61話 試験飛行と海賊
※ 10月12日一部修正しました。
※ 3/10修正
大分 大神工廠
結局家には荷物を取りに寄るだけになってしまった。夜行列車に間に合わないという理由で…これは東海道・山陽・九州新幹線を早く開通させよという事なのだろう。島安次郎の尻を叩きに行かねば……それとも息子の方に動力分散式の優位性を吹き込みに行くべきか…
なけなしの僅かな帰宅時間なのにお約束のように原正幹がいて頻繁な出張を責めてきたが奥さんに引きづられて行った。シスコンも度が過ぎるといけないよなと俺は納得するしか無かったよ。
大神工廠では「夕張」が待っており直に出航と相成った。今回の試験は厳重な秘匿が必要なので警戒艦として駆逐艦が四隻もお供している、周囲に展開して近寄る物があれば通報するようにしてある。
なお不時着に備えて搭載艇(小発:小型の揚陸艇)が降ろされて「夕張」の周りに待機している。
そして夕張の後部格納庫が開かれ中から搭載機が出されてきた。搭載レールの上を兵たちに押されながら出てきた機体は原理を知らない者たちにとっては非情に奇異な形をしている、空を飛ぶ機体にしては翼を持たずに機体上部に4枚羽のプロペラのような物が乗っており操縦席から後ろはエンジン部となっておりそれから後ろは細くなり最後部には尾翼と小さなプロペラがついている
「これがヘリコプターか……」
本郷大佐も興味深々である。
「シコールスキイ主任、調子はどうですか?」
「ダイジョウブデス、エンジンモキタイモモンダイナシデス」
ロシア革命時にフランスに亡命しようとしたイーゴリ・シコールスキイを我が国に招聘してから6年、ついに彼の構想したヘリコプターが試験飛行に成功しさらに艦上から飛び立つのだ。
エンジンの音を轟々とさせてヘリコプターはメインローターを回しふわりと機体が浮き上がったかと思うと一気に上昇した。
「おおっ!垂直に飛んだ!」
「おでれえた、あんな飛び方するんだな」
「すげえな、こりゃあ歴史が変わるぜ」
艦上で見ていた者たちからどよめきが起こる。
そう、試験飛行で歴史が変わった、変わったのは世界初の艦載ヘリコプターを飛ばしたのが日本になったことである。
ヘリコプターは夕張の周りを飛び、やがて飛び立った甲板へ降下してくる。
固唾を呑んで見守る皆の前で無事に着艦した時には歓声があがった。
「おめでとう!」
「アリガトゴザイマス、ロシアカラダシュツシテキテヤット・・・ヤットユメガカナイマシタ」
シコールスキイも感動で涙目である。
あとはこれを生産に乗せていかないといけないな。
帰港した夕張から降りて早速今後の生産について話し合いを行った結果このプロトタイプの量産化をする事になった、工場をどこに作るかが問題になるが川崎重工業が岐阜に工場を建てて生産する事に決まっている、エンジンは現在レシプロだが、今後のモデルは石川島播磨:ロールスロイス(IHI:RR)のガスタービンエンジンを搭載する予定である。
当面は対潜哨戒や偵察に使う予定にしている。開発名VS-327と呼ばれた機体は量産型では
{翡翠}と呼ばれる事となる。
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「さて試験飛行も無事済んだし東京に帰る……」
「残念だな、次の仕事があったはずだが」
惨すぎる。
「次は門司に行くぞ、あちらの採掘も進んでるんだしな」
また列車かよ。
「急いで行きたいんなら飛行機という選択肢も有るけどな、二人乗りで俺の操縦でいいならな」
それこそ御免こうむりたいよ!
結局日豊本線で行く事になった、早く電化してもらいたいもんだ。標準軌にしたけど蒸気機関車だとまだ速度的に遅いんだよね。
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「ようこそ、出光商会へ私が出光佐三です」
目の前にいるこの男は他の商社の縄張りのない洋上で油を売りさばき「海賊」と呼ばれた実業家である。
販売代理店を生業にしていた彼に接触し樺太の油田の採掘に参画させて元売を始めるように勧め採掘から精製まで行うようになったのであった。
「千葉の製油所はどうですか?」
「おかげさまで上々の稼動率です、教えてもらったプラントは大変な優れものですな、隣接地に石油化学工場も併設する事にしました、やはりこれからは石油の時代になりますな」
千葉の製油所は埋め立て地に作られているが震災時は更地で地盤改良中だったので被害は受けていない、海沿いの土地だったので避難場所として役にたってくれた位である。
「その通りです、軍でもこれからは石炭ではなく石油、重油から軽油、ガソリンなどが必要になってきます、御社のような日本の元売がいないと国防もままならなくなりますな」
「それは責任重大ですな、今日は満州に石油が出るという話でしたがそれは本当なのですか?今まで試掘して成功した話を聞きませんが」
「もちろんです、試掘では大油田が見つかっていますが総研のほうで秘匿しているのです、理由は我が国の採掘技術が十分発達してから採掘にかかるという事なのです、樺太で十分技術・経験を積みましたから満を持して採掘に移るのです」
我々が鉱区を押さえた後アメリカも試掘したが山一つ向こう側ではタールが少量出ただけらしい、その為現在でも{満州に石油は出ない}という通説が通っているのだ。
「なるほど、では我が社もそれに参加できるのですか?」
「もちろんです、御社が建造したタンカー「日章丸」の活躍に期待ですな」
俺はブロック工法と新溶接技術で大神の秘密船渠で建造したタンカーの名前を出して肯定する。
「光栄です、直ちに採掘班を編成し向かいましょう」
満州では樺太で共に採掘を学んだ日本石油、小倉石油たちと採掘をする事になる、競争になるが「海賊」と呼ばれるバイタリティの持ち主だから大丈夫だろう。
そして俺は今度こそ帰途につくのであった。
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