80話 鎮魂と更なる開発加速
※ 投稿が遅れておりすいません
※ 12/10修正
第三者視点
査問会から一ヶ月が経ったある日、譲は久々に艦政本部第4課に足を運んでいた、向かったのは故藤本少将の部屋である。
そこには福田啓二大佐、松本喜太郎少佐、牧野茂少佐らが集まっていた。
「これが{A-140}計画書です、藤本少将は{事故}が起こるまでは毎日遅くまでこの計画に掛かりきりでした」
福田大佐が説明する、譲は計画書を手に取りめくっていった。
{A-140}は前世では大和、武蔵の元になる計画書なのだが藤本少将が設計したということにはなっていない。
1936年から計画がスタートした事になっているからだ、メンバーは譲が非公式に関わってここに居る三人が主に設計をしたことになっている。
つまりこれは藤本少将が大和を作るとしたらどの様になるのかを示している。
色々な艦形のバリエーションが記されている、排水量が8万トンから5万トンまで主砲の口径が20インチから16インチまで検討されていた。
その中のF-5という型に丸が付けられており赤字で{最適解}と記されていた。
その中身は……
基準排水量 66500トン
全長 270メートル
全幅 37.6メートル
主機 従来型20万馬力 形式不明(新型機関)28万馬力
速力 従来型で29ノット 新型機関 33ノット
航続距離 16ノットで6500海里(予定)
兵装 45口径46センチ3連装砲3基(※50口径要検討)
60口径15.5センチ3連装砲2基
60口径12.7センチ高角砲12基
12.7ミリ武式機関砲連装40基(予定)
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譲視点
なんと言うか史実の大和の最終改装型に近いのであろうか?新型機関は恐らくは噂になっていたガスタービンの事だろう、牧野君の話ではディーゼルと思っていたらしいが。
シルエットも史実の大和に近く見える、恐らくは藤本少将後を継いだこの3人が今までの彼の設計を参考にしたために史実の艦がこの形に近くなったのかも知れない。
俺はファイルを閉じて溜息をついた。
「平賀さん」
福田大佐の声を聞いて我に返った。
「彼は本当に天才だな……」
「どうされたんですか?」
牧野君の質問に答える。
「この艦の対空兵装の充実振りを見たまえ、近い将来航空機が水上艦への脅威になりうることを想定している、水線下の防御もそうだ、航空魚雷の攻撃を想定しているな」
「そこまで判るんですか?」
「高角砲と機銃の数と配置が半端ではないからな、ハリネズミのようだ」
「確かにこれは凄いですね」
「ですが軍縮条約が失効しない限り日の目を見ない事になりそうですね」
松本少佐が溜息をついた、これだけの力作がお蔵入りなのが悔しいのだろう。
「そうでもないだろう、日本とイギリスは条約延長を模索しているが米国がな」
「今回は強硬らしいですね」
今年大統領選挙が行われる為、次期大統領候補たちは軍縮条約の大幅改正が認められなければ条約脱退をほのめかしている、特に民主党のフランクリン・ルーズベルトはかなり強硬で{強いアメリカ}を標榜している、ハルハ川の戦いで破れたのは現職大統領には逆風だな。
「では無条約時代になると?建艦競争が再燃したら……」
「いや、今回は日本もイギリスも動かないよ」
現在でも維持に苦労している両国がこれ以上増やすとも思えない、むしろ減らしたくてしょうがないのに……
旧式艦の代艦として作られるような予感がする。
「ですが愛宕と足柄の話は本当なんですか?」
松本少佐がジョージ・サーストンの話を聞いてきた。
「あの二艦は欧州派遣艦隊にいるだろう、スカパ・フローと東プロイセンの間を行き来してるんだ、目にする機会は多いからね」
彼らの話はイギリス人たちがあの二艦を見比べて語っている話になった。
「足柄は確かに見るからに強くみえる、獲物に飛び掛る猟犬のように勇ましい、対して愛宕は非常に優美な曲線が美しい艦だ、それも強さに裏打ちされた美しさだ」
俺がジョージから受け取った手紙の一節を披露すると福田大佐が同意する。
