《 鼻孔 》 第二回
Li ekscitigxas al plano de komerco.
( 承前 )
さて、ひと月もたつと、グヮンも自分の体に慣れてきた。
気のむいたときに鼻や口に手をつっこんで、魚や鳥を捕らえては、工夫も大して加えぬやり方で食べてしまう。左の鼻の穴だけは、いまひとつ使い勝手がよくないうえに、年増女のように婀娜っぽい毒蛇が出てきてしまったことがあり、あまり手を入れないようにしていたが、口と右鼻だけでまったく苦労を感じることのない、所詮はなまけ男のひとり暮らしであった。
もともとグヮンの家は、彼の死んだ両親の代まで働き者ばかりが続き、深緑の藪が囲み赤土がめだつ貧村のなかにあっても、まあまあ多めの資産がつくられた。グヮンも、能なしであるかわりに野心もなく、贅沢などは疲れそうだからやらぬ、気楽さだけを望みとして、少々の生き恥などは平気、という性分。それゆえに、働かずに飯を食っていくたつきを得たいま、死ぬまでなまけたまま平らかに暮らしていけることになったわけである。
しかしやがて、グヮンが畑の手入れすら放りがちにしていることや、やけに野良猫たちが彼の家を好んで群れる様子が近所の住人たちに不審がられ、そこからグヮンの不思議な体のことが知れた。住人たちはみな、なぜあんな男が幸運を得たのかと妬ましく思ったが、なかに頭の多少きれる者もいて、いっそグヮンに能力を用いて途方もない大金持ちになってもらったらいい、そうなれば自分たちにも必ず得分という物が少なからずまわってくるさと、邪曲な方へ話を持っていくのだった。道をつくるのも橋をかけるのもすべてグヮンを先頭に立てて銭を出させよう。役人どもに渡す賄賂、医者をよそから無理やり引っ張ってくる割増し代、さらにはここらの住民全員の税でさえ、あいつを大物傑人とおだててやれば、引きだせるかもしれぬぞ、と得意げに提案してみせたが、なんのことはない、蠅のように生きる村人たちが、グヮンの家にこれまでもときおり押しつけてきたことを、規模をかえてやることになっただけであった。
世間ずれとは縁のなかったグヮンのこと、野心は持たなくともいろんな人間からおべっかを言われ、村のためにも大いに稼いで両親のようにみなから感謝されるひとになっておくれと頼まれ、さらには村のそとの美しい娘の噂なども吹きこまれて、うまくいけば、いや、うまくいくにきまっているが、どこの土地のどんな身分の娘であろうと嫁に迎えるのは思いのままよ、元気な子をつくって家を継がせるのは親先祖も泣いて喜ぶ孝行だよ、ついでに猫も飼い放題だよとまで説かれては、なまけ癖に慣れた頭にも血が巡りだし、似あわない意欲に胸膨らませて、能力を使った商売に乗りだして若旦那と呼ばれる気になった。
さしあたり町の市までちょいちょい出張っては新鮮な魚を少しずつ売り、顔と名前を覚えてもらうのがよい、もちろん不思議な体のことは秘密にして、普通の行商人のようにふるまい、徐々に得意先を増やし商売の規模も大きくしていく、そのための助言者は誰と誰で、町の顔役にも協力をしてもらい、割前はこれこれ……と近所の住人たちが細かく決め、グヮンにも伝えてあったのを、おだてられたせいで眠れぬほどにのぼせたグヮンは、まるまるすっかりと失念、夜中から家を飛びだして、足りない月が照らす藍色の夜のなか、跳ねるように町へとむかった。
途中、莽莽とした野であらぬ方向に走りだしたり、不恰好なでんぐり返しをしたり、歌らしい奇声を上げたりして、夢想の奔出がまるでとまらぬ、たっぷりと寄り道をしたすえに、それでもどうにかこうにか、親が生きていた頃に連れてきてもらったことのある、ほこりっぽい町へと着いたのだった。
到着はしても、グヮンには市の決まりごとなどなにもわからぬ、挨拶にいくべきひとの名も忘れてしまい、ただ人通りの多く目立ちそうな場所に割りこんで、文句を言われても馬耳東風、さっそく口と右鼻に手をつっこむ。なにやらつかみ出してみせたその手から、むくむくと魚鳥があらわれたのには、珍事に慣れた町人たちでもさすがに驚いた。
若い犬のように得意げな顔で、さあ買ってくれ、買った買った、いくらでもいいぜと、知ったふうで無知まるだしな声を張りあげるグヮンを見て、町人たちは、ははあ、こいつはいかれてやがるのか、いかれたやつにはまあおかしなことも起こるものよなと無理やり納得、だとすれば、値を正す者があらわれないうちにさっさと買いこんでみたい気もするが、魚といい、鳥といい、生きてはいても、妙におとなしい様子、これはたしかに食えるのかと、いまさらながら気味悪く、人ばかり集まってきて、買う者がいない。
( つづく )
KONTINUAS:




