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悪魔に転生してました。  作者: ぐっちょん
追放されてるっぽい少女編
16/114

16

ブックマークありがとうございます。


少し長めです。

すみません。

 カイルの会心の微笑みは空回りした。無視されたカイルの笑みは引きつり、立てた親指をゆっくり下ろしていく。


 ――いい気味だ。


 まあ、それもそのはずだ。聖騎士はずっと悪魔の隙を突こうとしている。

 

「むん!!」


 お爺ちゃん神父は悪魔にゆっくりと語りかけているようだったが、なんのなんの、お爺ちゃん神父は時間を稼ぎちゃっかりギルド内を包み込むように聖域結界を展開した。


《グギ……キサマ……コザカシイ……マネヲ……》


 ――なかなかの手際だ……これは結界か……んんー、まあ、俺が気にするほどでもないか……


 結界の展開を確認した聖騎士は、聖剣を握る手に力を込めた。


「準備はできたぞ」


「はい! では神父様、私が悪魔を引き付けます。その隙にあの少年をお願いします」


「うむ」


 聖騎士は神父と少ない言葉を交わすと聖剣を手に軽やかに駆け出し悪魔へと斬りかかった。


《ギッ!!》


 聖騎士の鋭く速い斬撃を、後ろに大きく跳躍することで悪魔は躱した……というより逃げた。

 ただの一振りで悪魔に焦りの色が見える。


 聖域結界を展開されたことで、悪魔は大したことなかった能力が更に低下したのだろう、聖騎士の軽く振り払った斬撃を間一髪で躱し逃げた。


 その隙に、ひょこひょこと歩いたお爺ちゃん神父が少年の頭に手を置き、瞬く間に少年を眠らせた。


「お主は悪い夢を見たのじゃ、暫く眠るがよい」


 少年は糸が切れたように倒れ、お爺ちゃん神父に優しく抱かれた。


 少年の心は既に悪魔に魅せられていた。魅せられてしまった少年は自らの意思で行動することは難しい。余程精神が強く鍛えられいなければただ、人形みたいに立ち尽くすことになる。現に少年は立ち尽くしていた。


 これは悪魔が少年を逃がさないための手段であり、意識操作を無理やりされていたのだろう。


 だが、聖騎士が斬り込み、悪魔との間に割り込むことで少年の傍から悪魔が離れ、お爺ちゃん神父でも少年に近づくのが容易となった。


 後はお爺ちゃん神父が眠りの魔法を使い、少年は何が起こったのか分からないうちに深い眠りへと落ちていった。


 魔力のほとんどない人族には魔法に対する耐性はない。少年は気持ち良く眠りについたはずだ。


「さて……」


 次に、お爺ちゃん神父は少年の手から離れ床に落ちた悪魔大事典に向け浄化魔法を一瞬で展開した。


 ――ほう。


 悪魔大事典は瞬く間に青白い炎に包まれ、その炎は激しく燃え盛り大事典を跡形もなく燃え尽くした。


 これはほんの数秒の出来事で悪魔大事典の存在はもう感じられない。


「これで、もう安心じゃぞ」


 そこで初めてお爺ちゃん神父の顔に安堵の色が見てとれた。


「どうやら、俺の出番は無さそうだな」


「お兄ちゃん……助かる?」


 アイナは俺のズボンの裾をちょいちょいと引っ張り、神父に抱かれた兄を心配そうに眺めていた。


「ああ、今は気を失っているだけだ。悪魔大事典も消滅したし、間違いなく少年の契約は不履行になるだろう。もう大丈夫だな」


《グッ……オレノ……スミカガ……セイキシ……ヨクモ……ヨクモ……コノオレサマノ……ジャマヲ……ガァァア……フゥゥゥ》


 悪魔は大きく口を開けると、大量の黒煙を吐き出し己の姿を覆い隠し、更にその周囲までも黒煙で染めていった。


 目隠しがわりに使ったのだろう、黒煙がモクモクと増え続けている、まだ吐き出しているかのように見せていた悪魔が急に黒煙から飛び出し鋭い左右の爪で聖騎士に襲いかかった。


