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いつも更新が遅くて
すみません。
「みんな、それにグウ待たせたな」
俺が、何事もなかったようにグウの部屋の真ん中に転移して戻ると――
『主』
『あるじ』
『ヌシヨ』
使い魔のラット、ズック、ニルが嬉しそうに駆けて寄ってくる、とはいっても、ラットと、ズックに至っては、ふわっとした体毛を風になびかせながら、ニルの頭の上で二足立ちしているだけなのが……ニルはニルで、まんざらでもない様子に見える。
そう、使い魔たちにはすでに序列があるようで、ラット曰く。ラット、ズック、ニルの順になっているらしい。
まあ、ラットは賢く魔法の使い方が上手いからなんとなく分かるが、ズックはまだまだ力が弱く、悪魔獣のニルに敵うはずはないのだが、これは持って生まれた性格なのだろう。
ニルは、気が強くプライドが高そうな見た目と違い、穏やかな性格で、ズックに序列を譲ってやったのではないだろうか、と俺は密かに思っている。
「グウを守ってくれたようだな。えらいぞ」
使い魔たちの頭を軽く撫でてやると、目を細めて気持ち良さげにしていたラットが、俺の右肩に飛び移ってきた。
――ん?
そして、ラットは左肩に座るコツンに顔を向ける。
「ああ、そうだったな。こいつはコツンと言う。成り行きで使い魔にしたが、これから仲良くしてやってくれ」
俺がそう言うと、ラットとコツンは無言でしばらく向き合うと、コツンの方がぺこりと頭を下げた。
『俺様コツン。ラット隊長、ズック、ニル、よろしくっす』
そう言って、ラット、ズック、ニルに向かって丁寧に挨拶していた。
――ラット隊長ね……もう序列が決まったのか。コツンも邪魔族だったんだが、使い魔になると性格が変わるのかね? それとも、元からこんな感じで、ただ単に強い奴に従ったってところか?
「ふむ」
俺は、この光景を不思議に思いながらも黙って眺めていた。
「クロー……」
そこへ、迷宮主のグウが、遅れてふらふら、よろよろ、ゆっくりと近づいてきた。
「おうグウ……ふらふらしているが大丈夫か?」
「うー」
グウは大丈夫だと言うが、安全部屋内の状況確認時に、不純物ポイントを一気に使わせたことが、そうとう堪えているようだ。
「ならいいが……では約束通り迷宮内に蔓延っていた悪魔くずれは始末したから、この迷宮を俺の支配地として感情値をもらってもいいか?」
「いい。グウ約束守る。感情値やる」
グウはまだ、元気には見えないが、まあ、土偶なので、元々無表情に見えるのだが、その言葉がグウの口から発せられてすぐ、俺の頭に悪魔の囁きが聞こえてきた。
【ドの迷宮の意思を受理し、ドの迷宮は悪魔クローの支配地となった】
――おお。
「うまくいったようだ、ありがとうなグウ。あとで不純物をたっぷり置いて行ってやるからな」
「ほんと」
「ああ。ほんとだ。それで、あの辺りにゲートを設置してもいいか?」
俺は、迷宮内へと続いているだろうと思われるトビラの横を指差しつつ、ゲートとは何なのかグウに説明した。
「それなら大丈夫」
すこし元気が戻ったらしい、グウの許可も取れたので、俺は早速ゲートを設置する。
「……これで、よしっ、と!」
――ふむ。これで俺の使用空間から迷宮までの通路を確保した。帰りはこれで帰るか。
「あ、そうそう」
「何?」
「安全部屋にいる聖騎士たちには魔物を仕向けない方がいいぞ」
「もちろん、分かってる」
無表情のためか、どこか分かっていないような感じがするので、念のためグウに伝えておく。
「そうか、分かっているならいい。奴らは普通のハンターより強いからな、迷宮魔物の無駄遣いになるだろうし、それに、無事外に出て迷宮内の悪魔くずれ、えっとやつらにとっては凶魔か。
その凶魔を全て片付けたと大々的に触れ回ってもらわないと困るからな」
