24
ブックマークありがとうございます。
嬉しいです。
更新遅くなりました。
すみませんm(__)m
静かな倉庫には、セリスが歩を進めるブーツのカン高い音だけが響いていた。
「むっ!!」
セリスは何かに気づくと急に俺たちに向かって駆け出した。
――気付かれた、か……
俺は二人を両脇に抱えいつでも後ろへ跳躍できる構えをとったのだが――
……どうやら杞憂のようだ。セリスからは殺気を感じない。
「クロー。その二人を動かすな。悪気に当てられているっ!!」
「悪気……」
分かっていることなのだが、ここは不信感を持たれないように振る舞うことにした。
「ああ、そうだ」
真剣な表情のセリスは顔立ちが整ってるせいか、どこか冷たさを感じるが妻たちを心配して駆け寄ってくれたようだ。
どこかエリザに近いモノがあるような感じもする……
――だが信用するな……俺は悪魔だ……
睡眠学習のせいで抗う力が有る者、全てを信用することはない。
「ふむ、当てられた悪気も、それほどの量ではなさそうだな……」
セリスが俺たちの前まで来ると二人の顔を覗き込み確認する。
「悪気は質が悪くてな……こうやって聖属性の魔力を送り込んで無理やり追い出してやらんと治らんのだ」
そう言ったセリスの両手は蒼白い光に包み込まれていた。
――まあ、信頼は……時と場合によっては……っ!? バカか俺はっ! 聖騎士相手に何を考えている……
その手をエリザとマリーの身体に添えると、蒼白い光がスーっと溶けるように吸い込まれていく。
そして、直ぐにエリザとマリーの身体に反応があった。
エリザとマリーの身体全体はキラキラと輝き、黄色い悪気が煙の様になって身体から抜けていった。
――聖属性の魔力か……
「むっ! これは……黄色い……第8位……悪魔……だな……」
セリスはその黄色い悪気を見てから顎に手を当て、ぶつぶつ何やら呟いている。時折、呟いた言葉が少しだけ漏れて聞こえる。
――なるほど。悪気を残すと良いことないな。聖騎士たちに自分の情報を与えるようなもの、か。
脅しに使えると思っていたが……どうやら止めた方がよさそうだな。
しかし、聖騎士は油断できないな……注意せねば……
だがまあ、今は……
「すまん、助かった……」
感謝の言葉だけでも伝えるべきだと思いお礼を伝えた。
悪気状態から抜けた妻たちも俺に続いて感謝の言葉を伝えた。
「「ありがとうございます」」
「ん? ああ……なあに、聖騎士として当然のことをしたまでだ……しかし……」
改めてセリスが俺に向き直った。
「クローまた会えたな、と言いたいところだが、クローたちはここで何をしてたんだ?」
ーーはぁ、このままさよならは……無理そうだな。
「ああ、俺たちはあれから依頼を受けてこの町に来た。
ポーションをきのうの町から、この町の薬師ギルドに届けたんだよ。
ほら、これがその依頼書だ……」
俺はサインを貰った依頼書をセリスに見せた。
「ふむ……なるほどな。確かに」
「……そこで、ギルド職員に因縁をつけられたんだが、何とかサインを貰ってギルドを出たところで奴らに絡まれたんだよ」
俺は倒れて気絶している、男たちに向け顎をしゃくった。
セリスも倒れている男たちのことは気付いていたみたいで、視線を少し向けただけだった。
「ふむ、そういうことか……私はたまたま寄ったこの町で、悪魔の放つ悪気を感じとったから、この倉庫に来たのだが……」
――たまたまね……さて、ここが問題だ。なんて答える。俺一人なら逃げてたんだがな……ふむ、嘘は不味そうなんだよな……あの眼……気になる。
セリスの眼は右が濃青、左が黒のオッドアイだった。
妻達を治療してる時に顔が近くにあったので、たまたま分かった。
近くじゃないと本当に分からないレベルだ。
意識すればするほど、あの眼には違和感がある。
――情報が欲しい……デビルスキャンしたいところだが無理そうだ。
「……ああ、確かに悪魔はいた。その男たちのボスがそうだった」
――悪魔は二人居たが、ややこしくなるから言わない。