 この悪魔、見た目に反して跳躍力は一級品だった。電光石火の如く素早い爪撃が聖騎士を襲った。


「ふっ!」


 それでも聖騎士は事も無げに身体を少し捻りるだけで躱し――


「はっ!!」


 すれ違いざまに悪魔の右腕を聖剣で切り落とした。


《ギァァァダァァァ》


 切り落とされた悪魔の腕は聖剣の聖気に当てられ宙を漂っているうちに蒸発するように消滅した。


「ふん!」


 聖騎士は剣を振り、聖剣に付着した悪魔の体液を飛ばすと再び悪魔に前に向かい腰を少し落とし聖剣の刃を少し傾け構えた。


「相手が悪かったな、私はこれでもSランクの聖騎士だ。

 聖域結界の展開された空間で、召喚されたばかりであろう第10位の悪魔では私に敵うわけがない。

 大人しく真名を教えていれば気持ちよく神父様が浄化してくれたものを……聖剣だと苦しむと思うが……お前はきっちり私が浄化してやろう」


《グギギ……オォノォレェェ》


 ネズミの悪魔の瞳が赤色に怪しく光ると、切断され無くなったはずの右腕が脈を打ちながら再生された。


《フシュゥ……フシュゥ……チョウシニ……ノルナヨ》


 悪魔は何やらブツブツ呟くと、両腕が1.5倍ほどに膨れ上がった。

 2本の鋭い爪もより細く長いものとなっている。現に、悪魔が構える際に、スッと触れたギルドの床はスーッと切れ目が入った。


 ――あれはないな……ん?


「カイル聴いた、あの悪魔第10位の悪魔なんだって。私たちでも殺れるんじゃないの」


 聖騎士が悪魔の相手をしてる間にカイルたちは美味い所をどうすれば我が物にできるか話し合っていた。


「そうだな、俺もそう思ってた。見れば大したことなさそうだ。

 悪魔を殺ったハンターなんて聞いたことない。これはSランクハンターになれるチャンスだ」


「だな。悪魔ランク第10位は魔物ランクBクラスって聞いたことがある」


「サラその話、私も聞いたことがある」


「ほう……お前たち2人の知る情報なら間違いないな。それにあの女……悪魔がいるとはいえこの俺を無視しやがった……」


 カイルは聖騎士の後ろ姿を眺め汚らしい笑みを浮かべた。


「道に迷っているところをわざわざ教会まで案内してやっただけだが、キッカケはできた。何度だって会える。

 なぁにマリーから巻き上げた金はまだたんまりあるんだ。少しくらいこの町に滞在したところで、大差ない……」


 カイルは自分の格好良い所を自慢したいのか、大げさに前髪を搔き上げ腕を組み直した。


「ふふっ、しかしあの女……Sランク聖騎士だったとはな……少し予定を変更することになったが……結局はあの女を落とせば済むことだ。

 この俺のルックスにかかれば落とせない女など居ない……

 本当ツイてるぜ……たまたま立ち寄った町で偶然見つけた上玉(聖騎士)だ、逃しはしない……」


「はぁ、また、カイルの悪いクセがでたわ」


「アルマ何を言ってる、さっきも話したが聖騎士に繋がりができるのは良いことだろ?」


「それはそうだけど……程ほどにするのよ?」


「分かってるさ。安心しなって、俺にとっての一番はお前たちだ。あの堅そうな女は、ちょっと遊んでやるだけだ。たっぷり貢がせてやるさ……」


「なら、許す」


「全くカイルは……しょうがない奴だな」


「それに見ろ。あそこにいる女2人も気になる。なかなかだな。おっぱいが大きいのもいい、あいつらもついでに落とすぞ」


「もう……たっぷり絞り取らないと許さないから」


「ったく、ちゃんと捨てるんだぞ」


「取るもん取ったら、私服欲しい」


「ああ、任せとけよ」


 そんなカイルたちのやり取りは、俺の耳にはしっかり聞こえている。


 ――面白い。俺の女にまで手を出そうとは……しかもマリーは……気づかぬとは言え二度目……くっくっく。あの女たちも同罪だ……

 

