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更新遅くてすみません。
「よ、よう」
俺の目の前には爽やかな笑顔を向けてくるイケメンの悪魔がいる。俺はこいつを知っている。
「……グラッドか。久しぶりだな」
「おう」
久しぶりに見たグラッドは、共に行動した頃と変わることなく元気そうだった。
「お迎えしたがぅ」
「褒めるがう」
そんなグラッドは、ニコとミコから手厚い歓迎を受けたらしく俺の目の前で簀巻きにされ転がされている。
「お前、何かしたんだろ?」
「いや、俺は別に……ただ珍しい建物があったから観ていただけだって……」
「違うがぅ。待合エリアからはみ出してクローの敷地内の建物を見てたがぅ」
待合エリアとは、来客用のゲートの周辺に設けているエリアのことで、俺の使用空間では石畳を敷いて長椅子を置いてある。
許可なくこのエリアから踏み出せば、目の前にいるグラッドのような目に合ってもおかしくない。
「そうがう。てっきんこんくりーと? とかなんとか言っていたがう。情報を盗んでいたがう」
―― てっきんこんくりーと? ……ああ、俺が所望したあの建物のことか……そうか、グラッドは転生者だったな。この世界ではまだない鉄筋コンクリート造りの建物を見れば、不思議にも思うか……
「いやいや。情報なんて盗んでないって」
「ウソつきは泥棒のはじまりがぅ」
「そうがう。泥棒がう」
ニコとミコが簀巻き姿のグラッドに馬乗りになるとポンッポンッとその上で弾んで見せる。
「ちょっ、ぐえっ。くる……うおっ……」
飛び跳ねられて苦しそうなグラッドは、芋虫のようにモゾモゾ逃げだそうとしているが――
「逃がすわけないがぅ」
「本当のこと言うがう」
「ぐはっ……ちょっ、ぐおっ、く、クロー、この子たち、ぐえっ、なんとかしてくれ……」
ニコとミコが器用に飛び乗り逃げ出せていない。
なんだかグラッドのその姿が、子狼に遊びながらいたぶられる小動物の姿と重なってさすがに少しかわいそうに思えてきた。
「ま、まあまあ、今回は許してやろうじゃないか。知ってる顔であるし……」
「クロー……」
「むう。分かったがぅ」
「がう」
――――
――
「ああ、やっと動ける」
簀巻きから解放されたグラッドが、肩をコキコキ鳴らしながら応接室のソファーにもたれ背伸びをしている。
「それで、なんのようだ」
俺がそう尋ねると、グラッドは急に姿勢を正した。
――ん?
グラッドのらしくない態度に、俺は悪い予感しかしない。
「……実は……頼みがあってきたんだ」
言い淀みがらもなんとか声を絞り出したグラッドがバツが悪そうな顔を向けてくる。
――やっぱり。しかし、頼みねぇ……
「……それで」
「……大悪戯書を突きつけられた」
「はい?」
俺は意味が分からずそう返していた。
「大悪戯書だよ」
「それは分かる。だからなんでお前にってことだよ。だってグラッドお前は、ついこの間、第十位悪魔に戻されたばかりで、支配地持ちじゃないだろ?」
「……俺、今支配地持ちなんだ」
「はあ?」
「第七位にもなった」
「……」
――意味が分からん……
俺はお手上げだと思いソファーにもたれかかると、それを見ていたらしいグラッドが――
「俺さ、おまえと別れてから記憶にある島国を探したんだ」
俺と別れてからのことを語り出した(詳しくは、なんてこった支配地編の53話を読んでいただけるとありがたいです)。
「……と、いうことがあって……」
――くっ、ハーレム王国とは、このことをいうんだな……だが、村のためとはいえ、村人全員と契約してヤることやったなんて……羨ましいというより……引くな……
「な、なんだよその目。俺はちゃんと村のみんなを愛しているんだ、家族も同然なんだよ。あ、でもな一番群を抜いて愛しているのはアネスただひとりなんだぞ」
なんかグラッドがアネスLOVEと言って、これからもずっと俺が島国を守ってヤるんだ、と拳を握り絞めているが……なんの説得力もない。
「そうは言ってもな……」
悪魔が人族と子作りをしたところで、人族にキッカケとスキルを与えるだけで悪魔自身の遺伝子は人族にはいかない。
つまり人族に子供ができたとしても、人族自身のクローンが生まれてくるようなものだと思ったほうが理解しやすいのだが、人格は育った環境によって変わるので似たりはするだろうけど、まったくの別人ってことだ。
――はあ……いくら近親相姦にはならないとはいえ……ないわぁ。
「それで、ここからが本題なんだ」
「はいはい……ほら、早く話せよ(このハーレム王め)」
「お前、今、絶対変なこと言ったろ……」
「ふん」
それから詳しく聞いた話を簡単にまとめると――
グラッドは、村の友だちがまだ帰ってこないと心配するアネスに代わってその友だち五人を捜しに行ったそうだ。
俺が、なぜ、その見たこともない友だちが分かったのかと尋ねると、アネスたち一族は普通の人族と違い、独特の気配を放っていたらしいからだとグラッドが言う。
