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魔王を目指すスケルトン  作者: 単色蓬
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スケルトン うっかり粉砕骨折しました

 どうやら、魔力の扱いが簡単に感じるのは、『魔王の因子』が大きく関わっているらしかった。

 未知の力を初見で使えるなんておかしいと思ったよ。

 まぁ、心のどこかで「秘められし力が覚醒した!」なんて思ったりしなくもなくもないけどな!


 『魔王の因子』と『側近』のユニークスキルは、神らしきやつの力で転生ないし転移した者全員に付与しているらしく、今生きている魔王候補だけで3桁は存在しているらしい。

 つまり俺なんか全然大したことないってことだ。

 

「グギギャァ!」


 《ファイヤークロー》


 ────レベルが上がった────


 飛びかかってきたゴブリンの喉笛を、爪先に纏わせた魔力に火を灯し、熱により切り裂く魔法。

 魔物らしく体を使った魔法を考えてみた結果である。

 魔力消費で肉体がブレることもなくなり、最高効率でゴブリンを狩れる。

 これを5回程見せたことで、『側近』ちゃんの機嫌はようやく元に戻ったのだった。

 『側近』ちゃん、心配かけてごめん。

 けど、心配してくれてありがとう!


【······コウジ様、そろそろ魔石を採取してみては? 魔石の場所は魔物によって違いますが、ゴブリンの魔石は心臓の近くにあります。魔力を纏って攻撃することができるようになりましたので、魔石を持つことも可能になったのではありませんか?】


 そうか!

 小魔石を5つ集めて骨が治るなら、まずは魔石や骨に触れるようにならないと何もできない。

 そのための魔法の修行をしていた面もあったのか!

 流石は『側近』ちゃん!

 頼りになるぜ!


【······!? 解体では手間がかかりますし、空間魔法の適性を見てからでも遅くありません。まずゴブリンから魔石を回収し、別の個体から、魔石のみを手元に取り出すように魔法を発動させてみてください。上手く行けば解体せずに魔物から魔石を抜き取ることができるようになります】


 なるほど。

 空間魔法が適性にサラッとラインナップされていたから流していたが、物語によってはユニークスキル扱いされる空間魔法は伊達じゃないってことだ。

 生きたまま魔石を抜き取れれば戦闘も楽になるし、魔石に傷がつくことがない分、質のいい魔石を得ることも可能。

 ······空間魔法こそチートじゃね?


 とりあえずこのゴブリンから魔石を手に入れないと。

 魔力を手に集中させて物に触れられるようにはなったが、ゴブリンの胸元を引き裂く程の力は出せない。

 切開はファイヤークローで、取り出すのは素手で行った。


 初めて手にした魔石は、不思議な魅力を持っていた。

 思わず吸い寄せられると言えばいいのか、紫ベースの宝石のような石の中に、蠢いている銀河のような光の粒が、俺の意識を手放さない。

 客観的に見て呑まれていることは分かるが、意思に勝る体の動きによって、魔石を一口で飲み込んでしまった。


【欲に負けましたね。魔石は魔物の体内、厳密には魔石に吸収させることで、自身を強化することができます。これは経験値とは異なり、吸収すればする程強くなっていきます。レベルは上がらず進化も促さないので、進化し終えた個体が率先して行うことですね。取り込んだ魔石によっては見た目からして強化する『変質』が起こる場合もあるので、『変質』が発生した場合は相性のいい魔石ということで覚えておくべきでしょう】


 ······俺は食欲に負けたってことか?

 け、けど強くなるんだよな?

 悪い事じゃない!


【そうですね。意思の弱さを証明しただけです】


 さっきからそこはかとなく当たりが強い。

 『側近』ちゃん、俺なんか嫌われるようなことした?

 ······なんとなく冷たい気がするんだけど。


【······き、気のせい、です】


 そうなんかねぇ?

 ······あれ、俺の体、なんか密度濃くなってね?


【はい? ゴブリンが落とす小魔石で目に見えて強化されるはずは······は?】


 おや?

 『側近』ちゃんが固まってしまった。

 確かにゴブリンは雑魚の代名詞だし、その魔石から強化されるのも微々たるもんだろうけどさ。

 思わずフリーズするくらいに変化無いってことでしょ?

 あれだけ魅力的に感じたのにそれってのは、なんとなく虚しくなるぜ。


【はっ! し、失礼しました。いきなりステータスが倍になったもので驚いてしまって······】


 はぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁ!?


【ひゃっ!? も、申し訳ございません!】


 いやいや、『側近』ちゃんには何の問題もないよ!?

 ただ、ゴブリンの魔石1つでそんなに強化されたことに驚いただけ!


【正直今も驚いています。流石にゴブリンの魔石がコウジ様のステータスを倍加するような特殊な魔石とは考えられませんが、それ位の能力強化の恩恵が得られたと考えていいでしょう。端的に申しまして、魔石を吸収することでの成長幅が尋常ではありません】


 てことは、じゃんじゃん魔石を集めて吸収すれば強くなるってこと?

 レベル無視して?

 魔石集めてればレベルも上がるか。

 つまり一石二鳥?

