196話 ハリケーン発動 その7
※9月3日話数修正
第四駆逐隊旗艦 初月
「霜月より信号! {我攻撃手段すべて失う、これより敵艦に突入する}」
「!」
駆逐隊司令は霜月の居る海上へ双眼鏡を向ける。そこには全ての砲を破壊され艦上に多数の火災を発生させた艦がそれでも速力を落とすことなく巡洋戦艦に向かっていく姿であった。
もう少しと言う所で軽巡と駆逐艦の集中砲火を受け、恐らく後部の弾火薬庫の誘爆であろう爆発により艦が真っ二つとなって波間に消えて行った。
「そろそろ店じまいの頃合いか。少しは本隊との距離は稼げただろうか?」
自問している間に報告が挙げられてきていた。
「一番、二番砲使用不能、右舷機銃座全滅。死亡者35名負傷者多数。機関は問題なし、全速で航行出来ます」
後部に配されている三番砲は今この時も砲撃を続けているが、前方へ射角が取れず有効な砲撃が出来ていない。
彼は傍に居る先任参謀に命令を伝えた。
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第四艦隊旗艦 戦闘指揮艦 仁淀
「司令! 四駆より入電です」
「読め」
通信参謀に答えるのは小澤治三郎中将である。隼鷹型航空母艦6隻を中核とする艦隊の指揮を今回は空母からでなく新鋭の戦闘指揮艦から執っていた。
「はっ!{我駆逐隊は既に戦闘に耐える状態に無し、旗艦以外全て戦没す、此れより我が艦も最後の突撃を行う、貴隊の無事を祈る。天皇陛下万歳}以上です」
決別電に声を失くす司令部。その沈黙を小澤が破った。
「航空隊の状況は?」
「現在敵援軍の航空部隊と交戦中、敵本隊の航空隊が加わっているため敵艦隊への攻撃は散発的で大型艦への攻撃は功を奏しておりません」
「雷撃機があれば又違うのでしょうが」
「雷撃機があっても状況は変わらん。敵の対空防御はハワイの時とは格段に上がってきている。鈍重な雷撃機では近づくこともできまい」
そう航空参謀が言うのを小澤はそう言って切って捨てた。
「噴進弾の装填状況はどうなっている」
「はっ! 現在搭載弾の全てを装填終了する所であります」
砲術参謀の答えに頷いた小澤は椅子に深く座り替えた。
「本当にそれが最後の切り札だな」
「戦艦部隊が来援すれば……」
「こちらに着くまで後40分か、それまでに追いつかれなければよいが」
会話の途中、空母の中で一番後ろに居た飛鷹の傍に巨大な水柱が上がった。
「敵戦艦の砲撃です! 全弾遠弾!」
「間に合わないようだな、腹をくくる事になるか」
そう言って小澤は帽子を取り刈り上げた頭を撫でるのであった。
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第七駆逐隊 涼月艦上
「装填状況はどうなっている?」
「垂直格納筒は全弾装填完了しました!」
「現在重噴進弾最後の一発を装填するところです」
「ああ!また一隻やられた! 」
双眼鏡を構えた兵が悲鳴を上げる。
「応急長! まだ発射命令は出ないんですか!」
「馬鹿野郎! くっちゃべってる暇があれば装填を急がせろ! それが俺たちの出来るただ一つのあいつらへの手向けだ!」
涙を浮かべながら応える指揮官の元装填作業は進んでいくのであった。
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第四駆逐隊 初月
「前方にアラスカ級巡洋戦艦!」
「いい場所に居てくれたな、冥途の道行きにしてやる」
最後の力を振り絞り初月は突進した。
一方初月の向かった先に居たのはアラスカ級の3番艦フロリダである。本来ならハワイと名付けられる筈であったのだがハワイ失陥もあって急遽改名されたのであった。
フロリダの主砲はアラスカと共に空母部隊へと向けられておりフロリダは副砲以下で応戦、近づく前に沈めてしまおうとする。
だが初月の執念の方が勝った。
正面に回り込んだ初月はそのまま直進する。フロリダは僅かに進路を左へ切る。そして正面衝突を避けた両者は右舷をぶつける形で前に進む。
初月は後部の3番砲をフロリダの舷側へ向け撃ちまくる。射距離ほぼゼロの砲弾はフロリダの舷側で炸裂していく。
だがそこまでであった。両者が接触した僅かな後明暗を分ける。
フロリダは何事もなかったようにそのまま直進した。
初月は右舷に多数の破孔が出来、急に浮力を失い右前方より沈んでいく。
艦首から沈んで行きながらも浮き上がった後部のスクリューは周り続けていた。
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64.2任務群 旗艦アラスカ
「フロリダの損傷は右舷の水密区画に浸水とバイタルパート以外の場所への被弾です。機関に問題なし、30ノット以上は出せるそうです」
「そうか……」
スコットは帽子に手を当てながら前方を見つめていた。主砲は同じ間隔で射程に捕らえた敵の空母部隊を射撃している。
「このまま距離を詰めれば空母部隊を叩くことも出来るな」
「向こうの戦艦群が来る筈です。来援を乞う平文が発されております。それらが来るまでにけりを付けねば」
参謀たちが会話していると見張りの兵が大声を出した。
「敵艦隊に白煙多数! 煙幕と思われる!」
「煙幕?今頃になってか?」
「レーダー射撃ならば問題ない! このまま砲撃を続けろ」
参謀たちが言っている中でハッとするスコット。
「待て! それは…」
その時視界が赤く染まり全てを飲み込んでいった。
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