これはアネスたち一族が、女性だけしか生まれない種族だということと関係があるのかもしれないが、この辺りは俺には関係ないことなので、これ以上は深く聞いてない。というか聞く気もない。
それで、その気配を追ったグラッドはスティール王国の、ある街でその五人をすぐに見つけたそうなんだが、なんとその五人には悪因が刻まれていたそうだ。ごりごり霧中というなかなかレアな悪因が。
これは、街から出ようとしても迷って気づけばその街に帰ってきているというなんとも立ちの悪いもの。
考えるまでもなく、そこを支配する悪魔が人族を逃がさないように刻んだものじゃないかと推測できるが、グラッドは深く考えることなく、その悪因を解除して村に連れて帰ったそうだ。
「それで、そこを支配する悪魔が、お前に大悪戯を……あれ、違うな」
「ああ。この時はまだ、感情値は十分にあったが、第八位悪魔のままだった。
俺は前科があるからな、第七位悪魔になるのに抵抗があったんだ」
「それにしても早い……ああ、村人全員と契約すればそれも可能か……みんな好意的だったんだろ?」
「ま、まあな」
――ちっ……
「そ、それで、俺はその時、少女たちを連れ戻して安心していてまったく警戒していなかったんだが、ある日、その悪因を刻んでいた悪魔が俺を追ってくるのが分かったんだ。
これは格が上がった時に身についたスキルのおかげなんだけどさ……」
「そうなることも、あるだろうな……」
「だよな……で、こいつがまた第六位悪魔だっただけじゃなく配下がいたんだ」
「配下がいるのは普通だろ」
「ま、まあ、そうなんだが。俺は、あんな立ちの悪い悪因を刻むような悪魔なら、腹いせにこの島国を支配地にするんじゃないかと思ったんだ」
「なるほど。それで慌てたお前は第七位悪魔になった。そして、お互い支配地持ちだからと……ご立腹だったその悪魔に大悪戯書を突きつけられたってことか」
「ま、まあ、そんなところだ。だから配下をつくる暇もなかったんだ」
「でも。ある意味自業自得なんじゃないのか?」
「うっ」
「お前が悪因を刻まれた人族を勝手に解呪したからだろ……」
――あれ、俺も人のこと言えないんじゃ……
ブーメランと言う言葉が頭に過ぎるが、頭を振って振り払う。
「分かってる。分かってるけど、頼む。俺を助けてくれ」
頭を深く下げるグラッドに俺は興味本位で尋ねてみる。
「大悪戯に助っ人って、そんな制度あるのか?」
――俺、知らないんだけど……
「ああ。第三者の介入は、攻められる支配地の主、つまり俺にその権利があるらしいんだ。俺の使用空間を管理してくれる執事悪魔のアクトバスに聞いたから間違いない」
悪魔界のゲートを使えばここに来れるということも執事悪魔のアクトバスに聞いたらしい。
――なるほど……セラもだけど、さすがは執事悪魔。なんでも知ってるな。
すると、俺のすぐ後ろで黙って立っていたセラが口を開いた。
「たしかに、介入するにはグラッド様の許可が必要ですが、クロー様には助っ人として介入するだけの理由はおありですか?」
――たしかに同郷であって、少しの間共に行動したりはしたが……
「いや、ないな」
「うっ。クロー……」
俺の返事に項垂れるグラッドが少し哀れに思い――
「だがまあ、貸しをつくるのも面白いかもな……」
そんなことを口にしていた。俺の悪いクセだ。
「本当か!?」
勢いよく顔を上げたグラッドだったが、それを遮るかのようにセラが続けて口を開いた。
「クロー様、私はオススメできません」
「そうなのか? それには何か理由があるのか?」
「はい。まずクロー様にはメリットがありません」
セラにそう聞き、グラッドに視線を向ければ顔を背けられた。これはグラッドも分かっていたらしい。
「なるほどな。それでセラ、悪いがもう少し詳しく教えてくれないか」
「はい。クロー様が介入して相手を倒し、グラッド様が勝利したとしても、クロー様にはその権利がありません。何も得るものがないのです。それに……」
「それに……?」
「クロー様にもしものことがありましたら、この使用空間や支配地は代理人であるナナ様へと移り、契約者はクロー様を倒した悪魔に奪われてしまうのです」
「何っ」
――それは、考えてもいなかった。そうだったな俺がもし、ほかの悪魔に殺られたらそうなる危険性が常にあったんだよな……忘れていた。
これは考えるまでもないな……妻たちとグラッドを天秤にかけたら、俺は迷いなく妻たちを取る。
「グラッド、聞いていたよな。俺は妻たちが大事だ。もちろん配下たちもな。悪いが今回は力になれそうにない」
そこでガクリと肩を落としたグラッドが――
「そうだよな。アクトバスからも、無理ですおやめになったほうがいいです、って止められたくらいなんだ。初めから分かっていたんだ。変なこと頼んで悪かったなクロー」
諦めたように、そう言って立ち上がったのだが、そこで意外な人物が待ったをかけた。
