幕間話20話 最後の戦艦
佐藤大輔さんの代表作「レッドサン・ブラッククロス」、間違いなく影響を受けた作品でした。その中で登場した最強の戦艦「播磨」こちらの世界ではどのようになるでしょうか?
大分県 大神工廠 第5ドック予定地
この日大神工廠と総研の間に長らく空き地となっていた土地で地鎮祭が行われた。祭壇の前で神主が祝詞を唱え、遥々東京から来た防衛大臣らが鍬を入れる。第五ドックと呼ばれる予定のドックはそれまでのドックよりも大きく作られる予定であった。
それを横目で見ながら総研の所長である譲は、とある書類に見入っていた。
「まったく、こんな物を考えるんだから、天才は油断がならんな」
表紙に次々々期戦艦私案と書いてある書類を見て溜息をつくのであった。
現在日本で一番新しい戦艦は大和型である。そして大方の識者はそれが最後の戦艦であろうと思っていた。正直第二次世界大戦が起こらなければ大和型さえ建造されなかった可能性さえあるという軍事専門家も居るほどであった。
もちろん実際に作るかどうかは別に計画では大和型の次の型である改大和型というべき物は艦政本部で検討され図面にまでは起こされていた。そしてその次の超大和型と言われるものも素案という形で研究されていた。これは基準排水量10万トンを超え45口径51糎砲を連装3基搭載する予定であった。だが大和型の二番艦である武蔵が起工した時点で戦艦の新造は無しとなり計画は中止となったはずであった。
一人の天才が残した遺産が目に留まるまでは。
□
故藤本喜久雄少将の遺品整理を行っていた家族から渡された資料を見た牧野は驚いた。
「藤本さんが大和の次の次の次まで考えていたなんて…」
A-140と呼ばれていた大和型の設計を行っていた間にそこまで考えていたのかと感慨に耽りながら彼は計画書を読んでいた。
「防御の方法にこんな手法を考えて居たのか、確かに対56糎対策としては秀逸だな」
この戦艦は55口径56糎砲を搭載しており当然その砲に耐えられる装甲が施されることとなっていた。
「これが現実になれば正に無敵の不沈戦艦だが、これを作れるドックが今のわが国には無いからなあ」
設計図の通りに作れば380メートル越えの長さとなりその長さを作れるドックは殆ど無かったし空いていなかった。牧野は取り合えずこの資料を上司に報告するのであった。彼はこの資料は上が見た後てっきりお蔵入りとなり後世の資料として残されるものだろうと考えていた。ところがそれが怪しくなってきたのは艦政本部の本部長まで上がってきたところで、本部長へその上から統合作戦本部より直々の下命があったのであった。
◇
統合作戦本部では既にこの大戦の終戦後の話が出ていた。
「戦後は海軍は空母機動艦隊を主体とし噴進弾を搭載した艦艇が主流になると考えられている。だが本当にそうなのか?」
「総研からも同様な報告は上がっているが…」
「だが別の資料には戦艦は対地上戦で艦砲による制圧射撃に有効だともある、噴進弾は悪天候では命中精度が格段に落ちるのと高度な誘導装置による経費拡大も懸念材料としている」
「高価な兵器となると財務省が五月蠅いでしょうな。増して今の総理は財務省出身だ」
「東条さんは{剃刀東条}と言われるくらい切れる方ですからな、今は戦時だからやむをえないとして居ても戦後はどうなるか」
「しかし、戦艦も金食い虫にはなりませんか?」
喧々諤々の末彼らはその判断をさらに上の防衛省に送ったのであった。そして防衛省も判断しかね更にその上に回されることとなった。
◇
「で、こちらに話が来たわけか。だが良くこの計画が認められたものだ」
大神の総研まで艦政本部の連中が揃っている。福田、江崎、松本、牧野君までも。
「我々も青天の霹靂と言いますか、正直本当なのかと思っております」
福田啓二艦政本部技術監が答える。まあそうだよなあ俺でも驚いてるもの。
「そりゃ我々は作れと言われれば排水量20万トンだろうが、56糎3連装4基12門だろうが作りますが…」
松本喜太郎造船監督官も半信半疑なのだろう、声が尻すぼみになった。
「よく東条さんが許したな、こんなの絶対反対するだろ?」
「そうなんですが、総理からはGOサインが出ているそうです」
牧野君…
「ともあれ、その建造の為に新たに大神にドックを作ることが決まりまして。建設予定地の測量を来月から始めようと思います」
