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悪魔に転生してました。  作者: ぐっちょん
何となくハンター編~悪魔争乱序章~
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ブックマークありがとうございます。


ご感想ありがとうございます。



 ―小国、田舎村―



「昼だぁあ、飯だべさぁ~」


 大きな木の側にある小さな掘っ立て小屋みたいな家に一人の男が鍬を担いで帰宅した。

 この男、農業を営み生活している。今も近くの畑から昼食のために帰ってきたのだ。


 男は手慣れた様子で、昨日の残り物のスープに火を入れる。


 たくさんの小さな虫が飛んでいるが気にした様子はない。


「よっと……」


 この男、ハゲ散らかした頭を装備して50代に見えるが、実は30代前半の精力バリバリ細身の男である。


 髭は濃く雑に剃った跡が青髭になり、剃り残しも目立つ。

 貫頭衣1枚を紐で縛っているだけのその姿は、所々に黄ばみが目立ち、更に酷い臭いを放っている。

 貫頭衣1枚、女性が着ていればまた少しは違ったかも知れないが、誰得な姿だ。


「んあ〜、そろそろだべな~」


 男は昨日の黄ばんだ残り飯を木のお椀によそうと、温めた豆の入った薄いスープをその上から注いだ。


「っととと……んぁ、あつっ! ……ちぃっと溢したか…………んん? まあいいべ……」


 最後に木のスプーンでグリグリとかき混ぜながら歩み、汚れた床の上にある年季の入ったちゃぶ台の上に置く――


「よいしょっと、っくら~」


 自然と口から漏れる掛け声とともにゆっくり腰をおろすとその床に胡座をかいた。


「さぁて食べるべ……」


 男は勢いよく混ぜご飯を食べ始め、口一杯に頬張った。


「もしゃ、もしゃ、ひかひぃ(しかし)……」


 男はご飯粒を飛ばしながら最近の不満を口にする。


ひひいらへぇははぁ~(気に入らねぇだなぁ~)……もぐもぐ、もぐもぐ、うぐうぐ、ごくん」


 隣には18歳になる青年が住んでいる。

この好青年の男はつい先日、町から若くて可愛らしい嫁さんを貰ってきた。


 非常に羨ましい環境にあるのだ。


 それだけじゃない、この村は今、結婚ラッシュで、次々に若くて可愛い嫁さんが嫁いできていたのだ。田舎村なのに……


 それを、この男は不満に感じていた。


「気に入らねぇだぁ~!! ないすなオラを差し置いて、なして隣の鼻垂れ小僧さに……若造どもばかりに嫁さ来るだべや~! バンッ!!」


 ブッ!!