 俺はカイル達への報復を決めた。


 ――今は聖騎士と神父が邪魔だが……後でたっぷり楽しんでもらおうか……だがしかし、何故、エリザとマリーがヤツ程度に認識された……認識阻害を付与してたはずだが……


 このギルド内に漂う違和感……俺が気にしなければ気にならない程度……


 俺が1人で小さな違和感の正体を探り思案している間にも聖騎士は悪魔の両腕を切り落としていた。


《グォォォォ》


 悪魔は直感で敵わないと悟ったのか、聖騎士に背中を向け逃げ出したのだが……悪魔が何かに弾かれ顔を歪めた。


 ――そうか! 聖域結界か……甘く見ていたが……ふむ。これは思った以上に厄介なものだな……


 悪魔は結界に阻まれてこのギルドから出ることができなかった。


《グヌヌ……ケッカイ……カ……》


「諦めろ!」


 聖騎士に追い込まれ焦る悪魔は不意に視界に入ったエリザたちを見てニヤリと歪な口を開いた。


《ヨワソウナ……メス……チカラ……タマシイ……ソコニモ……アッタカ……》


 今度も先程と同じように悪魔の瞳が赤色に怪しく光った。それによって再び両腕が再生されるが、今度は両腕とも肉はなく尖った骨だけだった。


 ――んっ?


《モラッタ……》


 次の瞬間、悪魔は高速回転しながらこちらに突貫してきた。

 エリザ、マリー、アイナは当然反応などできない。声すら上げることができずにいた。


「しまった!!」


 聖騎士が慌ててこちらに駆け寄っているが、間に合わないだろう。


《グハハハ……ア?》


 ネズミ悪魔は高速回転しているつもりだろうが、あいにく、俺には止まって見えるくらい遅い。


《オ、オマエハ!!》


『愚かな!!』


 俺は腰を落とし懐に飛び込むと両腕を掴み、握り潰すと、流れる動作で首根っこへ手を回しギルドの床に叩きつけた。


《ヘブシッ!!》


 叩きつけられた、ネズミの悪魔は何度かバウンドした後に、カイルたちの方へ転がった。


「えっ!?」


 聖騎士はあり得ない出来事に固まった。


「い、今よカイル!!」


「わかってる!」


 カイルたちはチャンスとばかりに剣を片手に一斉に襲いかかった。


「くらえぇぇ!!」


 カイルたちの悪魔に突貫する雄叫びに我に返った聖騎士は、動き出したのだが、一足遅かった。カイルたちは既に悪魔を取り囲んでいた。


「ば、馬鹿やめるんだ! お前たちでは……「聖騎士様、この程度俺たちだってやれるんだぜ!! はっ!」」


 キィィーン!!


 カイルたちの振り下ろした剣は、ネズミの悪魔の展開した障壁によって阻まれた。


《グッ……コ……コウナレバ》


「バカ、何をしてる! 早くそこを離れろ!!」


「ま、まだだ! こんなもの!!」

 

