87話 ラインラント問題と英王室の混乱
第三者視点
1936年はイギリスにとって最初から波乱に満ちた年であった、1月には予てから健康状態の悪化が懸念されていたジョージ5世陛下の健康状態が極めて危険な状態になり、当時の王室は極めて微妙な状態となっていた、王太子であるエドワードは人妻であるウォリス・シンプソンとの結婚を望んでおりそのことで国王は「エドワードが王位を継げば一年も経たずに破滅するだろう」と言っていた、国王は真面目で誠実な次男アルバート(ヨーク公)とその孫娘のエリザベスに期待するところがあったがその事を心残りにしたまま1月20日に死亡した。
それからいくらかも経たないうちにドイツが非武装地帯に定められたラインラントに軍を駐留させた、フランスはドイツを上回る軍を持っていたが戦争の引き金になりかねないラインラントへの軍の進行を決断できず、イギリスに相談した、イギリスも決断できずに国連に図ることにした、この初期の動きの遅さがドイツに余裕を与える事になる。
イギリスの首相スタンリー・ボールドウィンは同盟国である日本に相談する事にして丁度訪英していた高官と協議することにした。
「ドイツの進駐は断固として阻止すべきです、ここで彼らを勢いづかせてはいけません」
日本政府の派遣した軍事顧問の肩書きを持つ男は断言した、ここで要求を呑むことはさらに相手を付け上がらせることになると。
「うむ、だがフランスは完全に及び腰だ、あれでは軍の派遣は同意しそうに無いな」
「ならばイギリスだけでも動くべきです、フランスはマジノ線の守りを固めてもらいましょう、我が軍の欧州派遣部隊も動きます、その為にこの地にいるのですからね」
「だがこの情勢で戦争を起こす事はできん……」
「ドイツ側としてもここで戦端を開く事は望んでいません、ここは我慢比べです」
「わかった、軍と相談してみよう」
こうしてイギリスは海軍を派遣してドイツに牽制を掛ける事になる、ラインラントはベルギーとフランスに囲まれた内陸部にあるために直接陸軍は送り込めない為にドイツの沿岸部に送って圧力を掛けたのであった、その中には日本の遣欧艦隊もおり揚陸部隊も擁していてこれが唯の脅しでない事をアピールしていた、このためドイツ軍はラインラントから撤収することになる。
「フランスが動かなかったのにイギリスに日本め余計な事をしてくれる、今の我が国には彼らに対して対抗できる戦力はまだ無い、撤収するしかなかろう」
国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党 )の党首で首相のグレゴール・シュトラッサーは悔しがったがその配下の全ドイツ警察長官と親衛隊全国指導者を兼任するヒムラーや航空大臣を勤めるゲーリングは異なる見解を持っていた。
「やはり、グレゴールでは国民への指導力が不足しておりますな、だから弱腰になる、フランスが動かないのであればどうにでもなるのです」
「奴では駄目だな、我々をも使いこなせる人物がいれば良かったのだが」
彼らは知らない、本来なら彼らを信服させるに足る指導者が遠く日本に行かされた事を、ある一人の転生者がそれを為したことを、この後彼らがどの様な決断をするかはまだ判らない。
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一応ラインラント問題は終結した、国連でドイツの行為は批判され、ラインラントからの撤収は当然であるとされた、代わりにドイツは自国防衛の為の軍備の増強を訴え、これには一部は容認された。
その間にもイギリスの王室は揺れていた、エドワード8世となった王太子であったがウォリス・シンプソンとの結婚を公言するようになり、このままでは王室のスキャンダルとなるのを懸念したボールドウィン首相は断腸の思いでエドワードに退位を迫る事になった、王位か恋かを迫られた王は退位することを認め、弟のヨーク公アルバートが次期国王となることが決まり、このときアルバートは王位が回ってくることを考えていなかったため非常に動揺していた。
「私は何の準備も勉強もしてこなかった、これは酷いよ」
こう言って自分の身の上を嘆いたと言う、1937年の5月12日に戴冠式が行われる事になったが、これは元々エドワード8世の戴冠式の予定日であった。 その間にアイルランドの独立も起こったが王室の混乱を受けての事と言われても仕方の無い事であった。
その戴冠式に同盟国日本は誰が参加するかと言う話になったが今上陛下の強い希望で自身の参加が決まった、これは前ジョージ5世に訪英中に親切にしてもらったご恩返しをしたいと言うことと王位をめぐる問題を抱えるイギリスに少しでも援護ができればと言う配慮であった。
その為陛下の行幸に際しては戴冠式を記念して行われる観艦式に出席すると言う事で特別編成の艦隊が編成される事となった。
編成されたのは以下の艦艇である。
嚮導艦 戦闘指揮艦 夕張
御召艦 戦艦 比叡
直接護衛隊
護衛隊旗艦 戦艦 金剛
第5戦隊 巡洋艦 足柄
第2水雷戦隊 第7駆逐隊(朧・曙・漣・潮 )
第11駆逐隊(吹雪・白雪・初雪・深雪)
間接護衛隊(支援部隊)
空母 赤城
第6駆逐隊(暁・響・雷・電 )
多目的輸送艦 大隅
タンカー他
以上の艦隊が日本を出立するとそのニュースは世界を駆け巡り両国の同盟の強さをアピールしたのであった。
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