 うますぎだろ!


【コウジ様、この際骨は後回しにして······】


 これより修羅に入る!

 

【コウジ様!?】


 『側近』ちゃんに心配をかけてぎくしゃくしたのも忘れ去り、俺はハイになってゴブリンを狩って回った。

 物理では時間のかかる魔物討伐も、スライムには空間魔法で核を抜き取り、ゴブリンはファイヤークローで魔力を節約しつつ速やかに討伐。

 不思議なことにこのダンジョンの主要生物である同族には会わなかったが、その分流れ作業のように魔石を集めることができた。

 魔石を奪い取っては吸収して次へ向かっていたので、最終的には自然回復を含めて、魔力を十分に残した状態で骨の元に戻っていた。


【全く! コウジ様は無茶ばっかりして! そんなに私に心配して欲しいですか!】


 面目次第もない。

 お手軽に強くなれると思ったら止まらなくなった!

 ほら!

 こうして小魔石5つ集めてきたし、俺の骨を治したい!

 どこかにやり方を教えてくれる、頼りになる仲間はいないかなー。


【なっ、仲間! こ、こほん。そうですね、コウジ様の唯一の仲間である私にどんどん頼ってくれていいんですよ! それで、骨の治し方でしたね? 骨を中心に据えて、魔石を正五角形に配置してください。配置が済んだら骨の上に立ち、魔力を骨に向かって放出するだけです】


 どういう原理でそうなるかは全く理解できないが、『側近』ちゃんの言うことに間違いはない!


【······そこまで信頼してくれていたんですね】


 ん?

 何か言った?


【いえいえ! なんでもありませんっ!】


 そ、そう?

 なら気にしないけど······魔石の配置はこんなもんでいいとして、込める魔力はどうするべきかな?

 これから俺の体が骨になるんだから、土台となる骨が弱ければまた粉砕骨折するかもしれない。

 ここは強気に8割位魔力込めてみるか?


【限界ギリギリでも問題ありません。これから肉体の変化と種族の変更で、数時間にわたって意識を失います。その間は無防備ですし、危険に備える必要はありません。問題は新しい体を魔力をけちったことで再び失うことです。骨の再生には危険を伴うならば、ここは強い体になるよう魔力に託すべきではないでしょうか?】


 治す時には無防備になり、どうしようもない。

 魔力を温存していても何もできない。

 ならばこそ、必要最低限の魔力で延命しつつ、新たな体に力を与える方が利口というわけか。

 博打ではあるが、理にかなった考え方だ。

 心配性の『側近』ちゃんが提案するには乱暴な案だとは思うが、断言する理由があるんだろう。

 

 俺は魔石を数多く取り込み、かなりのゆとりを得た魔力の9割9分の魔力を消費して、骨の再生に当てた。

 『側近』ちゃん。

 俺のことは任せた!


【······かしこまりました】


///


 『側近』ちゃんや、何このボロッボロの骨。

 俺の体ながら情けないんだけど······。


【まぁ、コウジ様の総魔力は300ですから、9割9分の魔力を使ってもたかが知れると言いますか······。逆に考えてください! 300近くの魔力を使っても普通のスケルトンにならないくらい、スケルトンとしてのスペックが高いのだと!】


 あからさまなフォロー入ったー。

 その考え方はどうなんだ?

 この体、まだ骨粗鬆症のままだぞ?

 立ち上がる時尻餅ついたら尾てい骨折れたし。

 笑って流せない異常だ。

 まだ見たことないけど、同族のスケルトンと殴りあったら確実に負けるだろ。

 

【······『変質』するしかありませんね。骨密度を上げたり、骨の再生速度を上げるような『変質』をするしかありません! 大変心苦しいのですが、『変質』の条件は個体差があります。私が調べて教えることはできないので、頑張って色々な魔物を倒して下さい!】


 アカシックレコードォォォ!

 いや待て、諸説あったけど、世界の全てって未来も含んでたよな?


【未来に関する閲覧は禁止されています。なんでも未来を見てしまったら、魔王候補が思い思いの動きをしてくれないからだそうです。確かに死ぬ未来を見てしまったら引きこもるかもしれませんからね】


 誰だって好き好んで死にに行きたいわけがないか。

 未来が分かれば悪いこともし放題だからな。

 さて、無事骨を取り戻したことだし、早速骨太になるために魔石を集めますか!

 お、噂をすればゴブリンが来たぞ!


【レイスからスケルトンになったので、戦闘方法が変わり······】


 ────ガシャン!────


 あ、壁抜けできないんだった。


【······コウジ様の体を構成する骨が粉砕骨折しました。レイスへと戻りました。今度は魔石と魔力を増やしてからスケルトンになりましょうか】


 『側近』ちゃん、いつも悪いねぇ。


【それは言わない約束、です】


 スケルトンになって数分後、壁に突っ込んで骨の体をなくした俺は、再びレイスとして立ち上がった。


///


 霊体便利!

 もう骨粗鬆症の体なんかいらないっ!

 レイスとして第2の魔生を歩んでいくよ!