江崎君も各地で建造している艦船の面倒を見なくちゃならないのに大変だな。
「で、所長には統帥本部長が是非相談したいとの話がありまして」
松本君に直々に話が来たらしい。まあその真意を聞かせてもらわなくてはならないから行く予定ではあったんだけどね。
日豊本線に新幹線が走ってなかったら又飛行機で行かなきゃならないところだった。
◇
東京 統帥本部
「態々お呼びだてして申し訳ない、しかし事は重要機密事項となっていまして…」
統帥本部長の古賀峰一大将が申し訳なさそうに言う。
「正直驚いております、戦艦を新造するなど想像もしておりませんでした、してどうしてそうなったのですか?」
「それは俺から話そう」
本郷大将の話では戦後の話が陛下と元老たちの間で行われ戦艦は必要か否かという話となり統帥本部に持ち込まれたのだそうだ。有識者で会議をした結果最低数は必要であるとなり作ることとなった。そして作るからには長期間陳腐化しないような艦にするべきとなり、丁度上がってきた故藤本少将の試案が採用される事となったのだとか。
「取り合えず計画では2隻の予定ですが1番艦の竣工後2番艦の建造の可否を決めるとなりました、そのため大神工廠の建設予定のドッグを前倒しで建設しそこで1番艦を作り2番艦をその後作る予定になり、ドッグの完成が2年後を目途とし起工から進水まで3年を掛ける予定です」
「随分と悠長ですな」
古賀本部長の発言に答えると本郷大将がそれに答える。
「どんなに急いでも今大戦には間に合わない、それに国内のリソースは回す余裕がないからな、ドッグの建設なら少し余裕があるからそこからだ」
「まあ、戦時急造船や修理でどこの工廠も民間も埋まってるからな」
その後本郷大将と二人きりになった時に尋ねる。
「まだ、話すことがあるだろ、古賀本部長には言えない事が」
「ああ、お前さんの未来知識の件でな、海軍は当面噴進弾装備の軽装甲の重巡クラスの艦や空母が主力になるだろうと判っている、だがその先は?自立飛行型の無人機による飽和攻撃の可能性を考えたら重装甲の大型戦艦の復権もありうるんじゃないかと考えたんだ」
「む、そう言われればな」
「お前さんの未来知識は前世の終わりの所で終わっている。その先に何があるのか、誰にも判らない。だからこそ可能性を残す必要があるんだ」
「判っている」
そう、俺のチートも無制限ではない。前世の終わりの時点と思われる辺りでその先が{Unknown }となってしまうのだ。
なので、残念ながら〇動エンジンもワープも原理が判らない、核融合も途中だけと半端なのだ。
「そう言うわけだ、済まんが大神の方の準備を頼む」
「判ったよ」
思ったより重大な事態になりそうだな。
◇
そうして大神でのドックの建設が始まり、試案であった新戦艦計画は正式にA-160a計画としてスタートした。主な要目は決定したが細かい所は今も松本君と牧野君らが設計図を引いている。
要目(仮)
A-160a 艦名未定
基準排水量 223500トン
全長 382メートル
全幅 62メートル
主機 ディーゼルエレクトリック・ガスタービン複合推進方式(CODLAG)IHI=RRガスタービン機関+ディーゼル機関(メーカー未定)
速力 36.5ノット
航続距離 16ノットで12500海里
兵装 55口径56糎3連装砲4基
60口径15.5糎単装速射砲10基
65口径12.5糎単装速射砲25基
高性能20ミリ機関砲15基
垂直式噴進弾発射機144基(対空誘導弾・対潜誘導弾)
艦対艦誘導噴進弾発射機4連装12基
艦載機 搭載予定
とんでもない要目だがCODLAGなんて相当テストしないと不具合出しまくりそうだなあ。テスト的に他の艦に積んでみないと。
これ俺が現役中には出来ないかもな。
◇
後に中将にまで昇進した牧野茂は著作の中で敬愛する当時の総研所長がつぶやいた{播磨}という名前に感銘を受け関係各所に運動し遂には命名まで漕ぎつけたと記している。
進水式には陛下が大神まで行幸して臨席されて居り大変な騒ぎとなったと当時のニュースには記録されている。
その時に総研所長を退いていた平賀がなんとコメントしたかは残っていない。
(映像で見る昭和史、民明書房刊)
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