67話 査問委員会
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67話 査問委員会
東京で今回の事故の査問委員会が開催された。
委員長は鈴木貫太郎大将が任命された、天皇陛下は彼を非常に信頼しており今回も委員会の前に特に召してご下問されたという。
出席者は当事者である「神通」艦長と「蕨」の生存者中の最高位の者(艦長は事故で殉職)「神通」の僚艦「那珂」の艦長に「蕨」の所属していた駆逐隊の司令連合艦隊司令長官加藤寛治と参謀長高橋三吉、先任参謀近藤信竹、証人として演習前に意見具申した小沢治三郎も来ている。
査問委員の中に総研所長の平賀譲がいるのに驚いている者もいたが艦船の専門家として呼ばれたのであろうと思われていた。
そして査問会が始められたのだが…
「連合艦隊司令部としては今回の事故は実に残念であります、ですが実戦に耐えうる将兵を作るのには訓練あるのみであります、その点では我々は「神通」艦長に期待を掛けすぎたのかと思う次第であります」
高橋参謀長の弁明は訓練を科すのは当たり前でそれをこなせなかった「神通」の艦長の責任であるとしていた。
さらに。
「許しがたいのは命令無視の「那珂」の艦長でありましょう、事故を回避したことはともかく何らかの罰が必要なのでは?」
この言い草には「那珂」の艦長も証人の小沢も怒り心頭であった。
「参謀長の言い分には問題がある、演習前の意見具申をはねつけ、さらに有用な電探の使用を禁じるなどこれでは事故を起こせと言っているのと同じである!」
怒りに震える小沢はこう言い放ち参謀長たちを睨み付けた。
「貴様、言うに事欠いて連合艦隊司令部を侮辱するか!」
加藤が小沢を怒鳴りつけるが小沢も一歩も引く姿勢を見せない。
「やれやれ、無謀な演習を強行するわ、事故が起きれば動揺するわ度し難い阿呆ぞろいですか?連合艦隊司令部は?」
一触即発という緊張した空気に言葉の形をした爆弾を投げ込んだのは査問委員の末席にいる総研所長であった。
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やれやれ、{熱血提督}とか言ってるが単純な{脳筋提督}の間違いだな、これが前世歴史では軍縮反対派である{艦隊派}で軍令部の権力増強に動いた奴らと言う訳だ、本当に度し難い脳筋だ。
「阿呆だと!貴様何様の積りだ!」
参謀長が顔を真っ赤にして怒鳴ってるな、司令長官も此方を睨み付けてるがお前らもうお終いなんだがな。
「総力戦研究所 通称{総研}の所長をしております平賀譲と申します、先ほど名乗ったのですがお忘れになられたようで、今度はお忘れなく」
「総研が何でこの査問会に出ているんだ!何の権限があっ…」
「電探の開発と装備は我が{総研}が行ったものです、今回のような夜間演習に備えて優先して巡洋艦以上の艦に装備を急いだのです、それがその体たらく、しかも己の責任も
自覚なしに、電探を使用して事故の拡大を防いだ者を罰せよとは何たる笑止、だから申し上げたのですよ参謀長殿」
参謀長に最後まで喋らせる事も無く一気にまくし立てた、ああ、息が苦しい。
「だが命令違反なのは間違いない!この演習は実戦のごとく行われる事になっておる、電探が故障する事もあろう、だから禁じたのだ」
「そういえば事故後参謀長殿は司令長官に退避を勧められ長官も了承されたとか、この演習が実戦並みの訓練であるならこれは立派な敵前逃亡になるのでは?しかも部下の艦を置き去りにして」
「あっ…」
「幸い大河内中佐が止めたので事なきを得ましたが非常に不名誉な事、伝統ある連合艦隊の名前に泥を塗る行為ですな」
参謀長顔が青くなって口をパクパクさせてるぞ、まるで酸素不足の金魚のようだ。
「平賀君、君はこの事にどう始末を着けるね?」
委員長の鈴木貫太郎大将が俺に質問する。
「そうですな、この事故の責任は無理な艦隊編成と電探を使用禁止にして艦隊を混乱させ事故を起こさせた艦隊司令部、特に長官と参謀長の責任は重いと見ます、「神通」の艦長や「蕨」はむしろ被害者です「那珂」は無理な命令を受けたので無視しても已む無しかと」
「何だそれは!ふざけるのも大概にしろ!たかが技術屋がでかい口を!」
長官がついに切れたか、怒鳴り散らしてるな。
「たかが技術屋ですか?近代戦は技術の進歩が国の生死を分かつのですよ、日露戦争も世界大戦もその力で日本は困難な闘いを切り抜けたのですそれとも竹槍と火縄銃で敵艦に切り込んでみますか?技術屋は知恵を絞って新技術を生み出し配備します、用兵家はそれを縦横に使いこなして戦いに臨むのです、進歩に背を向け驕ったときに進歩は止まる、そうなれば国は滅ぶ、その象徴が貴方だ、貴方を罰し皆を目覚めさせる、この査問会はそのために存在するのだと思いますがね」
「……貴様!」
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第三者視点です
それは時間にしては一瞬だったのだろうか、だがこの場にいる誰もが限りなく長い時間に思えた、そしてそれを打ち破ったのはこの人物の言葉であった。
「ふむ、平賀君の意見には私は賛成するね、今回の事件は艦隊司令部にその原因ありと判断する」
査問委員長鈴木貫太郎の声は静かに、しかしはっきりと皆に聞こえた。
「委員長!」
参謀長が声をあげるも。
「私はここに来る前に陛下に下問を受けた、事の次第を聞かれた陛下は大層司令長官に失望なされていた、お分かりかな?この意味が」
その言葉を聞いた加藤寛治はがっくりと首をうなだれ、参謀長も声を失う。
陛下の信任を失った意味の重さに気が付いたのであった。
こうしてその後は粛々と進み査問委員会は終了した。
この時から平賀譲の名前は軍内で広く知られるようになって行った、そしてその意味に気がついた者はまだ一握りに過ぎないのであった。
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