「グラッド様、少々お待ち下さい」
「は、はい」
戸惑いながらもセラに返事をしたグラッドが何かを期待する目を向けている。
「クロー様、私に少し試したいことがあるのですがよろしいですか? うまくいけば今後も使えます」
途中から話しをしながらも、ずっと顎に手を当て考える素振りを見せていたセラが、しばらくお待ちいただけますか、と言い残し忽然と姿を消した。
「セラが試したいこと……なんだろうな?」
「さあ。でも俺は、期待していいのかな」
「どうだろうな……」
藁にでもすがりたいグラッドは何かを期待しているようだが、いい返事ができるとも思えなかった俺は、話すこともなかったので、黙ったままセラの戻りを待っていた。すると――
「お待たせしました」
「セラッ早かっ……おわっ!?」
すぐにセラが戻って来たのはよかったが、そのセラが肩を抱くように持ってきたものがなんと、等身大の俺の人形だった。
「おおっ……クロー、の人形?」
「クローがぅ」
「がう」
「ふふふ、そうです。これはクロー様に似せて作成した魔導人形です」
少し自慢しているかのようにも見えるセラだが、それもそのはず。
素材が何かは不明だが、その等身大の魔導人形はよくできていて俺自身でも、一瞬、鏡を見ているのかと錯覚してしまうくらいよく似ているのだ。
だが、そんな魔導人形にも一つだけ気になる点があった。それは――
「なんで裸なんだよ」
よくできていて本物そっくりだからこそ、色々とリアルだった。特にアレとか。いつ見られたのかと疑問に思うくらいだ。
「それいいがぅ。ニコもほしいがぅ」
「ミコもがう。ほしいがう」
大人しく座っていたニコとミコがくれくれと急に騒がしくなった。
俺自身も、なんと言えばいいのか、自分の裸の人形を前にして、非常に恥ずかしく感じる。
――……恥ずかしい?
恥ずかしいという、久しぶりに感じた感情に、少し戸惑いもするが、とにかく今はこの魔導人形の前を隠してやりたい。
『我は所望する』
俺はすぐにバスタオルを所望し魔導人形の腰に巻き付けた。
周りから不満の声が漏れてきたが、これはだけは譲れない。だが――
「クロー、お前便利な魔法を持ってるのな」
――やばっ。
力の一部をグラッドに見られてしまった。いくら同郷であるとはいえお互い支配地持ち。すべてを教えてやる義理はないと思っている俺は――
「ん、そうか。ちょっと取り寄せただけだ。バスタオルもすぐ隣の部屋にあるからな」
ウソじゃないけど本当のことも言わない。
どうも俺は、悪魔になってから気を抜くと本音を漏らしてしまうクセがある。
だからウソじゃない程度にぼかして話すくらいがちょうどいいんだ。
「へぇ、そうなのか。まあ、取りに行かなくていい分、便利だよな。それスキルなのか?」
「教えるわけないだろ」
「ははは、そうだよな」
「それでセラ。この魔導人形をどうする気だ?」
「はい。これはもともとは有事の際に、クロー様の囮りにしようと思って私が作成したものです」
「俺の?」
「はい。あとはクロー様の髪の毛や爪などの身体の一部を入れるだけでもいいのですが、直接クロー様が魔力を注いでいただくだけでも、この魔導人形自身がクロー様そっくりの魔力を放つのです。
そこまですれば、これが偽物だとそう簡単には気づかれることはないでしょう。いい時間稼ぎができるのです」
セラは必要以上に俺の身を案じてくれている傾向がある。何か理由がありそうだが、セラは笑みを浮かべるだけで俺には教えてくれない。
「ですが、今回はこれをクロー様の使い魔コツンに憑依させてみたいのです」
「コツンに……」
「はい。あとはクロー様がその使い魔に意識をリンクするだけです。直接この魔導人形を動かすことはできませんが、指示は出せます。
当然、魔導人形の身体ですので100%の力は出せないでしょうが、これならば、ヘマをしたところで壊れるのはに魔導人形のみ。
使い魔のコツンは憑依しているので、少しくらいはダメージがあるかもしれませんが、クロー様に魂の一部を預けているのでクロー様が無事ならば、コツンも死ぬことはありません」
「ほう。それはなかなか面白そうだな」
「はい。会話も念話を送ればいいだけですので、グラッド様との会話も問題ありません」
「なるほどな。では俺たちはほぼリスクゼロでグラッドに貸しを作ることができるってことか?」
「はい。クロー様も危険はありませんし、もしものことがあったとしても契約者(妻たち)が奪われる心配もありません」
「と、言うことだグラッド。これなら直接、俺は行けないが間接的には協力できるぞ。どうだ?」
「いい。それでいい。ありがとう」
涙を流し出したグラッドに少し流された俺は使い魔を全て連れて行ってやると言ってしまった。これも俺の悪いクセだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます^ ^




