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1 口先三寸で食べる飯は死ぬほどうまい

「今日という今日はここから出て行ってもらう。これまで散々世話を焼いてやったんだ。まさか文句はあるまいな」

 腕組をした宿屋の主人は俺を威圧するように最後通牒を叩きつけた。顔は怒りで紅潮し、微かに震えているようにさえ見える。

 これは面倒なことになるかもしれないと警戒しつつ俺は落ち着かせるように説得を開始した。

「そもそもこうなった原因を考える必要があるだろう」

 主人の興奮は少しも収まらないどころか、ますます怒りが増幅されたようだった。

「原因も何もあんたがここから出て行かないのが悪いんだろう!」

 彼はそう言うとテーブルを大きく拳で叩いた。俺に対するパフォーマンスという面もあるのだろうがやはり本心から怒っているのだろう。

 少し切り口が不味かったかと反省しつつ反論を試みる。

「なるほどなたしかにそういう見方もできる」

 俺からの同意を得たと勘違いして少しだけ主人が落ち着きを取り戻す。

「そうだろう」

 そう主人は首を何度も縦に振って頷いた。


「しかし俺をそういう状況に追い込んだのは当のお前ではないか!」

 突然大声を出した俺に主人はビクッとしたあと理解が出来ないという表情で尋ねた。今がたたみかける時だと理解した俺は主人の返答を待たずに弁舌を続ける。

「毎日、毎日タダ飯を食らっていては労働意欲など消えて失せるのが道理というものではないか。お前はそれを分かっていながら俺をずっと養い続けたのだ。その結果俺はますます働くことが困難になってしまった。この責任を取るのは貴様の義務だ」


 俺の長口上を聞き終えた後に主人が静かに怒りをこめて言った。

「ふざけるんじゃねえ。たとえそうだとしてもお前を養うのにどれだけ金がかかっていると思うんだ。俺だって余裕があるわけじゃないんだ」

 俺は淡々と道理を説き始める。もう少しで説得できるだろうと踏みながら。

「利益を追い求めるのならば犬畜生にもできる。人間は利益より道理を重んずるから人間たりえるのだ。お前は道理よりも金を優先させる人でなしなのか」

  

 主人は反論したさそうな顔だったが適切な言葉が思い浮かばないようで黙っていた。そんな彼に勝利世間するように俺は言った。

「そろそろ夕食の時間だ。用意しなくていいのか」

 主人は口を開く事無く黙って頷いた。すごすごと立ち去ろうとする主人に声を掛ける。

「ワインが飲みたくなったんだ。用意してくれるよな」

 主人はすべてを受け入れたような諦めの顔で俺の要望を聞き遂げてくれた。

「わかった。持ってくるよ」


 主人が持ってきたワインを飲みながら笑いが止まらない。

 俺は異世界転生されるまでは典型的なニートだった。ちょうど親から家を追い出され途方に暮れていた所異世界に転生されたのだ。

 

 剣と魔法がある中世ヨーロッパのようなこの世界でどうやって生きていくべきなのか。最初の俺は途方に暮れた。もちろん働くつもりはない。だが一見した所異能力が発言したようでも内容だった。

 金は無いのだが野宿するのは嫌だったし、腹も減る。いっそのこと牢屋にでも入れられたほうがましかもしれない。そう思ってとりあえずこの宿に宿泊することにした。

 

 金が無いということは直ぐにバレ、宿の主人は俺を役人につきだそうとした。そこでやけくそになった俺は口先三寸で説得を試みたのだ。

 遠い異国から来てとても困っている。困った人間に一宿一飯ぐらい施すべきだなどと言い訳にもならない言い訳を並べてた。

 自分でも苦しいと思いながら反応を見ていると不可思議なことに宿屋の主人は泣き出した。

「どうしたのだ」

 と聞くとなんど彼は俺の適当な話を聞いていたく俺に同情したらしい。そして暫くの間この宿にただで止まって構わないと言った。

 あまりの厚遇に嬉しさよりも俺はむしろ不気味さを感じて呆然とした。

 

 段々と気づいたのだが俺の能力は会話の説得力が阿呆らしいほど増すということだった。大抵の無茶な要求は押し通すことが出来る。

 露天でただでものを買うこともできるし金そのものを恵んでもらうことだってできる。

 とはいえ万能というわけでもない。例えば宿屋の主人の説得が徐々に難しくなっている。どうやら要求が高くなるほど説得も難しくなるようだ。ここらへんは能力なしの普通の説得と変わらない。

 次の宿屋の探したほうがいいかもしれないと思いつつ俺はパンを口に放り込んだ。

 

 突然扉を激しく叩く音がした。主人が心変わりしたのかもしれないと思いながら扉を開ける。なんとそこにいたのは二人の美少女だった。


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