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悪魔に転生してました。  作者: ぐっちょん
追放されてるっぽい少女編
18/114

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本日2話目ですが、カイルのその後の話です。


読まなくても何ら問題ありません。


クロー達の次話を期待した方、すみません。

 ~Aランクハンター、カイル一行のその後~


「おいおい! お前たち、ちゃんと洗ったのか? もの凄く臭いぞ」


「カイルこそ臭いわよ。スラムの娘より臭いわよ。ニナも、サラもよ」


「アルマこそ、クセーぞ。スラムの臭い、いやスラムの娘より酷い」


 カイルたちは何の因果か、クローたちが泊まった風呂付きの宿部屋を借りていた。

 風呂付きの宿など他に無かったからだ。


「みんな臭い。カイルも」


「そんなことねぇだろ、しっかり洗ったんだ!」


 カイルは身体を捻り手や腕、肩など自身の匂いを嗅いでみる。


「ニナ嘘つくなよ、ドロドロが流れて何も臭わないじゃないか?」


「いや、カイル臭いぞ。凄くクセー」


「臭うわね」


 そう、この4人一緒にお風呂に入っていたのだ。


 いつもだったら、このままハッスルしたのだろうが、今日は違う。お互いが臭すぎて盛り上がることができずにいた。やる気スイッチもOFFのままだった。


 そう、このカイルたちの身に、今起こっている現象こそがネズミ悪魔が最期に放った悪因:悪臭だ。


 これがまた自分自身の異臭に全く気づくことも、感じることもできないからたちが悪い。

 このことをキッカケに今まで築き上げた4人の仲に亀裂が入る。


「はあ、お前たち……さては、俺が聖騎士を惚れさせようとしたからヤキモチを妬いているのか?」


「違う、本当に臭い、酷く臭う」


「バカじゃねぇの、お前たちが臭いと何故理解できん! 汚水の臭いよりもっと酷い。とっとと洗い流せ!!」


 カイルたちの不毛な争いが続いてると、何度もドアを激しくノックする音が聴こえた。

 それは、お風呂場にいる4人が聞こえるほど激しいものだった。


「誰だ!! ドアが壊れるだろ! もし壊れても俺たちの責任じゃないからな!」


 カイルは布切れを腰に巻くと、仕方なくドアを開けた。


「うぐっ、Aランクハンターのカイルパーティーで間違いないか?」


 そこには顰めっ面の中年のギルド職員がいた。女性の顔しか見ないカイルは当然見たことない。


「ああ、そうだ。俺がAランクハンターのカイルだ」


 ハンターカードを提示させ、本人だと確認したギルド職員が用件を伝えた。


「ギルド長がお呼びだ。至急出頭するようにとな」


 そう言と、ギルド職員は鼻を摘まみながら、そそくさと部屋を出ていった。


「「「誰?」」」


 後方から聞こえる声に振り返れば、服を着込んだ3人がそれぞれ一定の距離を空けてカイルに視線を向けていた。


 近寄ってはこない。


 女たちのその態度にカチンと頭にきたカイルだが“こんな臭い女たちは、もう用済みだな”と思い意識を切り替えた。


 今はそれ以上にギルド長からの呼び出しの方が気になったのだ。

 

