表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

玄関開けたら2分でダンジョン!

作者: るっぴ

レンジ不要のインスタント小説です。 

さあ召し上がれ

玄関のドアを開けて「ただいま~」って、誰も居ないけどね。

今日からここが俺、橋戸はしど 朗流ろうるだけの家。

念願の一人暮らしを始めたから、食器とかホムセンで揃えてきたんだ。


さて、食器類をキッチンに置きに…あれ、キッチンのドア閉めたっけ?

ドアノブを握ると何かめまいがした。


初めての一人暮らしで気負ってるのかな?

ドアを開けるとそこは――



石壁の部屋だった!



なんで!?


キッチンはどこへ!?



「キャアアッ!」


何かが飛び掛ってくる!


思わず手を出して受け止めたら、華奢な女の子だった!

紫のケープに大きなリボン、そして木の杖を持ってる。


一体、何事が!


「来てくれたのね! 手伝って! あれを倒し…」


女の子が指差した先には、身長3mを超えるような巨大な灰色の肌をした巨人がいる!



状況が飲み込めない!


…はずなのに、なぜか頭の中は理解していた。

俺はこの女の子を助けるために呼ばれたんだ!


なんでだろう、頭の中に次々に浮かんでくるこれは。

心が落ち着いていく。

何、大した敵じゃない。

あれはトロールだ。

強力な再生能力がある。

血はそのままでは人間にとって毒だ。触れてはいけない。


そして俺には戦う力がある!

だが武器が必要だ。何か剣の代わりになるものが…


俺は急いでホムセンのビニール袋から買ったばかりの包丁を取り出す。

万能包丁って言うんだから戦闘にも役立つでしょっ!


<スキル:シャドウステップ発動>


女の子を壁に寄りかからせ、なぜか使える戦闘用のステップで忍び寄り、

トロールの脇へ回り込む。


トロールは女の子と俺を見比べて、どちらを攻撃するか決めあぐねているようだ。

好都合!


ならばこちらから!


トロルが女の子のほうへ視線を向けた瞬間を逃さず

俺は足音を殺したステップでトロールの足元へ忍び寄った。


この状況なら「あれ」が使える…!


<スキル:ソードダンス発動>


切りつけ、死角に移動、切り伏せ、死角に移動を瞬時に繰り返す!

トロールは切られる度に叫び声を上げ、ついに地面に伏して死んだ。


「戦いの最中では、迷いは驕りも同然だよ。」


ふうっ! 勝てたぁ


でもなんで俺はこんな技が使えるんだろう!?

頭の中でこれが使える事が瞬時に理解できたのは一体…

体が勝手に動くような不思議な感覚だった。


俺、戦闘どろこかケンカすらした事ないんだけど…


あ! っと! とにかく倒れた女の子を助けてあげないと!




女の子は壁からずり落ちるような形で横になっている。

わき腹を両手で押さえてるのは、さっきのトロールに攻撃されたからかな。


「大丈夫ですか!?」


その声で女の子は目を覚ましてくれた。


「うん…ありがとう。トロールは…?」

「大丈夫、もう倒したよ。」


「ひとりでトロールを…!? あなた凄い冒険者なのね。」

「えっ? いや、戦ったのは今が初めてだけど…」

「えっ?」


互いに見詰め合ってしまった。


「第一、俺を呼び出したのは貴女なんでしょ?」

「ええ…私の援軍召還で来てくれたのが貴方よ。 扉から来るなんて初めて見たけど。」


「俺の家のキッチンへ繋がるドアを開けたらここだったんだよ。」

「召還呪文でそんなケース聞いたこと無いわ。」


「なんか勝手に戦い方が頭の中に浮かんでくるし…って、そう言えば怪我してるんじゃない?」

「怪我は大丈夫よ。脇腹を強く殴られて気分が悪いだけ。

 それに簡単な治癒魔法なら使えるし。」


「ち、治癒…魔法だって!?」

「ええ、本職は元素系のメイジだけどね。」


彼女はそう言いながら杖を手繰り寄せて、何か小さな声でぶつぶつと唱え始めた。

途端に彼女の杖の先と左手がぼんやりと光って、その手を脇腹に当てている。


まさか…これ本当に魔法なのか!

