スケルトン コウコの進化は柔らかい、俺の進化は粉っぽい
コウコ、ドジっ娘は現実だと鬱陶しいだけだぞ?
なんで左手でアルクバートの尺骨持ったの?
確かにさ、3人で相談したよ。
魔物倒しまくってまずはスケルトン脱却ってさ。
『側近』ちゃんの可愛さにやられてテンション上がってたもんね、見ててわかったよ。
「それでもまた狂って攻撃とかないわぁぁぁ!」
俺は今、体の横を飛び過ぎていった肉片を見なかった事にしたい。
目玉のようなものや、腕、なんかの体液等々。
すぐ後ろから響いてくる"ぐしゃぁ!"という音の後に飛んでくる。
俺がとめない限り魔物達は狩られるだろうことは予想できる。
コウコバーサクモードはかなり強かった。
【不思議です。魂に直接語りかける私の言葉すら届きません。もしかしてアルクバートは『魔王因子』を失っていない·····?】
『側近』ちゃん!
そんなことよりもコウコ!
俺いつまで走ればいいの!?
·····あ、今右足の薬指の中足骨落ちた。
【·····ぶつぶつ·····もし·····ート·····他·····】
おやぁ?
魂に直接語りかけている俺の声が届かない?
おっかしぃなぁ!!
"ズガァン!"
やばっ、音近っ!
【·····かな·····あ、えーと。なんか分かりませんが粉砕骨折しました?】
ちっくしょぉぉぉ!
《収束レーザー》
俺はレイス状態からの魔法により、コウコの左腕を撃ち落としながら考えた。
思い知った、アルクバートの尺骨、消し飛ばすなりなんなりしないと、俺が仲間に殺される。
────コウコ! そこになおれ!────
────·····ぅん·····ん、あぅ? ·····ここどこぉ? ────
【寝ぼけていますね? 精神を乗っ取られ過ぎてダメージを受け·····】
────コウコ、お前頭(精神)大丈夫か!? ────
【コウジ様って思ったよりも仲間思いなんですね。ですがその聞き方はないです。その発言が素ならば実家に帰るか考えるところです】
えぇっ!?
なんか『側近』ちゃんからの評価ボロカスなんだけど!?
コウコの心配しただけだぞ!?
────はい、元気です! 頭蓋骨大丈夫です! ────
ほら!
コウコも普通にしてるよ!?
俺の頭蓋骨と違ってどこにも異常ないし!
【そうでした·····、この人達スケルトンでした。無条件に人間基準で考えていましたが、中身が人間なだけで立派な魔物ですもんね】
どこか遠くを見ている気配を感じる·····。
『側近』ちゃんの優しさを踏みにじってしまったのか·····。
もう少し人間らしく、
【それでこそ魔王を目指すお方です! 私側近、心を入れ替えてコウジ様により一層尽くしていきたいと思います!】
────テテテテ、テッテッテー────
────『側近』ちゃんの好感度が上がった────
何故だろう、人間らしくないことを褒められて素直に喜べない俺がいる。
まだまだ魔王道は始まったばかりか·····。
────『側近』ちゃん! 私は? 私はどうですか! ────
そこで空気を読まずにカットインしてくるコウコ。
仕方ないよね、こっちで20年ぼっちしてたんだもん。
人と触れ合う能力は、死ぬ前相当の16歳だもんね。
つまり精神年齢16歳や!
おっさんには真似できない·····。
【コウコはまずコウジ様の骨を壊したことを謝るべきでは? 常識のなっていない人は嫌いですよ?】
────はっ、そうだった! ごめんなさい! ────
────いや、大丈夫。いつもの事だから────
『側近』ちゃんはコウコを人のように育てたいらしい。
これは行くところまで行くと、傍若無人な俺に振り回されるかわいそうな一般人が出来上がるわけだ。
『側近』ちゃん、本当にそれでいいのかい·····?
────·····とりあえず、コウコの成果を回収しに行こうか────
────成果? なにかしてましたっけ? ────
────え? 嬉嬉として魔物を叩き潰して回ってただろ? ────
────えっ!?!?!? ────
【コウジ様、あまりいじると信じますよこの娘。確かにバーサクモードになったコウコは魔物を叩き潰してましたが】
────やってたの!?!?!? ────
【けれど、それはコウジ様を狙ってのこと。それを利用して魔物の近くを走って回ったのはコウジ様です】
────『側近』ちゃん、ばらすの早すぎー────
────コウジさん! ひどいですっ!────
とまぁ、2人してコウコをいじりつつも来た道を引き返し、料理された魔物らしき物の中から魔石を回収していく。
コウコとリンクした場所まで戻り、ここまでで集まった魔石の数を数えると、20個と少し。
少しの理由は攻撃を受けたものも集めたからだ。
破片まで集めたのは·····食うだけなら美味いことに気づいたからである。
ステータスの上昇としては微々たるもののため、嗜好品に近い。
ちなみにコウコは美味しく感じないらしく、この破片は独り占めだ。
おやつに破片魔石をポリポリ食べつつ、落としてしまった右足薬指の中足骨を拾って元の場所に戻る。
慣れたもので、5個を並べてそこそこの魔力を込めてスケルトンに戻る。
レベルもあまり上がっていないのに魔力を込めても無駄だと思ったからこそのそこそこである。
残りの15個はコウコに1つずつ与え、進化するタイミングを見極めることに使う。
11個でコウコの意識がなくなり、その場に崩れ落ちたので、残りの4個は俺の強化に使わせてもらおうかね。
都合のいいことに強化にはある程度の緩さがあるらしく、手は魔石1つで強化できるらしい。
骨の数数えようとして嫌になったので、まとめて強化できるのはありがたい。
ま、その分数は必要みたいだけど。
普通最初って1つで1レベとか上がるもんじゃん。
なんで4個与えたのに変化ないねん。
【変化はありますよ? 骨密度が4%上がってます。ちなみに骨密度は70%以下が危険とされており、4%上がっただけではまだ危険域です】
·····骨密度って魔石で上がるのか。
【加えて、骨密度だけでなく骨質も骨粗鬆症に関係があり、優先順位として骨密度の回復に魔石が使われていますので、密度が理想値に達してから骨質の改善に魔石が使われるようになります】
·····つまり果てしないと言いたいわけだな?
しかしながら、コウコは進化で寝ているし、俺もできることをしなければ。
スケルトンの魔王になるべく転移したはずなので、スケルトンの動きでも確認してきますかね。
コウコの中から『側近』ちゃんが見ていてくれるため、結構自由に動くことができた。
スケルトンであっても物理に限らず魔法は使えるので、魔物を追いかけてそれなりの距離を離れたりもした。
道中に強化をして先に進むのは、何となく前世のRPGを思い出してはしゃいでしまった。
疲れて戻ったのは半日くらい経ってからではないだろうか。
『側近』ちゃんからのお叱りを覚悟して戻った俺の目に映ったものは、全身の骨が波打つコウコの姿だった。
·····眼球ないけども。