50話 パンデミック
※ 4/1修正
第三者視点です
1918年 3月 アメリカ デトロイト
ここで最初の感染が確認された。
通常の風邪とは違う急速な悪寒と高熱、咳を伴うこの病気は一気に患者を増やして行った、この病気の恐ろしいところは患者が担ぎこまれた医療関係者に感染していくところにあった。
デトロイトより各都市に広まるのは時間の問題であった。ここに来てアメリカ政府はこの病気の公表に踏み切り「アメリカ風邪」「デトロイトの悪魔」などと呼ばれることになる。
ここでロックフェラー医学研究センターよりこの病気の特定に成功したと報告があった、その人物は野口英世、梅毒の研究や特効薬の治験を行なったり黄熱病が濾過性微生物であると発表した人物でノーベル医学賞の候補でもあった。
「アメリカ風邪の正体はインフルエンザである」
その発表直後世界は驚愕に包まれることになる。
偶然、インフルエンザのワクチンと特効薬が日本で発表、発売されたのである。
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譲視点
もちろん偶然なわけが無く計算して出した物であった。
「しかし、いきなり特効薬とインフルエンザワクチンの生産を命じられたときには驚きましたよ」
星製薬の副社長を務める安楽君が溜息をついた。
「後藤総理からの直接依頼なので全力生産したのですが…」
「追いつかないほどの注文が来てますか?」
「はい、工場はフル稼働ですよ、社長の星が日本低温を立ち上げたのでそっちにかかりきりなもので此方は私のほうがやらざるを得ないんです」
なんか後藤総理と中村是公蔵相みたいな関係だよなと頭の中で呟いてから原因が俺にあったのに気が付いた。
星一にフリーズドライの技術を教えてたんだった、彼が医薬品や食品に革命をもたらすこの技術に食いつかないわけがなかった、例によって大戦中ドイツが開発していたのだが敗戦で流出した技術だという触れ込みでだ。
安楽君には気の毒だが内緒にしとこう。
「それに野口君の研究のお陰でアメリカや欧州からも注文が殺到してるんですよ、でも総理の命ですから国内向けが最優先ですけどね」
今回日本の行動は早かった、此方の入知恵もあったんだが後藤総理の行動がものすごく早かったのだ、元々日清戦争で臨時陸軍検疫所での活躍を認められて児玉源太郎の腹心になったのだからな。
直ちに各地に臨時検疫所が設けられインフルエンザの症状の出た者は隔離され治療を受けることとなった。さらに若年層にワクチンの接種を義務付け予防活動を展開した、所謂うがいとマスクである。
因みに欧州にも情報は知らされイギリスでは検疫が強化されパスツール研究所でもインフルエンザのワクチンの製造に成功、接種がはじまった。
今回はアメリカが大戦に中立だったことで兵隊から移る心配はしなくてもよくなった。
だが満州と大韓民国と中国、フィリピンには感染が広まり死者が増えていく、結果史実程ではないが感染者は世界で軽く一億を超え死者は数千万人に達すると思われる。
日本人移民者達には東機関からこっそりと特効薬とワクチンが送られている筈だ。
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第三者視点です
アメリカではこの病気の流行を中国人出稼ぎ者が持ち込んだ物だと言う見解が広まって行った、理由としては中国の農家で豚と同じ家で暮らしておりそこで豚インフルエンザが人に感染し強力な変異種ができたという主張である。
中国政府は濡れ衣であると反論したがアメリカの世論は沸騰し中国に何がしかの要求をするべきではないかという論調になった、そして行われたのは21項目にも及ぶ要求であった。
これは対華21か条の要求と呼ばれることになる。
大まかには1号から5号までの大きなくくりがあり、1号 中国人移民や出稼ぎ者に対する規制や条件について
2号 南満州鉄道関連
3号 中国最大の製鉄会社の出資について
4号 中国の領土保全(要はアメリカの許可無く領土を貸したり譲ったりしない。)
5号 政府の顧問にアメリカ人を入れることなど
これらの交渉は第一次大戦の後始末で欧州に耳目がある間に密かに行われていたがこれをロイター通信がすっぱ抜いてたちまち騒動になった。
イギリス・フランスはアメリカの行動を「門戸開放を謳いながらその実中国・満州から他国を締め出そうとしている」と非難し、南満州鉄道の共同経営者である日本も満州で得た地下資源採掘権に手を出そうとしていると懸念を表明、この事はすでに起こっていた米・英・日の海軍建艦競争の更なるエスカレートに繋がることになる、日本は八八艦隊計画を進めアメリカはダニエルズ・プランが進められた。しかしこの計画は国庫の限界を超える物で誰にとっても得になることではなかった。
この問題は大戦の終結と共に表面化していく事になって行く。
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