7話 譲(おれ)の出発した後の日本 その1
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※第三者視点
譲が日本を発って暫くして満州で奉天会戦が起こった、結果はロシア軍を日本が打ち破りロシア軍は後退日本軍は奉天市街に突入して占拠さらに後方の鉄嶺まで後退したロシア軍であったが士気上がらず総司令官クロパトキン将軍はさらに軍を後退させている。
そしてクロパトキンは更迭され猛将の呼び名の高いリネウィチが指揮官となり戦線は膠着した、だが現実には日本軍は疲弊しきっており武器弾薬も不足していてこれ以上の戦闘は困難であった、だが現状を知らない日本本土では進軍を望む声が高く現状を危惧した満州派遣軍は参謀長の児玉大将を東京に派遣することになった。
東京に戻った児玉は杉山茂丸の訪問を受けた、満州にいるときに杉山より奉天での勝利の後が講和へのチャンスであると進言を受けていたのだ。
「して、見てもらいたいものとは何かね?茂丸さん」
「うむ、この書類をまずは見てほしい」
渡された書類をめくっていたその顔がにわかに険しくなり、書類をめくる速度が速くなる、そして最後まで読み終わった時ため息をついた。
「この書類は一体どこで誰が書いた物なんですか…奉天会戦の事がここまで詳しく書かれているとは、まして上級司令部でなければ知りえないことまで…そして日本海海戦にポーツマス?作り話にしては出来すぎている」
「児玉さん、この書類が私のところに持ち込まれたのは1月の事です」
「馬鹿な、それではこの奉天での戦いの記録は!」
「これを書いた者の話ではこれは歴史の記録だそうです、今から起こることですな」
「信じられん」
「私もですよ、しかも奴は奉天の戦が終わったら児玉さんが東京に来るはずだからこれをその時見せろといったんですよ」
「そこまで…ではこの日本海海戦も」
「放っておけば書かれた通りになるような気がします」
そうして今度はもう一つの書類を取り出す。
「それは…」
「これはそちらに書かれていることに対しての対策を記した物だそうです」
それを受け取り読み始める児玉源太郎であったがその顔は次第に蒼白になっていく。
「これを行わないと将来日本は大変なことになる…」
「本人の話では決まっていた未来を変えるのでその通りになるかどうかは想像に過ぎないといってましたがな」
「だがこのまま看過できんな、日本海海戦がこのままで進むなら考えなければならん」
「そうなりますか、では伊藤さんや山縣さんと図らねば」
茂丸の言葉にうなずいた児玉は立ち上がり言った。
「直ちに動かねばならん、君も来い」
こうして2人は出かけるのであった。
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都内某所
ある場所に集まったのはこの国の重鎮と言っても過言ではないメンバーである。
山縣有朋、伊藤博文、山本権兵衛そして児玉と杉山である。先ほどから児玉から渡された書類を全員でみて唸っていたところである。
山本が伊藤に尋ねる。
「桂さんは呼ばんでよかですか?」
桂とは現在の内閣総理大臣を務める桂太郎である。
「このことはうかつには見せることが出来んのじゃ、元老の方たちにもな」
「それはそいですが…」
山縣もその言葉に同意する。
「この人選が間違いなかろう、これは危険すぎる」
この面子を選んだのは児玉である、山縣は児玉の判断を是としたのだ。
「陸軍ではわしと児玉、海軍は権兵衛だけにして置く」
山縣がそう言って皆の顔を見回しうなずくのを確認する。
「して、どのように対処しますか?」
声をあげたのは杉山である、それに伊藤が応える。
「わが国がこれ以上戦争を継続する力はない、幕引きはせねばならん、だがここに書かれている通りにはしてはならん」
そう言って歴史的事実の書かれている書類を叩く。
「そうですな、直ちに対策を立てねばなりません、ですがここに書かれていた通りにするのですか?」
対策を記した書類を持った児玉が問いかける。
「日本海海戦の経過しだいじゃが、わしの見るところこれ以上の策はあるまいと思うがどうかの?」
「東郷には何も言わんでもよかですか?」
山本が尋ねると山縣はうなずき答えた。
「何か言えば結果に影響が出るじゃろう、バルチック艦隊を取り逃がすのなればべつじゃが」
山縣の言葉に皆うなずく。
「では、手順から考えねばなるまい……杉山君この書類を持ってきた者は間違いないのだね」
伊藤の問いに杉山は答えた。
「はい、海軍大技士平賀譲です」
「そうか、彼は何者なのか、そしてどこまで知っているのか、興味深い」
山縣のつぶやきに同じ思いの彼らは今後の事を話し合うのであった。
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