確かに破れた服の隙間から見える肌から、綺麗に傷が消えていくぞ。


「凄い! 魔法なんて初めて見た!」

「その年まで魔法を見た事が無いなんて、そっちのほうが凄いかも。」


彼女はイタズラっぽく笑って言う。


「キッチンの扉が変な所に繋がるし、魔法を見るし今日は凄い日だなあ。」

「君はこの扉から来たのね…何か分かった気がするわ。」


「何が分かったって?」

「君はここの世界の人じゃないでしょう?」


何を言ってるんだこの女の子は?


「私の魔法、援軍召還で君の居る次元とここのダンジョンが繋がってしまったのよ。」


そうなんですかー。と適当な返事をしておく。

不思議系の女の子なのかな…


でも魔法使ったし、本当に別の空間と繋がってるとしか思えないや。

神隠しにあったのかなあ、俺。


「何か心配になってきたよ。 俺、ちゃんと戻れるかな?」

「扉が開けば大丈夫よ。 召還魔法は必ず送還魔法と組み合わせてあるからね。」


そう言いながら女の子はドアノブに手をかける。


「私の名前はアワルナーズ。また召還するかも知れないからヨロシクね。」


ウィンクをしながら笑顔を向けてくれた。


「俺は朗流。 ただの学生だけどね。」

「ただの学生が一人でトロールを倒しちゃうんだから、私達冒険者は立場が無いわね。」



アワルナーズと名乗ったその子は怪訝そうな顔をして首をかしげた。

二度三度とドアノブに力を込めてる。


「ひょっとして開かない!?」


俺はあせって聞いてしまう。


「あ、そっか。 ひょっとして回転式ドアノブを知らないのかな?」

「流石にそれくらい知ってるけど…開かないわねえ。」


「ちょ、ちょっと俺が開けてみるよ。 代わってくれる?」

「ええ、どうぞ。」


俺がドアノブを回そうとすると、簡単に回った。

恐る恐るドアを開けてみると…


良かった、リビングだった。

焦るぅ~


「何これ…ここが朗流の家なの!?」

「うん。と言っても今日越してきたばかりなんだけどね。」


「これは本当に別の世界だわ!」

「えええ?」


アワルナーズは部屋をきょろきょろと見回しながら興奮した声を上げてる。



「だって! さっきの部屋はザ・ダンジョンの5層目よ。 地下25mの場所だもの!」


「何を言ってるのか分からないけど、とりあえず座って話そう。 お茶でも出すよ。」


「え…ええ。 ありがとう。 私は今のうちに考えをまとめておくわ。」



彼女は右手を顎先に当て、左手を右の肘に当てて考え始めた。


そういえばキッチンに入るドアはこの有様だった…

どうやってお茶がある冷蔵庫に行くか。

外の自販機でもいいかな…50mも離れてない所に1つあるし。


そうだ! キッチンには勝手口があったんだった!

