投稿のテストがてら、昔書いた小説を上げて見ます
白い天井。コンクリート打ちっぱなしの床。窓のない、いささかの圧迫感のある部屋で、スチールの簡素な机を挟んで、パイプ椅子が置かれている。
机の反対側、奥の椅子には白髪交じりの老年の男が座っている。男は白髪交じり髪をかき回し、足を組みつつ机の上の資料を眺めた。国枝輝夫。50歳。なるほど堅実な人生を送ってきた人間の経歴情報が並んでいる。経歴の最後には「2016年2月27日自宅にて脳卒中にて死去」
ノックの音が響いた。ご丁寧に4回。就職活動の記憶を引き出してきたのだろうかーー僅かに苦笑しつつ「どうぞ」というと、緊張した面持ちのスーツ姿の男、国枝輝夫が入ってきた。
国枝輝夫はいささか緊張していた。
強烈な頭痛と共に意識を失い、救急車のサイレンや妻の悲鳴やら、そういった雑音のような音が聞こえたと思ったら、いつの間にか待合室のベンチに座っていたわけだ。
どうやら自分は死んだらしい。やけに落ち着いた気持ちでいたのも束の間、死後にも面接があると告げられた。――この面接結果が天国に行くか地獄に行くかを決めるのではあるまいか? 国枝はいわゆる葬式仏教。信心深いとはお世辞にも言えない。
無論、面接に入った国枝の心境は心地よいものではない。
面接官は緊張した面持ちの国枝に対して柔和な笑みを浮かべた。
「まあまあ、そう固くならずに座ってください」
「失礼します」
国枝は依然として表情を崩さない。死霊は皆こんなものだ。
「一応マニュアルに沿っておきますね」
面接官は手元のクリアファイルから一枚のA4の紙を取り出し、読み上げた。」
「一つ、この面接は天国地獄の振り分けには関与しません
二つ、死者は面接官に対して虚偽の内容を提示しないことを約束すること
三つ、ここで話した内容は死者の成仏後適切に処分されることを保証する
四つ、この面接は死者の内省を促すことを目的とする」
面接官は読み上げた紙をファイルに仕舞い、国枝に向き直った。国枝の緊張はいくらかほぐれたように見えた。その代わりに僅かな困惑が見えた。
「なかなかわかりにくいですね。決してこの面接はあなたを糾弾するようなものではありませんよ」
面接官は微笑を浮かべた。
「あなたの素性はざっと拝見しましたが、これであなたを判断するなんて乱暴なことはしませんから、安心してください」
「はあ……」
「さて、それでは面接の本題に入ります。
あなたは、何者ですか?」
「そう、ですね……私は国枝輝夫です。日本人です」
国枝は面食らった様子だったがそう返事した。なるほど真面目な男だ、と面接官は思った。
「そうですか。では、まず日本人というところにまずは焦点を絞ってみましょう。
あなたは日本のために何を成しましたか?」
「私は……私は、日本の会社に勤めることでわずかながら国家経済に貢献しました。税金もきちんと納めてきました」
「なるほど、ならば、ある人が日本の会社に努め、日本の税金を納めていれば、その人は人種や素性に関係なく日本人だとあなたは考えますか?」
「……」
「意地悪な質問でしたね。失礼しました。これが仕事なもので」
面接官は悪びれるような様子もなく、続ける。
「もう片方に行きましょう。あなたは国枝輝夫だと自身を評しました。
あなただけの国枝輝夫たりうる要因とは、何でしょうか?」