39話 欧州の情勢の激変 2
※3/19修正
第三者視点
ロシア
この国は非常に危険な状態になっていた、緒戦のタンネンベルクの戦いで史実よりもましな結果になったとはいえ結局は消耗戦で多くの犠牲を出したことは変わらなかった、ドイツ側に損害を多数出したことで他の戦線の連合国軍の支援をした形にはなったが結局侵攻したドイツとオーストリアからは撤退する羽目になった、さらに中立を保っているとはいえ仇敵のオスマン帝国軍に備えて動員をかけ続けていなければならずその負担は国民に深くのしかかり共産主義者への支持が増える結果となっていた。議会は戦争に反対していたが軍部は戦争の遂行を目指し対立、その中で皇后アレクサンドラの信頼の厚い怪僧ラスプーチンの予言に従ってニコライ2世は自ら前線に赴いて指揮を執ることになった、留守を守る皇后やラスプーチンの失政で貴族から民衆までが皇帝たちを批判し支持を失っていったため保守派は皇帝の退位を画策し始めた、そして怪僧ラスプーチンは暗殺され皇帝たちは更なる孤立に追い込まれていった。
「陛下、かくなるうえはイギリスへの亡命を考えなくてはなりますまい」
「だが、イギリス政府は打診を断ったそうではないか」
「では打診のあったドイツの皇帝からの誘いに乗りますか?」
「戦争をしている相手のところに亡命などありえまい」
「では陛下を受け入れてくれる国はイギリスしかありませぬ、実は向こうの政府ではなくジョージ5世陛下より亡命を手助けすると打診があったのです」
「なんと!それは本当か?」
「はい、私は諜報機関を預かっておりますが向こうの情報部から我が機関に秘密裏に使者が訪れました、そしてジョージ5世陛下の信書を秘密裏に陛下に渡して欲しいと頼まれたのです」
諜報機関の長はニコライ2世に信書を手渡した。
「……! なんとこのような条件を飲めというのか!」
「陛下、このまま行きますと議会も軍部も民衆も陛下を退位させよと迫ってきますぞ、そしてその後ろにはあの共産主義者たちの影がありますこのまま行けば退位しても安心は出来ません、革命が起きればその生贄に陛下とその御一族を使いますとも、あのフランスのルイ16世とマリー・アントワネット妃のような最後に!」
「な!」
ニコライ2世は絶句した、まさかそこまで自分たちが憎まれているとは思っていなかったのだ。
「このまま行けばロシア帝国は滅び王家の方々は皆それに殉じることになります、ですがあの条件を飲めばご家族の方の安全も、御立場の回復についての支援も政府に掛け合うとジョージ5世陛下は
申されているのです、これは最後のチャンスなのです!」
この言葉にニコライ2世の心は揺れ動くのであった。
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「旨く行ったか?」
「ああ、最終的には陛下も首を縦に振るしかなかろう、不治の病に取り付かれたアレクセイ皇太子の病の特定がイギリスに行けば出来ると知ってはな」
「あれは現在では完治しないとしてるはずだが?」
「だが原因不明の病に悩まされ怪しい祈祷に頼らなくて良くなるのだ、それだけでも違うさ」
「了解した、後はいつ決行するかだがそれは向こうとすりあわせがいるな、それまでは陛下と御一族のことは頼むぞ」
「わかっているさ、それでこれが例の書類だ」
「すまんな、宰相のサインもあるし完璧だ」
この会話の主はロシア諜報機関の長と東機関の本郷である、彼らはロマノフ王家の人々を亡命させてあることを画策していたのだがその事が判明するのにはもう少しの時間が必要となるのであった。
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「お疲れの様だな本郷中佐」
「欧州中を駆け回ってるからな、どこかの技術中佐のように優雅に観戦なんかしとらんよ」
「俺だって危険な戦場に出ていたんだぞ!」
やさぐれているせいか本郷中佐の毒舌も切れ味があるようだ。
「お前さんがくれた情報でいろいろ工作せにゃならんのでな全く綺麗どころとゆっくり遊ぶ暇もないわ!」
「遊んではいるのかよ……」
リア充死すべしだ、早く日本に帰って奥さんといちゃいちゃしたい…
「何遠くを見つめてるんだよ!」
「いや、超えられない壁を見た気がしてな…それよりロシアからよくもまああんな物取れたもんだな」
「こればかりは東機関の力じゃないぞ、あそこには資産があったんだ」
「なんだ? それ?」
聞き捨てならない言葉に俺はまじまじと中佐を見るのであった。
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