82話 演習とヤンマーショック
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譲視点
富士山麓演習場で新型戦車のお披露目が行われることになった、当然の事ながら総研が裏で動いて作ったものなので見に行く事にした、案内役は原乙未生中佐{日本戦車の父}と呼ばれる人物だ。
「三十五式の件ではお世話になりました、まさかあれほどの物だとは思いませんでしたよ」
「欧州の列強は戦車の開発に余念がありません、それに遅れをとるわけにはいきませんからね」
原中佐の賞賛に当然と答える、この時期急速に戦車は進化して行くのだ、史実の日本がここで遅れてしまったのが命取りになってしまった。
今回はそうは行かない……
演習場に着くと重低音が響き戦車が走りぬけていく、そのフォルムは今までの戦車とはまるで違うものであった。
「今から三十五式中戦車による射撃訓練を行います」
会場におかれたスピーカから案内の声が流れる。
エンジン音を響かせて登場したのが三十五式でその性能は以下の通りである。
三十五式中戦車(開発名チハ)
全長 8.55メートル
車体長 6.5メートル
全幅 3.2メートル
全高 3.3メートル(車載機銃含む)
重量 33トン
懸架方式 トーションバー方式
速度 55キロメートル
変速機 トルクコンバータ付きオートクラッチ
エンジン 三菱 空冷4ストロークV12気筒ターボチャージドディーゼルエンジン600馬力
装甲 砲塔110ミリ 車体前面60ミリ
主砲 三十五式60口径75ミリライフル砲
まあ……なんと言うか前世の自衛隊の61式戦車に良く似た物になってしまった。
実はあの戦車は戦後日本が始めて作った物だけに最新技術が盛り込まれずその分最強ではなかったが、この時代では完全にオーバースペックだよな。
お陰で再現するのは割とやさしかった、トルクコンバータは苦労したが、川崎重工とトヨタ自動車の出資で作ったアイシン工機が開発に成功した。
言うまでもないが恐慌を隠れ蓑にした技術チートを与えている。
車体の担当は三菱であるが一社で担当するにはきついので幾つかに分担して担当してもらった、小松製作所といすゞ自動車に走行部分と操縦器部分を担当してもらっている。
今回のエンジンのコンペがなんかものすごかった……
前回の大戦前に大発用のエンジンのコンペで三菱やいすゞのエンジンを押しのけて当時町工場のヤンマーが採用になったので大変な騒ぎになった、ディーゼルエンジンの業界では{ヤンマーショック}と呼ばれているらしい。
特に三菱の技術者のプライドは粉々になった、その後あのエンジンは当初ガソリンエンジンを積む予定であった十四式戦車(現在名十四式軽戦車)にも採用されて両者からの受注はものすごい事になった、ヤンマーが新設したエンジン工場でも追いつかず軍から三菱やいすゞなどのメーカーにも生産命令が出たくらいだ、
現在では漁船や小型船のエンジンに注文が安定して入ってヤンマーのドル箱になっている。
三菱では臥薪嘗胆状態で今度のコンペでは何としても取れと上から発破を掛けられ技術陣は夜昼徹して開発に明け暮れた、ターボチャージャーは自社製ではどうしてもまともなものが出来ず石川島播磨(IHI)に頭を下げて作ってもらったそうだ、IHIの担当が相手の狂気を感じさせる目を見てこれはあかんやつだと判断して供給する事にしたという笑うに笑えない話も聞いた。
コンペのまで最後の一ヶ月はデスマーチで入院者続出だったと聞いた、採用になったと聞いた技術陣は安堵の余り倒れる者が続出したそうだ。
「戦車小隊で射撃を行います、弾種徹甲目標は中央奥の的です」
約千メートル先に小さい丸い的がある、自動車くらいの大きさなんだとか。
「第一小隊射撃……撃て!」
その直後に二両の戦車の砲が発射される、砲の先に砲の反動を緩和するマズルブレーキが付いており砲口から赤い炎と共に弾が発射されるとマズルブレーキから発射のガスや煙が吹き出ている。
マズルブレーキだと命中率に影響が出そうなので駐退復座機の強力な物に変えないといけないな、要研究だ。
「だんちゃーく、今!」
発射された弾は見事に命中した。
「続けて第二小隊は目標前面を右から左に走行しながら発射します」
まさか?行進間射撃をする気か!
原中佐を見ると笑っている、サプライズの積りなのか!
発射された砲弾は見事に千メートル先の的に命中した。
行進間射撃は恐ろしく難易度の高い砲撃だ、動く相手に此方も動きながら射撃するのだから当たらなくて当然で基本は牽制の射撃である、前世では最新の高度な射撃菅制装置や照準装置が無いと無理だと思ったんだがな。
「今乗ってる連中は教導団の連中です、全国の戦車兵の教官クラスですな」
教官クラスって化け物ばかりなのか?
非常に驚かされるお披露目であった。
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「では、これはあくまで基本形という事ですか?」
原中佐聞いてないよという顔をしてるけど言ってなかったからね。
「そうだ、列強の戦車は直に追いつき追い越そうとするだろう、そのために三十五式には発達余裕を持たせている」
そう、砲の方も試作段階だがさらに大口径のを用意しているし、追加装甲も考えてある、その分重量が増すので速力は落ちる、三菱がエンジンの出力を上げてくれれば…言うと死人がでそうだな。
{まあ、これでもだめなら次のがあるけどな}
「なにか言いましたか?」
おっと思わず口にしていたらしい、気をつけよう。
さて、今度は空のほうも見に行かんとな、全く忙しいよ。
結婚で忙しい奴のことはほっといて急がないとな!
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