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悪魔に転生してました。  作者: ぐっちょん
何となくハンター編~悪魔争乱序章~
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ブックマークありがとうございます。

 時は少し遡る


 ―悪魔界、悪魔第7位の屋敷ー


「何故だ、何故ワシが上位悪魔の保護下にある悪魔を始末しなければならぬのだ。

 このままではワシは上位階級の抗争に巻き込まれる」


 バンッ!!


 まるでイボガエルの姿をした悪魔が激しく机を叩きつけた。


「力をつけるまでは目立たぬよう、目立たぬよう、傍観に徹してきたというのに……高々第3位の分際で、このワシに……ぐぬっ」


 コンコンコンッ


「ゲーゲス様、何やら大きな音が聞こえましたが、どうかなされましたか?」


 扉の外から低いながらもよく通る男の声が聞こえた。


「セラバスか? …………ちょうど良い。入れ」


「はっ。では、失礼致します」


 落ち着いた声の後に、扉が開き執事服を着た悪魔が入ってきた。その姿は背筋をピンと伸ばしスラリと高くバリッと黒髪を後ろに流し硬めている。顔立ちは整っているが細く吊り上がった瞳のせいでどこか冷たい印象を与える。

 頭には悪魔執事族の特徴ともいえる羊のような角があった。


 ゲーゲスはこの悪魔執事族=シツジャッジ族が好きではなかった、いや、それだけではない――


 我が物顔のように支配圏域内や感情値など管理全般を司る、管理悪魔族=マネジメート族。

 屋敷の維持、身の回りの世話などを司る、人形悪魔族=メイドール族。

 その配属悪魔全てが疎ましく、煩わしく思っていた。


 人界に支配圏を手に入れて、初めてこの悪魔界に自身の力の象徴である第7位の屋敷が与えられた。


 その当時は、己の野望に一歩近づけたと感極り、頭に響いてきた悪魔の囁き全てを肯定してしまった。

 その結果が、この不要な悪魔ども全てを受け入れる形となり配属されてしまった。


 どこから配属されたかは一切不明。


 名目上は人界支配のための補佐と囁かれたが、実質は監視だろうことは分かっている。がそれだけだ。

 手に入れた情報をどこに、どうやって、何に使うのか……その糸口さえ掴めていない。


 そんな配属悪魔、自身の配下のように扱えと悪魔の囁きがあったが、ゲーゲスには無理な話だった。


 だからこそ、ゲーゲスが信を置く悪魔は二人。自身が第9位の頃からの配下である。といってもゲーゲスの配下はこの二人のみ。


 王都のみの支配だけでは屋敷の維持や、年間の納値で手一杯、配下を二人置くだけでかつかつだったのだ。


 それでも余剰分の感情値をコツコツと溜めつづけ、やっと支配権の行使が可能となるところまで来ていたのだ。


 己の野望のために支配圏域を広げようとしてあと一歩のところまできていたのだ。


「セラバスお前の意見を……聞か……聞きたい……」


 いつもなら、信を置く配下に意見を求めていたところだが、突如、発生した、不測の事態。

 ゲーゲスにとっては予想もしなかったアクシデントである。


 避けてきたはずの上位悪魔との接触、突きつけられたのは断ることのできない無茶な要求だった。

 上手くいっても、断っても上位悪魔の抗争に巻き込まれてしまう。

 下手を打てば確実に消されてしまう。


 ゲーゲスは藁にでも縋るような気持ちで、つい配属悪魔であるセラバスに意見を求めたくなったのだ。


「なるほど。では、ゲーゲス様。こうしてはどうでしょう……」


 ゲーゲスの悩みにセラバスは淡々と答えた。


 その意見は王都に滞在する聖騎士を利用してみては? というものだった。あくまでも提案である。執事悪魔族は出過ぎた真似はしない。


 ゲーゲスは少しでも感情値を得ようと、紛争が起こるか起こらないかの瀬戸際で、人族の感情を煽り摂取していた。


 ちょうどゲーゲスが支配権を行使した当時、ゲスガス小国は王位継承が上手く運ばず遺恨を残した。

 ゲーゲスはそれを利用して高い感情値を得ていたのだ。


 これは支配圏内に住む人族の感情が昂ぶれば昂ぶるほど、入る感情値が高くなるというシステムを利用したものだったのだが、今思えば愚策だったとも思っている。


 ゲーゲスは調子に乗り、煽りに煽り、紛争状態を長々と延ばしていた。


 だが、まさかこの施策が支配圏域の人口減少の要因になってしまうとは思ってもいなかったのだ。


 ゲーゲスは大いに悔やみはしたが、結果的には通常より感情値が早く溜まった。と思うことで自分自身を肯定し荒ぶる心を落ち着かせた。


 しかし、減った人口はすぐには戻らない。今は紛争の鎮火に努めているが、まだまだ時間は掛かりそうだった。


 だが、ただ指を咥えて見てるゲーゲスではなかった。己の欲望のため、自身の悪魔格を高めるために――


 ならばと、次は支配圏域を広げればゲーゲスの支配圏域人口は増え、得る感情値も増えるだろうと思考修正し、自らの智謀に惚れ惚れしていたところだったのだ。自画自賛であった。


