぇ)


「せ、セイル様、お願いですから、は、早くしてください!!」


 俺は盾を前にアーク悪魔を見ないことにした。恐ろしくて見れないのだ。見れば力が抜ける。


「バカが、それだと俺の姿が見えないだろうが……」


 アーク悪魔の声が聞こえた、と思ったら突き出し構えていた盾に衝撃が走った。


 ガンッ!!!!

「うぐぁ!!」


 アーク悪魔が拳を突き出してきたのだろう。嫌な予感がする。


(ぃぃ……!?)


 メリメリッ!!


 アーク悪魔の放った右拳は簡単に俺の左盾を突き破っていた。


「ぐぎゃあ!!」


 顔全体に強い衝撃と、熱が走った。身体が吹き飛ばされる。


 倒れそうになる身体を、右手に構えていた盾を地に突き刺しなんとか踏み止まろうとするも、うまくいかず俺は仰向けに倒れた。


「うぐぐ……(顔に感覚がない……はっ、アーク悪魔は?)」


 顔だけ起こしアーク悪魔を見れば、奴は俺ではなくセイル様に視線を向けていた。


(鼻で息ができない……)


 鼻と口元に違和感があり拭ってみれば、ヌルッとした。

 鼻から大量の血が溢れ頬を伝い地に滴れている。


 この尋常じゃない血の量、俺は盾で衝撃を殺したつもりだが、鼻を砕かれていたようだ。


 状況を理解してくると鼻を中心に顔中から激痛が襲ってきた。


(回復だ、回復魔法を……)


 俺は震える左手に力を入れ、魔力を練り回復魔法を使った。


(痛みが和らいでいく……)


 本当はこのまま倒れていたいが……セイル様たちは未だ召喚魔法に気を取られている。

 時間的にはそろそろ召喚魔法が完成されていてもいい頃なのに……


(怖い、怖いが……あれさえ召喚できれば……あれさえ……あれ? 大丈夫なのか?)


 俺は震える身体に力を入れて何とか立ち上がった。


「ん? ほう、踏み込みが甘かったとはいえ、なかなか頑丈じゃないか……」


 起き上がって気づいた。回復魔法を展開中だったことに。俺は回復魔法が苦手で時間がかかる。

 ゆっくり回復しているせいで再び鼻に激痛が走る。


「ぃ、ぃぃ、痛え」


 砕けた鼻から流れる鼻血の量が少しずつ少なくなっているのでもうしばらくの辛抱だが、痛いもんは痛い。痛くて動けない。


(やばい、アーク悪魔の注意がセイル様に移る……)


 俺が一歩だけでも前に出て注意を引こうとした、正にその時、俺が待ちに待った瞬間が来た。



――――

――




 鼻を押さえその場から動こうとしない聖騎士に興味の失せた俺が、司祭の方へと視線を向けると俺の5倍はあろう女性騎士を模したゴーレムだか、人形だか解らないものが姿を現していた。


 それと同時に周りで手印を作っていた聖騎士たち三人が意識を失い倒れた。


「はぁ、はぁ、はぁ。どうやら上手くいったようですね。お待たせしましたね。

 あなたのお相手はこの聖戦士ヴァルキリー1型です。

 はあ、はあ、はあ……

 これはクルセイド教団の誇る最高峰。第3位悪魔をも一撃で葬る聖槍ホーリーランス、その身にとくと味わうと良いでしょう」


「おおっ!! そうだったのですか!! セイル様。お、俺はてっきりヴァルキリー1型は失敗だっ…………「黙りなさい!! 貴方はまだ知らなくていいことです!!」


 司祭が聖騎士の発言を遮っている。しかし、盾だけを構え守ってくれた聖騎士を凄い形相で睨んでいる。


 その顔はとても司祭とは程遠いものだった、何やら一人必死にも感じるが……


「す、すみませんでした!」


 再び視線を俺に向けた司祭はコホンと軽く咳払いをした。


 ――余裕を装っているつもりなのか……


「もし、この場を大人しく引くというのであれば見逃してあげないこともないですよ」


 そう口を開いた司祭は、ヴァルキリー1型を誇らし気に眺め、ヴァルキリーの勝ちを確信しているかのように強気な態度をとっている。


 その態度は、どこか俺を見下し余裕のある笑みを浮かべている。


 ――ん? ふん。


 だが、司祭は気づいていない。自身の額には大粒の汗が吹き出しており、そのことに俺が気づいているということを。


「ほう」


 ブゥゥン……!!


 ヴァルキリーの光のない無機質な瞳が俺を向き、右手に持つ巨大な聖槍が激しく光り輝いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