72話 ヒトラー消滅作戦
時代は譲が転生して伊藤博文らと知己になった頃である。
彼らは譲から前世での日本の行く末を聞いていた、そして軍事同盟を結んで2度目に起こる世界大戦を戦ったドイツの総統であるヒトラーの話になった所である。
「ヒトラーという男侮れんな、この人を引き付ける力は尋常な物ではない」
伊藤が言うと山縣も首を振り同意する。
「このような人物が指導者になればナチスが政権をとるなど易しかったろう、我が国もこのような事が起こらぬように法整備を進める必要があるな」
「それは考えるとしてじゃこの男放置するのは不味いの、ドイツにとってもじゃが世界にとってもじゃ」
「消しますか?」
「うむ、今の内に手を下さねばな、どうした?」
伊藤が譲の表情の変化に気が付いた。
「いえ、この世界でまだ罪を犯していない者を処断するのは…」
「ではどうするのか?」
「はい、こうしようと思うのですが」
「ふむ、面白い、やってみるか」
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1907年 オーストリア ウィーン
アドルフ・ヒトラーはウィーン美術アカデミーの試験に落ちて学長に談判しに来ていた。
「どうして私が不合格なんです!」
「君は課題に出された人物デッサンを提出していない」
「私は風景画が得意なんです」
「しかしだね、試験には決まりごとがあってだね」
「そこを何とかお願いします!」
「…仕方が無い、では君が最高傑作と自信のある風景画を持ってきなさい、それが良ければ課題をクリアした事にして入学を認めよう」
「そうですか!判りました、直に持ってきます」
そう言ってアドルフは学長室を出て行った。
「うまく行きましたな」
「ヘル・ジェームス…多くは詮索はせぬが彼をこのアカデミーに入れて何をしようというのだね?」
「私も多くは知らされてはいないのですが彼は重要な人物であるとだけ言っておきましょう」
学長はそれ以上は追及しなかった、目の前の男は明らかに軍人の雰囲気が漂っていたし英国から来たという台詞からアドルフがあちらの重要人物の縁者であると匂わせていたからであった、こういうことで下手な好奇心を持つ事は自身を殺す事になる、そう判断したのである。
勿論彼を入学させた謝礼も捨てがたい額であったのだが。
ジェームスを名乗るイギリスの方から来た紳士の素性は当然の事ながら譲の指示を受けた本郷嘉明であった、彼は東機関の工作員に彼の身辺を見張らせ悪い虫(反ユダヤ主義者)から守る事を命じていた、その為彼は政治的には極めてニュートラルな人間になっていった。
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代わりに提出した課題を持って合格したアドルフは、アカデミーで絵筆を握る毎日を送っていた、彼にとっては順風満帆な日々であった、そのうち彼は風景の中で特に建築物に興味を持つようになり建築の勉強も始める事となった、学費の方は奨学金が受けられる事となり親の遺産もある彼は生活の心配も無く研究を続けた。
時には絵葉書を書いて町で売ったり、友人たちと芸術論を戦わせたり依頼を受けて建築物のデザインをしたりする日々であった。オーストリアは多民族国家であったのでスラブ系やユダヤ人も多く
周りにいたが彼は分け隔てなく付き合っていた。
転機が訪れたのは1914年の事であった、彼の作品がある人物の目に留まったのだった。
アカデミーを視察していたオーストリア大公フランツ・フェルディナント がアドルフの作品を見て興味を持ち作者に会いたいと希望したのだ。
アドルフは面会して感激していた、自分の作品が目に留まった、これほどの名誉は無いであろう。
「君がアドルフ・ヒトラー君かね、すばらしい作品に目が留まってね、会ってみたかったんだ」
「こ・光栄です、大公殿下の目通りにかないまして感激しております」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、実は君に頼みたい事があるんだが」
「是非!お受けします!」
そう言って彼は大公の頼みを聞くのであった。
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「無理を聞いてもらってすみませんな」
「このくらいならば軽い事だよ本郷男爵、だが彼はそんなに重要な人物なのかね?」
「そうですな、彼は大変重要になる人物です、この地に置いて置くのが怖くなるくらいにね」
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「どうしてこうなった?」
大公の頼みで彼は芸術の講師としてこの地に降り立ったのであった。
だが、この風景は自分の知るところには無かった物、未知との遭遇といっても良いものである。
「ここが日本か?」
そう言って溜息をついていたところにプラカードを持った人物がやってきたプラカードには{歓迎!ヒトラー先生!}となっており友好的である。
それを見て彼は気を取り直し歩き出した、勿論プラカードに向かってである。
後に彼は5年だけの契約であった契約を延長して生徒を指導し日本が気に入った彼は帰化して日本人の妻を娶った。
その後も里帰り以外はずっと日本で暮らし子や孫に囲まれて幸せな生活を送る事となった、その影にある組織の暗躍があったことを知る者は極めて少なく、そのことが明らかになったのは機密指定されていた文書が見つかってからだがその時には関係者すべてが歴史上の人物になってからのことであった。
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