「ん。大丈夫」
どうやら本当に大丈夫のようだった。疑って悪いと思ったが、グウはまんま土偶だからほんとに感情が読みづらい。
――逆にニワは分かりすぎるくらい顔に出るんだけどな。
「じゃあ、俺はそろそろ帰るが、グウもたまには遊びに来いよ」
「ん。ニワにも聞いてる。落ち着いたら必ずいく」
「おう」
それから、不純物をグウの部屋半分くらい出し、くるくる小躍りし始めたグウの姿しばらく眺めた俺はゲートを使って屋敷へと戻った。
――――
――
時は少し遡る。
「はふぅ〜。……悪魔さま〜」
クローがグウの部屋へと転移したあとを、名残惜しそうに眺める見習い女聖騎士のその表情は、まさに恋する乙女そのものだった。
「これこそが、神の与えた試練だよ……」
そんなアンなのだが、少女とは思えない艶っぽい表情を浮かべたかと思えば――
「ふふ、ふふふ……」
膨らんでいく妄想が、あらぬ方向へと進みだした。
「ああ……悪魔さま……」
この妄想に浸る行為は、一見無意味にも感じるが、ことアンに限っては、まだ孤児院に保護される前、ひとりで過酷な環境を生き抜いていた時期に、妄想してはよく現実逃避をして、生きる希望を捨てずにいた。
それによって身につけたのが、この妄想体質スキルというもので、意図せず妄想に浸ってしまう行為も、このスキルの影響のためだ。
このスキルは、心の安定を保ち、都合のいい妄想が現実になったらいいね、という気持ち適度の力しかないのだが、ごく稀に、思い描いた妄想を引き寄せ現実のものにしてくれるラッキースキルでもある。
「そ、そんなこと……私にはまだ……」
周囲に止める者などいないアンの妄想はさらに膨らみ、徐々に興奮していくアンの表情はすでに真っ赤だった。
「もう、ああん……じゃあ、すこしだけ……」
ついには、指に嵌めた指輪を、潤んだ瞳で愛おしいそうに眺めたかと思うと、そっと唇を近づけた。
「ん、んん〜……ぶっ、ちゅぅぅぅ〜……、……、……ぷはっ、ぁん、悪魔さまって意外にだ、い、た、ん……」
もはや、妄想の世界にどっぷりと浸かってしまうのも時間の問題かと思われたその時――
「あいなっ!」
「ひぃっ!?」
ビクッ!
「すー、すー、……むにゃ、むにゃ」
「……」
「かわいい……ふへっ。むにゃ、むにゃ……」
「……むっ!」
ふと、傍で気持ち良さげに寝ているアルの存在に気がついた、というか、突然、大きな寝言を発したアルに驚かされ現実に引き戻された。
「……アル」
すると、少し幼さの残る可愛らしい顔をしたアンの表情は一転、わなわなと身体を震わせたアンの目がすーっと座り、片眉がくいっと吊り上がる。
「……いいところだったのに」
そう言うが早いか、アンの右手が気持ち良さげに寝ているアルの頭を遠慮なく引っ叩いた。
「うわっ、つっ! なに? なに、何があった!」
驚き慌てて勢いよく上体を起こしたアルは状況が分からず、きょろきょろと辺りを見渡しているが、アンはそれだけじゃ腹の虫が治らない。
「ふんっ!」
不機嫌さを隠そうともしないアンの頬は膨らみ、額には少女らしからぬ青筋が浮かび上がっている。
それは、とても先ほどまで恋する乙女の表情を浮かべていた人物とは思えないほどの迫力だった。
「ひぃっ」
この切り替えの早さもまた、まだ幼かったアンが、過酷な環境を生き抜くために身につけたすべでもあった。
「アル。起きたなら早く立てば」
「え、え……ア、ン?」
「そうよ。なに、ほかに誰がいるっての」
「へ、いや、あはは……俺、まだ寝ぼけていたわ(……魔物が襲ってきたかと思った、なんて口が裂けても言えないな)」
「ふーん。じゃあ、さっさとあの、部屋に入るよ」
「……部屋って何。え? ここって、どこなの?」
アルがアンの顔へと視線を向けたかと思えば、首を傾げ疑問符を頭の上に浮かべた。
