75話 混乱する御前会議と意外な展開
※ 5・4修正
第三者視点です。
皇居
クーデター発生から数時間が過ぎた。
ここには皇族方や高級官僚、軍人などが詰め掛けていた。
本庄侍従武官長は天皇陛下にご臨席を願い、会議室で事態の報告と善後策を検討する事になった。
「彼らの決起する理由とは国政を左右する元老たちを排除する事であります、ここは陛下よりのお言葉を賜る事で事態の打開を図るのがよろしいかと」
真崎陸軍大将が発言すると加藤寛治海軍大将も同意する。
「彼らは憂国の志を持った者たちです、陛下からのお言葉があれば必ずや冷静に行動するでありましょう」
ここまでに知らされてきた被害については……
総理大臣 犬養毅 死亡
大蔵大臣 高橋是清 死亡
陸軍教育総監 渡辺錠太郎大将 死亡
陸軍軍務局長 永田鉄山少将 死亡
侍従長 鈴木貫太郎海軍大将 重傷(意識不明)
元老 斉藤實海軍大将 死亡
牧野伸顕伯爵 重傷
主だった者たちは死亡しておりそのことが告げられると会議室は騒然となった。
「この未曾有の事態、いかがすればよろしいのか!」
「臨時に内閣を組閣しなくては!」
「だがクーデターはどうする?」
「静粛にされよ!」
皇族方の席から起こった声に全員が注目する。
「今は皆の心を一つにする事が肝要、うろたえるではない」
「伏見宮殿下…」
声の主は伏見宮博恭王海軍大将であり現在海軍軍令部長を務めている。
「陛下、この度の事は多くの被害者を出し、宸襟を騒がしたもうたこと誠に遺憾なれど、決起将校たちにも一分の理がありましょう、彼らは元老たちの専横打破と内閣総理大臣のそれへの追随、阿諛追従への民草の怒りを代弁したに過ぎません、この声は将に{天の声}真摯に受け止め判断なさるがよろしいかと」
この声にうなずき同意する声が上がった。
「宮様のお言葉将に箴言かと、ここは大きな御心を持ちまして彼らと向き合う事が必要かと思います」
加藤大将は声を励まして奏上する。
「お待ちください、それでは国務に精励する大臣たちがまるで奸物扱いではないですか、その様な言葉受け入れられる事など大蔵省では出来ません!」
伏見宮や加藤大将に噛み付いたのは大蔵省次官で事務方のトップである東条英機である、彼は丸眼鏡の奥の目を見開き一歩も引かぬ勢いであった。
「黙れ!文官ごときが口を挟むな!」
加藤の一喝にも東条は引き下がらない。
「国に仕え陛下に仕える身に文官・武官の分け隔ては無用だ! このような暴挙は法治国家である日本では許されない、直ちに鎮圧すべきです」
東条は加藤を相手にせず陛下に向かって申し上げた。
「貴様!」
加藤が立ち上がったその時。
「やれやれ、火を放っておいて火を消すから何かくれでは自作自演ではありませんか」
入り口の方からした声に皆が振り向くとそこにはいるはずの無い人物が立っていたのであった。
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「馬鹿な……なぜそこに居る。」
うめくように言ったのはだれであったか……
「小官は悪運が強いのでな、こうしてのこのこと来たのですよ」
「侍従長…良くぞご無事で」
そこに立っていたのは鈴木貫太郎海軍大将、侍従長として陛下の信頼の厚い人物である。
「侍従長、無事のようで何よりである、一つ問いたいのであるが蜂起した者たちはどうすればよいか意見を聞きたい」
「彼らは明確に国の法を犯しております、またその目的は我が国を中国大陸への侵略へ誘うもの、反乱軍として討伐するべきです」
「そうか、防衛大臣討伐の準備を」
「お待ちください!それでは皇軍相打つ事になります、さすがにそれは…」
「出来ぬと申すか」
「畏れながら……ですが彼らの言動にも酌むべきところがあり……」
「待たれよ!」
大臣の答弁は大きな声の前に掻き消された。
「貴方は…」
「乃木大将…」
乃木大将は御年85歳だが日頃から粗食で節制していたため矍鑠としており軍を退役してからは陛下の非常勤の相談役として、又学習院幼稚園の名誉園長を勤めており{おじいさん園長先生}として生徒に親しまれていた彼は子供たちを非常に可愛がり最近では好々爺のイメージがあったが今の彼は現役時代を彷彿と…いや怒りに燃える姿は誰も見た事がなかった。
「陛下が頼みしている股肱の臣を悉く倒すような事は陛下の首を真綿で絞めるような行為である、
その様な仕儀は到底許されるものではない! 大臣が討伐できぬというのであれば、この臣が命を賭けてでも押さえてみせる、陛下!お許しあればこの臣が自ら近衛師団を率い討伐に向かいますぞ!」
この言葉に会議室は色を失った、特に防衛大臣は卒倒しそうである。この乃木の行動に陛下は後に{独白録}でこう述べている。
「乃木の発言は自分の思いと同じであった、彼があそこで発言せねば自分がしていたであろう、そうすれば立憲君主としての枠組みを越えてしまうことになっていただろう、老将軍に尊敬と感謝の気持ちを捧ぐ」
こうして、事態は収束に向かう事となった。
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