32話 欧州派遣軍の戦い3
※ 3/19修正
第3者視点です
1914年8月
東プロイセン タンネンベルク
東部戦線と呼ばれたこの地域ではロシア軍2個軍約40万とドイツ軍15万が相対していた。
数の上からロシア軍が有利に思えたがドイツ軍には有利な点があった。ロシア軍の2個軍の各司令官の不仲と両者の連絡方法であった無線通信が全くの無防備で傍受できたからである。
そのため前日には彼らの行動は判明しておりドイツ軍は別行動を取る2個の軍団を各個撃破する好機と考えていた。
ところが罠が完成する直前にいきなりロシア軍の動きに変化が現れた。
それまで無線通信の通りの動きをしていたのが急にそれとは違う行動を取ったのだった、その為包囲網は空振りに終わりドイツは2個軍団のロシア軍と正面から戦う羽目になったのだった。
「どうしてこうなった…我々は完全に読んでいたというのに!」
あるドイツ軍参謀はそう言って帽子を作戦図に叩きつけたが流石に正面切って戦えば大軍に対していかに精強な部隊でも苦戦は免れない、本来西方のイギリス・フランスに対する部隊やオーストリアに援軍として送る予定の部隊まで引き抜き本国からさらに応召して作った部隊を投入する羽目になった。
そこで新兵器の毒ガスを大量に投入することでロシア軍に打撃を与えることに成功するも絶対数で同数の損害を出してしまう。
史実では2万の損害で約8万の犠牲をロシア軍に強いるはずが両者が正面で戦ったため双方が12万もの損害を出してしまう。
これはドイツにとって完全に計算違いとなり参謀総長のモルトケは責任を取って辞任する事となった。
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「うまく行ったようですな」
「ああ、助かったよ、あのまま行けば我が軍は完全に負けていたからな」
感謝をしているのはロシア軍の軍団の参謀長である。
「新型の無線用暗号装置を技師ごと貸してもらえるとは思わなかった」
「まあ我々は同盟国ですからね、お互いの利益のためと言って置きましょう」
そう言ってイギリスの情報部から派遣された男は微笑んだ。
「うまく行ったようだな」
「ああ、彼らはあれがイギリス情報部からの提供品だと信じてるよ」
そう、ロシア軍に無線暗号装置を提供した男は東機関の工作員だったのである。彼らは本郷中佐の指示でロシア軍に有利になるように仕向けていたのだ。
「だが2倍もの兵力があって同程度の損害か、ロシア軍は弱いのか?」
「正直士気が低いのはあるな、国内がまとまっていないからな」
当時のロシアは労働者のストライキが頻発し社会主義革命を目指す勢力が力を付けつつあった。
その上戦争を始めて戦局が不利となったら国民の不満を抑えることは到底出来そうにない状況に陥りつつあったのだ。
「このままでは終わらんだろうな、本郷中佐に状況を報告する、貴官はこのままこちらで情報を集めてくれ」
「了解した、昔の伝を当たってみるよ」
「頼む」
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オスマン帝国
オスマン帝国はロシアと長年の対立関係にあった、世界大戦勃発と同時にドイツ側への参戦の声が上がったがイギリス・フランスは参戦しないように働きかけがあった。だがドイツ側の工作により参戦に傾きつつあったのだがある日その情勢に変化が訪れる。
「貴国の協力に感謝する、我が国は参戦は見合わせることにする」
感謝の言葉を述べるのはオスマン帝国の高官である。
「ありがたいお話です、我が国としましても友邦が戦火に飲まれるのは耐え難いことですので」
そう答える人物はお馴染み本郷中佐である、彼は政府の非公式の特命大使と言う肩書きを持っている。
「イギリスから戦艦レシャド5世を引き渡してもらうように交渉してくれただけでなく駆逐艦なども売っていただき感謝に堪えません」
「我々としても貴国とロシアの因縁は知っております、ですが今参戦することはあの国を利するだけでなく貴国がイギリス・フランスの敵となってしまうからです、そうなれば自動的に我が国とも戦争状態になってしまいます両国のこれまでの関係を失うのはあまりに忍びない」
「それにロシアの内情も教えていただき感謝しておりますぞ、あの国が数年も経たずに崩壊することになるとは愉快・痛快なことであります、失地回復はその時に行いますとも」
そう言って両者は固い握手を交わすのであった。
「ふう、まさかこの国も後数年もしないうちに国のありようが変わってしまうなどとても言えた物ではないな」
そう言った本郷中佐はかつて譲が「悪徳商人」と呼んだ顔をしつつ独語した。
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