「……アル……ここはドの迷宮。私たちは隊長たちと凶魔討伐にきた。正式には悪魔くずれって言うらしいけど、それで部屋はそこ。目の前に見えてるトビラの先」
そう言ってアンが安全部屋のトビラに向け指差した。
「あ、あ……そうか。そうだったね」
そして、ゆっくりと立ち上がったアルが自身の違和感に気づき――
「……あれ? なんで? 俺の鎧、腹部が無いし、ボロボロなんだけど……あ、右腕に、右脚のパーツも無くなってる」
不思議そうに、ボロボロになった己が身につける聖騎士の鎧に触れ首を傾げた。
「アル。覚えてないの? あんた凶魔にやられて酷い有り様だったのよ」
「凶魔に、やられてた……」
「そうよ。ほとんど死にかけてたんだから。私は死んでると思ったもん」
そう言ってうんうんと頷くアンを見るが、自分の身体にキズ一つなく信じきれないアルが首を振る。
「あはは……死にかけてたって、そんな大げさな……だって俺、どこもケガしてないぞ」
「ほんとだって。悪魔さまが居なかったらアル、あなた本当は死んでたと思う」
「死ん、でた……俺が……」
「そうよ。キズが酷すぎて、私なんて見てられなかったけど、悪魔さまがあっと言う間に治したんだから」
得意げに話すアンの話を聞いるのか、いないのか。だんだんと自分の身に起こったことを思い出したらしいアルのその表情は、だんだんと悪くなる。
「……そう、だ。なんで、今まで忘れていたんだ。俺はあの時、凶魔に襲われて……」
己の右腕を抱き寄せるようにして、震え始めたアルを見て、これはマズイと思ったのか、アンが急に話題を変えようとした。
「はいはい。もう過ぎたことだから、悪魔さまに感謝して、私たちはさっさと隊長たちと合流するの。もう目の前なんだから」
そう言ったアンは、頭の中を整理しきれず戸惑いを見せるアルをわざと置いて、さっさと安全部屋へのトビラの方へ向かった。
そうすれば考えるのをやめ、慌ててアルがついてくるだろと思ったからだ。
これは、何だかんだ言ってもアルは一人になるのを嫌がるのを知っての行動だ。
「……俺、必死に対抗してたけど、死にかけて……で、悪魔さ、ま? に感謝? ん? ……悪魔に感謝ってなんだ! 仮にも俺たちは聖騎士だぞ!」
「え、な、なによ急に……怒って……」
悪魔さまに助けられたから感謝するよう言ったのに、そう言った途端豹変したアルの態度に今度はアンが戸惑ってしまったが、アルが治療される一部始終を見ていたアンは、助けられたにも関わらず、感謝すらすることなく、怒りを露わに豹変したアルにだんだんと腹が立ってきた。
「うるさい! あの悪魔さまは特別なの。ほかの悪魔とは全然違うんだから。
ここまで連れてきてもらうのに私は契約したけど、結局、対価なんて払ってないし(アンはそう思ってる)あんたのキズだって何も言わずに治療してくれた。
アル。あんたほんとは手も足も命も無くなってたんだからね。それを、そんな言い方して許さない!」
「うっ……しかし、だな……俺は、立派な聖騎士にならなきゃ……アイナを迎えに行けないし。ほ、ほら。お前も神父様に教わっただろ……悪魔にいい奴なんていないって」
アンは知らないが、アルは一度、悪魔大事典を召喚して苦い経験をしたことのある。
そのためアンの話は、到底受け入れ難く、信じたくもない話だったのだ。
「いるよ! 悪魔さまは特別だもん」
その後、何度説明しても引き下がる様子のないアルに、辟易したアンは――
「はいはい。もうそれでいいよ、この恩知らず」
アルを睨みつけ、さっさと安全部屋に入っていった。
「うっ。いや、そんな怒らせるつもりで言った訳じゃ……お、おい、ちょ、お前、待てって……置いていくなよ」
そして、アルも追いかけるように部屋と入っていった。
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