197話 ハリケーン発動 その8
この回でスールー海海戦は終わりです。
長らくお付き合わせて申し訳ございません。
※話数修正(9月3日)
第四艦隊旗艦 仁淀
「第七駆逐隊噴進弾全弾発射! 」
「第十一打撃隊も全弾発射完了!」
噴進弾発射の白煙に包まれながら発射の報告が刻々と入ってきていた。
「敵艦隊に弾着と思われる爆発多数確認! 命中! 命中しています」
「よし! 四駆の仇は取ったぞ」
歓声の聞こえる中、小澤は椅子に深く座り帽子の鍔を下げた。
「戦果確認はまだか?」
「もうすぐ向こうの爆炎が晴れます、そうすれば…」
そこで双眼鏡を向けていた参謀の声が途絶える。
「どうした?」
「生き・てる… 敵艦が、戦艦が、生きています!」
「ば・馬鹿な! あれ程の噴進弾が襲ったんだぞ! ありえん」
彼らの視線の先には他の艦を圧する大型の艦影が見えていた。
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67.4任務群 旗艦アイオワ
「64.2 任務群は壊滅です。アラスカ・フロリダは駄目でしょう。護衛の駆逐艦・巡洋艦もかなり沈んでおります」
「損傷艦の内、被害の少ない艦を救助に回せ、被害の大きい艦は極力艦の維持に努めさせろ」
「はっ!」
「こちらの被害は?」
「駆逐艦2隻に敵のミサイルが数発命中しました。被害は甚大ですが沈没は免れそうです。司令のとっさの判断のお陰です」
噴進弾に気が付いてレーダーと赤外線誘導を妨害するチャフとフレアを9時方向に発射したためにキャラハンたちは最小の被害で乗り切っていた。これはハインライン達が提唱して急遽作らせた物を載せていたのであった。数が少ないため囮を務めるキャラハンたちにしか回っていなかったが。
「デコイのお陰だ。出発直前で搭載が間に合って良かった」
キャラハンはそう言って海上を眺めた。フロリダは既に海中に没し、アラスカは横転して完全に艦腹を見せている。
(仇は取ってやるぞ、もう少し待っていろ)
「参謀長、弾種の変更だ」
キャラハンはここで切り札を切ることとした。
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第四艦隊旗艦 仁淀
「戦艦はアイオワ級です、数は2隻、周囲に巡洋艦・駆逐艦を確認」
「撃ち漏らしたか、前衛のみにミサイルが集中した?」
「いえ、大型艦を中心に狙ったはずです」
「では敵は何らかの手段で我が方の噴進弾を避けることができるわけだ」
「そんな、馬鹿な話が…」
「いや、馬鹿な話では無い、敵もまた必死なのだ。ハワイの時に受けた苦い経験を糧にアメリカ海軍は成長している」
小澤が参謀たちと話しているとこれまでと違った爆音が聞こえた。
「飛鷹が!」
参謀の指さす先には火災を発生させた飛鷹の姿があった。
「命中したのか?」
「違います! 空中で砲弾が炸裂して破片が飛鷹に!」
「そうか、やられたぞ、敵は弾種を変えてきた。近接信管を使った対空用の榴散弾を使ってきている」
小澤の指摘に参謀たちの顔色が変わる。
「対空用の砲弾を使うなど無茶な!」
「いや、戦艦ならともかく装甲の薄い艦種なら…まして改装空母なら装甲は紙に等しい。航空機相手の対空榴散弾でも十分にダメージが与えられる」
「飛鷹から通信です、{我艦橋に被弾し艦長以下死傷、先任指揮官が代行す。現在ダメコン中、火災消火中}以上です」
通信参謀の報告に小澤は席から立ちあがり辺りを見回しながら話す。
「どうやら覚悟の時が来たようだ。護衛の駆逐艦部隊に連絡を取ってくれ」
その声は慌ただしい喧騒の中でも徹り皆の顔が引きしまる。
「最後の一隻になっても奴らを空母に近づけさすな」
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67.4任務群 旗艦アイオワ
「最後尾の空母に火災発生、なお速力はいまだ衰えず」
「もう一つ二つ当てる必要があるな」
「ニュージャージー、第11射、敵空母2番に砲撃、艦上に散弾炸裂! 火災は発生しておりません」
「なるほど、空母には徹甲弾は勿体ない、航空機用の対空榴散弾で十分ですか、見事な発想の転換です」
「これもスプルーアンス達の助言のお陰だ。彼らの経験が我々を後押ししてくれる。彼らに報いるためにもここで空母は皆沈めるのだ」
キャラハンの発言に沸く指揮所内、そして先ほどアイオワの発射した砲弾が空母の上空で爆発し、散弾と焼夷弾の雨を艦上に降らせた。
「敵艦の速力が落ちました」
「敵護衛の駆逐艦が反転してきます」
「足止めをするつもりか、だが先の艦隊と同じように沈めてやる。奴らにはもう近くには味方は居ない。そしてもうミサイルは無いはず、我々に抗する術は無いのだ」
そして止めとなる砲撃をしようとしたとき、破局は突然その姿を現した。それは右舷方向から飛来した大型の噴進弾であった。
噴進弾は2隻のアイオワ級戦艦の後部、煙突や機関部のある部分に次々と命中し、その爆炎は艦を飲み込んだ。
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67.4任務群 旗艦アイオワ
唐突に起こった衝撃は指揮所の中の者たちを床や壁に叩きつけた。
キャラハンも指揮官席から投げ出され床に叩きつけられた。
「敵の新手か…味方の駆逐艦は何をしていたのか」
彼の問いに答えられるものは近くにはもう居なかった。
「どうやら、ここまでのようだな…無念だが、せめて…せめて本隊は逃げ延びていてくれ」
更に爆発音と衝撃が襲い、視界が回りキャラハンの意識も途絶えた。
アイオワはこの後数分間浮いていたがやがて海中に没していった。
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67.4任務群の右方向2万メートルの洋上に2隻の潜水艦が浮上航行していた。
蒼龍型潜水艦の8番艦赤龍と9番艦清龍であった。
二隻の艦長は無線電話を使って会話していた。
「後から発射した魚雷も命中して戦艦二隻撃沈確認、後の艦艇は巡洋艦以下なら第四艦隊だけで何とかなるな」
「ああ、だが慣熟航海が初陣となるなんてな、上の連中は想定してたのかね」
「そうでなくては試作の噴進弾を積ませて無かったろうな、八式試製重噴進弾…誘導用の演算装置がまだ量産できないという事で我々2隻に積まれた8発しか無かったんだが…威力は抜群だったな」
「全くだな、狙った部位にほぼ命中させる芸当が出来るとは」
「さて、そろそろ海上に流された兵の救助を行うとしようか」
そうして2隻はすでに終息しつつある戦場へ向かった。
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