「確かに高雄型のあの艦橋には驚きました、ですがよくよく見ると非常に理に適ってるんですよ」
このクラスの重巡洋艦は艦隊司令部や戦隊司令部の旗艦になることが多く、司令部要員が多数乗り組むため司令部のスペースが必要になるのだ、足柄が属する妙高型も配慮はされているが、愛宕の属する高雄型の方が艦橋の構造を改良してより使いやすくなっている。
(それだけではないんだがな……)
俺はw〇kiもどきの前世知識で艦を作ってきた、正直艦を作る能力そのものはこの元の体の持ち主よりは劣るだろう辛うじて{知っている}ことで問題点を解消したりするのが精々だ、だが藤本少将は違う、彼は自分の知識と能力だけであれだけの艦を作り上げる事が出来たのだ、高雄型にしても俺の前世の物とは若干違っている、スペックはほぼ同じながら問題点があって改装された後の姿を最初から出してきているのだ、さらに驚愕したのは愛宕の公試の時夕張の電探の試験に付き合わせたが反射波が他の艦よりも少なかった、つまりは若干ながらステルス能力があるのだ。
その辺が意識して出来たのか偶然なのか判らなかった、本人は語ることなく、周りのものは知らなかったからだ。
彼の死因は脳溢血だった、連日の激務に突然の事故による自責の念が体を苛んだ結果だ。
俺は美保関事件も第四艦隊事件もこの世界で起こさせる積りはなかった、水雷艇友鶴転覆事件も水雷艇がそもそも作られる原因となった軍縮条約そのものを変えたので起こらなかったからだ、電探や溶接技術の向上でそれは防げると思っていた。
その見通しの甘さが一人の技術者の命を奪ったのだろうか……
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「そんなに自分を責めるなよ、お前さん一人でこの世界は動いているんじゃないんだ」
俺の話を聞いた本郷少将はそう言って慰めてくれるが……
「その言葉が台無しになるような話だな……」
俺の手元にあるのはあるゴシップ誌で、表紙に{ロシア共和国王女の秘密!}という文字が躍っていた。
中の記事には{かねてからイギリスに留学中だったマリア王女が妊娠、出産していた}と報じており、子供は女の子ですでに初等学校に通うほどの年だとか、最近知ったニコライ2世が卒倒したとか、相手は他国の貴族だが正体不明と書き立てていた。
「誰にでも間違いはある……」
そう言って煙草を燻らす本郷だが……
「この場合間違いではすまないだろう!イギリスの秘密情報部の長官の毛根が激しくダメージを受けたのはともかく、責任は取れよ!」
どうもマリア王女の方が本郷少将より一枚上手だったようだ。
「スパイは影に生き影に死す、我が命我が物と思わず……」
窓の外に目を泳がせた本郷少将が遠い目をする。
しかもその台詞どこの隠密だよ!
結局日本政府とイギリス政府が話し合ってイギリス貴族のジェームスという人物をでっち上げてマリア王女と結婚させた、無論変装した本郷とである。
共犯関係になったことで日本とイギリスの同盟がさらに強化されたのは皮肉な話だ。
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第三者視点
東京 総研本部
総研本部に来客が複数訪れていた、彼らは今まで接点のなかった組織からの招待に不安な顔つきでやってきた。
その中の一人が妙に重いドアをあけて部屋に入る、ドアが重いのは防音材がしっかり詰まっているのだが当の本人は呼び出されたことに不安な顔である。
「やあ、良く来てくれたね、現在は早稲田の工学部にいるんだったかね?私は平賀譲、総力戦研究所の所長をしている」
「はあ、大学は卒業できたんですが、いま就職先をさがしてまして……」
「なるほど、では起業してみないかね?うちが後援するけど、君に是非作ってもらいたい物があるんだよ、井深大君」
そう言って内心(やっとSONYが作れる!)と思って満面の笑顔になる譲。
開発の加速のギアがまた一段上がった。
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