俺は玄関から外に出て家の裏に回っていった。


やっぱりあんな広い部屋と繋がってるようには見えないなあ。

空間が曲がるなんてSFみたいな事があるんだね。


勝手口からキッチンに入って冷蔵庫を開ける。

まだ色々用意すべきものが揃ってないから500mlのペットボトルのジュースしかないや。


ペットボトルをアワルナーズに手渡すと不思議そうな顔でキャップを見つめてる。

本当に別の世界から来たのかもしれない。

ペットボトルの開け方を知らないなんてね。


「ペットボトルの開け方はね…この白いキャップの所を握って横に回すんだ。

 こう…キュッとね。」

「こうね?」


案の定、少しこぼしてしまったが彼女も俺も別に気にしない。

彼女はペットボトルに口をつけて慎重に一口だけ飲んだ。


「…っ!? 水かと思ったら甘いわね! 何かしらこれ?」

「ははは、それは桃のミネラル水だよ。 それしか買い置きがなくてね。」


「桃…? そんな高級果実が実在するなんて。」

「おや、桃はそちらにもあるのか~。」


「実物は見た事ないわ。 話に聞いたことがあるけど味わうのは初めてよ。」

「それは良かった。」


二人でソファに座って落ち着く。

ソファは1つしかないので並んで座る方になっちゃうけどね。


「それで…そのザ・ダンジョンてのは別世界にあるものなの?」

「朗流から見たら別世界、別の次元と言ったほうが良いわね。」


彼女が大きく頷きながら続けた。


「ザ・ダンジョンは生きている、と言われているわ。

 常にどこかが形を変えて複雑に入り組みながら新しい罠やモンスターを生成してるのよ。」

「生きてる迷宮!? 生きてる迷宮って怖いなあ…」


「でしょ。でもそれだけに珍しいモンスターや装備や道具があるのよ。

 私もそれを見つけては売りさばいて生計を立ててるの。」

「一人で?」


「浅い階層なら一人で行くこともあるわね。 でも今回はパーティーだったわ。」


少し遠い目をして言った。


「”だった”…?」

「ええ…全滅したの。 転送の罠にかかってね。 恐らく皆生きてはいると思うけど。」


「なるほど。仲間とはぐれたんだね。」

「そうね。仲間とは言えない人達だったけどね…」


ははあ…これは余り深く聞かないほうがいいのかな。

話題を少しずらしてみよう。


「それでピンチになって俺が呼ばれたのか。」

「うん。あのガーダー部屋のトロールは強敵だったわ。

 私の実力じゃあとても勝てない。メイジだし、私。」


「その召還魔法ってのは別の次元の人を呼び出す魔法なの?」

「普通は近くにいる友好的な者を呼び出してくれるものよ」


あっ…察してしまった。


つまり本当ははぐれた仲間を呼び寄せる魔法として使ったんだ。

でも仲間じゃなく俺が呼び出された。


つまり、険悪な雰囲気のパーティーだったんだろう。

互いがそうだったのか、彼女に対してだけだったのかは分からないけど。


俺がそんな思案をめぐらせているとアワルナーズは続けた。


「それでこのザ・ダンジョンは常に形を変えて広がっているのだけど…」


「う、うん。」


「恐らく、広がってるのは空間的な意味だけじゃなくて、次元的にも拡大していたのよ。

 そしてこの朗流のいる世界に近づいていた。

 普通は次元、つまり世界と世界は近づいていたとしても、混ざり合うことはないけど、

 そこで私の使った召還魔法がきっかけで、次元の壁が破けて繋がってしまった。

 どうも、そういう事らしいわね。」


「次元の壁とか、なんか信じられないなあ。ピンと来ないし。」


「普通はそうでしょうね。私も時空系の魔法は専門じゃないから詳しくはないけど…

 でも私は自分の世界の言葉を使ってる。朗流も自分の世界の言葉でしゃべってる。

 それで意思疎通が出来てるのは変でしょ?