多分キザ悪魔の存在しか分かってないはずだ。
「ほう……詳しく教えてくれないか?」
セリスの気質が少し変わった。この倉庫に来てから隙は無かったが、更にこちらに向け何かを見極めようとしている感じだ。
「……必要なことなんだろうが……他言無用で頼みたい」
「内容にもよるな」
「……チッ。俺は以前ある方に仕えていたと言ったな……」
「ああ。そう聞いた。それがこれと何か関係が?」
「……俺は魔力がある、こうやって……」
俺は薄く魔力を拳に纏って見せ軽くパンチをしてみせる。
悪魔には普通の武器ではダメージが入らない。ダメージが入るのは魔法か魔法剣、聖剣などだ。ここで魔力があることを伝えないと矛盾してしまう。
「俺は……悪魔を倒すことができるんだよ。それで今回はたまたま俺が倒せた。ダメなら逃げてる」
この世界では、魔力があるものは国や領主、教団に所属することになる。
もちろん、魔力を隠して生活している人族もいるだろうがごく一部だろう。
魔力があるだけでエリートだ。給料もいいらしいし……一般人にモテるらしい。
だからこそ、それに仕えてないとなるとそれなりの事由が必要になる。
国が滅んだ、領主が没落した、何らかの罪を犯した等々。
――まあ、その事由についてはボロが出そうだからな、あの眼の正体が分からない以上、あえて言うべきじゃないな。
「クロー、倒せたって……第8位の悪魔は……聖騎士でもCランククラスでないと相手できないんだぞ。それをたった一人で……なら尚更だ」
「まあ、そこは……ほら、悪魔が俺を、格下だと舐めていたからな……気合いと根性で……」
「………」
――む、聖騎士のジト目。これは信用されてない。むむ、これはいかん。
「それにな、あいつ俺のエリザとマリーを狙ってきたから、俺も必死になってだな……ほら、あれだ、あれは愛の力? おっ、そう愛の力だ」
「な……ふざ……」
セリスが俺の言葉を何やら遮ろうとしてくるが、ここは勢いで押し切るべきだ。
「エリザとマリーは俺の可愛い妻なんだよ。夫婦仲も良好なんだ。昨日もだな……」「なっ!! ああっ!! ま、まてまて待てっ!!」
セリスは何故か顔を真っ赤にしてあたふたし出した。
「分かった、もう分かったから。まあ、その気合いと根性ナンタラは嘘みたいだが……ふ、夫婦仲と……悪魔を倒したと言うことは本当みたいだからな。し、信じようではないか」
「……」
――ほう。やはり……
俺がジーッとセリスを睨みつけると、セリスは俺から目を逸らしばつが悪そうに頭を掻いた。
「……あ~、その悪かった。……私にはあるスキルがあってだな、その能力の1つに、虚偽の言葉か真実の言葉かを見極める力があるのだ」
――そんなところだろうと思った……あの眼……なら、虚実眼あたりか……
しかし助かった。相手を鑑定できる神眼だったら一発でアウトだったわ……
「クロー、騙したみたいですまない。だからそんな目で睨まないでくれ」
――んっ? ちょっと睨んだ程度なんだが……セリスには何か後ろめたさとか、罪悪感でもあるのか? いや本当に俺の目付きが悪いのか?
「これは……良いことばかりでなくてだな、私はこの能力のせいで単独行動が多いのだよ……」
セリスはどこか遠くを眺めている。
――ふむ。セリスはボッチらしい。
暫くその様子を眺めていると、その目が死んだように色褪せていく……
――ぬお!?
「……ハハハハ」
乾いた笑みまで浮かべ始めたので慌ててセリスに声を掛けた。
「そ、それで……この後どうする気だ」
「ハハハ……あっ!? ……あ、ああ、すまない。ちょっと遠くに行っていたようだ」
「いや、いいんだ……それで」
「コイツらか? コイツらは衛兵に任せる。私は悪気を追ってここに来ただけだ……その原因を倒せたのならそれでいい。私にはこの国でやることがあるしな」
「そうか、気を付けてな。じゃあ俺たちはもう行っていいか?」
「ああ、と言いたいところだが衛兵に声を掛けてくるから、もう暫くここで見張っててくれるか?
