星の絵
むかし、むかし、魔法の時代、小さい女の子がいました。この子は、大きな森の近くにある小屋の中で、お母さんとお父さんで暮らしていました。まずしい家族でありますが、この女の子は、魔法を使えました。ですから、食べ物に困ったことはいちどもありません。
紙に書いたリンゴは、飛び出して、食べることができます。壊れて使えなくなった古時計も、あっという間に治すことができました。
それでも、ある日突然、お母さんとお父さんは、この子を家から追い出してしまいました。
それは、ここ最近、悪い魔女がたくさんいたので、王さまが家来を小さな町や村にも、魔女をさがしに行かせたのです。
「さあ、困った。うちの子が、魔女だとわかったら私らも、何をされるかわかったものじゃない」と、お母さんはいいます。
お父さんは、自分の子をかわいそうに思いましたが、こうなっては仕方がありませんでした。
さて、いま、女の子は森の中を歩いておりました。お母さんに渡されたたった一切れのパンを食べ終わると、お腹を空かせました。
ですが、女の子は、ちゃんとポッケのなかにチョークと紙を入れていました。
大きな木に背中をつけて、坐りこむと、女の子は、チョークと紙を取りだしました。
ですが、手がすすみません。
「ああ、紙はもうこれ一枚しかないわ。なにを書きましょうか」と、ぶつぶつ呟くばかりです。
こうしているうちに、夜になりましたので、女の子は、何も書かないで眠ってしまいました。
朝になると、女の子はまた、チョークを持ちましたが、紙にはまだ、なにも書きません。
「何を書いたらいいかしら」
こんなにも、書くものを決められないのは無理もありませんでした。女の子は、ちゃんと分かっておりました。紙にリンゴを書いて、リンゴが食べられても、しばらくすれば、またお腹が空くばかりであることも分かります。こうなってしまえば、自分がいくら生きていけるか分からないことも、分かっております。だから、紙に書くものを何にしたらいいか、ひどく悩んでいるのです。
「何を書いたらいいかしら。こうなりゃ、いっそ、好きなモノを書いちゃいましょうか」
そう言うと、女の子は、ようやくチョークで紙に絵を書いていきました。
書いた絵は、おおきな星でした。
すると、女の子は絵に書いた星に向かって言いました。
「お星さま、お星さま。出て来ておくれ。わたしを元気にしておくれ」
女の子のなげいた声は、森中に響きました。
すると、絵に書いた星は、銀色にかがやいて、絵の中から飛びだしました。
星は、クルクルと回転しながら、女の子の周りを踊っています。
女の子は、笑いだして、一緒におどりました。すると、お腹を空かせていることも忘れてしまいました。
その頃、お父さんは、やはり女の子を心配していました。(せめて、食べ物をもう少し分けてあげなくては)と、思って、片手にはパンを、もう片方の手には、チーズを持って、森の中へお父さんは向かいました。
森の中を、しばらく歩くと、お父さんは驚いて、立ち尽くしました。
女の子は、おおきな木のまえで、眠るように死んでいたのです。
よく、ご覧になれば、女の子の近くに置いてある紙には、絵が書いてありました。
お父さんは、その紙を拾って、女の子の書いた絵を、もっと近くで見てみることにしました。
そこに描かれていた絵は、おおきな星ばかりではありません。そのおおきな星の近くに、まだ子供のような、小さい星が書き足されてあったのです。
お父さんは、すぐに、描かれてある小さな星を愛おしく思いました。
お父さんは、その絵を大事に持って、家に帰っていきました。
すると、どうでしょう? お父さんもお母さんも、むかしと同じように、食べ物に困ることがなくなりました。
星の絵が書かれた紙を見つめると、かならず、リンゴや金貨が紙から飛び出して来たからです。
こうして、この家族は、一生豊かにくらしました。