33話 ユトランド沖海戦 1
※11/21修正しました。
1916年5月30日 スカパ・フロー
ジェリコー提督率いる大艦隊は出撃した。ドイツ大洋艦隊の出撃を察知したからである。
率いるのは戦艦アイアン・デュークを旗艦とする戦艦24隻、巡洋戦艦3隻を主力とする艦隊でその部隊に日本海軍の艦隊が付いていく。
別にビーティ提督の率いる巡洋戦艦6隻戦艦4隻を主力とする艦隊が出撃しユトランド沖で合同する予定であった。
「低速の戦艦に合わせて進むのは得策でないと思います」
出発前に山下司令官に進言しておいたのだが、一技術士官の進言を受けてくれるとは思わないしまあしょうがないか。
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第三者視点
「司令、平賀中佐の進言ですが…」
「うむ、確かに我が部隊は俊足揃いなのだから当然だろうな」
「では大艦隊に上申を?」
「そのつもりだがおかしいかね?」
「いえ、技術士官の進言を…」
「正しい進言をする者はどんな者であれ受け入れるのが上の者の勤めだよ」
「ハッ!失礼しました」
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なんか知らんが進言が通ってしまった。
史実で先行する第三巡洋戦艦戦隊について行くことになった。金剛たちの方が向こうより優速なのだが追い越すわけには行かないか。
先を行くインヴィンシブルたちを眺めながらここまでの戦いを振り返る。
東部戦線の方はロシアに少し頑張ってもらえれば良いと思って無線暗号装置を送っておいた、イギリス情報部を装った東機関のメンバーが動いたのでロシア側は日本からの支援だとは気が付いていないようだ、日本からだと使ってもらえないかも知れなかったからな。もちろんエニグマを使ったのは嫌がらせである、ドイツにね。
オスマン帝国への工作も順調で当面は中立を守ってくれるようだ、ギリシャなどがちょっかいかけそうだけど、とりあえずガリポリ上陸作戦はしなくてよさそうなのでイギリスの負担も減るだろう。
ともかく現行の連合軍で同盟軍を倒してあの国の参戦はさせないようにしないとね。
あとは中東の問題をなるたけ穏便に解決してしまいたいのだがそのための仕掛けがうまく行くといいのだが…
などど考えていたら周りがあわただしくなった、すでに先行しているビーティ提督の艦隊がドイツ艦隊と砲火を交えてるらしい、一応巡洋戦艦の問題点は教えてるしそれなりに対策もしてるとは思うけどなんか不安だな。
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第三者視点
先行していた両軍の巡洋戦艦部隊が先に接触するのは自明のことであった、速力が売りの艦同士だがその代償は軽量化したために十分な装甲がなされていないと言うことである。
そしてその代償を払わされたのはイギリス艦隊であった。
インディファティガブルがまず弾薬庫に被弾誘爆し轟沈した。さらに激しさを増す砲撃戦のさなか、クイーン・メリーにデアフリンガーとザイドリッツの砲弾が降り注ぐ、そのうちの2発の砲弾が放物線を描いてクイーン・メリーの甲板に突き刺ささりそのまま下の弾薬庫まで突き抜けてそこで信管が作動した、直後艦を突き上げるほどの爆発が起こり、弾薬庫を境に真っ二つに折れた彼女はキノコのような煙を噴き上げながら洋上から姿を消した。
その姿を目の当たりにしたビーティ提督は旗艦ライオンの艦長に「畜生!我が艦隊は今日は何かおかしいんじゃないか?」と問うた、艦長がそれに答える。
「フィッシャー卿が巡洋戦艦同士で撃ち合うなと言われてましたが」
「それは同じインチ数の砲同士ならだろう!」
ドイツの巡洋戦艦の主砲は30.5センチか28センチでイギリスのように34.3センチを積んだものは居らずその性能差で勝てると思ったのであった。
だが、彼らは分かっていなかった、遠距離での砲戦で山なりに落ちてくる砲弾を受け止めるのは甲板でありそこの装甲は無きに等しいと言うことを、平賀譲が数年前イギリス留学から戻るときに残した論文を元に改装を計画していたのだがそれでも十分ではなく間に合わなかった艦もいるということを。
こうして緒戦は巡洋戦艦を主力とするドイツの偵察艦隊が有利であり、指揮官のヒッパー提督は本隊であるシェア提督の戦艦部隊に敵を誘導する進路を取った、それにつられたイギリス艦隊が動こうとしたときにそれは起こった。
ドイツ偵察艦隊の旗艦リユッツオウの周りに突然弾着を示す水柱が立った。
「何が起こった?」
ヒッパー提督は回りに尋ねる。
「右舷後方に新たな艦隊を発見、巡洋戦艦2、装甲巡洋艦4隻」
双眼鏡を目に当てながら見張り士官が報告する。
「赤と黄色の水柱だと?」
「あの艦隊は日本の艦隊です、情報にあった『コンゴウ』『ハルナ』です」
「砲弾に染料を詰めて弾着観測か、まさに『総天然色』だな」
「反撃できるか?」
「距離2万メートル以上、こちらの砲では届きません」
「なんだと!そんな遠くから撃って来ているのか!」
彼らが驚くのは無理もない、イギリスの34.3センチ砲でも2万メートルは飛ばすことは出来るがそれはあくまでもカタログデータであって実際に命中を出すのはもっと近くなくては望めない、彼らは金剛たちが最大仰角を上げて最大射程を3万メートル以上に伸ばしてさらに新型の方位射撃盤を載せてきているので2万メートルくらいなら余裕で狙えると言うことが判っていなかった。
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「先ほどの砲撃はすべて遠弾(目標艦を超えて遠くに着弾)でした」
「流石に初弾命中は虫が良すぎたな」
艦長の言葉に司令官の山下が感想を漏らす。
「しかし、新型の徹甲弾は良いですな、染料のお陰で弾着状態が良くわかる」
「それに挟叉したあたりからが興味深い結果が出るだろうな」
そう言って双眼鏡を覗き込むのであった。
用語解説
挟叉
目標艦を狙って斉射した砲弾が一発は遠弾(目標艦を超えて遠くに着弾)一発が近弾(目標艦の手前に落ちる)で残りが至近弾あるいは命中した状態、この状態になると命中する確率が高くなる(散布界と呼ばれる着弾のばらつきがあるためその範囲内に目標があると判断されるから)
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