 だが、この行動は少し遅く、クルセイド教会は長らく続く紛争状態を悪魔が絡んでいる異常事態だと判断し、聖騎士が本格的に調査に身を乗り出していたのだった。


 ゲーゲスが知らぬ所で聖職者に探りを入れられていたのだ……


 この決定に近隣地域からも聖騎士が数名ずつ派遣され、その数を増やしていた。


 セラバスはこれを利用し、ターゲットの悪魔を始末させればいいと提案したのだった。


 聖騎士もターゲットを始末したことで、この紛争が悪魔の仕業だったと大々的に公表でき、集まった聖騎士も解散する。


 聖騎士によって守られたこの王都にもまた、人々が行き交うようになり、やがて人口増加に繋がるだろうことが予想される。


 なによりゲーゲスが一番に恐れている上位悪魔にも言い訳が立つ。


 全ての責を聖騎士に押し付け、一方には聖騎士がやったことだと、また一方には聖騎士に先を越されたと……矛先を変えることで真っ向から敵対する事態は避けられるはずだ。


 ゲーゲスとしては消されるより、役立たずの烙印を押される方がマシだと感じていたのだ。全ては己の野望のために……


 セラバスのその提案にゲーゲスの口角は歪に上がった。


「でかした。セラバスよ。さすがワシの補佐を務めているだけある。では、その情報を……」


 ゲーゲスは大きなアゴに手を当て考える。誰にこれを任せるのが良いのかと、といってもゲーゲスの配下は二人しかいない。

 一人は脳筋、一人は小心者、層の薄さに大いに悩むゲーゲスに、セラバスが自ら名乗り出た。


「ゲーゲス様。私にお任せください。私が必ずや、その役目を果たして参りましょう」


 ゲーゲスは驚愕した。


 まさか、配属されただけの悪魔。優秀だと聞き及ぶ執事悪魔族が手を貸してくれるとは微塵にも考えていなかったからだ。


 優秀な執事悪魔族からの申し出、ゲーゲスに断る理由はない。

 すぐに表情を改め、平静を装うとセラバスに肯定の意を伝えた。


「うむ。ではセラバス。お主に任せたぞ」


「はい、お任せください。ゲーゲス様」


 セラバスはゲーゲスに頭を下げると滑らかな動作で退室していった。


 ゲーゲスは先程まで浮かべていた苦虫を噛み潰してしまったような表情とは、打って変わって晴れ晴れとした明るいものへと変わっていた。


「セラバスも使えるではないか。ぐへへ、まあ、これで、安心だわい。うむ。安心したら腹減った、メシにでもするか……」


 そう言ったゲーゲスは人形悪魔族、メイドール族にその指示を出した。



 ――――

 ――




「うぅ〜、これも美味しくないわね」


 ナナはクローたちと別れてから、支配圏に存在する悪気を探っていたのだが、すぐに飽き美味しそうな匂いのする露店を食べ歩いていた。


 ナナは串だけになった竹串をポイっと投げ捨てた。


 悪魔は本来、食に対して興味がない。だが、ナナに至ってはクローの影響を受け食の楽しさにはまってしまった。


 まあ、クローの出す食べ物が珍しい物ばかりで、どれも美味しいものばかりだったせいでもある。


「くんくん、わあぁ、いい匂い。あれかな? 何だろうね」


 と、いってもお金など持ち合わせていない、ナナは隠蔽魔法を駆使し勝手に摘んでいるのである。


「貰いますよ〜」


 一応店主に断りをいれ、その手に取る。片手には焼き鳥のような物、もう片手には焼きイカらしい物を手に取ると、満足気にうんっと頷き口を大きく開けかぶりつく。


「はむ。もぐもぐ、噛みごたえは……はむ。もぐもぐ、あるけど……もぐもぐ……それだけね……はむ。もぐもぐ……う〜ん、このタレが……イマイチだわ」


 一人うんちくをたれつつ食べるナナの口には焼きイカらしいもののタレでベットリ汚れている。残念美女である。