「ギルド長からの呼び出しだ」


「「「ええっ!!」」それって……」


「ああ、間違いなく、悪魔討伐の件だろう」


 カイルは口角を上げ気持ちの悪い笑みを浮かべた。


「いよいよ、私たちもSランクね?」


「それに、報酬! 報酬があるかも」


「やったぜ。早く行こうぜカイル!」


「ああ、ちょっと待て直ぐに着替える」


 カイルたちは直ぐにギルドに向かった。ギルド内は何事も無かったように再開されていた。


 心の中では“俺のお陰だ、感謝しろよ……”と思いつつも、カイルはいつものように爽やかな笑顔で受付嬢に声をかけた。


「やあ! 君は今日も可愛いね! ところでギルド長はいるかい?」


「うっ……カイル様ですね。お待ちしておりました、こちらへどうぞ」


 向き合った受付嬢の顔は顰めっ面だった。

 受付嬢はすっくと立ち上がると、カイルから早々に距離を取り逃げるようにギルド長室へと案内を始めた。


「俺の笑顔を……なんて非常識な受付嬢だ」


「また……ほら、カイル行くわよ!」


 呆れ気味にアルマがそう呼びかけるもカイルにその声が届いている様子はみられない。


「ふん、そのうち貢がせてやる」


 プライドを傷つけられたと感じたカイルは顔を真っ赤に染めるも、受付嬢は気にもとめずカイルたちを待つことなくギルド長室へ入ってしまった。


 カイルは怒りをぶつける間も無く慌ててその後を追った。


 ギルド長室へ入ると、つるっパゲのムチマッチョの中年の男性が机に向かい腰掛けたままこちらを睨んでいた。

 そのつるっパゲの後ろには先程の中年の男が顰めっ面で立っていた。


 カイルはいきなりギルド長に睨まれムッとするも、俺の活躍に嫉妬したのだろうと勝手に都合よく考えた。


「お前たちがAランクハンターのカイル一行か?」


「はい、そうです」


 カイルが軽く礼をして一歩前に足を踏み出そうとすると――


「お前たちはそれより前に来るな」


「なっ!!」


 カイルはギルド長の失礼な物言いに思わず睨み付けたが、ギルド長は素知らぬ顔で話を続けた。


「何で呼ばれたか分かるか?」


「悪魔討伐の件でしょうか?」


「そうだ、それを知っているってことは間違いないな」


「間違いも何も俺たちが悪魔を自爆に追い込み倒しましたからね。

 いよいよ俺たちもSランクですかね? 俺、なってあげてもいいですよ。

 ハンターが悪魔討伐したって聞いたことないですからね。

 俺たちもデビルキラーって呼ばれるかもな。そんなハンターを出した、このギルドも鼻が高いだろ……」


「うるさい、黙れ!! お前たちの行動についてクルセイド教会支部から抗議の文書が届いている」


「はあ? 抗議?」


「ハンターギルドはハンターたちに最低限度の常識を身に付けさせるようにとな……」


「はあ。意味が分かりませんが? そもそも俺たちに関係あるのか?」


「詳細が事細かに書かれている……今から説明する」


「はん、どうせ俺たちに手柄を盗られたあの女(聖騎士)の妬み……」


「うるせぇ!! お前はさっきからペラペラと人の話を黙って聞けんのか!?

 いいか! お前たちの行為は、聖騎士の戦闘行為を妨げるだけでなく、再三の制止の呼び掛け、命令にも応じなかったとある。

 今回は悪魔自身が自爆する結果となり、たまたま被害なく済ませることができたが、これが、もし自爆ではなく、憑依されでもすればお前たちの命は無かっただろうとな」


「いやいや、ギルド長、間違ってます。俺たちの剣術で悪魔を自爆に追い込んだんですって」


 カイルはわざとらしく首を振った。


「お前は何を言ってる? お前たちはAランクハンターにもなって何も知らんのか?

 これはハンター登録時に説明を受けたはずだ。

 悪魔には普通の剣は通用しない。

 聖剣もしくは魔法剣しかダメージを与えることができない。

 ハンターは悪魔の噂を聞いたり、発見したり、また遭遇した場合は速やかにギルドへ報告する義務がある!」


「効かない? 義務?」


「そうだ! それをギルドが取りまとめ国に報告する。

 そして国の判断で、国で討伐隊を派遣するか、教会へ討伐依頼を要請するかを決めているのだ。

 今回の場合は、急を要する事態だった。その場合は、ギルドの判断で対処する。

 私は町教会に依頼する形を取った。それを今から国に報告するのだ。分かったか!!」


「へっ? でも俺たちは……」


「もういい。お前たちは3日間のハンター活動禁止と3ランク降格とする。分かったなら下がれ」


「3ランク降格って……」


「これは、国や教会にも顛末を伝えねばならん事態なのだ。甘い処分をすればハンターギルド自体が活動禁止になる。

 不服申し立ては認めん、不服ならハンターカードを返却しろ!」


「ぐっ……か、畏まりました」


 カイル一行はランクアップどころか、降格処分となった。ギルドの外に出ると案の定、口論となった。


「ちょっと、カイルこんなの聞いてないわよ!」


「何で、おかしい」


「おいおい、納得できねぇぞカイル!」


「うるせぇ! うるせぇ! そんなの知るかよ!! 

