77話 ハルハ川の戦い
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第三者視点
満州国 興安総省 1934年
満州国の最北にあたるこの地はモンゴル共和国やソビエトと国境を接している、特にモンゴルとは国境線で紛争を抱えており小規模な衝突が繰り返されてきた。
その状況が一変したのは5月8日の事であった、大規模なモンゴル軍の侵入を受けた満州国軍のパトロール部隊は直ちに現場に急行し対峙した。
それに先んじてその上空ではモンゴル軍機と満州国軍義勇航空隊(フライング・タイガース・実質的な米軍)が空中戦を始めていた、複葉機で立ち向かうモンゴル軍機に対して全金属製の単翼機であるP36を擁するフライング・タイガースが圧倒的に速力と攻撃力で勝り一方的に落としていった。
その報告を受けたモンゴル駐留ソビエト軍は進撃を開始し、ハルハ川を越えて攻撃を開始した。
満州国軍はアメリカの軍事顧問によって部隊を編成していたが錬度は低く戦意も低かったためあっという間に壊滅した、その為駐留していたアメリカ軍も出動する事になる。
本格的な両軍の衝突が始まったのは5月20日になってからである、この戦いでは兵力で勝るソビエト軍が装備に勝るアメリカ軍に波状攻撃をかけ、多数の損害を出したがアメリカ軍の被害も少なくは無く、共に後方から援軍を呼び出すことになった。
ソビエト軍指揮官ジェーコフは兵の損耗を気にすることなく戦う事でこれまでの戦いに臨んでいた、兵など後方からいくらでも連れて来れば良く目的の為なら万の兵の損害が出ても平然としていた。
その為最終的にソビエト軍の動員数は20万を遥かに越え米軍の増援をはるかに上回っていた、さらにBT-5などの戦車も600両を越える数を投入し一気に押してきた。
これに対してアメリカ軍は当初5万の兵を持って防御に当たった、M1917 155ミリカノン砲を中心に火砲の集中運用で対抗したが犠牲を払っても死体を乗り越えて向かってくる赤軍兵士たちに合衆国軍兵士は徐々に押され始める。
「奴らはグールか?死体の山を見ても平気なのか?」
報告を受けた将軍はこう呟いたがこのままでは戦線は崩壊する一歩手前まで追い詰められていた。
敵はBT-5、BT-7戦車やBA-6装甲車を先頭に迫ってくる、高地を守る米軍指揮官は全滅を覚悟した。
先頭を走っていた戦車の側面に穴が開きその直後に弾薬が誘爆して吹き飛んだ、それは後続の車両でも同じ事が起きていた。
「あれは…味方だ!」
陣地では歓声があがり算を乱して逃げ出した敵に追撃をかけた、こうして米軍はすんでの所で全滅を免れたのであった。
「共産主義者に死の鉄槌を食らわせろ!」
指揮車の中で命令を出すのは ジョージ・パットン大佐である、彼はソビエト軍の侵攻を知るや満州中の戦車をかき集めここまで急行してきたのであった、その速さは驚異的で欧州で日本軍が見せた電撃戦をさらに上回るものであった。
戦場に到着したパットンは味方の陣地に突撃するソビエト軍を見て瞬時に攻撃ポイントを部隊につたえ攻撃を開始した、その判断の速さと効果は敵の前線崩壊を招いた、常日頃彼は自分は古代ローマ時代のカルタゴの武将ハンニバルの生まれ変わりと吹聴していたが図らずもそのハンニバルが得意とした戦術を近代的に直した形で実演する事になる、後方側面を衝かれ半包囲された敵は次々に討たれソビエト軍は大幅に後退し戦前の線まで国境線が戻った。
その後アメリカとソビエトは外交交渉で休戦し国境線の再確定を急いだ、完全に当事国の頭越しだがそうしないとこの決着が着かないのも事実であった。
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譲視点
当事国は違うがこれは{ノモンハン事件}と同じ流れだな、損害は東機関の調査ではアメリカ軍の損害は戦死1万2050負傷9632名ソビエト軍の損害は戦死が兵員4万以上負傷者は5万以上車両の損害400両とアメリカの損害を遥かに越える、その上元々の国境線ということは完全にソ連の負けだがソ連は損害を5分の1しか発表していないのでアメリカが負けたように世界は感じていた。
このままでは面白くないので何か出来ないかな?
「今回の件だがどうもアメリカ側にソ連のスパイがいて情報を漏らしていたようだ」
本郷少将が面白い事を言う。
「どういう事だ?」
「東機関もつかんでいたんだがソビエト軍がモンゴルに駐留していた軍の増強を満州国駐留アメリカ軍が危惧しててな、度々戦力の増強を打診していたのだが政府に断られていてそのあたりを突かれたのが今回の戦闘だ、ソビエトはそれを知っててああいう強気な攻めを見せたわけだ」
「だがそれをパットンに阻止されたか」
「全くパットンがハンニバルの生まれ変わりだと信じそうになったよ」
まあ俺のような転生者がいるんだからありそうな話である。
しかし、スパイか……俺もW〇kiもどきで調べてみるか。
「……アグネス・スメドレー」
「そいつは?」
「アメリカのジャーナリストだがコミンテルンの工作員だった奴だ、前世ではソ連崩壊後になって見つかった内部文書で発覚してるな」
「なるほど、その辺で調べてみるか」
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「おい!面白い事が判ったぞ!」
「なんだ?スパイの件で進展があったのか?」
「ああ、アグネス・スメドレーをしらべてたらお前さんが以前言っていた奴が引っかかってな、日本で探して見つからなかったんだがいないはずだ、奴はアメリカにいたよ」
「誰だよ、そいつは?」
「ゾルゲだよ! リヒャルト・ゾルゲ、お前さんの言う{優秀だから必ず倒さなければならないスパイ}だな」
何とゾルゲがアメリカにいた!
満州を押さえ直接ソビエトの脅威になるアメリカが標的にされたか。
「どうする? 排除するか?」
「それもいいが面白くないな」
「何か利用できる事でもあるのか?」
「こういうのはどうだ……」
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第三者視点
戦後戦った者たちの明暗は分かれた。
アメリカ軍は戦いに生き残った者たちを{満州国防衛の勇士}として称揚した、特にパットンは将軍に昇進し{現代の騎兵隊・ハンニバルの再来}などど呼ばれ国民にも大人気で映画まで作られた。
それに反してソ連では帰還兵に対する仕打ちは敗残兵に対するものであった、敵前逃亡の嫌疑で粛清される者、シベリアで重労働の刑に処される者、特に将官は殆どが反逆罪で銃殺になった、指揮官のジューコフは最初は{アメリカに勝った偉大な将軍}として称揚されていたが、ある時を境に国家反逆罪の容疑を掛けられ裁判も無しで収容所に送られて消息不明になった、後に即日処刑されたことが資料から判明した。
これはソビエトのスターリンが行った{大粛清}のほんの一部に過ぎないと断じる歴史学者もいる、こうしてようやくこの地域の紛争は終結する事になる。
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1935年 7月
「牧野少佐ここです」
「これは酷い、修理が必要ですが…原因の解明が必要です、大神に回航しましょう、それと艦政本部に連絡を」
これが海軍を震撼させる大事件のプロローグになるとはこの時点では誰も知らなかったのであった。
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