「さて……次はどれを……っ!?」


 ナナが次は何を食べようかと露店を見渡していると、急に辺り一面が真っ白な空間に染まった。


 そこには、賑わっていた人々の姿はない。


「えっ!?」


 それと同時に、ガクンっとナナは身体から力や魔力が抜けていくのを感じた。


「……な、なにっ? これは、どういうこと?」


 ナナは立っていることすら困難になり、片膝をついた。


「力が、抜け……る、ま、魔法!?」


 ナナは飛んできた複数の光の玉を反応はするも、動くことができず咄嗟に両腕をクロスさせ防いだ。


 だが、魔力障壁がうまく発動しない、ナナは受けきれずその地を転がった。


「きゃぁぁっ!!」


 ――うぐっ痛い、この程度の魔法で、何でよ……


 複数の光魔法を、まともに受けたナナの両腕はあらぬ方へと曲がり、身体中火傷のような跡が残った。維持していた人化もすでに解けている。


「やりっー!! 俺のが命中したぜ」


 光の魔法を放ったらしい聖騎士たちがワラワラと聖域結界内に姿を現した。


「さすが、セイル様の聖域結界は一味違いますね。俺たちにも恩恵があります、力が溢れてきますよ」


「そうだな」


「おおっ!! あれが悪魔か、効いてる効いてる。情報通りだな、これで三体目か」


「チッ、何だよ、こいつ第10位じゃねぇか。雑魚だよ雑魚。外れだな」


「チッ、他の組は第8位の悪魔ニ体だと聞いたが俺たちは雑魚だぜ」


「おい、お前たち。第10位だろうが、何だろうが、悪魔に変わりないんだ、最後まで油断はするなと習わなかったのか?」


「はいはい。これだから真面目ちゃんは困る」


「くっ。貴様ら」


 それでも聖騎士たちはチャラチャラ、ダラダラ歩きながらも、確実にナナを囲んでいく。


「白銀の鎧……せ、聖騎士……じゃあ、これが、聖域結界……の力なの、うっうっ」


 ナナは聖騎士と聖域結界についての知識はあったが、それだけだった。

 見たことも聖域結界内の脅威に触れたことも無かったのだ。


 ――クロー様に念話を……えっ……な、なんで? ダメ、繋がらない、このままじゃ……この聖域結界を何とかしないと……


 ナナは聖騎士たちを警戒しつつも、知識にあった聖域結界の対処法を思い出す。


 1つ目は聖域結界を展開している者を始末する。

 2つ目に聖域結界を上回る魔力を放ち結界ごと吹き飛ばす。

 3つ目に自身に魔力を纏い結界を突き破って逃げる。


 思い出したナナは絶句する。


「……」


 ナナには誰が聖域結界を展開しているのか分からない。

 残りの魔力を全力で放ったところでこの結界を吹き飛ばす自信はない。


 消去法で、ナナのとれる選択肢は1つしかなかった。


 ――3つ目しかないじゃない。


 ナナは回復魔法を施しながら立ち上がったが、消費魔力は大きいのに、身体の回復は微々たるものだった。


 ――回復魔法の効果の効きも悪い、これが聖域結界なの……


 ナナは改めて聖域結界に恐怖した。


「うはぁ、何、この悪魔。超可愛いじゃん」


「ぷっ。おいおい見ろよ、あの悪魔、口の周りべったり何かつけてるぞ。マジかよ。可愛いじゃねぇか」


「くぅ〜可愛いな」


「お前らっ!! 助けるとか言うなよ。あれは悪魔だ。骨抜きにされても知らんぞ」


「はぁ、そうか、そうだよな。くぅ〜勿体ねぇ」


「下らん」


「もう、始末しちまおうぜ」


「悪魔など、邪悪な存在。こいつらがいるから混乱や、紛争が絶えない!! 皆が殺らぬなら俺が行く」


 我慢しきれなくなった一人の聖騎士が聖剣をナナに向け構えた。


 ――隙がない……これじゃ動けないよ。でも、でもこのままじゃ……魔力もどんどん抜けていくわ。