 悪魔は腕を握り潰され、叩きつけられたことで折れてしまっている。

 それに小刻みに震えている身体は、至る所から黒煙が漏れ出し、立ち上がることすら困難に見える。


 見るからに悪魔は弱っている。


 こんな美味しい状況を聖騎士に一度言われたくらいで止めるようなカイルたちではない。


 欲にまみれたカイルたちは聖騎士の忠告を無視して、力任せにガツンガツンと剣を振り下ろす。


《ヌ、グッ……オマレラ……シツコイ……》


「よし、効いてる!! 悪魔は立ち上がれない! 今のうちに殺るんだ!!」


「うん!」


「たぁぁぁぁ!!」


 聖騎士はカイルたちが四方を囲み近寄れずにいた。


「第10位の悪魔だからといっても、お前たちの敵う相手じゃない! 早くそこを退くんだ!!」


 聖騎士は警戒を緩めず悪魔と一定の距離を保つ。


 ――ほう、あの聖騎士もなかなか厄介だな……


 下手に一か所に集まってしまえばお互いの動きが阻害され、行動を読まれやすくなる。聖騎士はそれが分かっているようだ。


「そこを退けと言ってるのだ! 深手を負っている悪魔が一番危険なんだぞ!!」


「聖騎士様、この程度の悪魔など取るに足りません、このAランクハンターのカイルにお任せください!」


 悪魔が立ち上がれないと分かっているこの状況、邪魔をされたくないカイルは更に強気な姿勢に出ていた。


「見てみて、やったわ! 障壁にヒビが入っているわ」


「もうすぐ」


「ああ!!」


「このいい加減……くたばれえぇぇぇぇ!!」


 カイルが大きく振り落とした渾身の一撃は、悪魔の障壁を破り体を貫いた。


《グギャァァァ》


「やっ、やったか?」


「バカ者!! 普通の剣では無理に決まってる。早く離れろ、何するか分からんのだぞ!!」


「聖騎士様、そんなことありませんよ……現に悪魔は苦しんで……へっ!?」


 《ナンテナ……モウオソイ……ワ》


 最後に俺を一瞥した悪魔は身体を大きく膨張させ……バァァン!!っと弾け飛んだ。

 悪魔は勝手に自爆したのだ。


「ぐあっ!!」

「きゃ!!!」


 ――あいつ……


 至近距離で悪魔の自爆を受けたカイルたち4人は、ヘドロみたいな体液を全身に浴びた。


「ぐぇ、ペッペッ!! 悪魔の奴、自爆しやがった!!」


「みんな体は……何ともないわね」


「ああ、はははっ! 俺たちが悪魔を殺ったんだ」


「やったね」


「これで、Sランク……」


「でも、あの悪魔のせいでドロドロだわ、汚いわ」


「そうね……何か臭わない」


「そういえば……臭いな」


「おい! お前たち、無事なのか? 信じられんがあの悪魔は自爆消滅したみたいだが……こんなこと初めてだ」


 聖騎士はカイルたちを見て何やら思案している。


「聖騎士様、見てましたか。俺たちが悪魔を自爆に追い込んだんですよ……Aランクハンターのこの俺たちがね」


 カイルが満面の笑みを浮かべると、両手を広げ聖騎士に近寄ろうとした。このカイル一々格好つけようとする。一つ一つのその動作にイラッとする。


「お前何を言って……ぐっ、くさいっ!! お前臭いぞ」


「へっ?」


 聖騎士に、いや女性に臭いと言われたカイルは自分が今何を言われたのか理解できずポカンとして立ち止まった。


「臭い、臭いわ。段々酷くなっている。カイルも、私たちも」


「ほんとだ。臭い。酷い臭いだ。きっとこの体液のせいだな」


「まぁAランクハンターの私たちが臭いを放つなんて恥さらしだわ。まるで、あそこのスラムの娘と一緒だわ」


「カイル、早くお風呂に入る」


 段々と、アルマ、サラ、ニナの様子を見て己の状況を理解したらしいカイルは聖騎士に向き直ると――


「では、聖騎士様。悪魔を殺ったのは俺たちです。今はこんな身なりですのでまた後程に……」


 カイルは聖騎士にキザったらしく格好をつけると早足で歩きギルドを出ていった。

 その後を女たち3人が続いて出ていった。


 カイルたちが出ていった後、セリスが神父に何やら合図を送り俺たちの方にやってきた。


 ――やはりきたか。


 俺も悪魔だ、魔力を抑えているとは言え用心するに越したことはない、大丈夫だと思うが聖騎士とは正直関わりたくない。


「君たちにも迷惑をかけた、すまない。私はSランクの聖騎士をしてるセリスと言う。君はなんて言う?」


