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悪魔に転生してました。  作者: ぐっちょん
何となくハンター編~悪魔争乱序章~
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ブックマークありがとうございます。

うれしいです。



 王都に着いた。小国だと侮っていたが、なんのなんの相当大きい。

  目の前には立派な凱旋門みたいなものがあって、門番が6人も立っている。徒歩の列と馬車列に分かれているので、俺たちは馬車の列に並んだ。


 ――この列について行けばいいな。


  前の馬車は止まらず素通りしていくので、俺たちもそれに倣って素通りする。分からない時は前を真似ればいい。そう思っていたのだが……


「おい! そこの馬車、止まれっ!!」


 門番の二人がそう叫びながら、俺たちの前を遮った。


 ――んっ? どういうことだ。


「おいおい、急に前に出ると危ないだろ」


「幌馬車は中の荷を検めるのが決まりだ、馬車を脇に寄せろ」

 

 門番は抑揚のない声で応え手に持つ槍で馬車の停める場所を示した。

 確かに俺たちの前で素通りしていた馬車はどれも幌の無い荷馬車だった。

 隣のマリーも「そうしようよ」と俺の耳元で小く囁いた。

 

 ――ここは素直に従った方がいいな……


「分かった」


 幌馬車を脇に寄せると、別に控えていた門番の二人が中を検め始めた。


「お前たちはハンターか?」


「そうだ、何か問題でも?」


「いや、荷物に異常は見られない……」


 ――そりゃそうだろ。俺は念には念を入れた。ソファーでさえ一時的に収納したんだ。

 まあ、そのせいでナナは不貞腐れ、膝を抱えてこちらをずっと睨んでるんだよな……


「その子犬は飼っているのか? たまにハンターは猟犬を連れている者がいるが、お前たちもか?」


「……」


 警戒する素振りすらなく大人しくちょこんと座っている二匹の子狼を見た。

 不思議そうに首を傾げ俺の方を見ている。


 ――野生の狼がそれでいいのか? と思うが、そういえば、こいつら別に飼ってるわけじゃないんだよな、普通に居座っているから何の疑問も思わなかったわ。


  そんなことを考えていると俺の隣から声が聞こえた。


「そうだよ。チビスケちゃんにチビコロちゃんです」


 マリーが歩み寄り二匹を両手で抱き上げた。俺が勝手にそう、呼んでいたが、気付けば皆がそう呼ぶようになっていた。


 ちなみにラットとズックは、先に街の中に潜入し情報収集をしている……はずだ。


 別に俺が指示したわけではない。


 大きな街を見て使い魔スイッチの入ったラットが急に張り切ってそう言ってきたのだ。

 ズックは逆に、動くのを嫌がったがラットが強制的に連れていった。これでズックも痩せるだろう、ラット先輩は厳しいからな……


「そうか、ならちゃんと首輪をしろ。街に入り込んだ野犬と間違われて殺されても文句は言えんぞ。ほら」


 門番が二本の赤い紐をくれた。紛争中と聞いて警戒していたが、何かの間違いかと思えるほど良心的な門番である。


「すまない」


「はい分かりました。すぐに付けますので、少し待ってください」


 マリーが元気よくお礼を言って受け取ると、子狼達の首に巻き付けた。


「がぅぅ」

「がうぅ」


 なされるまま大人しくしていた子狼たちが苦しそうにしている。


「ま、マリー、それだと子狼たちが大変なことになるぞ……」


 そうなのだ、マリーは不器用なのだ。そして、何より本人にその自覚がないからタチが悪い。


「マリー、そんなにキツくしたらダメよ。ちょっと貸してごらん」


 エリザが慌てて真結びをしそうなマリーのその手を止めた。

 