 魔力の抜ける感覚が早く、焦りを感じたナナは覚悟を決め、全魔力をその身に纏う。


 ――ここの結界から抜けさえすればクローさまが……


 ナナは思いっきり跳躍すると羽を広げた。


「きゃっ!!」


 全力で羽ばたこうとしたナナの背中に激痛が走り地面へと叩きつけられた。


「悪魔め。逃がすかよ!!」


 パーンッという空を切る音で、ナナの羽はキレイに切り落とされていた。


 更に体勢を崩し地に叩きつけられたナナは、せっかく、繋がりかけていた両腕の骨もおかしく曲がっていた。


 背中や腕、身体中の激痛に合わせ、力や魔力も抜けていく。


 ナナの意識は既に朦朧としていた。


 ――ぁぁ……クロー……の……プリン……もう一度……食べたかった……な……


「待て。その悪魔は殺すな。そいつは情報を引き出すために連れて帰るんだ」


 そこに一人の司祭の格好をした男が聖域結界内に姿を現した。


「「「セイル様!!」」」


「何故です。こんな第10位の悪魔など……情報なら第8位の方が……」


 今にもトドメを刺そうとしていた1人の聖騎士が司祭のその言葉に不満気な顔を向ける。


「私も今し方、ゲスガス支部から連絡を受けたまでだ、本部からの指示らしい、理由など知らん」


「何故だ……全ての悪魔など始末してしまえばいいものを……クソがぁぁ!!」


 その聖騎士は聖剣をしまうと、ナナの腹を思いっきり蹴りつけた。骨の砕ける音とナナの転げる音が結界内に響いた。


「ガハッ……ゴホゴホッ!」


 ――……ははっ、クローさまに…………配下らしいこと……何も……できなかった……な……


「ははは、いいねぇ、苦しいかぁ、ふははは、お前らは、死ねばいいんだ、ははは、死ねば、ふはっ! 死ね、死ね、死ねよっ!!」


 ――クロー……さ……ま……


 さらにその聖騎士はナナに追い打ちをかけ、執拗に蹴り続けた。

 ナナは痛みに耐えるために亀のように蹲っていたが、途中で意識を失ったのかピクリとも動かなくなった。


「おい、不味いだろ。あれ以上はあの悪魔死ぬぞ」


「おいおい、アイツ、キレやがった、また命令違反かよ」


「いいんじゃね。悪魔だし」


「いやダメだろ。命令だし」


「おい!! ガラルドやめるんだ」


 セイル様と呼ばれた司祭が何度となく言葉をかけるが、ガラルドは聞き入れなかった。


「ふははは、死ね!!」


 それどころか蹴りつける足に力を入れ激しさを増していく。

 憤怒の表情をしたガラルドは狂っているのか止まらない。


 セイル自身も今回の命令には少なからず含む所はある。だが、命令は命令だ。

 仕方ないな、と首を振るとガラルドに向け強力な眠り魔法をかけようと右手を構えて……


「ふはははっ!! 死ねっ! 死ねっ! 死ねよっ! 「ぅらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」……へぶしっ!!」

 

「「「「えっ!?」」」」


 やめた……狂ったように蹴りつづけるガラルドがその場所にいない、それどころかすごいスピードで回転し宙を舞っている。


「ガラルド!!」


「おいっ、こいつは俺の配下だ」


「あ、新手だ!! 新手の悪魔が……」


「どこから……ま、まさか……ありえん! 私の聖域結界を突き破ってくるなどありえん」


「続きは俺が引き受けてやるよ」


「「「「ヒィィィィィ……!!」」」」


 めずらしく怒りを露わにした悪魔姿のクローが聖域結界を突き破って乱入してきた。

 その声はどこまでも低く、地の底へと落とされるのではないかという恐怖を聖騎士たちに与えた。


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