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平賀譲は譲らない  作者: ソルト
3章 昭和編
208/231

187話 ハリケーンの発動


「フィリピンへの大規模補給作戦{ハリケーン}の説明を始めます」


 参謀長のダニエル・J・キャラハン少将が口を開く。


「……以上在フィリピン駐留軍は主にルソン島に集結。首都マニラを守るコレヒドール要塞を中心に展開しています。後は小規模な部隊がレイテ島やミンダナオ島に居り、ミンドロ島やパラワン島には哨戒部隊が極少数で潜伏している状況です。海軍艦艇はマニラ湾に少数が居りますが開戦初頭に敵の海軍との戦いで大半が失われたため出撃する事はありません」


「我々の任務は船団を護衛しルソン島に兵員の補充と物資、主に兵器や弾薬を届ける事です。ですがマニラ湾には入る事は困難だと考えております。そこで輸送船団の行き着く先はここになります」


 そう言って地図のある一点を指した。


「バタンガスか」


 ゴームレーが唸る、その地はマニラのあるルソン島の南の端に位置する港町である。


「そうです、ここならば陸路でマニラにも行けますし、危険な南シナ海に出る事もありません」


「ですがここに行くには幾つかの海峡を通り、シブヤン海を進む必要がある。其処の制海権や制空権は大丈夫なのかね」


「今までの小規模な輸送船団がやられたのはシブヤン海に入る前、海峡に入るところまででやられています。シブヤン海周辺の島には我が方の航空基地が健在ですのでシブヤン海に入れば航空支援が受けられます。問題は何処を通ってシブヤン海に入るかなのです」


「最短コースには敵が待ち伏せている可能性が高そうだな」


 参謀の一人が口を開くとゴームレーが話を進める。


「だからと言って、迂回コースも問題がある。ダバオの下を通りスールー海を進むことも出来るが、オランダ領のバリックパパンには英国海軍が居る。現在直接は英国海軍と事は構えては居ないが、先日のチャーチル卿の宣言で仕掛けてくる可能性は高い。そこで先ず一隊がサン・ベルナルディノ海峡を突破してシブヤン海へ入り、それに日本軍が対応してきたところでスリガオ海峡を本隊が通ってシブヤン海を目指すというものだ」


「囮作戦か……」

 

 今度は別の参謀が呟くように口を開いた直後キャラハンが説明する。


「今作戦は太平洋艦隊のハワイへの攻撃に見せた陽動作戦から始まる物です。日本海軍は現在ハワイへ増援部隊を送っているのが確認されており、戦艦や空母の数と質では日本本土に残っている物より遥かに上回っていると報告を受けております。彼らがフィリピンへ侵攻して来ないのは戦力をあちらに振り向けているからだと本国では判断しております」


「つまり囮に食いついた日本軍が気が付いた時には本隊はシブヤン海に逃げ込めるという事か」


「そうなりますな」


 ゴームレーの質問にキャラハンは短く答える。


「囮は誰が務めるのかね?」


「64.2と67.4任務群にさせようと思っています」


「何! それは!」


 質問に答えたキャラハンにゴームレーが驚く。


「67.4任務群は君が次に就く司令官ポスト職ではないか!」


「その通りです、作戦を立てた自分が行うべきと考えました」


 キャラハンは異動の辞令を受けておりこの作戦から司令官職へ就任する。アメリカ海軍では参謀より部隊指揮官の方が人気が有りこれは栄転であると自他共に思われていた。


「流石ですな、参謀長殿」 「うむ、自らの作戦で重要な役どころを担う、うらやましいですぞ」


 参謀たちの反応もそれに合わせたものであった。


>>>>>>>>>


 その他の細々とした取り決めと確認が終わり会議は散会した。


 この場に残っているのは64.2任務群指揮官を務めるノーマン・スコット少将とキャラハンだけであった。


「あれで良かったのか?」


 尋ねるスコットに対してキャラハンは微笑して答える。


「ああ、私には艦隊旗艦で報告を受けているだけなのは我慢できないのでね。この作戦はあくまで我々の思惑ににほんが乗って来たことを前提に考えられている。だが彼らがその盤面を守る必要など無いのだ。これは戦争であってゲームではないからね。それより貴官が貧乏籤に付き合う必要はないんだぞ」


「これも同期の腐れ縁という奴さ。だが簡単ににほんらの思うようにはさせんよ。この作戦成功させてやろうじゃないか。精々奴らの耳目を集めるように暴れてやるぜ」


「そうだな、楽しみにしている」


 スコットの言葉に嬉しそうに答えるキャラハンに夕陽が差し掛けていた。


>>>>>>>


同日 ハワイ 真珠湾 連合艦隊司令部


 平時の連合艦隊司令部は旗艦から降りて陸上の施設に司令施設を移していた。


 ここに本土からやって来た部隊の司令部要員が着任の挨拶に来ていた。


「第八艦隊指揮官に任命されました三川です」


「歓迎しますぞ、三川長官」


 木村連合艦隊司令長官と第八艦隊司令長官の三川軍一中将が挨拶を交わす。そしてお互いの司令部要員の紹介と挨拶が終わってその話は切り出された。


「独立艦隊ですと! それはいかなる事でありますか?」


 草鹿参謀長が理解しがたいという表情で声を発した。


「我々の艦隊は連合艦隊司令部の指揮下ではなく自由な裁量で作戦行動すべし。これは軍令部から下された命令であります。ここにその命令書がありますぞ」


 第八艦隊参謀長を務める大西新蔵少将が命令書を見せる。草鹿参謀長はそれを見て信じられぬと呟いていると第八艦隊の参謀より発言する者があった。


「我々は自由な立場で出撃し敵を叩くのが任務です。その為に編成されたのですから。その為連合艦隊司令部よりの干渉は我々の作戦の障害となります。そう心得ていただきたい」


「神君! それはあまりにも僭越という物ではないか」


 作戦参謀を務める神重徳中佐の発言にたまらず草鹿が言葉を荒げてたしなめる。


「まあまあ、参謀長。判りました、それでは我々は貴艦隊への介入はしないようにしましょう。ご期待されている方々に応えられる様励んでください」


 木村司令官は草鹿を押さえて話を終わらせた。


「いいのか? あいつら統帥本部の承認を受けていないのは間違いないぞ。明らかに軍令部の暴走だ。作戦に支障をきたすどころではないぞ」


 第八艦隊の面々が引き上げた後、草鹿は我慢していた言葉を木村にぶつけた。彼は木村があっさりと引いたのに驚いていたのであった。


「ふむ、作戦の方には支障は出ないようにするさ。堀君、説明を頼む」


 木村の丸投げと言っていい言葉に苦笑しながら堀栄三大佐は草鹿に説明する。


「奴らの行動は戦略情報本部がとうにお見通しなんですよ。その上で今回の対太平洋艦隊迎撃に使おうと言ってきているんです。{うまく使えと}」


「な、なんだって! それでは奴らは」


「虎を引き込む囮、哀れな生贄と言ったところです、そういうわけで東京に一度戻り向こうとすり合わせてまいりますので」


「了解した、あの方によろしく言って置いてくれ」

 

「承知いたしました」


 こうして両国は再び干戈を交える事となった。


御意見・感想ありがとうございます。


ブックマーク・評価の方もしていただき感謝です。


あくまで娯楽的なものでありますので政治論とかはご返事できないかも…


読んでいただくと励みになります。



※投稿と感想返しが遅れております、申し訳ございません。




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