 男は不満を口にした気持ちの高ぶりから、ちゃぶ台を激しく叩くが、絞まり悪い男は同時に放屁した。


 この男の下品さはこの村でも抜きん出ており、なるべくしてなっているのだが、そのことに気づきもしていなかった。


 と、いうのも、半年ほど前に突然現れた女ハンターに嫁になると言い寄られ「いい男がケチケチしたら台無しよ」と良いように持ち上げられ貢ぎに貢いだのだ。


 その品の中には、あの女性専門店の良質な服も含まれていた。


 そして、その女ハンターは引退最後に迷宮に行ってくると言い残し、帰ってこなかった。


 来たのは手紙が1通のみ――


 その女ハンターが亡くなったという知らせの手紙だった。

 手紙の読めない男は村長に頼み読んでもらったが、村長が涙ながらに元気を出せと慰めようとしてくれていたのは記憶に新しい。


「アルマ~……キレイでいい女だったべさなぁ~。死ぬんならオラが早く女にしてやればよかっただが~」


 男は、しばらく無言で混ぜご飯を口にする。


「……結婚するまでは純潔を守るのが我が家の掟なのよ、と言うから……惜しいことしただがぁ~」


 勿論その女ハンターは死んでなどいないのだが、この男は知らない。騙されていたことさえも――


「まあ、オラはいい男だべからなぁ~。もっともっと乳がでかい女を貰うだよ~」


 だが、いい男だと嘘を吹き込まれ続けたこの男は本当に自分はいい男だと信じている。

 村のみんなから見られる奇異の目は、自分への憧れなのだろうとさえ都合よく捉えて、疑わない。


「まあ、隣の嫁さ、乳さ小せぇからな、オラの好みじゃないべ~。ふんつ!」


 男は誰もいない空間に向かって虚勢を張り、残りの混ぜご飯を一気に頬張った。


「もしゃ、もしゃもぐもぐ……もしゃもしゃ、うぐうぐ……ごくん」


 男は空になったお椀をちゃぶ台に置くと膨れたお腹をさすった。


「ぷはぁぁ! 食った。食った。ゲップッ」


 食べ終わると男は大の字に手を広げ床にゴロンと仰向けになった。


「オラはいい男だぁ。そのうち、乳さでかくてもっともっといい女が……ん? 何だべ……」


 何度も言うが、この村は今や新婚だらけ、娯楽の少ない田舎村、やることなど決まっている。


 男が音を殺して耳を澄ませば……


「……」


 聞こえる、聞こえる……聞きたくなくても、聞こえてくるのだ。

 近隣からの激しくハッスルするその声が……


「ムキィ~!! なんだべさ、なんだべさ~。ないすなオラを差し置いて~!!!」


 完全な八つ当たりであるが、昼間からする方もする方である。


「ないすなオラを差し置いて……ないすなオラを知らないから、ちんけな若造に……腰を振るんだべ……」

「ないすなオラを……」

「そうだべ。ないすなオラを、知らないことの方が不幸だべさ……」

「ないすなオラ……が…………オラを教えて……」

「そうだべ、ないすなオラがヤってやれば……オラを知ることが……」

「ヤってやれば……嬉しいべ」

「ヤってやれば……うへ、うへへ」


 男の思考は段々と新婚の若者への恨み、妬みから、新婚嫁に対する欲情へと変わり、それ一色に染まっていく。


「ぐへへ、ぐへへ。ヤってやればいいんだべ」


「うへへへ」


 そして、この村の若者たちにとって幸いだったのは、この男の思い込みが異常に激しかったことだ。


 その異常さは一瞬にして悪曇を呼び寄せるほどで、男の頭の上に現れた濃いピンク雲はみるみる急成長すると――


「ぐへへ。そうだべ、そうだべ、みんな、オラにヤられて嬉しいだべ~。ぐへへ」


 うねうねしながらすぐに具現化された。


「ぐへへ、みんながオラを待ってるべぇぇ!!」


 男の卑猥な妄想は更に進み、居ても立っても居られなくなった男は行動に移そうと勢いよく立ち上がった。


「オラを教えるべ!! 行くだべさぁ!!」


 その時――


 バサリっと一冊の赤黒い本が、男のハゲ散らかした頭上に落ちてきた。


「いでぇぁ!? ……なんだべ? ぅぇ?」


 本のぶつかった痛さに一時的に正気に戻った男だったが、またすぐに、落ちてきた一冊の本に誘われるように目を向ける。


(悪魔大事典………………版……)