事実確認してからにはなるが、こんなガラの悪い輩はこの町にとって害にしかならんからな」
「分かった」
その後、衛兵を待つ時間を利用して軽く食事を摂った。
こんな時にどうかとも思うがお腹が空いていたので仕方ない。主にマリーが……
お腹を鳴らして顔を真っ赤に恥ずかしそうしていたのだ、昼食がかなり遅れていたのもあるが、ずっと真っ赤な顔で気にしている姿を見ると少し可哀想だ。
ということで、俺は手っ取り早くサンドウィッチを出した。美味しいし、お腹も膨れる。軽く食べるにはちょうどいい。
サンドイッチを美味しそうに頬張る妻たちからは、笑みが溢れていた。
――ふむ。
そんな妻たちの姿を眺めていると、衛兵を連れてセリスが戻ってきた。
「待たせてすまんな」
「そんなことはない」
セリスは手慣れた様子で衛兵に指示を出すと、早々と男たちを連行していった。と言うか、まだ、気絶していたので、荷馬車に積んでいった。
――あの男たち、意識が戻って牢屋の中ってびっくりだろうな。
それにあの薬師ギルドのおっさんも、いつまで待っても送り出した男たちは帰ってこない……ふはは、これから毎日ビクビクして過ごすことだろうよ。
もちろん、セリスもその衛兵についていったのだが去り際に「また会えそうだ」とそう嫌な事を言い残していった。しかもガッチリ握手付きだ。
――俺はもう、会いたくない。
俺たちも薬師ギルドで幌馬車を回収して、宿を探さねば。けっこう時間が取られた。
「でもクローが無事で良かったわ」
エリザが安堵の表情を浮かべそう口を開いた。
「うん。悪魔が来て、聖騎士のセリスさんが来てどうなるかと思っちゃったよ」
「ああ、俺もさすがに少し迷った。聖騎士に手を出すと後が厄介だからな。教団と関わると面倒なだけだ、俺はエリザとマリーと楽しく過ごしたいだけなのにな」
「まあ、クローったら。ふふ」
「えへへわたしもだよ。そういえばクローは愛の力とか言ってたもんね、あはは」
マリーがおかしそうに口を押さえ笑いをこらえている。
「そうね言ってたわね、ふふっ」
エリザも同じように口を押さえ笑いをこらえた。
「い、いいだろ」
――あの時は聖騎士からの追及をいかに回避するか必死だったんだよ。
「でも、嬉しかったんだよ」
――え?
「ええ」
妻たちが嬉しそうに抱きついてきた。
――ぬお! まさか抱きついてくるとは思わなかったが、これはこれで……
むにゅん
ふにゅん
おっぱいが当たって気持ちいい。
「やっぱりエリザとマリーは俺の力の源だ。癒しにもなって力にもなる。ふはは、俺はこれがあれば何でもできる」
「ぷっ、おっぱいもでしょ?」
「もちろん」
「うふふ、クローらしくて良いわね」
――ふむ、俺の妻たちは寛大である。可愛い。だからこそ……
「悪気のことはすまなかった。あのキザ悪魔があそこまでバカだとは思わなかった。普通の悪魔は悪気をやたら多く撒き散らすような行為はしないんだ」
「別にわたしたち、何とも……それにほら、クローが何とかしてくれるって信じてたもん、ねエリザ?」
「ええ、そうね」
妻たちは俺を信じて疑っていなかったようだ。
「それはもちろんだ。今度からはそうなる前に殺る」
「じゃあ安心だね」
――ふむ、しかし困った。あれは魔力があれば跳ね返せるが、魔力を纏わせる? ……いや……国と教会に見つかったら面倒だ。ふむむ。
「ねぇ。クローはどうしてるの? クローにも悪気があるんでしょう?」
「ああ、俺は抑えてる。人族の姿のときは完全に抑えてる。悪魔の姿ではさすがに少し洩れてしまうけどな」
「じゃあ、クローはいつも抑えてキツいんじゃないの?」
「いや、そうでもないぞ。俺の場合は元人間だったからな全然苦じゃない」
「そう……なの? でも私たちも頑張るわ。少しずつ耐性をつけるの」
「うん、身体が強ばって全然動けなくなったもん。クローに迷惑かけたくない」
「あれ? 俺、何か耐性のこと話したか?」
「ううん、セリスさんに聞いたの。聖騎士団の人はどうしてるのかって聞いたら教えてくれて。通常は魔力を纏うみたいだけど、魔力切れも考慮して少しずつ悪気を受けて身体を慣らすっていっていたの。そうすると耐性ができるんだって。だからわたしたちもそうしたいなあ……と、ダメ?」
――確かに、今回のキザ悪魔は大したことなかったから良かったが、下手するとショックで気絶する危険もあるしな、うん。
「分かった。でも無理する必要はない。少しずつでいいんだからな」
「うん」「ええ」
「よし、それじゃ後は……」
「そうだわ、クロー。悪魔を倒してからもう一人、契約者でもできたの?
