81話 頑固親父とインスタント食
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第三者視点
「{作ってもらいたい物}ですか?それは一体どの様な……」
そう問いかける井深に譲は用意していた資料を渡す。
「トランジスタ?真空管を使わずにラジオが出来る!」
井深に渡されたのはトランジスタの資料である、ユダヤ人物理学者ユリウス・リリアンフェルトの研究データと勿論偽装したそこから派生させたトランジスタのデータである。
そして資金の援助を行い会社を立ち上げさせる事にした、そのうち盛田昭夫も合流する事になるだろう。
その後幾人かに会い色々と仕込んでいたのだが、その人物は一際異彩を放っていた。
見た目はまるで{町工場の親父}である、眼鏡の奥には爛々とした輝きがあり只者ではない雰囲気を出していた。
「俺を呼んだのは何の用ですか?会社設立の準備があって忙しいんですが」
「航空機用のエンジンのピストンを作る会社だったかな?」
「どうしてそれを知ってるんです?」
「まあね、でもそれで満足なのかな?」
「どういう事です?」
「本当は飛行機が作りたい、飛ばしたいんじゃないのかな?」
「何で知ってるんだ……」
「その気があるのなら話を聞いてくれないかね、本田宗一郎君」
後に本田技研を立ち上げる若き日の本田宗一郎との出会いであった。
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譲視点
本田宗一郎……若い頃から{頑固親父}のオーラバリバリだったな。
ある{お願い}を聞いてもらったら航空機関係の仕事回すよって言ったら即答で{やる!}ときたもんだ。
番頭役に藤沢武夫を付けといたから商売で失敗する事はないだろう。
渡した物はいつものごとくフランスのあるメーカーで開発中であったが恐慌で倒産して流出した物だと説明した、恐慌のお陰で隠れ蓑が増えてありがたい話である、トランジスタなんかもその手でいけたしね。
トランジスタは時期的に急がないといけないから少し前倒しした。
盛田昭夫とか江崎玲於奈とかまだ学生なんだよな。
それにトランジスタの不良品の中から見つかるトンネルダイオード(江崎ダイオード)の発見者が江崎でなくなるかもしれん、ノーベル賞が別の人物の物になるかもしれないそれは許してもらうしかないな。
さて、そろそろ次期主力戦車(MBT main battle tank )の演習が富士山麓演習場であるから見に行かなくてはね。
欧州の状況も緊迫し始めてるし海軍だけを見ているわけにもいけないのだ牧野君たちにも頑張ってもらわなくてはね。
藤本君が居たらって思うのはもうやめよう……きっと皆が引き継いでくれてると思うから。
後面接は一人か、この人物は大事だから逃がさないようにしないとね。
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第三者視点
彼はここに呼ばれた理由が全くわからなかった、両親を失い祖父母に育てられて繊維会社を立ち上げ成功、大阪に新たに会社を設立し輸出入で稼いだ、扱う物を増やし製造業にも手を出し始めたところで声が掛かったのだ。
「それで、私に何を求めているんですか?」
「まあ、これを見てくれよ」
そう言って彼をここに呼んだ男は机の上の盆に袋からあるものを出した。
「片栗粉?いやこれは……」
「小麦粉だよ、因みにアメリカから輸入した物だ」
「小麦粉ですか、これを販売せよと?」
「いや、日本でも台湾でもおそらく小麦粉はそんなに売れないだろうな、加工して製品にしないと無理だよ」
「失礼ですがどの様な物にするんですか?パンにするのが手っ取り早いですが日本でも台湾でもパン食は普及してませんよ、うどんなんかの麺にする方がいいと思いますが生めんは保存が利かないし皆手作業で作ってます、製麺機でもあればいいんですが」
「流石だね、実は乾麺にして保存しやすくして、お湯をかけるだけで食べられるようにしたら売れるんじゃないかと思ってね、勿論軍では大歓迎な食料になるね」
「ですが何故私なんですか?私は台湾出身です、日本人に依頼するのが普通でしょう」
それを聞いた相手の男、総研所長の平賀譲は頭を掻きながら言った。
「確かに台湾は日清戦争以降に日本の領土になったけどそこに住んでる人たちを差別する気はないよ、無論すべての日本人がそうではないかも知れないが少なくともこの総研と自分は君を同じ同胞として扱うよ」
それを聞いた彼(呉百福)は驚いた、未だ嘗てここまで言い切った日本人は居なかったからだしかも真剣さがひしひしと伝わってくる。
「判りました、やりましょう!」
「そうか、やってくれるか!」
快諾した百福の手を取り喜ぶ譲は彼に{油揚げ乾燥麺}の研究レシピを渡す、例によって恐慌で倒産したアメリカのメーカーの物だと念を押してである。
こうして呉百福後に安藤百福と名乗る青年は研究の末{チキンラーメン}を完成させる。
それを譲に見せに来たとき彼がどんぶりがないからといって大きな湯のみでチキンラーメンを作るのを見てカップヌードルの発想を得て開発に成功すると保存の利く携帯食として防衛省から大量注文が入り彼は新会社を設立した。
後の日清食品である。
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