「気にするな、ギルドにいた俺たちも悪い。俺はクローだ」


 アイナが傍でちょいちょいと俺のズボンの裾を引っ張った。


 ――ああ、そうだな。 


「それより、あの少年はどうなるんだ?」


「あの少年は教会で治療後、当分の間は、教会監視下で生活することになる。成年前とは言え悪魔を呼び出したのでな」


「お兄ちゃん……連れていかないで」


 セリスがアイナへと視線だけを向けた。


「あ、この少女はあの少年の妹でアイナと言う。兄を心配してギルド内から離れようとせずにいたところをこっちのエリザとマリーが保護したんだ」


 エリザとマリーがセリスに向かって頭を軽く下げた。


「そうか。エリザとマリー、君たちの慈悲深い行動に感謝する。そして……少女アイナよ、お前に両親は居るのか?」


 少女を首を左右に振った。


「だから、お兄ちゃんを連れてかないで」


「ふむ、そうか」


 聖騎士はどうしたものかと顎に手を当て考え、神父の方へと視線を向けた。

 どうやら神父にも話が聞こえていたのだろうセリスににこりと頷いて返した。


 俺の中でこの神父はセリスのお尻を触ったエロジジイの位置付けなのだが……今の行動はとても神父らしい。


 ――ふむ。


「よしアイナよ。お前も付いてくるか?」


「アイナをどうする気なの?」


 俺の後ろからアイナのことを心配したエリザが聖騎士に尋ねた。


「教会管轄の孤児院なら兄と一緒に居ることができる。そう思ったのだが、どうする? これは強制ではないぞ」


 アイナはコクリと頷いた。


「付いてく。お兄ちゃんと一緒がいい」


「ふぉふぉ、そうかそうか、ではワシと一緒に行くかのぉ」


 聖騎士の後ろまで、ゆっくり歩いてきたお爺ちゃん神父がアイナに手を差し伸べた。

 少年はお爺ちゃん神父に背負われている。


 意外にお爺ちゃん神父は力持ちだったようだ。


「アイナちゃん。私たちはハンターをしてるの。何かあったらハンターギルドに……私たちへ依頼をすればいいよ」


「だから、元気だすのよ」


 ――エリザもマリーも年下に弱いらしい。


「アイナよ。何かあれば呼べ、ハンターのクローだ」


 アイナは黙って俺たちに顔を向け頷くと背負われて眠る兄を見て少し安心したか、差し伸べられていたお爺ちゃん神父の手を握った。


「セリスや、ワシはこの子たちと先に戻っておるぞ」


「はっ! 私もすぐに……」


 少年を背負ったお爺ちゃん神父とアイナはゆっくりと歩いてギルドを出ていった。


「さて、俺たちも今日は帰ろう。この分じゃ依頼は受けられそうにないからな」


 俺はギルド内を見渡しエリザとマリーにそう伝えた。


「そうね」


「分かった」


 俺たちも神父に続いてギルドの出ようと思ったのだが――


「待ってくれっ!!」


セリスに呼び止められた。


 ――早く逃げたかったんだが……


「何だ? まだ何か用か?」


「クロー。君はさぞ名のあるハンターなのであろう?」


「いや、そんなことはない。ハンターになったばかりだ」


「な、何だと、それであの動きを……」


 ――やはり、そんな所か……


「以前はあるお方に仕えていたんだ、誰とは言えんが、今はフリーになった。それでハンターをしているだけだ」


 ――エリザの護衛をしていたので嘘は言ってない。


「そうか。誰にでも言えぬことはあるな」


 セリスはウンウンと何やら納得している。だが、セリスが俺たちと何を話したいのか分からない。


 ――これ以上聖騎士と話をしてボロが出ても面倒なんだが、どうする……


 どうしたものかと思い悩んでいると、不意にエリザと視線が合った。


「クロー、そういえばまだ、買い出しが終わってなかったわよ」


 早くしないと、とエリザが俺を察して右腕をとった。


「ああ、そうだったな……すまないが、俺たちはこれで失礼するよ」


「ああ、そうか。もう少し話しをしたかったのだが、残念だ。でも、うん、また会えそうな気がするな」


 セリスは心底残念そうに、そう言い、気になる発言をした。


「えっ?」


「こっちの話だ。引き留めてすまなかった」


 そう言って別れにセリスから握手を求められはしたが、無事にギルドの外に出た。