「悪魔大事典……男性限定版特別号……」


 男は字など読めない。頭に響いてきた言葉を無意識に口にしただけだった。


 そして、いつの間にか男の手にはその大事典があった。


「ふえっ!! こ、これは!? 貴族様が……読まれるとウワサのエロ本ってやつだべか?」


 その大事典の表紙には男の欲望に染まり露出の多い魅力的な女悪魔たちが浮かび上がっていた。


「むふふ」


 男は疑うことなくその大事典を開いた。


「うほぉぉ!! 色っぺぇ~」


 そして、男は大事典に夢中になった。ペラペラと夢中で捲っていく。頭にあった新婚嫁のことなどすっかり忘れてしまっている。


「うほほっ……ぐふふ……」


「ふおぉぉぉ!!!!」


 男はすぐにお気に入りを見つけた。


 大事典の中でもおっぱいが一番大きな悪魔だ。


 男はそのページを開くと、そして何を勘違いしたのか、貫頭衣をガバッと脱ぎ捨てた。


 ナニかをする気である。


「うほぉぉ!! むふふ、この娘がいいだぁ……この乳がいいだぁぁぁ」


 男がそう口にした途端、ボフッとピンク色の煙が、悪魔大事典から立ち昇り――


「あへ? な、なんだべ……ぬああ!! 消えた! 消えて真っ白になってるべぇあ~!!」


 男の開いていた一面は真っ白になっていたが、その代わりに――


「ふははは、あたしは悪魔大事典第1号ナンバー7、悪魔のナナよっ……きゃぁぁぁ!! 汚いっ!! ……あなた、な、何で裸なのよ!!」


 目の前にピンクの髪をポニーテールにした可愛らしい女がいたのだ。その女はあたふたしながら、男から距離を置こうと後退りしている。


「ほへぇ!? え、絵が、もしかして……お、オラに逢いに来てくれただか?」


 男は目の前の女が悪魔だとは微塵にも思っていなかった。何故なら男の視線は目の前のおっぱいに釘付け。


 この女悪魔のおっぱいは男のどストライクだったのだ。スイカ以上に大きなおっぱいが目の前でゆらゆらと揺れているのだ。

 