なんだが、ぬめっとした何だが凄く気持ち悪い……嫌な存在を感じるのよ」
エリザが感覚を確認しながら、どこか困ったように眉を下げた。
「エリザもなんだ。わたしも。凄く嫌だよねこれ。黒くて気持ち悪いしクローどうしてか分かる?」
マリーも眉を下げながら俺を見上げると小首を傾げた。
「んあ!? そう言えばキザ悪魔を倒した時に契約者を得たって……」
――ってこの契約者チョビンって誰だよ。むん!!
契約の絆というか何と言うか伝わる感じからして……これは男だ、柔らかさがない……感覚を辿り人物を覗き込むと……
――うげっ!? これから面白くなるだろうと思っていたあの薬師ギルドのおっさんじゃないか!?
気持ち悪い。まさか、こんな奴と俺が契約するだと……これはダメだ。いらん。
同じ契約者の妻たちまでも穢れそうだ。これは許せん。
――よし、破棄だ。破棄。さよならだ。
【契約者チョビンとの契約は強制破棄されました】
【チョビンは強制破棄のため、脳に軽い障害が残りました】
――あら!?
予想外の結果を招いてしまったが……
――悪因じゃないだけましだろ?
「どうだ?」
「え、もう? あら、本当だわ、気持ち悪いのが無くなったわ」
「わぁ、ほんとうだぁ。良かった」
「しかし、男との契約は考えモノだな……」
――契約者は女に限るな……というか……そもそも俺って男と契約できたのか? 今回は強制的だったからか? できる気配が全くないんだが……
「クロー。私たちはずっと傍にいていいのよね?」
「当たり前だ、エリザとマリーは俺の妻だからな、居てもらわないと俺が困る」
「良かったわ。私クローが大好きだから」
「うん。わたしもクローが大好きなんだよ」
そう言ってにこにこ微笑む妻たちがあまりにも可愛くて胸の奥から何やら込み上がってくる。
おっぱいもずっと当たっている。
――ふおっ!!
俺はその謎の欲求を妻たちの頭を撫でることでぐっと我慢してなんとか思いとどまった。
時間感覚はまだ午後2時くらいだ。
――早すぎる?
妻たちのサラッした髪の質感に、甘い髪の香りが俺の鼻を掠めた。おっぱいはまだ当たってる。
ーーふぅぅぅ、ふぅぅぅ。
妻たちは目を細め嬉しそうに笑ってくれた、エリザとマリーには笑顔がよく似合う。可愛い。しかし、おっぱいはまだ当たってる。可愛い。おっぱいが当たっている。可愛い。おっぱい。可愛い。おっぱい。
ーーふおおぉぉぉっ!!
「よしっ!! エリザ、マリー。夫婦の営みの時間だ」
「「えっ」」
「愛だ。愛を築くのだ」
「「ええっ!!」」
俺はエリザとマリーを両脇に抱え宿へと爆走した。そのまま暴走モードに入ったのは言うまでもない。