 これは世界と世界が次元の壁を突き破って、交じり合ってる状態だから起こってる現象に違いないわ。」


「世界が交じり合ってる、か…あ、でも、確かにさっき頭の中に知ってるはずの無い知識が沸いてきて、

 あれがトロールで、戦い方も動きも自然に理解してたなあ。」


「でしょ。世界が交じり合ってるからお互いの知識や技術が、言わば<翻訳>されるのよ。

 朗流は私の世界に翻訳されると、近接系戦士になるわけよ。」


「どうも俺はソードダンサーらしいよ。」


「ソードダンサー、それはまたレアな職業ね。」


「そうなの?」


「ええ、刃物系の武器をメインにスピードと間合いを駆使して戦うけど、

 魔法も使いこなす。 その本質は何でも屋よ。 器用貧乏なタイプが多いらしいけど。」


「ほほー。 そうなんだ。 俺って器用貧乏だったんだなー。」


「ソロでもパーティーでもこなして万能職と呼ばれているわ。

 ほとんどがソードダンサーとは名ばかりの魔法剣士だけどねっ。」


アワルナーズがペットボトルを飲み干して言う。

美味しそうに飲んでくれるなあ。

何だか嬉しくなっちゃうね。

お土産にいくつか持たせてあげよう。


「聞きたいんだけど、この交じり合った状態はずっと続くの?

 キッチンに入るのに、一々勝手口に回らないとダメなのは面倒だよ。」


「それなら安心よ。 朗流がルームガーダーを倒したから、あの部屋はしばらくすれば消えるはず。

 長くても10日を待たずして消えると思うわ。」


「それなら良かった。 じゃあそれで交じり合った状態も元通りになるのかな?」


「恐らくね。 さあ、じゃあ次元の壁が戻らないうちに、私はザ・ダンジョンに戻るわ。」


「もう!? もっとゆっくりしていってよ! 色んな話を聞きたいし。」


「ありがとう。でも私にもやらなきゃいけないこともあるし。

 私がこっちの世界に居る事で次元の交じり合いも戻りづらいだろうから。

 朗流、助けてくれて本当にありがとう。 改めて感謝するわ。」


「いいんだ。 貴重な体験だったよ。 アワルナーズとはいつか、また会いたいな。」


「私も! いつかゆっくりできる時が来たら、時限の魔法を学んで遊びに来るわね。」


「楽しみにしてるよ。 じゃあ…」


俺は手を差し出し、アワルナーズと握手した。

お土産に冷蔵庫にあったペットボトルを全部持たせてあげる。


アワルナーズが扉をくぐり、向こうから扉が閉められた。

俺は一つ大きな溜息をついてそういえばお弁当代わりに買ってあったパンがあったのを思い出し、

それもアワルナーズに持たせようと思って、声をかけるために扉を開けた。


そこは既にキッチンの空間だった――


もう戻ってしまったのか。

名残惜しさが胸に渦巻く。


世界が交じり合った状態は元に戻ったのに、あの感触はまだ手に残ってる。

体の動きも攻撃の技も覚えてる。


何日かしたら、これも忘れてしまうのかな。

記憶すら消えてしまうんだろうか。


技とかは忘れてもいい。

でもアワルナーズと会った事、あのどきどきした体験は覚えていたい。


今度会えたら、もっと色んな事を話したい。

言わなかったけど、凄い美少女だったしなー。




――そんな不思議な体験をした次の日


今日は近くのホムセンでバス用品を一通り買い揃えて来た。

シャンプーやボディソープはもちろん、掃除用具もね。

買ってきた品を一通り洗濯機の脇に置いて…


そうだ、シャワーだけでも浴びておこう。

ついでに浴槽を洗ってやればいいや。


俺は服を脱いで浴室の明かりのスイッチを入れた。

あれ? 浴室の電気が点かないぞ?


電球も買ってこないとダメだな…

と思って曇りガラスのドアをスライドさせると――



石壁の大きな部屋だった。



ああ、分かってる。

あれはヒドラだよ。 うん。


そこにいるのは紫のケープの少女――


「アワルナーズ!」



思わず叫んでしまった。


「来たのね! って朗流!? って! 何でハダカなのよ!」



俺は思わずこう漏らした。


「…よし。 引っ越そう!」




シャンプーとボディソープと浴槽洗剤、

どれがヒドラに効くか、貴方知りませんか?



         ―完―


お粗末様でした。


楽しい作品を見ると、それをお手本に一本、書きたくなりますよね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