55話 災害救助その1
※注意! 地震についての記述があります。
第三者視点です
1923年9月1日 東京 午前11時50分過ぎ
上野の喫茶店で二科展に絵画を出展している画家とその友人が
紅茶を飲みながら話をしていた。
「そういえば今日はいやに朝からあわただしい感じだったね」
「ああ、今日は9月1日だからだった」
「何かあるのかい?」
「今日はな……」
そこで彼は足元から突き上げるような振動を感じた。
「地震だ!」
揺れは次第に強くなり建物の梁がミシミシと音を立てる、
彼らは身をすくめていたが幸いに喫茶店の建物は堅牢だったようで
揺れが次第に収まっていくのを感じた。
「ものすごい地震だった……」
「東京は大丈夫なのか?」
彼らは這うように建物の外に出て外の惨状に声を失う事になる。
関東地震、俗に言う関東大震災であった。
神奈川では六万軒近くの建物が倒壊した。
東京でも二万軒近くが倒壊してその下に生き埋めになった者が
多数出た、しかしそれは序の口に過ぎなかったのである。
倒壊した建物より火災が発生したちまちに大火災になっていくのであった。
またお昼時であったのは最悪といっても過言ではない、昼食の準備で
各家庭では料理をしていたはずであったからである。
今日が9月1日でなければ。
15年前より9月1日は全国で災害避難訓練の日となっていたのであった。
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某公園
「落ち着け!地震は過ぎた、各班は点呼を取り班長に報告するように、
又、町内会の班毎に行動するので落ち着いて勝手に動かないように」
東京消防庁の制服を着た職員がメガホンで声を掛ける。
「避難訓練の真っ最中に本当に地震が来るとは…」
家族で訓練に参加していた男が震える声で呟く。
「家にいたら下敷きで死んでたかも」
男の妻は倒壊した我が家を遠くに見て脱力している。
彼らに町内会の班長が声を掛ける。
「皆!指定された場所に移動するぞ!はぐれないように
手を繋ぐんだ、急げ!」
その声を受けて皆は移動し始めた。
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「川なんかに来てどうするんだ?」
「泳いで渡るなんて無理だよ」
先ほどの家族が会話している間にも人々が続々と集まってきた。
ここは元々陸軍の被服廠があった跡地で近隣の被災者たちが
ある者は自発的にある者は避難訓練の延長で集まってきたのだった。
「見て!火が迫ってきてるよ!」
跡地の周りの倒壊した家屋の中で出火したのか燃え広がり
家々を飲み込んで火が迫ってきていた。
「ポンプ車放水せよ!」
消防庁のポンプ車が火に向かって放水しているが強風に
煽られた炎は迫るのを止めない。
周りを火に囲まれ後ろは墨田川、逃げ場が無くなった。
「見て!何か来るよ!」
川を眺めていた子供が親を呼ぶ。
「船だ!沢山の船がやってくる。」
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「此方雷鳥1号・・・聞こえるか?お客さんは被服廠跡に集結中、
推定数は万を超える、繰り返す避難民は万を超えるぞ」
「了解した、予定地点に接岸する」
この時上空に飛行機が周回しており地上の状況を最近実用化された
搭載無線機で川面を進む船団に連絡していたのであった。
この船団を構成する船は特異な形をしていた、船首が平たい板状の
形をしており喫水は浅く作られている。
やがて川岸に着いた船団は船首を川岸に向けた、
その直後船首の板が前に倒れていきその先端が川岸に着いた。
「皆!班毎に乗るんだ!大丈夫!船は沢山来るぞ!」
見ると川下から続々と同じ形の船がやってくる。
先ほどの家族も無事に乗る事ができたようだ。
「大発船団は1号機の誘導により避難民の収容を開始した」
「了解第2中隊は大発の収容準備をする」
「満員になったら出航せよ、もうすぐ軍の強襲揚陸艦が到着する」
先ほどの舳先が平たい船は大発動艇といい本来は軍の揚陸に使われる
船である、平たい舳先は地面に向かって倒れる事で歩み板として
使える事になっており人員や車両の輸送に便利である。
そしてその母艦は船尾に大発の発着の出来るハッチがあり、
迅速に人員や荷物の上げ下ろしが出来る。
第一次大戦で遣欧艦隊の兵員輸送に使われた実績のある船である、
これが続々と東京湾の奥に集まってきており大発からの避難民を
待っているのであった。
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