203話 隠し玉
西沢准尉は太田曹長を列機にして空中戦を戦っていた。このコンビはすでに数機のB29と護衛の戦闘機を落としている。4機編隊時の編隊長である笹井中尉とその相方である坂井曹長も同じような戦果を挙げていた。しかし彼らの奮戦を以てしても米軍の士気には衰えが見られなかった。
「畜生! 落としても落としてもやって来やがる! 准尉、もう弾が怪しくなってきました。燃料もそんなにありません」
太田からの無線に西沢も舌打ちをしていた。これ程物量を叩きつけて来るとは彼も想像していなかったからだ。
「編隊長と合流するぞ、一旦降りて補給をうけにゃ戦えん、後続ももうすぐ来るはずだ」
彼らは笹井たちと合流して補給を受けることにした。
「占守島に戻るより、ロシア領のカムチャッカ半島の基地に降りた方が近い、管制機からそう指示があった。補給も受けられるようだ」
笹井が受けた指示を列機に説明していた。
「燃料はいいとして、弾薬の補充はできるんですかね?」
坂井曹長が聞くと、笹井は少し自信なさげに答える。
「管制機の指示ではな。向こうさんも同じ機体を輸入してる訳だから機銃弾は同じだろう。問題は噴進弾があるかどうかだな。あれは今回の事が無ければ回ってこない代物の筈だ」
「まあ、腹ペコで海に落ちるよりはいいですな。そちらに向かいましょう」
西沢が話を終了させて彼らはカムチャッカへ進路を取った。
後続部隊として占守島より来た編隊の中に菅野直少尉の機体があった。編隊長を務める鴛渕中尉から通信が入る。
「敵の編隊は既に第4波に渡っている。そろそろネタ切れの筈だが、隠し玉を持ってるかもしれん。油断するな」
「了解! 」
直ちに遭遇した敵と交戦に入る。列機が発射した噴進弾がB29の主翼を吹き飛ばし、錐揉み状態で落ちて行く。襲い掛かる日本軍機にそうはさせじとP51がアリソンエンジンを吹かしながら反撃を掛けて行く。だが機体を含めた武装と搭乗員の能力が勝る日本軍が米軍機を落としていき、後続の第5波も粉砕され終わろうとしていた。
「高度8千まで降下し、残りのB29を掃討する」
忽ち火を噴きエンジンを止められたB29が高度を落としていく。
「ちっ! 弾切れか! 仕方ねえ突っ込むぞ!」
菅野機はB29に肉薄し翼端を敵の片翼に叩きつける。翼を砕かれたB29はよろめきながら高度を落としていき、菅野機は片翼の3分の1を失いながらもバランスを取って何とか飛んでいた。
「全く、編隊長はやりすぎです、無茶せんでくださいよ」
列機を務める杉田准尉がぼやくが{菅野デストロイヤー}と渾名される彼は意に介していなかった。
「これで、敵機は打ち止めか?なんとか任務終了だな、後は……」
そこに管制機から至急電が入る。
「敵の小集団が高速で進入中。高度1万2千!」
「なんだと!」
菅野が見上げると自分たちのはるか上を飛び過ぎようとする機体が見えた。
「くそ! 追うぞ! 」 「編隊長は無理です!俺達が行きます!」
菅野の叫びに杉田が答え、鴛渕らも高度を上げようとするが高度差5千メートルもある為中々追いつけない。
「あれは!」
鴛渕はB29の両翼から延びる白煙に気が付いて声を上げる。
「補助噴進装置付きだと! もしかしてこいつらが本命か! 」
ロケットブースターを吹かしながらB29はぐんぐん日本軍機を引き離していく。
「このままでは幌筵は……」
杉田も絶句する。そのままB29達は視界から消えると思ったその時それは起こった。
いきなりB29に爆発が起き真っ二つに折れる物、エンジンに被弾して高度を落としていく物、うろたえる護衛のP51に機銃掃射が行われ火を噴いて落ちて行く。
「なにが一体? どうなっているんだ?」
菅野の視界にB29の編隊に向かう機体が見えた。
「なんだありゃ?見たこと無い機体だぞ」
双発のジェットエンジンを後部胴体に付けた大ぶりの機体は菅野にはやけに頼もしく見えた。
「誰かは知らんが助かった。トンビに油揚げを攫われた気分だがな」
鴛渕中尉が口を開くと編隊のだれもが同じ感想を抱いた。
「全く、この機体は素晴らしいな! 共産主義者共の戦車を潰すのに良し、大型爆撃機やその護衛も問題無しに潰せるとはな!」
一人その機体のコクピットで上機嫌なのはドイツ国防軍のルーデル少佐であった。
何故この極東に彼が居るのか? それは新型機の開発に彼が駆り出され、実戦テストをするために戦端が開かれていたロシアへ派遣されていたからであった。当然譲の仕業である。
「A-10の開発にはルーデルの意見が必要だろう?」
その位の軽い感覚であったが、ロシア空軍に派遣されて満州への救援部隊に同行した彼はソ連軍戦闘車両を150両撃破する活躍を見せてその起用に答えた。救援部隊の指揮官であるエカテリーナがドン引きするほどの活躍である。
そしてソ連軍が後退したため、暇になった彼を遊ばせておく本郷では無く、万が一の切り札としてカムチャッカの基地に待機させていたのであった。
そして彼の乗る機体は勿論譲の前世世界で活躍したあのA-10を再現したモデルである。
ヘンシェル=川崎 A-10 (川崎での名前は 火龍)
全長 16.2m
翼幅 17.42m
全高 4.42m
自重 9880kg
エンジン RR川崎ターボファンエンジン(通常型はリヒート無し)
エンジン推力 3998kg×2
巡航速度 550km(通常型)
武装 固定 ラインメタル=ブローニング 30ミリ多銃身モーターカノン×1
搭載 誘導型空対空誘導噴進弾 8~12発
対戦車誘導弾 10~16発
その他
「さて、これで敵も終わりみたいだから、基地へ帰るか」
最後に美味しい所を全部持って行ってしまったルーデルであった。
※ロケット加速したB29に追いつけるかについてですが、ルーデルですから、問題ないと思います。(*'▽')だってルーデルだもの。
実は彼の機体に積んでいるのはリヒート(アフターバーナー)搭載型エンジンだったのです。
もちろんルーデルの要望です。
※アフターバーナーはGEの登録商標なのでRRのリヒートに変更。
ターボファンエンジンにもリヒートは付くようです。
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