204話 北米の虎
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ハワイ 真珠湾軍港 連合艦隊司令部
「この度の第八艦隊の一件につきましては申し訳ございませんでした」
堀大佐が頭を下げる。その先に居る木村は思わずカイゼル髭に手をやった。
「いや、貴官が責任を感じる事は無い、全ては第八艦隊司令部が責任を負うものだ」
木村の傍に立つ草鹿が答えると堀は頭を上げる事無く言葉を続ける。
「ですが、当初の見積もりより損害が大き過ぎました。無意味な戦で、多くの将兵を損なった事は遺憾に思っています」
その言葉に木村はしごいていた髭から手を放し、腕を組んで答える。
「堀君、君が責任を感じるという事は判るが司令長官である私が裁可した作戦だ、その責任は全て私に帰する物なのだよ」
「ですが…」
「それに、此処まで被害を拡大したのは第八艦隊司令部の判断ミスだ。司令の三川さんも認めている」
木村は今はもう本国へ召還された三川との会話を思い出していた。
三川は後輩の木村が自分たちを飛び越して連合艦隊司令長官になったことに焦りを感じていた。そこで軍令部長と神参謀の誘いに乗ってしまった事を打ち明けた。
「戦時と平時では軍の指揮官人事は違うという事を徹底するとの事だ、そしてこの事は包み隠さず報道される」
「しかし、それは敵を利することにならんか?」
草鹿参謀長が危惧するが木村は首を振った。
「これを隠蔽しては将来に禍根を残す。この国の歴史は続く、今は良くても孫子の代で必ず歪みが出るだろう。それは防がねば」
木村の言葉に2人は強く頷いたのであった。
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第二艦隊に護られながらハワイへ帰還した第八艦隊の被害は大きく真珠湾の工廠に直ちに送られた。
そのドックの前では工廠の責任者に抜擢された西島大佐が渋い顔をしていた。
「酷いもんだ」
そこに本土から応援に来ている牧野少佐が手板を持ってやって来た。
「山城と日向の被害の纏めが出来ました。…酷いもんです、山城は敵の40サンチ砲弾が11発、日向は12発食らっています。それでも沈まなかったのは第4次改装の時に追加装甲を行なった部分が敵の砲弾に耐えた事が大きいようです」
「そうか、そこは良かったが、やはり46サンチ砲弾には耐えられなかったか」
モンタナとオハイオの砲撃に晒された伊勢と摂津は流石に耐えられなかった。それでも数発までは耐えていたが浸水が酷くなり手が付けられなくなったのだ。
「では、戦艦は船渠に入れて修理を開始しますか?」
牧野が問うと西島は頭を振った。
「戦艦二隻は応急修理を行い本土に回航する事が決定している。工作艦によって行う予定だ。これは本土からの命令だ、戦艦は一度入れたら長期船渠を埋めてしまう、最前線のここは修理の為に開けておかねばならない」
そうして係留されている駆逐艦や打撃艦を見ながら西島大佐は口を開いた。
「先ずはあの小型艦の修理を優先して行うぞ。必要優先度の高い艦より修理していく」
「はっ!直ちに手配します」
牧野少佐は命令を各部署に伝える為その場を離れる。
「さて、忙しくなりそうだな」
西島も修理の指揮を執るために司令部へ向かった。
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アメリカ合衆国 ニューヨーク州 シラキュース郊外
カナダからの侵攻を受けた合衆国陸軍はシラキュースの郊外に防衛線を張っていた。国境線の長い両国だが侵攻は限られた地点からのみ行われており其目的は直ぐに知れた。首都ワシントンを目指していたのである。
イギリスからの宣戦布告に伴い予てから準備してきていた本国防衛の為に第1軍と予備役を招集して編成した第5軍の一部が国境沿いに配置されており、その中の第1機甲師団を中心とした部隊がこの地に展開していた。
「敵さんは戦車部隊を先頭に進行中だそうだ」
「航空部隊はどうしている?」
「残念だが向こうの航空機部隊と戦闘中だ。こちらに回す余裕がないとのことさ、だがこちらは精鋭中の精鋭だ。機甲部隊も最新の戦車が来てるんだ。負けることなんてありえない」
情報通の兵士の言う通り、第1機甲師団の隷下にある第1機甲旅団と第55機甲旅団は最新鋭のM4A3E8(イージーエイト)とM26パーシングを定数保有しており、満州に派遣されているパットン戦車軍団を除けば質量練度全てが最強の部隊であった。
「イギリス軍の主力戦車はチャーチルだろうし、カナダ軍はそれより型の古い物しか持っていない、簡単に撃破出来るさ」
そう言い合って居た所に敵が現れたとの報告が入り配置に付いていく。やがて何れかの砲撃が始まりを告げ戦闘が始まった。
「距離2000!」
「よし!各車撃て!」
先手を打ったのは米軍の方であった。
パーシングの90mm砲とM4の76mm砲が同時に火を噴き敵戦車を襲った。
「これで何両かは仕留めたろう。戦果を確認しろ」
指揮官の乗る指揮車からの呼びかけに、一番前列に居た戦車から報告が入る。
「こちらの砲撃は通用しません!」
「馬鹿な!M4の砲は防げてもパーシングの90mmが防げる筈が無かろう!」
「命中した筈の戦車がまだ動いています! 敵戦車止まりません!」
「第二射だ!急げ!」
「敵戦車発砲! うわwazaε………」
「おい!どうした!返答しろ!」
指揮官の問いに別の車両から報告が入る。
「前線に居た車両の大半が撃破されました! 敵はチャーチルにあらず! 虎です!」
「そんな馬鹿な! ドイツ軍がここに居るはずが無かろう!」
「ですが、あのシルエットはタイガ~za」
そこで通信がプツリと切れてしまう。
「何が起こっているんだ! 誰か説明しろ!」
錯乱した指揮官の叫びが車両の中に木霊した。
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「米軍のなんと脆い事か。英軍や日本軍に比べるのが間違っているのかね?」
車内から戦況を見ていたミハエル・ヴィットマン大尉が口にすると砲手のバルタザール・ヴォルが答える。
「あいつらと比べるのが間違ってるんですよ、倒しても倒しても向かってくる共産主義者の奴らも大概ですが」
「まあ実戦経験が無い軍隊はこんな物かもな」
「ですがこの戦車は良いですな、故障しないし、砲弾も良く伸びます」
彼らは親衛隊より【新生ドイツ軍】に編入されて装備を一新し北米派遣軍の一員として参加していた。乗っているのは{ソウルクラッシャー作戦}後にナチスドイツ軍が遺棄していった6号戦車を回収して改造を加えた6号戦車2型であった。
6号戦車2型
全長 10.30メートル
車体長 7.67メートル
全幅 3.6メートル
全高 3.4メートル(標準状態)
重量 69トン
懸架方式 トーションバー方式
速度 45キロメートル
変速機 トルクコンバータ付きオートクラッチ
エンジン 三菱 空冷2ストロークV10気筒ツインターボチャージドディーゼルエンジン 800馬力
装甲 砲塔前面195ミリ 車体前面120ミリ(傾斜装甲・増加装甲無し状態)
主砲 ロイヤル・オードナンス65口径105ミリライフル砲L74(日本名二式)
砲とエンジンを日英の物に換装して機動力と攻撃力を増した物で供与を受けた将兵達の評判は良かった。そのままドイツ軍は米軍の防御線を食い破り前進を続けていく。
こうしてアメリカ、いやルーズベルトの思惑は完全に破綻してしまったのであった。
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あくまで娯楽的なものでありますので政治論とかはご返事できないかも…
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