202話 核の脅威
※9月3日話数修正
合衆国カリフォルニア州 サンディエゴ軍港 太平洋艦隊司令部
「手酷くやられたな」
上陸したスプルーアンスはまだ燃えた油の臭いが立ち込める基地の中を進んでいた。
海上から見た時も係留された艦船が半ば沈んだ状態になっているのや焼け焦げながらも辛うじて浮いている船を見ていたが、陸上は建物が破壊されて瓦礫の山になっていたりするのを見ると一層被害の大きさに溜息が出そうになるのをこらえて彼は進んだ。
「レイ、よくやってくれた、君たちは勝利したんだ」
地下に作られていた副指令室でニミッツ太平洋艦隊司令長官に出迎えられたスプルーアンスは彼の祝福を受けてもニコリともしなかった。
「勝利だなどと…、敵にしてやられたのです。我々の留守を狙ってここやロングビーチ(ロサンゼルス)が攻撃を受けたのです。我々が守らなけらばならなかった地が…」
「何言ってるんだ、俺やバークを先に返しただろう。その為にある程度被害を少なく出来たんだ。もっと誇らしくしてろ!」
先に帰還しニミッツと合流していたハルゼーが口を開く。
「艦隊は、どのくらいの損害だったのですか?」
「インディペンデンス級の一隻は沈んだが、基地の近くだったからな、救出は十分行えた。艦載機は陸上基地に降りるようにしておいたから飛行甲板をやられてもパイロットも機体も失わずに済んだぞ」
「それは良かったです。バークの部隊も被害は少なかったようだな」
「敵は動いている艦船より港湾や工廠を主に狙っていたので、後は空母等、目標を絞っていたようです」
「成程な、…」
「何か気になる事でもあるのか?レイ?」
ニミッツの問いにスプルーアンスはしばらく黙っていたが、口を開く。
「我々の戦った相手は明らかに手ごたえが違いました。ここを襲撃した部隊と我々の戦った相手は全くの別系統なのではないかと思うほどに」
「それは、どういう」
ハルゼーが口を挟むとスプルーアンスは更に口を開いた。
「バークの部隊が敵の前衛を撃破した後の事です。私は、敵が自軍に利あらずと撤退するものと考えていました。ですが敵はそのまま向かって来てハルゼーや私たちの前に姿を晒した。正直有り得ないと思ったのです。あの(提督)が指揮している部隊とは思えなかった」
「つまり…レイ、君は最初に侵攻してきたのがキムラ提督の指揮する部隊では無かったというのかね」
ニミッツが尋ねるとスプルーアンスは頷いた。
「しかし、彼が異動したとかの情報は無かった。これはどういう事なんだ?」
「あくまでも予想ですが、敵軍内部で争いが起きているのかも知れません、その為彼の統制下に無い艦隊が命令も無く突出したと考えれば、そしてそれを補うかのようにここを襲撃して全滅寸前の艦隊の救援に彼が現れたとしたら、すっきりと説明が出来るのです」
「成程、突拍子もない話だが、そうすれば辻褄の合う事も多いな。この状態は、我々にとっては吉報と、見るべきなのかね?」
「残念ながら、そうはならないでしょう、キムラ提督に反発する者達は我々に敗れるという失敗を犯しました。結果が問われる以上彼らが勝利する事は有り得ない事…そうか、そうだったのか!」
「どうしたんだ?なにかわかったのか?」
ハルゼーが尋ねると、スプルーアンスは苦々しい顔をして答える。
「この結果がキムラ提督が企図したことだったら? 内部に巣くう反乱予備軍を合法的に始末する機会と捉えたとしたら、我々は図らずも彼の狙い通りの結果を生み出してしまったのです」
「! まさか、そんな事、有り得ない」
それまで聞き役に徹していたバークが思わず声を上げる。
そしてニミッツが諭すようにスプルーアンスに語り掛ける。
「レイ、そうだとしても我々が日本海軍に勝利したという事は変わらない、そしてそれは今の我が国に取っては唯一の希望であり国民のよりどころなのだよ、だから、決してその事は口にするな。それがこの国の、国民の為になるのだから」
その言葉を聞いたスプルーアンスは何かを悟ったのか表情を変えてニミッツに尋ねる。
「南太平洋艦隊はどうなったのです? 輸送作戦は?」
「残念ながら、敗れた。輸送作戦は失敗した。ゴームレーは降伏し、キャラハンとスコットは戦死した。揚陸部隊は殆どが無傷でミンダナオ島に上陸したが重火器と弾薬を積んだ船が沈められ戦力にはならんようだ」
沈痛な表情のニミッツの顔を見ながら、スプルーアンスは別の事を想っていた。
「それで、もう一つの作戦、グローヴス少将が指揮している作戦はどうなったのですか? あれが大統領にとって本命の作戦であったはずです」
「その作戦は……」
ニミッツは先程入って来た情報を披露した。
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北太平洋 占守島から北東方面
幌筵泊地防衛の為に集められた航空部隊の元に敵の大編隊が襲来してきたのはフィリピンと北米西海岸で戦闘が行われていた時と同時であった。
当海域を哨戒していた早期警戒管制機のレーダーがアリューシャン列島から近づいて来る編隊を発見し、基地へ連絡する。直ちに迎撃の為に次々と戦闘機隊が発進していった。
「各編隊長へ、敵爆撃機は編隊を組み、高度8千から一万の間を飛行してこちらに向かってきている。それとは別に戦闘機部隊も同高度を飛行している。司令部より全兵器自由使用が通達されている。各員の健闘を祈る」
早期警戒機より受けた情報を元に高度を取り待ち構えていると遥か彼方にキラリと光る物が見えた。
「敵編隊を視認、迎撃に移る。各小隊はバラバラになるな。B29は防御が堅い、確実に仕留めるんだ」
その命を受けて小隊ごとに分かれて敵機にかかっていく。まず、両翼のパイロンに搭載していた空対空噴進弾を発射し、空に無数の白い尾を引いて目標に向けて飛んでいく。
そして進んでいた敵の編隊に着弾していき、B29は銀色の破片をまき散らしながら、落ちて行く。
だが、その犠牲を物ともともせずB29の進路は変わることが無かった。
「右上空に敵機! 全機散開! 」
護衛の戦闘機が追い付いて空中戦が発生する。
「やるな! どうやっても核を落とそうってつもりか!」
戦闘はまだ始まったばかりである。
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