お前たちが悪魔討伐できたらSランクだって言ったんだろが!!」


「そんなこと言ってない」


「いいや、お前たちのせいだ! このクソ女どもが!! クセーんだよ」


「あなただって汚水臭いわよ! そうとう酷いわ!!」


「それはお前たちがクセーから俺に匂いが移ったんじゃねぇか!」


「違う、カイルたちのが私に移った……」


「おやおや……む!? その臭い、あなた方はもしや、何かしらの呪いでもかけられたのでは?」


 どこから現れたのか、いかにもキナ臭そうな男がカイルたちに話しかけてきた。


「「「「呪い?」」」」


「そう、何か心当たりは?」


「「「ある。悪魔だ!」」」


「あのドロドロを浴びてからおかしい」


「やはり、そうですか……くはぁ! これは酷い臭いですね。よろしければ私がその呪いを祓ってあげますが……その……」


 キナ臭い男が親指と人差し指で丸を作りカイルたちへと向ける。


「はぁ……分かった、分かった、いくらだ」


「非常に強力なようで……これぐらいは……」


 キナ臭い男が片手を広げカイルたちに聞こえるくらいの小さな声でボソボソ呟いた。


「なっ! そんな必要なのか!!」


 その金額はカイルたちの全財産を出したとしても、少し届かない金額だった。回復魔法での治療が高いことなど誰でも知っている周知の事実。カイルたちももちろん知っている。


 ちょっとしたケガでも瞬時に回復でき、跡形もなく治療できる魔法を利用しようものなら莫大な金額が必要なのだ、そのため、呪いを祓う治療に高い金額を提示されたとしてもなんの疑問にも思わなかった。