 

【確かに魔石を集めることはできています。肉体も人間のものに近似させた事で動きが良くなっています。以前よりもステータスがあがったせいか、殆ど人間のようになっていますね。言葉も話せるのではないでしょうか?】


 おおっ!

 異世界語を知らないし、話す相手がいないから言葉を話そうなんて思っていなかった。

 今度ゴブリンに話しかけてみよう。


 ────ザリッ、ザリッ────


 この地を這う音はスライムか。

 いつもは空間魔法で核を抜き取るんだが、他の魔法の練習もしておくか。

 闇は使い勝手が良さそうだし、すぐに慣れると思うが、アンデッド系統の魔物が光属性の魔法を使うのは想像できないな。

 ダメだ、ここで想像ができなければ魔法は使えない。

 発想の逆転をしろ。

 どう考えたらアンデッドが光属性の魔法を使ってもおかしくないか。

 生前が聖職者とかなら使ってもおかしくなさそうだが、ただのオタク中年に信仰心はない。

 人類に利する行動より、人類を害する魔王になろうとしているんだ。

 いいイメージである光属性は益々ピンとこない。

 レイスが元々光属性を使う種族というのも、変身前のSAN値が下がる姿を知っているから信じきれない。

 

【光属性を神聖視している理由はわかりませんが、ただの魔法の一属性ではダメなんですか? 圧倒的光量で敵を焼き尽くしたりする魔法も使えるんですよ?】


 そうか、大量破壊魔法とも考えられるのか。

 回復に関しても水も使える場合があるし、光属性は必ずしも綺麗なものではない。

 そうだな、『側近』ちゃんの言う通り、ただの魔法だ。

 変な付加価値を付ける必要は無い。

 さて、スライムよ。

 君の特性かは知らないが、その遅さは俺の思考の時間を与えてくれた。

 くらえっ!


《収束レーザー》


 ────ジュッ!────


 あ。


【あ。蒸発しましたね】


 ────レベルが上がった────


 魔石を吸収しなくても、魔物を倒せば経験値は入る。

 レベルアップのアナウンスが、俺と『側近』ちゃんとの間に流れる沈黙を遮った。

 スライムの核だけを残して倒す方法なんてあるのか?

 

「グギャ? ······アギャッ!?」


 あ、通りがかったゴブリンが、収束レーザーで溶けた地面を踏んでる。

 あれは火傷じゃ済まないぞ。

 すっごい目で周り見渡してるけど、夜目がきかないゴブリンでは、俺を見つけることはできない。

 

【話しかけてみるんですか?】


 話······?

 ああっ、さっきそんなこと言ったわ!

 よし、異世界に来て初めての言葉を使うぞ!

 ゴブリンよ、心して聞くがいい!


「オッス! 俺、レイスのコウジってんだ!」


 普通の自己紹介だった。


「グル······ナ、オレ。コ······ツイ。ナニガ、アッタ?」


 ん?

 徐々に聞き取れる言葉になっていったぞ?


【『魔王の因子』の力ですね。魔王は大勢の配下を従える者です。そのために意思の疎通ができるような力が含まれています。発声ができない魔物との交流のために、念話も使えると思います】


 『側近』ちゃんとも頭の中で話してるもんな。

 念話ってのも、こんなもんだろ。

 ゴブリン相手に試してみっか。


 ────あー、ゴブリン君。聞こえるか?────


 ────なっ!? 頭の中に声だと!?────


 ────これ念話ってやつらしいよ────


 ────お前は誰だっ!────


 ────さっきも言ったけど、コウジだ────


 ────コウジダ? 怪しい奴め! 姿を見せろ!────


 ────襲う気満々だよな? な?────


 ────我々にとってはゴブリン以外全てが敵だ!────


 話にならねぇぇぇ!

 会話をするだけの知性はあるのに、柔軟な思考力を持ち合わせていない。

 打ち解けるには時間がかかりそうだ。

 彼とは縁がなかったということで、俺の糧になってもらおう。


【ドライですね。自分から話しかけておいて、会話が成り立たなければ即殺ですか。魔王的ですね】


 魔王目指してるからな!

 しかし暴君を目指すつもりは無い。

 弱肉強食の世界だ。

 これは仕方の無いことなんだ!


《収束レーザー》


【首から上が消し飛んだ······。容赦ないですね。この辺りの魔物相手では、もう戦いになりませんね。早く魔法に慣れて別の層に行きましょう】


 魔石集めでこの当たりの魔物は殺しまくったからな。

 『側近』ちゃんと話しながら移動しても、稀に魔物に会うくらいだ。

 けれど体である骨を置いて別の階に行くのは落ち着かないな。

 魔石を5こ集めてスケルトンに戻ってから下に行こう。

 

【下に行くんですか? てっきり地上を目指すものかと】


 外に行けば人間に会うかもしれないからな。

 転移してすぐに死ぬのは嫌だ。

 このダンジョンである程度強くなるまでは出るつもりは無い。

 

 そんな説明を『側近』ちゃんにしながら魔石を集め、スケルトンとして地下3層に移動したのだった。

 また安全な部屋で粉砕骨折して、レイスにもどっておこう。

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