 自然と男の欲望は、目の前の女のおっぱいへと向けられていく。


「嫁だ、オラの嫁だぁ……」


「やだっ、ちょっとおっもい……いぃ!? な、何このおっぱい………信じられない! 大き過ぎよ!!」



 悪魔女妖艶族《デビルリーリス族》は可愛らしい角、羽、尻尾があり庇護欲を唆るが、デビルサーキュバス族の上位に位置する悪魔で強大な力を保持している。


 莫大な魔力をその身に宿し、相手を翻弄する魔法を得意とする。また、その妖艶な姿からも瞬時に男を魅了し下僕化する。


 身体能力においては悪魔族の中でも上の下。だが直接自身が力を振るうよりも、指揮指導や後方支援を好む。


「ぐへへ。オラの、オラの……嫁……」


 このナナにおいては保持するスキルのせいで勝手に相手の望む理想の体型を形どってしまう。


 つまり、今のナナの姿は、この男が望んだ姿。自身が重いと感じるほどの超超爆乳のおっぱいを所持していた。

 水着のような露出の多い服を身に付けているが、今にもはち切れそうである。


 そんな理想の姿を目の前にすれば、当然、裸の男は興奮し、股間を膨らませる。

 そして、一歩、一歩と鼻息荒くナナへと迫る。


「はぁ、はぁ、嫁、はあ、はあ、オラの嫁……ぐへへ」


「ちょっ、ちょっと……こ、こっち来ないで……来ないで!! は、話を聞きなさい」


「ふへへ」


 ナナの可愛らしい声に裸の男は更に興奮し、ナナへと迫る。


「おっぱい……ぐへ、ぐへへ」


「な、何なのよ。あたしは悪魔で願いを叶え……」


 男の目は相変わらず、おっぱいに釘付けである、自身の理想とするおっぱい。それが目の前にあるのだ。

 もうやることは1つである。男はおっぱいを揺らし逃げまわるナナに飛びかかった。


「おっぱぁぁぁぃ!!」


「きゃぁぁ!!!!」


 ナナは咄嗟に右手を男に向け幻術魔法を全力で使った。魔力のほぼ全てを練り込ませた全力の幻術魔法。

 ピンクの靄が素早く男を包み、その靄は男の鼻や口、全ての穴という穴へ入り込んでいった。


「ははは、はえ、はえ~」


 男はにやりと気持ち悪く笑みを浮かべるとバタンッとその床に倒れた。


 そして何もない空間めがけて腰を振り始めた。陸に上がった魚みたいであるが、その顔は幸せそうである。


「ああぁぁ! やっちゃった。やっちゃったよ。ちょっとあんた、起きなさい」


 ナナは慌てて男にかけ寄り起こそうとしたが、ほぼ魔力切れのナナには手の施しようがなかった。

 ただ、腰を振る男を呆然と眺めることしか……


「うっ、うう……これが最後の……だったのに……」


 ナナは為す術もなく60分が経過した。


 【契約に失敗しました】


 ナナの頭の中に聞こえてくるのは、失敗を告げる無機質な声だ。


 分かっていたが、何度も聞くその声にナナは肩を落とした。


 そして、待っていたかのようにナナの目の前に黒い渦が現れた。


「ぁっ!」


 その渦からは一人の執事服を身にまとった悪魔が現れた。


「契約は失敗しました。約束通りお迎えに参りましたよ」


「セバス……ちょっとまって……」


 セバスと呼ばれた悪魔はふっと鼻で笑うと首を左右に振った。

 セバスは長身痩躯で長い黒髪を後ろへと流している色気のあるイケメン。翼や尻尾は見せていない。このセバス、シツジャッジ族である。



 悪魔執事族(シツジャッジ族)

 最高位の悪魔一族。全てにおいて最高位の能力を保持していると言われている。

 悪魔大事典を管理しているのもこの一族であり、全てが謎に包まれているが、絶対に敵に回してはいけない一族だと知られている



「しかし……お嬢様……酷い姿です」


「うっ……そんなの……自分がよく分かってるわよ。この男が……この男が」


 ナナは重いおっぱいを両手で支え、顔だけを男に向けた。

 男はえへら、えへらと不気味な声を発しながらも幸せそうな顔で腰を振っている。


「それは関係ありませんよ。お嬢様が最後だと言われたので(わたくし)が特別に号外を発行したのですよ。約束しましたよね?」


 そうなのだ、今回の悪魔大事典は男性限定版の特別号。悪魔大事典男性限定版の1号から10号までの残り組をまとめた特別な物だった。


 目的はナナとの約束のためであるが、公平を期して10号までの女悪魔をまとめた物だった。


 更に、11から20号、21から25号、26から30号までの特別号外も発行している。

 

 このことを言われるとナナは何も言えない。


 まあ、これは悪魔大事典の中の悪魔たちは知らぬことなのだが、大事典を管理している悪魔族の立場からしても、そう簡単にできることではなかった。


 これを行えたセバスという悪魔は相当の権力や力を有していることになる。


「うっ……分かってるわ……でも……でも」


 ナナは自身のもつ理想スキルのせいで、召喚者との会話が成立しないまま、いつも襲われそうになっていた。自身が変に召喚者の欲望を掻き立ててしまい、その欲望を自身に向けられてしまうのだ。


 そのせいで一度目の契約が履行できずにいたのだ。

 種族からしたら人族を下僕化しやすく非常に有利なスキルなのだが、己の肩書きのせいで、そのスキルが足枷となっていた。


「さあ……お嬢様」


「いやよ。お願いセバス。もう一度だけチャンスを頂戴」


「ダメです」


「あたしは、人族の世界で力を示さないと……」


「お嬢様、諦めて下さい。さあ。戻りますよ」


 セバスは埒があかないと判断し強引に連れ帰ることにした。セバスの手がナナの手を強引に掴む。


「いや! やめて。離しなさい」


「ダメです」


 セバスは何やらぶつぶつと魔法を使い始めた。ただ、ナナが暴れるため、セバスの握る手に力が少し入った。


「痛い、痛いわ……」


 ナナの瞳には手の痛さと、何もできない自分の不甲斐なさに涙が浮かび上がっていた。


「あっ、くっ! すぐに済みますから、もうしばらく辛抱ください」


「いや、なのよ……うっ、ううっ……」


「お嬢様は素直に……様の申し出を……ぐっ!?」


「やめろ! 泣いているだろがっ!!」


 セバスは気づかぬうちに、一人の悪魔によってその手を捻り上げられていた。


「なっ!?」


 セバスは驚愕した。


「ぐうっ! お、お前は誰だ!!」


 セバスは今までに手を捻り上げられる経験などなかったからだ。

 そして、その手は今も捻り上げられ全く動けないのだ。


「俺はクローだ」


 

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