「ハンターのクロー……か」


 ―――――

 ――――


 ギルドを出た俺たちは大回りをしてギルドの裏の方へと回った。


「ちょっとクロー?」


「どこ行くの?」 


「ん? すぐに分かる」


「すぐに分かる?」


「おい、出てこい。俺を待っていたのだろ?」


「「?」」


 暫くすると、汚ならしい1匹のネズミが姿を現した。


「「きゃっ、ネズミ!!」」


 そのネズミはよろよろ俺の前に来ると、くるんとお腹を見せて仰向けになった。絶対服従の姿勢らしい。

 そして、ネズミは俺の頭に念話してきた。


《オマエヲ……マッテタ……モウダメカト……オモッタ》


『何が目的だ?』


《オレヲ……ツカイマ……ニ……シテクレ……オレハマダ……キエタクナイ》


『使い魔ね』


《オマエガ……ツヨイアクマ……ダト……シッテル……ホウフクモ……テツダッタ……タノム……キエタクナイ……》


 ネズミから念話を通し、カイルたちへの報復内容が流れてきた。


 それはネズミの悪魔が自爆したところまで遡っていた。


『ほう……』


 あの時、ネズミ悪魔の自爆には……自爆を引き金とし発動する悪因:悪臭が込められていた。


 それは受けたものが死ぬまで身体の至る所から悪臭を放ち続けることになるという恐ろしい悪因だ。


 この悪魔、悪魔大事典への帰還は望めないうえに、聖域結界からも逃れることができない。


 状況は刻一刻と悪くなる一方、もう魔力もほとんどなく勝ち目がないと悟りどうにか生き残る手段を模索したらしい。


『何かしたと思ったが、なるほど、なるほど、お前は賭けに出たのだな。なかなかやるじゃないか』


 ――俺が悪魔だってことにも気付き、カイルたちに報復したいと思う一瞬の感情を読み取り賭けに出たのだな。こいつ意外に……やるな。


『しかし、その体は憑依したのか?』


《ソウダ……ジバクト……ドウジニ……サキニ……パスヲ……ツナイデイタ……ネズミニ……イシキヲ……ウツシタ……デモ……モウ……ジカンナイ……オレ……キエル……》 


『なるほど』


 ――ネズミってのが、少し抵抗あるが、使える使い魔はたくさんいた方が良いよな。


『いいだろう。お前を使い魔にしてやる』


 俺は素早く悪魔スキルを使うと自身の血を数滴ネズミに垂らした。


『お前の名はラット。使い魔のラットだ』


 仰向けに寝ていたネズミに名前を授けた。すると、使い魔のラットは全身が光り輝きお腹に960という俺のナンバーが浮き上がった。


『あるじ、助かった。俺……ラット……がんばる……よろしく』


『ああ、よろしくな。とその前に……』


 ラットには悪いが、俺はクリーン魔法を3回掛けた。汚すぎて触れたくなかった。

 黒いネズミのラットは体毛がふっくらとなり、マリモみたいに真ん丸ネズミになった。


「うわ、何したの? 急に毛玉みたいになったわ。かわいくなったよぉ」


「クロー。この子は何? どうしたの?」


「ああ、こいつはラットだ。今、契約して俺の使い魔になった」


「まあ!! そうなの」


 エリザとマリーに軽く経緯を説明した。彼女たちは興味深そうに聞き――


「「よろしくねラット」」


 彼女たちは嬉しそうにラットに手を伸ばし掴もうとするが、ラットは彼女たちの手を逃れ俺の肩まで登ってきた。

 彼女たちの少し残念そうに拗ねる顔が子供みたいでおかしい。


「あはは、エリザ、マリー。すぐに馴れるさ」


『あるじ……がいい』


 使い魔ネズミのラットが仲間になった。



 ――――ーデビルスキャン――――――――――

 所属 悪魔大事典第29号 

 格 ランク第10位

 悪魔 ナンバー960

 名前 クロー

 性別 男性型

 年齢 23歳 

 種族 デビルヒューマン族


 固有魔法 所望魔法 

 所持魔法 悪魔法

 攻撃魔法 防御魔法 補助魔法

 回復魔法 移動魔法 生活魔法

 固有スキル 不老 変身 威圧 体術 信用

 攻撃無効 魔法無効

 所持スキル デビルシリーズ

 契約者 エリザ

 所持値 3300カナ

 使い魔 ラット(ネズミ)new

 ――――――――――――――――――――

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