199話 ハリケーン作戦その10
遅くなってすいません
※9月3日話数修正
第八艦隊の噴進弾による先制攻撃は不発に終わった。さらに水雷戦隊の魚雷攻撃もデコイを使った敵駆逐艦の働きでモンタナ級・アイオワ級への攻撃は不発に終わっていた。
そして砲撃戦での挽回に臨んだのだがこれは完全に裏目に出た。第八艦隊は山城・日向・伊勢・摂津の順で単縦陣を組み同航戦を戦っていた。
これに対してリーはアイオワ級戦艦4隻を先行させ座乗するモンタナとオハイオがそれを追う形を取っていた。戦艦の数は4対6なので当然の事ながら第八艦隊が不利である。それを承知で戦端を開いたのは自分たちの方が砲の発射速度が速く、手数で相手を打ち払えると思っていたからであった。だがその目論見はもろくも崩れることとなる。
山城と日向はアイオワ級の先頭艦に砲撃を集中した。一艦ずつ仕留めていこうという目論見であった。
先頭艦ウィスコンシンは二隻の戦艦の砲撃を受けることとなった。
「敵砲弾が左舷非装甲部に命中! 火災発生!」
「ダメージコントロール! 直ちに処置せよ!」
「敵一番艦への第三斉射は全て遠弾!」
「耐えろ! この位ではこの艦は沈まぬ! 耐えている間に無傷の味方が敵を打倒してくれるぞ」
艦長の檄に艦橋の要員たちは歓声で答える。彼らの士気は非常に高かった。
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戦艦ミズーリ 第5艦隊司令部
「司令長官、敵は我々との砲戦に応じてきました。これでこちらの思惑通りになりましたな」
「そうだな、後はリーの手腕に期待しようか」
「ですが長官が直卒された方が良かったのでは?この戦力差があれば問題ありますまい」
「いや、リー少将ほどの戦艦運用の名手は他にはおるまいよ。私は勝つためならより分の良いほうを選ぶ。それにまだ戦いは続く」
ハルゼーの攻撃が成功した後、スプルーアンスはミズーリを降りて巡洋艦に移ってリーに戦艦部隊を指揮させようとしたが参謀たちが反対した。第5艦隊司令部要員を収容できる艦が無かった事と戦艦の方が安全であると説得し受け入れさせた。その為ミズーリはアイオワ級の最後尾に付き砲戦中はリーが艦隊の指揮を執ることとされた。
「このままいけば我が方が勝利するのは確実です、敵の艦隊はあの戦艦部隊しか残っていませんが」
参謀の一人が疑問を呈した。会話している間にも数に勝る米軍の砲撃に日本の戦艦のダメージは増えていく。最後尾にいた摂津はモンタナ級二隻の砲撃を受けて大破と言って良いダメージを受けて戦線より脱落していた。
「いや、まだだ、我々が叩いたのはあくまでも日本本土から来た部隊に過ぎない。ハワイに駐留している連合艦隊がまだいる」
「彼らは出てきましょうか? いえこの艦隊の指揮官が連合艦隊司令長官ではないのでしょうか? 部隊を休ませるために交代したのでは?」
「それは無い、連合艦隊司令長官のキムラ提督は慎重でタフな司令官だ。彼がこの艦隊の指揮を執っていれば最初バークによって前衛部隊が奇襲された時に一旦後退して体制を整えたはずだ。彼ならばこの状況さえも自軍に有利な状況に持っていきかねん」
「まさか! 戦闘終了後バーク提督とハルゼー提督の部隊を戻したのは!」
「そうだ、我々の根拠地であるサンディエゴを襲撃しかねないと思ったからだ。彼らを戻して置けば陸上基地の航空戦力と連携して敵を叩くことが出来る。今の敵を撃破したら我々も後に続くことになる」
スプルーアンスの言葉に参謀たちは感嘆しきりであった。
「これでハワイの借りを返すことが出来そうだ」 「この戦闘が終わったら取って返して敵を挟み撃ちにしてくれん!」
盛り上がる室内でスプルーアンスは一人考える。
(そうは言ったが彼らがその手に乗るであろうか? そもそも味方を囮にするなど彼らしい作戦とは思えんな)
この時の疑問を軽く流したことを彼は後悔することとなる。
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第八艦隊 旗艦山城
