188話 ハリケーン前哨戦その1
特別任務部隊(旧名南太平洋艦隊)動く。この情報は直ぐに日本側に伝わった。それを受けて直ちに待機していた部隊に出動が伝えられる。
だがそれより前に敵の動向を探っていた連中は緊張を強いられる環境に置かれていた。
「潜望鏡深度に到達。潜望鏡上げ」
海中に潜んでいた潜水艦が海面近くまで浮上し潜望鏡を覗かせる。
潜望鏡を覗いていた艦長が何かを見つけたようだ。
「いたぞ、かなりの数だな。アメリカさんの前衛部隊のようだな」
「規模はいかがでありますか?」
記録紙を片手に持った副長の声に応える様に艦長は口を開く。
「戦艦2、重巡2、軽巡が4と水雷戦隊らしき部隊、見える範囲で駆逐艦が8と言ったところだ」
「衛星通信で報告、{我、艦隊を発見せり}」
「音響班よりスクリュー音が接近しているそうです」
「別方向に対潜部隊が見えるな、此方を見つけたようではないが、露払いか。よし! 潜望鏡下げ、潜航開始、ダミーに火を入れておけ。奴らの方に向けて1分後に発射する」
沈降していく艦内が慌しく動き出した。
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67.4任務部隊 旗艦 アイオワ
「第21駆逐戦隊より入電! {潜水艦一隻撃沈確実、これより海峡へ進入する}以上です! 」
「御苦労、通信参謀、不審な電波は探知していないな?」
「今の所報告はありません。先ほどの潜水艦も打電する前に沈めたのでしょう」
「そうか」
通信参謀の言葉に頷くキャラハンに参謀長が声を掛ける。
「何か気になることでも?」
「うむ、サンディエゴの太平洋艦隊から来た機密文書に日本が新型の通信装置を使っており、ハワイでそれを使った形跡が見られるというのだ。ハワイでは日本軍の通信を我々海軍も陸軍も殆ど傍受できていない。未知の電波帯を使ったのではないかとの事だ」
「それは…対策はいかがしたのです?」
「通信参謀に命じて色々な帯域の電波の発信が無いか探らせている。意味があるかどうかは判らんがな。我々の行動は敵に知られてもらわなくてはならないのだからな」
「其処が難しい所ですな、目立たなければならないがこれ見よがしにするのも不味いですか」
「そうだ、それに今回の作戦の真実は部隊の殆どが知らないままに出発している。前衛の駆逐隊も……」
キャラハンは海峡に向けて先行する駆逐戦隊を眺めながら言った。
「何も知らずに自分たちの切り開いた道を本隊が進むと信じているのだ。それが在るから敵が潜んでいるかもしれない海峡へ突っ込めるのだ」
「本隊は無事に進めているでしょうか?」
「定時通信が待たれるな」
「スコット提督の旗艦アラスカ、海峡へ突入します!」
双眼鏡を抱えた見張りが報告する。64.2任務部隊を先頭に部隊は海峡に入っていった。
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特別任務部隊 旗艦ポートランド
キャラハンたちの部隊がサン・ベルナルディノ海峡に入っていった頃ゴームレーの本隊はスリガオ海峡の入り口に当るホモンホン島沖まで来ていた。
「各艦に通達、これより本隊はスリガオ海峡へ進路を採る。{我に続け}」
その通達に一部ではどよめきが起きていた。先発している任務部隊がサン・ベルナルディノ海峡に向かっている事を知っていたからだ。
だが先発部隊に対して本隊がかなり距離を置いていたのもあり、さもあらんとしていた者たちも多く問題なく本隊は海峡に進入していく。
「今のところは問題は無い様だな」
ゴームレーが呟くと参謀長が頷く。
「海峡内外は対潜部隊を使い掃除しております。対空警戒も万全です。そろそろ先発しているキャラハン提督の部隊との定時通信の時間です」
「向こうも問題は起きていないようだ。日本軍は動いていないのか?」
「ハワイ防衛に手一杯なのかもしれません、それに旅順要塞に満州国駐留軍が攻め入っていますのでその支援にも行かねばならないですからな」
「イギリス東洋艦隊は?」
「バリックパパンより動いていないとのことです。此方がスールー海に行かねば行動を起こさないつもりではないかと」
「ならば良いが」
そう言ってゴームレーは前方を進む大型艦を見た。嘗て戦艦アーカンソーと呼ばれた其れは改装の結果防空戦艦というべきものになっていた。姉妹艦であるワイオミングでの試験の結果を受け主砲と副砲を全て降ろし連装高角砲を始めとする対空火器を大量に積み込んでいたのであった。
「スリガオを抜けても難所は続く、引き続き警戒は厳にしたまえ」
そう言って海峡を眺める。密林に覆われたそれは普段と変わらず穏やかに見えた。
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パナオン島 スリガオ海峡沿いの密林
「小隊長! 米軍の艦隊です! 大規模な部隊です」
「判った。行くぞ」
見張りをしていた伍長の言葉に少尉の階級章をつけた男が双眼鏡を持って海沿いにやってくる。
「これは大艦隊だ。それに輸送船の数が多い。これが通達にあった主力部隊か」
「本隊に連絡しましょう」
「待て、ここから無線を発すれば敵に傍受される危険がある。電話を使え。そのために延々ここまで敷設したんだからな」
「はっ! 」
艦隊の情報は密林に敷設された電話網により、島の反対側にある本部より衛星通信を使って本部に伝えられた。
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