 だがやはり――


「た、高い……もう少し何とかならないか?」


「いえいえ、これだって4人分ですので、破格の金額なんですよ。解呪には聖水も必要になるのです。準備しないといけません……」


 カイルたちはキナ臭い男のもっともな意見に押し黙ることしかできなかった。


「うう」


「はあ、仕方ありませんね、私もこれ以上は無理です。ここはご縁がなかったと……」


 キナ臭い男は軽く頭を下げると踵を返しスタスタと歩き出しカイルたちから離れていく。


「ちょっとカイル!! 行っちゃうよ!!」


「「カイル!!」」


 思わずアルマ、サラ、ニナの3人はカイルの裾を強く引いた。3人はお金よりも臭いの問題を解決する方が先だと判断していた。

 臭いさえなくなればまた稼げると――


「くっ!!」


 カイルは俯き歯を食いしばっていた顔を上げるとキナ臭い男に向かって叫んだ。


「待て! 待ってくれ!! それでいい。それでいいから!!」


 キナ臭い男はカイルの声に少し口角を上げる。

 だがそれは一瞬のことで振り返った時には低姿勢でカイルたちに頭を下げた。


「ありがとうございます。いやぁしかし、本当に酷い臭いですね。これは、ここでは無理そうですね」


「どういうことだ?」


「解呪の過程で呪いを体内から外に出さないといけないのです。

 その場合間違いなく、この悪臭が数倍の濃さとなり辺りに広がってしまうのです」


「なるほど……分かった」


「では明日、町外れのこちらの小屋に来てください」


 キナ臭い男は町外れの小屋の場所を示した地図をくれた。


「もちろんその際には……」


「金だろ! 分かってる!」


「はい。では、お待ちしてますよ」


「ああ」


 キナ臭い男は深く頭を下げると、カイルたちから離れていった。


「良かったわ、この臭いさえ無くなれば、また、Aランクにだって戻れるわよ」


「ああ、そうだな。これが呪いとは知らずさっきは怒鳴ってすまなかった。また4人で頑張ろうな」


「ああ、頑張ろう」


「うん」


 翌日、カイルたちは約束の金額を準備して、町外れの小屋に向かった。

 足りない分は装備品を売った。体の臭いが染み付いていると店主に大分買い叩かれ、身に着けていた装備品のほとんどを手放した。


 今は質素な駆け出しのハンターが着けるような装備品を身に付けている。


 小屋に着くと約束通りキナ臭い男が出迎えてくれた。


「お待ちしてました。さあ、こちらに掛けて下さい」


 すぐに中へと通されたカイルたちは部屋の中に解呪のために必要な道具の準備がされていたことにホッとする。


「ああ、ほらよ、約束の金だ。早く解呪しろ」


 カイルたちはお金をテーブルに置くと勧められた椅子に腰かけた。


「む! 昨日より酷くなってますね。かなり臭いますね」


「それはもう分かったから早くしろ!」


「はい、では、早速始めましょう。

 まずはこちらの聖水を飲み干してください。

 これは体の中から浄化して呪いを浮かせ、解呪しやすい体へとするものです」


「分かった、これを飲めばいいのだな」


 カイルたちは臭い臭いと言われ続けることにうんざりしていた。

 そのため、何の疑いもなく、その聖水と言われ差し出された飲み物を一気に飲み干した。


 だが、飲み干してすぐにカイルたちは体に違和感を覚えた。


「おい……これは……本当に……せい……」


 気づくのが遅すぎた、強烈な眠さで意識が遠退いていく。


 それはカイルだけではない。彼女たちも同じように眠さから上体をふらふらさせている。


「ねむい……わ……」


「だめ……ねむ……」


「くぁ……」


 カイルたちはとうとうテーブルに突っ伏して深い眠りについた。


「そろそろか……」


 眠っていることを確認すると、男は自身が身に付けていた物を剥ぎ取り黒装束の姿になった。


「依頼完了っと。いや、こんなに簡単に行くとは、Aランクハンターだったからなもっと警戒すると思ったが……」


 この男、闇ギルドに雇われた男だった。カイルに騙された女たちからの依頼を請け負ったのだ。


 直接的ではなく、間接的にだ。正確にはその女の中に貴族と繋がりの有る者がいて、その貴族からの依頼だった。


 依頼を受けたこの男は一月ほど前からカイルに張り付いていた。

 闇ギルドの人間は悪魔が何らかの形で呪いを掛けることも掴んでいる。


 今回はそれを利用したが、この男、これは本当に呪いではないかとも思っている。


 だが、それは己の知る所ではない。一月張り付いて同情する気持ちすら失せたのだ。


 この一月だけでも騙された女は10人、特にあのマリーとかいう女は酷かった。

 闇ギルドで保護しようかと思ったほどだが、いつの間にか見失ってしまった。あんな状態だ既に――


 男は首を振った。


「しかし、ほんとクセーぜ、お前たちは……」


 男はテーブルにあるお金を手に取り確認すると、スッと姿を消した。


 しばらくして目覚めたカイルたちの顔は蒼白となった。金はない、臭いもとれていない。騙されたと直ぐに分かった。


「くそぉぉぉっ!!!!」


 その後、4人の仲は更に険悪なものとなり、パーティーは数日と経たないうちに解散した。


 その時、カイルたちはハンターランクDからはパーティー必須の依頼が多いということを失念していた。


 今までソロ(1人)になったことがないので気が付かなかったのだ。


 それでも、直ぐに新しいパーティーメンバーが見つかるだろうと簡単に考えていた。


 だが、待てども待てども、誰一人として集まらなかった。


 これはカイルだけではない。他の3人もそうだった。


 今のカイルの見た目は質素な装備品でみすぼらしいうえに臭い。物凄く臭い。誰が好き好んでそんなハンターと一緒に行動したいと思うだろうか?


 カイルのお得意の、騙して貢がせよう計画も臭いと睨まれ逃げられてしまう始末だった。


 そうなると、いよいよパーティーの組めない、カイルは依頼を受けることすら困難となっていく。


 元Aランクだったと何とか受けた護衛などの依頼でも、依頼主から拒否されることも度々おこった。


 半年経っても状況はかわらない。

 結局カイルは依頼もまともにこなせないハンターだとギルドから判断され、降格処分を受け更に1ランク下げた。


 この時点でカイルのハンターランクはもうEランクである。


 その後もカイルたちは皆に臭いと陰口を叩かれ、人から隠れるように過ごす生活を送ることになる。


 もうAランクの頃の面影はない。騙され被害に遭う女性ハンターも居なくなった、因果応報である。

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