3話 フィクサーと譲(おれ)
※ 11/22修正
※ 3/14修正
入院中に会うことに決めたその人物の元に向かう。
彼が事務所代わりにしている旅館を訪ねるといるとの事、早速面会を求める。
「杉山茂丸だが君は誰かね?海軍さんらしいがだれかに聞いて来たのかね?」
俺が会いに来た人物……杉山茂丸は政治運動家にして実業家だ。
○ikiによると本来は民族主義的な活動家なのだが交友関係が異様に広く山縣有朋、伊藤博文、桂太郎、児玉源太郎など政治家や軍人、何故かアナーキストの大杉栄なんかとも付き合いがある。
ある意味この国の黒幕とも呼べる人物だ。
途方もない事を言ったりするので「ホラ丸」などと呼ばれていたりする、だがこの位の懐の広い人間でなければ俺の言葉など信じないだろう。
「お初にお目にかかります、海軍造船大技士の平賀譲と申します」
「ほう?軍艦の棟梁さんか…市井の一市民にどのような御用かな?」
そういいつつ値踏みをするように見つめて来る、圧迫感半端ないな。
「実はお目にかけたいものがあります、それを見て信じていただければ、山縣閣下、伊藤閣下、児玉閣下などに引き合わせていただきたいのです」
「ふむ、君は技士とは言え軍人なのだから直接ではいかんのかね?」
「あまりに突拍子もないことなので信じていただけないかと、ですが先生なら信じて動いてくださるかと思った次第で」
そう言って俺は懐から書類を出し手渡した。
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
茂丸視点
ふむ、この若者が何を求めておるのかは判らぬが容易ではないことは雰囲気で判る、この書類に何が書いてあるのだ?
なに?奉天での会戦の結末……バルチック艦隊と日本艦隊の海戦の経過と結果、講和会議……国内の騒乱と国際的な影響だと!
まだ奉天で陸軍が戦端を開いたばかりなのに何故こんなことが判る?
誇大妄想の作文か?
「君、この内容は君の創作ではないのかね?よく書けてるとは思うがね」
「違いますよ、これはこれから起こる歴史的事実を記しているだけです」
ばかな、この青年気でも触れているのか?
「気が触れても、夢を見ているのではありません、ここに書かれていることはこれから起こります。今は信じてもらえなくても当然です、ですが奉天での会戦が終わった所に貴方が児玉大将に講和を打診するはずです、今がその時期だと」
うむ、なぜそれを…確かに奉天での戦が優位に進めばここらで講和を進言するつもりであったが。
「その時に、もし良ければこちらの書類の内容を進言していただきたいのです」
渡された書類を見て声が出なかった、先ほどの事実とされていることに対する対策が記されているのだから、これで作り話であればたいした作家であるが……
「内容が当たっておれば考えよう、いまはすぐには返事が出来ぬな」
「結構ですただ自分には時間がありません、もうすぐイギリスに駐在することになりますので」
「……それもこれから起こることかね」
「そうです、帰国は明治42年(1909年)になります、海軍大学に留学となりますので」
そして彼は向こうに着いたら手紙を出しますと言って辞去した、はてさて、奇妙奇天烈なことはよく我が身に降りかかってくるのだがこいつは飛び切りだな。
だが何故か面白いことに成るのではないか、そう思えてきたな。
>>>>>>>>>>>>>>>>>>
譲視点
とりあえずボールは投げた、あとは返してくれるかどうかだ。
どちらにしてもイギリスで返事を待つことになるだけだ、信じてくれなければ造船技士として出来る限りのことをするだけだ。
そういや、命じられてからすぐ出発になるよな、まあ前の主の記憶では内々に聞かされていたみたいだけど……
そういや何か忘れているような気がするんだが……
俺がそれに気が付いたのは住処に帰ったときだった。
ご意見・感想とか歓迎です。
あくまで娯楽的なものでありますので政治論とかはご返事できないかも…
読んでいただくと励みになります。