山城は満身創痍だった。4つある主砲はすでに3つまでが機能を停止している。辛うじて機関部のダメージが無かったのは度重なる改装の結果であった。譲の指示で弾火薬庫や機関部、司令機能部の装甲は強化されておりアイオワ級の砲撃に耐えていたがその他の部分のダメージは酷く艦上は鉄屑置き場になりつつあった。
「日向より信号! {我全主砲使用不能、速度低下、離脱する}」
「伊勢、停止! 右に傾斜、横転します!」
「馬鹿な! こんな馬鹿なことがあるか!」
神参謀は先ほどから壊れたオルゴールの様にこの言葉を繰り返していた。
「……」
蒼白な顔で黙り込んでいる三川に大西参謀長が声を掛ける。
「長官、勝敗は決しました。このままでは艦隊は全滅します。後退命令を!」
「長官! まだ戦えます! 後退など思いも寄らぬことです」
神参謀が口を挟んできたが大西は取り合わず長官だけを見ていた。
「長官!」
大西の再度の呼びかけに三川は顎を手でひとなでした後下を向き、口を開いた。
「後退する、全艦に通達してくれ」
「はっ! 各艦に通達、{戦場より離脱せよ}以上だ」
大西の命令を受けて慌ただしくなる司令部。大西は周りの者に聞こえぬくらいの小声でそっと言った。
「だが、もう遅いかもしれん…」
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第八艦隊は舵を左に切り同航戦から離脱しようとした。戦艦も護衛の艦艇も一斉に煙幕弾を発射してその姿を隠して逃げ延びようとしていた。だがそれを米軍は許さない。アイオワ級が追撃態勢に入り横に並ぼうとする。高速戦艦である彼らの方が優速であったためやがて並び掛ける。
少し遅れてモンタナ級が後を追い追撃の体制に入る。両者の戦艦の周りには小型艦同士が戦艦を守るため激しく撃ち合っていた。
第200打撃戦隊は艦隊の直衛部隊で、噴進弾を主兵装とする部隊である。噴進弾を撃ち尽くした後は他の水雷戦隊と共に戦艦の護衛を務めていたが撃ち減らされすでに半数が沈むか脱落しており残りの5隻も損傷を受けていた。
「逃げ切れんかもしれんな」
隊司令は追いつくどころか追い越されて頭を抑えかねないアイオワ級を見ていた。
「噴進弾の無い我らでは敵の駆逐艦と撃ちあうのも不利だ」
200番台の打撃戦隊を構成する打撃艦は旧型駆逐艦を再生した物ではなく最初から噴進弾運用を考えられて作った戦時急造艦の一種である。艦隊の防空・対潜水艦戦に特化しており、主兵装は噴進弾と割り切っており艦前方に速射砲を一門だけ搭載している。
本来であれば噴進弾を撃ち尽くした所で後退させるべきであったが水雷戦隊の補助位にはなるだろうと第八艦隊司令部は後退させていなかった。それも緒戦で第6戦隊を失っていたのが響いている。
「だが、味方の戦艦を逃がすのが我々の任務だ、各艦には粘り強く戦えと伝えろ」
第200打撃戦隊は結局2隻が生還したが、隊司令の乗った旗艦は未帰還となった。
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第八艦隊 旗艦 山城
「アイオワ級こちらの前に出ます! このままでは頭を押さえられてしまいます」
「水雷戦隊と打撃戦隊はどうしてる?」
「現在敵巡洋艦・駆逐艦と交戦中! こちらの援護に来れません」
絶望的な状況の報告を受けつつある作戦司令室内で大西参謀長は決意を固めた。
「長官、このままでは完全に磨り潰されてしまいます。味方を逃がすか降伏かどちらかの決断をお願いします」
彼の言っているのは鈍足で足手纏いの戦艦が身を捨てて他の艦を救うか降伏するかの決断を迫る物であった。
「何を言うか! 旗艦を置いて他を逃がせなどよく言えたものだ! 追いつかれるなら護衛の艦は全て敵艦に突っ込ませてその間に旗艦を逃がすのがあるべき姿だ」
神参謀の発言に流石にカチンときたのか大西参謀長が詰め寄る所に報告が入る。
「敵の陣形乱れる、友軍の攻撃の模様」
第八艦隊は救われた。
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