「これは、こうするの……」


 マリーと代わったエリザが子狼たちに蝶結びをしてあげた。輪っかの部分を大きく、紐の長さを短剣で整え可愛く仕上げた。


 ――さすがエリザは器用だ。


「エリザすごい!! 可愛くなったよ。チビスケちゃん、チビコロちゃん良かったね」


 マリーはそう言いながら子狼たちの頭をよしよしと撫でている。

 子狼たちもきょとんとした顔でふさふさもふもふの尻尾を大きく振っているから大丈夫なんだろう。


「これは蝶結びなのよ。リボンを結ぶ時によく使っていた結び方なの、マリーにも後で教えてあげるね」


「ほんと!! ありがとう」


「いいわよ」


「よしっ!! お前たちはもう通っていいぞ」


 門番の合図で再び馬車に乗る。その後は、問題なくすんなりと街に入れた。


 だが、俺はこの街に入ってからすぐ、肌にピリピリとした違和感を覚えていた。


『クローさま……プリンでいい。プリンで許してあげる』


 まだ膝を抱いて座っていたナナからそんな念話が届いた。


『おまえな、そんなことでわざわざ念話してくるなよ。ソファーは後で元に戻してやるって言ってるだろ』


『いいじゃないの、それよりもクローさまは気づいてる?』


 急に機嫌が戻ったかのようにナナが愉快そうに念話を伝えてきた。


『何をだ?』


『ほら、このピリピリ肌を刺す嫌な感じ。これ、この街を支配する悪魔の支配圏に入ったってことなんだよ』


『ほう、この感覚がそうなのか。よく知っていたな?』


『えへへ。あたしはある事情で一度だけ他の悪魔の支配圏に入ったことがあるんだ。どう? 凄いでしょ。褒めていいよ』


 ――契約失敗だらけのナナがどうして他の悪魔(よそ)の支配圏に行くんだよ……


 とは言わない。聞いたら墓穴を掘りそうだ。


『はいはい。凄いよ、ナナは。

 しかし……なるほどねぇ、知識はあったが実際に支配圏に入ってみないと、何が何だか分からないものだな』


『あたし……あの時は肌を切り刻まれる感じがして、もっと大変だったんだよね……』


『そ、そんなこともあるのか? 大変だったな。まあ、何はともあれ面倒事になる前にこんな所はさっさと……』


  ぷにゅん


 急に俺の背中に柔らかいな感触を感じた。


 突然のことに俺の念話が詰まる。そしてすぐにフワッと甘い香りが鼻孔をくすぐるったかと思うとナナの顔がすぐ真横にあった。


「うおっ!? ナナ、ちゃんと後ろに座って……「クローさま……何か楽しそうな感じなんだよね。あたしちょっと見てくるね。ばいば〜い」


 俺の言葉をことごとく遮ったナナは楽しそうに柔らかなおっぱいの余韻だけを残して離れていった。


「ちょ、こらっ!! ナナ……勝手な行動をとるな!!」


 慌てて後ろを振り返るも、ナナの姿はすでにない。チビスケも居ない。


 ――あのやろぉ〜!


「あれクロー。ナナさんどこに行ったの? あれれ、チビスケもいなくなってる」


「ったく。あいつ面白いそうだからと、勝手にどっか行きやがったんだよ。ついでにチビスケも抱えて行ったんだろ……」


 ――まあ、だいたいの位置は互いに解るようにしてるんだし、大丈夫だよな?


 好奇心旺盛なナナは好き勝手な行動をとり、どこかに行ってしまった。


「まあいい、俺たちはハンターギルドに依頼達成の報告でも行こう。

 できればこの街はすぐに出発したい」


 妻たちが揃って「えっ!」と驚きの表情をみせた。非常に申し訳ない。


「そうなの? もっとゆっくりしたかったな」


 ――ここは支配圏内だ。いつ支配悪魔からちょっかいを出されるか分かったもんじゃない。

 俺たちは格下だ、力尽くで配下に置こうとする輩だっているだろう……

 いや、殺して感情値にしようと思うかもしれない、こういうことは一度巻き込まれるとズルズル深みに嵌るものだ……だからこそ、こんな所さっさと離れるべきなのだ。


「すまん。ここは面倒事の匂いがするんだ。だから早めに離れたい…….」


「クローがそう言うんだもの……何かあるのね……分かったわ」


 そういってくれたエリザは笑顔を浮かべてはいるが、無理をして浮かべているのが分かる。


 妻たちの肩を落とした姿を横目に、申し訳なさで一杯になるがこればかりは仕方ない。


 俺たちが平穏に過ごすためだ。


 日が高いうちはハッスルを許してくれない妻たち。

 だからこそ、俺は妻たちのおっぱいを眺める時間を大切にしたい。癒しにもならん悪魔の姿など見たくもない。


「すまん。女性専門店にはちゃんと寄るから……な」


「うん。分かった」


 この後、俺の行動は早かった。まずハンターギルドで報告を済ませ報酬の淑女服セット引換券を二枚受け取った。

 ベテラン職員に囲まれ他の塩漬け依頼を勧められるも、うまく誤魔化し逃げた。今はダメだ。

 依頼を受けるなら次の町がいい。


「ここがそうだな……」


 次に向かったのは女性専門店、目の前にその看板がある。


「この引換券で、どんな服と換えてくれるのかしら?」


「楽しみ〜」


 エリザとマリーが女性専門店に入っていく。これは妻たちだけだ、俺は馬車で待つことにする。チビコロもマリーが抱っこしていった。


 ――あれ? 獣は大丈夫なのか?


 分かっていたことだが、女性の買い物は長い。体感で二時間くらい経った頃だろうか、ラットとズックが先に帰ってきた。ラットの様子が変だ、少し慌てている気がする。


『主』


「おお、ラットにズック……どうした?」


『ナナ、危ない』


「ナナが? たぁ〜、そんな気がしたんだよ。って何故だ……ナナの気配がないぞ?」


『聖騎士、囲まれてる』


「くっ、そっちか……」


 ――聖域結界か。だから念話も……気配も……あ〜くそ〜。でも何故だ、第10位の悪気など、よほど近くにいるか、ナナ自身が悪気を放たないと分からないはずだが……


「すまんラット。場所は分かるか?」


 ラットはこくりと頷いた。


「ラットすまんが案内を……」


 そう言いかけたところで、店にいる妻たちのことを思い出した。ズックじゃまだ頼りない。


「いやダメだな。ズックだ。ズックはその場所分かるか?」


『ワカル』


 ズックはまだ、幼すぎて片言しか意思を伝えることができない。それでもラットの指導が良いのか、力強い返事がきた。


「では案内をズックに、ラットはエリザとマリーを頼む」


『主、分かった。任せる』


『ガンバル』


 ラットは賢い。すぐに状況を理解し俺の意思に応えてくれた。ズックも俺から初めて命令を受け気合い十分だ。大きく羽を広げ飛び上がった。


 ズックの周りには薄く光る幕が二重に張っている。隠蔽、隠密魔法を自身で展開しているのだろう。


 ――これもラットのお陰か。


 俺も同じように隠蔽、隠密魔法を展開しズックの後を追った。


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