78話 第四艦隊事件
※ ジャンル別(歴史)日刊ランキング一位になってました。
読んでいただいて感謝です!
※ 11/20修正しました。
第三者視点です
1935年9月25日 大神工廠
その日譲は西島少佐と建造中の戦艦の船渠に来て視察をしていた。
「工程管理は順調みたいだね」
「ええ、この調子で行けば進水まで大分繰上げが出来そうです」
「あっちの方はどうだい?」
譲が示した方角では大型の船体が姿を見せ始めていた。
「あちらはさらに繰り上げが進んでます、後から起工したのに進水するのは
あちらが先になりそうです、ブロック工法と溶接の威力ですな」
「そいつはいい、早くしてくれってせっつかれててね」
「せっかちなお客ですな、わからないでもないですが」
そう会話しながら歩いているとそこに息を切らして走ってくる人物がいた。
「平賀所長、牧野少佐より電話です、緊急事態だそうです」
それを聞いた譲は内心に不安を感じながら電話に急ぐのであった。
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
譲視点
牧野少佐が至急の電話をかけてくるとは何があったのか、
まさかとは思うが不安から思わず足が速くなる。
受話器をつかんで耳に当てると動揺した声が聞こえた。
「どうしたんだ?」
「平賀先生(牧野は平賀の教え子に当たる)!大変です、
第四艦隊が……」
「馬鹿な!艦隊司令部には連絡したはずだろう!」
「そうなんですが此方に知らせずに出撃していました」
なんて事だ、史実と同じ日だ、台風は……
「台風はどうなっている?」
「岩手県沖に近づいています、かなりの勢力だと……」
「艦隊に退避を勧告できないのか?」
「作戦行動中で無線封止していて応答が無いそうです」
「封止していても傍受はしてるはずだ、重ねて呼び続けさせろ、
{台風から離れろ}とな、あとLNIR(国連国際救助隊)に連絡だ」
「了解しました」
俺は牧野少佐との通話を終えて電話をかける、防ぐ事は出来なくても
被害を抑えることは出来るはずだ。
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
第三者視点
9月26日 岩手県沖 第四艦隊
午後に入り台風の中に艦隊は入っていた、度重なる通信を
艦隊は傍受していたが司令部は反転退避の指令を出さなかった、
正確には視界が取れず波浪の中を下手に動けば嘗ての
美保関事件の二の舞になることを恐れていたのであった。
駆逐隊は電探があるため衝突の恐れはないと
退避を進言していたが黙殺されていた。
そして風速35メートル越えの中ついに悲劇が起こる。
「夕霧、艦首脱落!救援を請う!」
そして救援に向かった第11駆逐隊の初雪にも三角波が襲い掛かる。
バリバリバリッ!
艦橋から前がちぎれて流されていく、防水作業に追われながら
初雪の乗組員たちはそれを見送る事しか出来ないのであった。
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
夕霧の艦首部は波が収まってから回収できたが、初雪の艦首部は
那智が発見したものの曳航は困難であった、その為機密を保持するために
砲撃して沈める判断がなされるも上級司令部より撤回された、
救援が来ていたのであった。
「此方雷鳥1号、目標を発見、位置を送る」
「2号了解、4号の支援に向かう」
「4号目標を確認した、接近してワイヤーを掛ける」
LNIR(国連国際救助隊)の部隊が横須賀から急行していたのであった、
台風が過ぎたがうねりの高い中でも恐れずに接近し牽引ワイヤーを掛けて
牽引をして行き、波が収まってきている海域に待機していた母艦の2号まで
連れて行き、そこで吊り上げて中の乗組員を救助した。
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
東京 防衛省
事件が収束してから今回の事件の査問委員会が開かれた。
今回事故を起こした初雪、夕霧の特型駆逐艦(吹雪型、綾波型)の
設計をした藤本少将(4月に昇進)が喚問された。
藤本は自分の設計した艦が破断事故を起こしたのにショックを受けて
事故が起こってからろくに眠れぬ日々を送っていたため、
憔悴しきった状態であった。
「LNIRの協力で人的被害は最小に抑えられたといって良いでしょう、
ですが少なからず犠牲者が出てしまった事は事実、その原因たる
駆逐艦の破断事故は船体設計ミスによる強度不足と本来強度に
不安のある溶接を多用したことが今回の悲劇の根幹です」
査問委員はこの事件の主たる責任は藤本にありと断じていた。
「異議あり!今回の事故はそもそも台風の接近を知りながら
演習を強行した連合艦隊司令部と第四艦隊司令部の責任が
問われるのが先であろう!」
そう言って食って掛かったのは井上成美少将である、
横須賀鎮守府に属する彼はすべての責任を藤本少将にかぶせる
事に我慢がならないのであった。
「うむ、すべての責を問うのは行き過ぎであろう」
米内光政中将も言葉を添えるが。
「あれしきの波浪で折れる艦などは使えない!
瀬戸内海で舟遊びをするのではないのだ!」
その後も藤本を非難する声が上がるたびに彼は身を竦ませて
下を向いていた。
「委員長、発言してよろしいか?」
「{総研}の平賀君か、同じ技術者としての視点から見て君の意見を
忌憚無く聞きたいものだ」
委員たちは嘗て平賀が艦政本部を追われた事を知っており
どう藤本を弾劾するのか固唾を呑んで見守っていた。
一方譲の方は発言前に届いた書類を片手に立ち上がり
皆を見回しながら言い放った。
「今回の事件に関しての私の私見では藤本少将の過失は無いものと
断言します」
その言葉はその部屋にいる者たちに衝撃を持って迎えられたのであった。
ご意見・感想とか歓迎です。
あくまで娯楽的なものでありますので政治論とかはご返事できないかも……
励みになりますので、評価、ブックマーク、レビューなど良ければお願いします。