62話 海賊と馬賊
第3者視点です
満州 黒竜江省 松遼盆地
「ここが試掘ポイントか…」
出光佐三と採掘スタッフは地図に示された場所に来ていた。もちろん嘗て総研が試掘を行い石油が発見された場所である。
「社長、この地帯は治安が悪いと聞きます、護衛無しで大丈夫なのでしょうか?」
スタッフは町から護衛も無しで来たのを後悔しているようだ。
「大丈夫だ、護衛は雇っている、ここで待ち合わせしているんだ」
「そうなんですか?あっ向こうからだれか来ます!」
向こうの方から土煙を上げてくる一団が居り、彼らは護衛が来たと歓声を上げた。
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「社、社長これは?」
「うむ、どうやら護衛ではなく馬賊だったらしいな」
周りを取り囲まれてしまった彼らは自分たちを包囲している連中を見た。服装はバラバラでどこかの軍服だったものを着ている者、持っている武器も短銃や小銃、槍など不揃いでまるで物語の山賊のような容貌、姿の者もおり、一見してまともそうに見えない。
「金目の物すべてよこせ言うとります」
通訳もビビりながら向こうの要求を伝える。
「社長…」
社員がすがるような目で社長を見るが佐三は平然としている。
賊がさらに何か言おうとしたところで銃声が響いた。
思わず振り向いた賊たちは数倍の数の集団に囲まれているのに気が付いたのである。
当然勝ち目も無く賊たちは武装解除された。
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「遅くなって申し訳ない、こいつ等が縄張りに入ってきたと聞いて探してたんだがここにきていたとはね、手間が省けたよ」
後から来た集団は佐三が雇った護衛であった、彼らは統一された制服に身を包み訓練の行き届いた集団であった。
「まるで軍隊みたいに見えるかい?そりゃそうだろうな、うちの社員は元々軍人上がりが大半でね日露戦争や欧州での世界大戦に従軍したベテランが多くいるんだ」
「ほう?それは凄いですな、装備も軍と同じ物を持っておられるようで」
佐三は彼の説明に納得すると共にその規律の取れ方から優れた部隊であると確信を持った。
「自己紹介がまだだったな、俺は伊達順之助、満州で警備会社の社長をしている、尤も俺の事は{馬賊の親玉}なんて呼ぶ奴が多いがな」
戦国武将伊達政宗の子孫で大名(華族)の子である彼は日本を飛び出し、満州で馬賊を率いていた、そこに目をつけた総研が彼に退役軍人を雇って民間警備会社の設立を薦めたのである。
治安の悪い満州では企業も自己防衛の必要があるのだが租借地でない満州では軍を派遣する事も難しいために考え出された方法である、装備や兵員が軍隊並でもあくまでも民間の警備会社であると言えば問題はないからである。
その為払い下げであるが彼らは普通の馬賊とは違い車や機関砲まで持っているのであった。
「新天地を求める者や軍を退役しても正業に馴染めない者たちが結構いてな、そういう者たちの受け皿になっているのさ」
武装解除させた賊を部下に連行させながら順之助は嗤う、そういう生き方もあるのだなと佐三は思い、考えてみれば既存の商慣習に縛られずやってきた自分に相通ずるものがあるのに気が付いた。
「なるほど、私も商売で型破りな事をしてるので{海賊}なんて仇名を付けられていましたよ」
「ハハハ、海賊と馬賊が出会うか!これも一興だな!」
この出会いを切欠に二人は友情を育み、後に出光が危険な場所に進出するときには伊達の会社が警備を担当するという形となった。
そして伊達の会社は当時の世相の需要に合ったため業務を拡大し一大警備会社になり多くの企業の海外での活動を支援したのであった。
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